『生きるためには喰うしか無かった』   作:ブラウン・ブラウン

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いつも読んでいただきありがとうございます。 
気づいたらもう20話目なんですね。そんな書いた気がしないんですが……


第20話【頭も心もペラッペラ】

「と、とりあえず2人の下に戻ろう」

 

 想定外の光景に思わず後ずさりしてしまう。

 新たな疑惑が浮上してきて頭を抱えたくなるけど、ここで立ち止まっていてもしょうがない。目的も告げずに跳び出したから2人も心配しているだろうし。

 

 見てしまった、見たくなかった光景から背を向けて、来る時と同じ手順でビルから降りようと1歩踏み出す。

 ……だけど次の1歩が踏み出せない。上るのに夢中で気づいていなかったけどこのビル思ったよりもすごく高い。

 この体のことなんだからきっと無事に下りられるんだろうけど、下りるというより落ちる感じがして足が震えてしまう。

 下から吹いてくる風に恐怖心が煽られる。調子に乗って高いところに来てしまったことに後悔の念がわいてくる。

 

 でも、こう二の足を踏んでいる間にも2人にまた危険が迫っているかもしれない。

 あの犬のような理不尽はもう嫌なんだ。

 その決意が私の心を奮い立たせて、2歩目を踏み出す勇気となった。

 

 

 

 ヒモ無しのバンジージャンプのような体験を何回か繰り返すと、ようやく2人の下にたどり着くことができた。

 2人は屋上から既に下りていて、ビルの駐車場で私を待ってくれていた。

 

「ああやっと帰ってきた。上で何してきたの?」

 

 心配した様子で慌てて近づく鈴さんに、私はにこやかな笑顔で嘘を吐いた(・・・・・)

 

「もしかしたら上に登ったらデパートにあるソーラーパネルが見えるんじゃないかと思って。私実際に見るの初めてで、すごい大きいんですねアレ」

 

「なあに? そんなものを見に行ってたの? ソーラーパネルなんて屋上に行けばいつでも見られるのに」

 

「それはそうなんですけど、あまり近くだと大きさって分かりにくいじゃないですか」

 

「うんー、まあそうだけど」

 

 しっかりしてるけど そういうところは年相応なのね、とつぶやく鈴さんに心の中で謝罪する。

 嘘を吐いたことは申し訳ないけど、決定的な確証もないしただの私の勝手な仮説を伝えて2人をむやみに不安にさせても仕方ない。

 さっき見た光景はもっと真実だと確信できるようになってから伝えることにしよう。

 

「私も見たいものは見れましたし、どうしますか? そろそろ帰りますか?」

 

「そうだね。昼前くらいには帰ると言ったのに結構過ぎてしまっているしね。みんな心配しているかもしれないから今日は終わりにしようか」

 

「私ももう足が疲れたし帰りたいわ」

 

「それじゃ気をつけて帰ろうか」

 

「そうですね。しっかり気を付けないと」

 

 リュックいっぱいの荷物と私だけが知っている疑惑の真実を持って、私たちは帰り支度を始めた。

 

 

 

 

 

 

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 私たちが出会ったあのバーテックスはどうやら はぐれだったようで、私の仮説通り1体のバーテックスにも遭遇することなく無事にデパートの玄関近くまで来ることができた。

 さすがに仮説に慢心して注意を怠り危険な目に合う なんてことはしたくなかったから、気を張り続けたせいで精神が削られてもうヘトヘトになっちゃった。

 

 まだ空は明るい時間だけど、デパートに着いた後はもう晩ごはんの準備をすることになっている。

 バーテックスにどんな感覚器官が備わっているのか、は何度対面してもよく分からない。

 見た目から推測してみても、目は付いてるようにも見えるけど眼球はないし、耳もなさそう。

 でも視力が無いとも聴力が無いとも言い難い。私的には、ほかに人間には無い特別な器官が有ってもおかしくないと思っている。

 だから念を込めて、夜は電気を点けずに早めに就寝しよう、というのがここでのルールになっている。

 

 幸い今は夏だから日も長いし慌ててやることではないけど、明るいうちに夕食をすましておきたい、というのが布川さんたちの意見だ。

 お風呂──シャワーなんて贅沢なものはないからバケツに水を入れてタオルで洗うとか、ボディシートで拭くとか──の時間もあるし私もその方が良いと思う。

 お風呂の時間は、男性と女性で階層を分けていて、更に人数を半分にして交代制を採っているから、万が一の覗きの心配もないらしい。

 昨日はお風呂に入らずに寝てしまったから、今から夜の時間が楽しみだ。

 

 

 お風呂に思いをはせていると、玄関から男の人が出てくるのが見えた。

 20代前半くらいで、ひょろりとした背の高いカカシのような身体に、赤よりのオレンジ色の頭に似合ったチャラそうな顔。

 黒いシャツに白のデニムパンツ姿と、少し頼りのないホストみたいな感じの人だ。

 

「あっ帰ってきた! 遅いじゃないですか布川さん! 俺を置いていくなんてひどいっすよ」

 

「すまないね。朝姿が見えなかったから忘れていたよ」

 

「そんな~。こちとら楽しみに待ってたんすよ~」

 

 ひょうひょうとした様子で話す男の人。

 身振り手振りとオーバーリアクションを組み合わせて話すこの人の話し方はうっとうしいというか騒がしい。

 

「んで? そこの女の子は誰なんです? まさか布川さん、蛍井さんがいるってのに拉致ってきたんすか?」

 

「そんなことするわけないだろう。この子は昨日うちにやってきた子でね、もう1人いるんだが、これからの僕たちのキーマンになるかもしれない子だ」

 

