なんか異常に読まれていると思ったら赤バーになってたし、ランキングにも載ってて私が見れた範囲では86位だしと……。
クソビビりました。ありがとう以外の言葉が存在しません。
喫茶店の椅子に加えて、インフォメーションセンターの椅子や別の階にある休憩用の椅子まで持ってきて全員が席に座っている状態だ。
椅子は用意できたけどテーブルまでは無理だったから、商品ケースをテーブル代わりにしたり、バッグが陳列されていた棚を使ったりと思い思いの方法で代用している。
けれどみんなひと固まりにはなっているので、話す分には不便はなさそう。
最初は食事をする場所をレストランがある8階にしようとしたんだけど、エレベーターがあるとはいえ調理場所から遠いし、あそこは住民スペースだからということで止めになった。
結果、実際では考えられないような光景が出来上がることとなった。
もし今デパートに人が入ってきたらびっくりするだろうなー。
緊張のあまりそんな現実逃避をしていると、私を近いところに置いてみんなが集まっている前の方で、私よりも先にまず布川さんが話し始めた。
マイクは使わない。自分の声で私たちの心に直接届かせるつもりだ。
「えー、とりあえず みんな今日は集まってくれてありがとう。8階の皆さんもありがとうございます。楽しい食事の前に申し訳ないけど、僕から1つ大事な話があるので聞いてほしい」
これまでまとめ上げてきた実績のおかげか、はたまた突然出された今までの質素なものとは違う豪華な料理に戸惑っていたのか、みんな文句ひとつ言わずに彼の方に意識をやった。
「僕たちは4日前のあの夜から、アイツらバーテックスに虐げられてきた。家族を亡くした者、友達を亡くした者、家族同然のペットと離れ離れになった者、色々いるだろう。
僕たちの力ではアイツらの暴力に対抗することができず、こうして外の世界にも出ることができず孤立状態となった」
話し始めたのは、私の知らないこのデパートの最初の出来事。
「初めてここで迎えた朝なんかはみんな混乱してて大変だった。突然襲ってきた非日常に、みんな我を忘れてケンカばかり起こって。そのままケンカ別れになってしまった人も数多くいた。家族を置き去りにしてい るから、とここを出て行った人もいた。……すぐに戻ってくると言っていたんだけどね。
皮肉にも”頂点”という名前を付けられたアイツらは、逃げようとする僕らを襲い、2回派遣した調査隊も未だ多くの人が帰ってきていない。
最初の頃は僕たちも今の倍ほどの人数がいたのに、この4日間でこんなにも少なくなってしまった。結果として、僕たちはここで形ばかりの籠城をすることとなった」
話が進むにつれて暗い空気が1階に広がってくる。中にはその時の光景を思い出したのか、涙を流している人もいた。
「そしてさらに悪いことに、今日の調査では無線が使えないことが判明した。これにより僕たちが外の情報を得るのはさらに難しくなってしまった」
今日得た新たな情報に一帯にどよめきが広がる。話が理解できていない幼い子の顔にも不安の表情が浮かんでいる。
「まだここには食料もあるからしばらくの間はやっていけるとはいえ、情報が得られないことは深刻だ。
先が見えない現状。常に危険にさらされる命。
正直言って僕は、心のどこかでは もう助からないものだと思っていたんだ」
そこで一度大きく空気を吸って、
「──”だけど もう違う”」
今までの絶望した発言を否定し、
「僕は昨日、ある少女と出会ったんだ」
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「その少女は、僕たちが諦めていた真君のお母さんを救出し、彼の笑顔を取り戻してくれた。
みんなも知っているだろう、彼が必死に訴えていたことを。そしてその訴えを、僕たちは見て見ぬふりをしてきたことを。
実際僕たちではどうすることもできなかった。
しかし、彼女は僕たちが諦めていたその願いを、自分の命を危険にさらしてまで聞き入れ助け出してくれた」
心当たりがあるようで、特に男の人は苦い顔をしていた。
「見かけた人もいるかと思うが、まずはその少女をみんなに紹介しよう」
こちらを振り向いて手招きで私を呼んでいる。
……いや、事実しか言っていないんだけど、なんか場が温められ過ぎじゃない?
