読み込みが浅く、「角のように硬質化して隆起したもの」は10体以上のバーテックスの合体によってできるものだと前話を書いているときに気が付きました。
変更として、6体にした代わりに中途半端な進化にして、隆起をさせないことにしました。
滅多に出て来ない原作キャラだったのに……
えっちらおっちら皆神さんを運んで、ようやくデパートまでたどり着いた。
入り口を通り過ぎて1階にきたんだけど、誰もいない。誰か見に出てきちゃってるんじゃないかって心配だったけど、この様子じゃ杞憂だったみたい。
私が安心していると、エスカレーターの付近に誰かが近づいてくる音が耳に入ってきた。
外も暗くなってきてココも電気がついていないから、誰が来ているのか逆光になってよく見えない。
下から2階の方を覗き込んで、私たちの帰宅を知らせてみる。
「今なにか物音がしたような……」
「ただいま帰りましたー。あっ! その声、もしかして大俵さんですか? 私です岩波です」
「おおっ岩波さんか! よかった、誰が来たのかとビクビクしたよ。1人なのかい?」
「いえ、皆神さんも一緒です」
「皆神さん? うーん、確か8階にいる人たちの中にそんな名前の人がいたような……。どうして彼女が外にいたんだい?」
「ええっと、説明すると長くなるんですけど、その前に皆神さんを運ぶの手伝っていただけませんか?」
「ああ分かったよ。 ? 運ぶ?」
頭の上に疑問符を浮かべながら大俵さんがエスカレーターを下りてきた。
「運ぶって、まるで荷物みたいな言い方……って岩波さん頭大丈夫なのかい!?」
「ええっ!? なにどうしたんですか?」
急にどたどたと血相を変えて駆け下りてきた。びっくりして後ずさりしてしまう。
「なにって、頭から血が出てるじゃないか!? 気が付かなかったのかい? 早くお医者さんのところに……」
「血? ああ、そういえばそうでしたね」
「そういえばって……」
進化体に吹き飛ばされたときに出来たんだっけ? あんまり覚えてないや。
ホントは私が一番慌てたほうがいいんだろうけど、慌てている人を見ていると、どうしても冷静な対応になってしまう。
そんな私を見て大俵さんも落ち着いてきたのか、一つ深呼吸をして慌てた様子を取り払った。
「まったく、なんというかすごい子だね岩波さんは。蛍井さんから戦っていると聞いていたんだけど、その様子じゃもう終わったみたいだね」
「はい。ちょっとケガしちゃいましたけど、ちゃんと倒してきました。鈴さんたちはどこにいますか? 先に来てると思うんですけど」
「ああ、今お医者さんに診てもらっているところだよ。君たちも診てもらった方が良い、ほら私も左側を持つから」
大俵さんに言われて、荷物みたいに持っていた皆神さんを持ち直して2人で肩を貸す持ち方にする。
皆神さんの苦悶の表情もいくらか和らいだ気がする。私の持ち方じゃ呼吸とか苦しそうだったから、持ってくれる人が増えてよかった。
お医者さんがいる医務室は、外から来た人がケガをしていた時にすぐ行けるようにと1階にある。
医務室、と言っても、エレベーター前にある休憩場所を少し改造しただけのところで、デパート中の医療薬とかテープとかを置いてあるだけの、悪く言ってしまえば物置みたいなところだ。一応上の階からベッドを何個か持ってきているからそこで寝ることもできる。
幸いにもこのデパートには、小さな個人病院で働いていたお婆ちゃん先生がいるから、軽いケガとかなら治療してもらえる。と言ってもいつもは私たちと同じ階で暮らしているから、治療してもらいたいんだったらわざわざ呼びに行かないといけないんだけど。
学校の保健室じゃないんだから間仕切りなんていらないでしょ、という意見があったおかげで、遠くからでもすぐに3人がいるのが見えた。布川さんはベッドに横たわっている。
向こうも、私たちの足音に気づいて顔を上げた。私の姿を見て一安心したみたい。
「灯ちゃん! よかった無事だったのね!」
「はい、なんとか頑張ってきまし──うわっ!」
言い終わらないうちに、鈴さんがガバっと抱き着いてきた。片腕が皆神さんで埋まっているのに突撃してくるもんだから、こらえきれずに尻もちをついてしまった。
結果、大俵さんは全身を支えなければならなくなり、大俵さんも予想してなかったから、そのまま皆神さんと一緒に倒れ込んでしまった。倒れた拍子で皆神さんは頭を床にぶつけてしまった。痛そう。
「みなさんなにやってるんですか……」