 そう言うと、布川さんは私をその男性の前に出るように促した。

 キーマンって大層な名前で言われるとちょっと恥ずかしい……。

 

「は、はじめまして。岩波 灯です」

 

「ああヨロシク! 若くて元気な子は周りを元気にする力を持っているからね。大歓迎だよ」

 

 そう言ってこちらに手を伸ばし握手を求めてきた。

 

「それじゃこちらも自己紹介をしようか。頭も心もペラッペラ! 平らで薄いと書いて(たいらの) (はく)。平均以下の薄情な人間さ。ペラって呼んでほしいっすねキーマンちゃん」

 

「ええと、キーマンっていうのはちょっと恥ずかしいんですけど……。よ、よろしくお願いしますペラさん」

 

 こちらも出された手をしっかり握って挨拶をした。

 

「すぐ会えるかもね、って灯ちゃんと話してたけど まさか帰ると同時に会えるとは思ってなかったわ」

 

「そりゃ置いてかれたんですからね、待ち伏せっすよ」

 

「おっ待ち伏せしてたってことは疲れてないんだろう? 荷物を運ぶの手伝ってもらえるかい?」

 

「外のぶん 中で働けってことですね。りょーかいしました!」

 

 この細い腕のどこにそんな力があるのか、ペラさんは軽々と私たちの荷物を持ってデパートの中に入っていった。

 

 ペラさん。

 なかなかあそこまで自虐的な自己紹介は見たことが無かったからびっくりした。

 自分であのあだ名を付けたんだとしたら中々にメンタルが強い。

 見た目通りの軽そうな人だけど、2人も信頼しているみたいだし少なくとも悪い人じゃなさそう。

 

「ペラ君は岩波君が来る前までの3日間、調査メンバーとして一緒に外に調査に行っていたんだ」

 

 ペラさんがいた方を向いて布川さんが語り始めた。

 

「彼はあんな感じだから大雑把な性格に見えるけど、実はとっても慎重派でね。数日前バーテックスと偶然出会ってしまった時も彼のおかげで生き延びることができたんだ」

 

「へー、見えないですね」

 

「だろう? 自分では薄情だ、とか言っているけど僕はそんなことはないと思う。少し命知らずなところはあるけどね」

 

「ほーらっ。こんなとこでしゃべってても仕方ないでしょ。夕食の支度だってあるんだしさっさと帰りましょ」

 

「んああそうだな」

 

「キーマンちゃんもしっかりね」

 

「鈴さんまでそれで呼ぶんですか!?」

 

「ふふっ冗談よ灯ちゃん。にしてもすごい個性的なあだ名を付けられちゃったね」

 

「これからあれで呼ばれるのかと思うと なかなかちょっと……」

 

「本当にいやだったら、そこらへんふらふらしてると思うから変えてもらいなよ」

 

「いえ、大丈夫です。初めてのタイプのあだ名だったからびっくりしただけなので」

 

 私たちはペラさんの後を追うようにデパートの入り口を通っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

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 調査から帰った私たちは、ひとまず荷物をしまう作業に取り掛かった。

 今回手に入れたものは常温で置いておけるものが多かったから、食料保存エリアの地下1階にしまっておいた。

 見つけた中には冷凍食品も有って──例に漏れず解凍されてしまっていたけど──それは同じく地下1階の冷凍庫に入れた。

 二度冷凍すると味が落ちちゃうとか聞いたことあるけど、そんなこと言ってられないよね。

 

 ソーラーパネルで作った電気は、主に冷蔵庫&冷凍庫と料理をするときに使っている。

 そんな大層な料理はしていないけど、このデパートにはたくさんの家電もあるから電気さえあれば色々使える。

 7階にあった冷蔵庫を地下まで運ぶのは男数人がかりでも大変な作業だった、とペラさんと布川さんがしみじみと話していた。

 エレベーターを使ったらよかったんじゃないか、と質問したら『さすがにその時は使ったよ』と笑われてしまった。

 

 結局ラジオとしては使えなかった手回しラジオは2階にしまった。

 2階は”使えるもの置き場”にするんだそう。まだ整理が全然終わっていないらしい。

 

 

 途中、白衣を着た女医さんに会った。

 ずいぶんと年を取ったおばあちゃん先生だけど、少しも腰は曲がってなく とてもキビキビ動いていた。

 マコトのお母さんの件でお礼を言われたので、コッチも今朝明がお世話になったみたいだったからお礼を言っておいた。

 今、明は7階にいるという情報をもらって女医さんとはその場で別れた。

 

 

 

 今日の夕食の時に、私の力の説明を軽くみんなにする予定になっている。

 生きる希望を失くしてしまっている人に少しでも元気になってもらいたいから、今から緊張している。変なこと言わないように気をつけないと。

 私のほかに同じ力を持っている人がいなかったのは残念だけど、まあ仕方ない。

 

 その発表があるので今夜の夕食は少し豪華にいこう、と料理が作れる場所に電力の供給が行われている。

 このデパートには主婦の方もたくさんいるから料理の出来の心配はいらない。

 

 今夜はおいしいものが食べられることを明にも知らせてあげようと、ただいまを伝えに7階に向かった。

 




ペラくんをデパート編の最後の1文字キャラにしたい。
次話の投稿の前くらいまでに、活動報告のところで、暫定的なフロアマップと軽いキャラ一覧を作っておこうと思ってます。

当初の予定だと そろそろ3章の中盤とかの感じだったんですけど、2章すら終わらないとは……。(こんな長くなる予定ではなかった)
完結させたいとは思っているので、これからもよろしくお願いします。
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