単にこんな子が見つかったからこれからよろしくね、くらいの感じかと思ったら全然違った。
注目の的になって動きづらい。鍬を持つ右手にも力が入ってしまう。
カチコチになりながらも、静かにそばに寄って挨拶する。
「ーーっぁ こ、こんにちは。岩波 灯です……」
「どうやって助け出したのかみんな疑問に思っていると思うが、岩波君はこの鍬を使ってバーテックスと戦うことができるんだ。
信じられないと思うが、真君のお母さんのあの現状を見た人だったら理解できるんじゃないかと思う。
今朝、何か力が急に湧いてきたりしたことはないか、と質問しただろう? その理由は彼女に有ってね、彼女はあの日に戦う力を得たらしいんだ」
「えっと、私はあの日、山奥のおばあちゃんの家にいてこの鍬を手にしました。
これはおじいちゃんが使っていた農作業で使っていた鍬で、鉄製なんですけど元々は神社にあった神器を鋳直したものなんです。
なぜだか分からないんですけど、これを握ったときにドクンって体が熱くなっていく感じがして……気づいたらあの硬いバーテックスを切り倒せるくらいの力を得ていました」
心を落ち着かせながら、ひとまず流れを一つ一つ説明していく。
思い出さないといけないから、家族が亡くなる瞬間が脳裏にチラついて、また涙が出そうになるけど頑張ってこらえる。
周囲からは驚き半分、疑い半分といった反応だった。
「分かりやすく力の説明するために、みんなこれを見てほしい」
そう言って布川さんは、今朝私が持ち上げた石像を指差した。
それから彼に、少し貸してほしいと言われたのでカネアキを手渡す。
「もちろん僕がこの鍬を持っても……うぐぐぐっっ……ふぅ、こんな石像は当然持ち上がらない。
けれど彼女がやると……ほらこんな風に持ち上がってしまうんだ。いやー、何度見てもすごい光景だね」
布川さんが私にやらせたことは簡単で、今朝の焼き増しだった。
ただの力持ちでは説明できない単純明快なこの実演の効果は絶大で、疑っていた人は身を乗り出す勢いでこちらを凝視している。
ダメ押しで、カネアキを振るって銅像の胴体を切り落とす。
キンと甲高い金属音の後に、周囲にどよめきの声が広がった。
「こ、こんな感じです……。この力で昨日まで妹と2人で生き延びてきました。
でもこんなすごい力があっても、私は家族を救うことが、できません、でした……。
私の目の前で、あと数メートルの距離でおじいちゃんとおばあちゃんはアイツらに殺されました。
それからも行く場所行く場所みんな亡くなっていて、何のためにこの力があるのか分からなかったんです」
「だからここで生きている人と会ったとき、本当にうれしかったんです!
”もうこれ以上誰も失いたくない”って強く思えたんです」
全体を見渡しながらしゃべっていると、こちらに手を振る明の姿が見えた。
かわいらしいその笑顔に緊張がゆるやかに解けていくのを感じる。
小さく手を振り返してから、頭に思い浮かんだありのままの気持ちを言葉にしていく。
「けれどここにいる人たちは、これからバーテックスと戦っていかなきゃいけないっていうのに、どこか暗い顔をして俯いている人ばかりで。
確かにバーテックスは恐ろしい存在です。強いです。怖いです。
でも、それでも! 残された私たちが戦うことを諦めてしまっては、アイツらに殺された人がかわいそうだと、報われないと思うんです。
私もアイツらが怖いです。1人だけこんなすごい力を持っているっていうのに、夜空を見るだけで星が落ちてくるんじゃないかって不安になります」
誰にも言ってこなかった私の天恐の話に、8階の人たちの私を見る目が変わった。
「でも私たちは夜空の美しさを知っています!
星の輝きがきれいなことを覚えています!
アイツらを倒し切ることができれば、私たちの日常は帰ってきて夜空を見上げてきれいだと、美しいと思える日が来ると信じています!
私もアイツらを全滅させるために頑張ります。
でも私1人きりじゃ絶対アイツらには勝てません。
ですから皆さんも、アイツらなんかに負けないで私たちの夜空を取り戻すために一緒に協力くださいッ!」
頭を下げてお願いする。出過ぎたことを言ってしまったけど後悔はない。
──静寂が1階を包み込む。
最初に聞こえたのはマコトの声だった。
「オレはもちろん協力するぜ。母さんを助けてもらった借りもあるしな!」
彼の宣言を皮切りに、続々と声が上がってきた。
「やられっぱなしじゃいられないよな!」
「あいつのためにも……俺も戦うぞ!」
「あのバケモノどもに一矢報いてやるわ!」
どこか暗く冷ややかだったこの空間が、心に火が灯った人たちの熱気で暑く盛り上がってきた。
「皆さんありがとうございます!」
「それじゃ、みんなの気合も高まってきたところで! バーテックスと戦っていくためにもまずはお腹いっぱいになって力を付けるとしようか! 乾杯!」
「「「乾杯!!」」」
みんなの熱情に乗っかった布川さんの音頭とともに、久しぶりににぎやかな夕食が始まった。
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夕食が始まったので、私も明とマコトが待っている席に座る。
「ふぅー、人前で話すのはやっぱり疲れるよぉ~」
「おかえり! ともちゃん」
「ただいま~」
「あのねあのね、いまのともちゃん”ゆうしゃさま”みたいだったよっ!」
「勇者? ってどゆこと?」
「それって魔物とかと戦う勇者のことか?」
「うん! テレビでよくともちゃんみたいに みんなのまえで おはなししてるもん!」
「まぁアニメとかだとよくやってるけどな……」
「明ってテレビっ子だからそういうのもよく見てるんだよね。王子様よりもヒーローに憧れているんだ」
興奮気味に話す明。何はともあれ、明も気持ちが盛り上がってくれているようでよかった。
そんな状態に水を差すのも悪いから、明の要望に応えてみることにする。
「じゃ私はこれから”勇者”ってことになるね。”勇者”灯をこれからよろしく」
「やったー! ともちゃんが ゆうしゃさまになったー!」
「ずいぶんと適当だなー」
「悪いやつらと戦っていくんだし、間違ってはいないでしょ?」
「まあ、確かにそうだな」
「って明! 危ないよ!」
嬉しそうに体全体で表現するから、手が当たってジュースが倒れるのを寸前で食い止める。
そんなアクシデントを混ぜつつも、私たちの夕食もにぎやかに進んでいった。
そうだ。これからは私はみんなを、明を守る戦士──勇者になるんだ。
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ああ……今思い返せば、この時が一番希望に満ちあふれていたなぁ……。
お気に入り登録・評価・感想ホント感謝です。なかなか話が進まない本作ですが、この評価に追いつけるくらい頑張ります。