ペラさんがあきれた様子でこっちを見てくる。そのそばにはお医者さんもいて、お医者さんは私の顔を見た途端早足で近づいてきて、
「ちょっとアナタ! 頭から血が出てるじゃないの。そんなところでふざけてないで早くこちらに来なさい! それからそちらの人もこっちに連れてきて」
怒られてしまった。
怖かったので、未だ抱き着いてくる鈴さんを手早く引き剥がしてお医者さんについていく。
慣れた手つきで顔に付いている血を拭き取ってテーピングしてくれた。
「あーあー、ガラスがこんなにたくさん……」
私が思っていたよりもガラス片は刺さっていたみたいで、取り除くお医者さんの顔は眉間にしわが寄っていた。
私はプチプチとピンセットで抜かれているときに、アドレナリンってすごいなー、と思っていた。痛みもそんなになかったから気が付かなかった。
傷口の手当としては、男性2人を追い出してから皮膚薬を全身に塗りたくってもらった。今回のキズは通常だったら縫うレベルのキズらしいんだけど、私の摩訶不思議な体は、縫うには一歩及ばないくらいまで抑えられているんだとか。
力様様だ、と正体がよく分からないものに感謝をしておく。
「いい? 次からはケガをしたらすぐにここに来るんだよ? 頑張らなきゃいけない時だってのは分かっているけどね、アナタが倒れたらみんなが心配するんだから。しっかり覚えておくんだよ」
今回は大目に見てやる、と言外に伝えてきた。次遅れたら本気で怒られそうな雰囲気を醸し出しているので、ちゃんとここに来るようにと心に刻んでおく。
先に倒れていた布川さんも命に別状はなかったものの、体の多くの場所が打撲、右腕が粉砕骨折・右の肋骨も折れていてとかなりの大ケガを負ってしまっていた。
こんなに重症なのに、布川さんはうっすらとではあるけど意識も回復していて『ミイラ男になっちゃったよ』と少し元気が無いもののいつも通りの笑顔を見せてくれた。
皆神さんは精神的なものが原因なので、頭のたんこぶにシップを貼っただけで特にケガもしていなかった。
「さっきまで、誰かほかに出て行った人がいないか確認に回ろうと話していたところなんだよ」
「誰かがいないとかになってたらシャレにならないっすからね」
「さすがに外に出る馬鹿な人はいないと思うけどね……」
そう言いながら皆神さんの方を見やる鈴さん。彼女のことも問題だけど、今はそれよりみんなの無事を確認したい。
「私も一緒に回りたいです」
「ちょっと、アナタはもう少しここで休んでからにしなさい。そんなケガ人をうろうろさせるわけにはいかないよ」
行く意思を見せた途端、お医者さんから待ったがかかった。た、確かに……と思ったけどじっとなんてしてられない。少々大げさでも、なんとか行かせてもらえるように説得しないと。
「ほ、ほら! 私って丈夫ですし、ちょっと上に行くだけで大暴れするわけでもないですし、回復力もすごいんですよ。こんなケガなんて大したこと……はありますけど、今行かないと気になって気になって治るものも治りませんよ」
お願い、こんな稚拙な言い訳だけど見逃して……。
「……終わったらすぐにここにくるんだよ。この2人は私が診ておくから」
「はい! ありがとうございます」
どうせ何言っても行っちゃうんでしょ、と半ば投げやりな様子のお医者さん。
ドクターストップをなんとかストップしてもらい、私たちはみんなの無事を確認しに行くことになった。
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まず女性が生活している3階に着くと、なにやらみんな忙しそうにしている。何かあったんだろうか。
不思議に思っていると、鈴さんと同じ制服を着た若い女性が鈴さんに話しかけてきた。
「おっ来た来た。こっちこっち~」
「どうだった?」
「えっとね。1人だけ見当たらなくって、8階にいた皆神さんなんだけど。今みんなで手分けして探しているんだけど全然見つからなくってさ。鈴見なかった?」
8階の人は、男性と女性で分けて把握している。
「ああそれなら大丈夫よ。皆神さんなら今医務室にいるわ」
「おお~さすが鈴。よかった~これでやっと休めるよー。どこにもいないからすごく焦ったんだよ、どこにいたの?」
「ええっと、少し長くなると思うからそれはまた後でもいい? もう少しで終わるから」
「おっけー全然いいよ。んじゃ待ってるから頑張ってね鈴」
「ん、ありがとねリーダー」
「うへぇ、その役割まだ私納得してないんだけど」
かなりいやそうな顔に見送られながら、4階に続くエスカレーターを上り始めた。
「同僚さん、ですか?」
「そう、大体いつも一緒に受付の仕事してるの」
「リーダーってどういう意味なんですか? ここのリーダーって布川さんじゃなかったでしたっけ?」
「ほら、このデパートもけっこう人数いるじゃない? 男女で分けても人数が多いから女性でのリーダーを決めたのよ。光はこのデパートのリーダー、彼女は女性のリーダー」
「あ~なるほど」
私が納得している後ろでは、ペラさんと大俵さんが驚いた顔をしていた。
「そんなんあるんですか? こっちなんもないですよ。あっそれじゃ今立候補したら即決ってことっすか?」
「言うのは何だけど、平くんは無理じゃないかな……」
「えっ大俵さん知ってました? リーダー制度」
「いやいや私も初耳だよ」
「作ってみると意外とやりやすいわよ。……と着いたわ」
上りついた4階は、3階に比べて統率感もなく雑多な雰囲気を感じられた。
「どうだったかい? みんないたかな?」
その中で体ががっちりしてそうな人に話しかける。
「んあ? ああさっきのじいさんか。それがよ、1人足りないみたいなんだわ」
「ほう?」
「最初は全然気が付かなかったんだけどさ、ほらいつも隅っこでなんかぶつぶつ言ってるキモイ奴いるじゃんか。アイツがいないんだよ」
「ああ、あの彼か。確かに……ここにはいないようだね」
その人物に心当たりがある様子の大俵さん。
でも私たちもどこに行ったか見ていないとなると、危惧していたことが現実味を帯びてしまう。
一体どこに、まさか外に出てるんじゃ……? そんな嫌な未来が頭をよぎり冷汗が流れる。
「トイレに行ってるとかってないんですか?」
「いや、トイレもちゃんと見たけど誰も入ってなかったぞ」
「むーそうですか……」
とにかく私たちも探しに行こうと動いたその時、後ろから荒い息遣いが聞こえてきた。
「あ、あの、ちょっとそこいいですかぁ? はぁはぁ」
汗だくでエスカレーターを上ってきたのは、件の男だ。30代くらいの見た目をしている。豊満な体からにじみ出ている脂汗がテカっていて、確かに不快感を覚える。
直感的に、この人はニートなんだなと思えてしまった。だってニートの人って太ってるイメージあるし。
「あっお前! 今までどこにいたんだよ、散々探したんだぞ。まったく手間かけさせやがって」
「い、いやちょっとトイレに行っててね……へへ」
「んなわけないだろ。こっちはわざわざトイレの中まで探したんだ、嘘を吐くんじゃねえ」
「そ、そんなことはないよ。入れ違いに、なったん、じゃ、ないかな。っへへ」
脂肪の詰まったくぐもった声で、誰が聞いても嘘だと分かるような発言を残して、太った人はそそくさと壁の隅に行った。そしてぶつぶつと独り言を始めた。なんにもないところでニヤニヤ笑ってる。
少し見ていると、彼も顔を上げてこちらを見てきた。脂っこそうなベタベタした目つき。不気味に思えたからすぐに顔を逸らす。心臓に悪い顔だ。
「うわぁ、確かにあれはちょっとないわね。かなり気持ち悪いわ」
「確実に親のスネ噛み千切ってますね」
「岩波さんはああいう大人にはなっちゃいけないよ」
「さすがにあれにはなりませんよ……」
各々彼に対するマイナスイメージを口にしてから、結局のところ誰も欠けることが無かったことに安堵する。
「まあこれでみんな無事ってことが分かりましたし、よかったですね」
「灯ちゃんが守ってくれたおかげよ。あの時私何もできなかったんだから」
「それを言うならボクもですよ。いやーあんだけ平気そうなこと言っておいて、いざとなったらこの様なんてホントカッコつかないっすね」
「いやいや! 私が変なだけで普通はああいう反応になりますよ」
「次は頑張るんで期待して欲しいっす」
「もちろんですよ」
謝られてもこっちも困る。いつもお世話になってるのはこっちなんだから、非常時くらいは手伝わせてほしい。
あの時のペラさんの様子はちょっと気になるところだけど、まあ聞かなくてもいいでしょ。ダメだったところを追及するみたいで意地悪いし。
明ともお話したいところだけど、その前に……
「それじゃ、みんなの無事も確認できたところですし、私戻りますね」
「早く帰らないと怒られちゃうもんね」
お医者さんの言いつけは守らないと、次から治してもらえなくなったら困るからね。
出来るだけ怒られたくないので、少し早足で私はお医者さんのところへ向かった。