年明けました。よろしくお願いします。
今回は視点を変えてみました。
《2015年8月10→?日 デパートのどこか》
ーー俺はこの世界の主人公なんだ。
そのはずなのに、なんで俺はこんな目に合っているんだ?
政治家のクソおやじと料理人のババアから産まれた天才的な俺は、当然頭も天才的で小学校ではいつも学年のトップに君臨していた。
テストなんていつも満点。俺にとっちゃ授業を寝ながら聞いてても解けるくらいの楽勝な内容だった。
中学生になっても、ほんの少し今までよりも教科書を見れば簡単に解けていた。
クラスの連中は、頭良いねと事あるごとに俺を褒めまくった。それに「天才だからな」と返すのが俺の楽しみだった。
一部のやつらは、「家で勉強してるだけだよ」とか言っていたがそんなことするわけないだろ。
お前らとは違って、俺は天才なんだから。
けど高校受験の時、あろうことか高校の分際で俺を落としやがったんだ。
私立のトップ校に行く予定が、二流の高校に行くはめになってしまった。
落ちた当日はクソおやじから殴る蹴るの暴力を食らい、私の人生の汚点だと罵られた。ババアは何も言わず、ただ俺を侮蔑の目で睨んでいた。
落ちたとはいえ行かないなんてありえないと、強引に行かさせた高校では勉強なんてする気が起きるわけもなく、イヤホンをして携帯でゲームばかりしていた。
隠れてコソコソなんてしない。同級生に止められようと先生に注意されようと、そんなのはお構いなしでゲームをし続けた。
そんな時、俺はあることに気づいた。
ーー俺は”神”に愛されているんだと。
携帯でゲームをしていると、欲しいキャラのガチャを引けば必ず手に入っていることに気がついた。
石を何百個か砕くだけで思い通りになる世界。俺にはクソおやじの魔法のカードがあるから石の数なんて数えたことがない。
もし神に愛されていないんだったら、望むものが思い通りに手に入ることなんて起きるはずがない。
つまり俺は神に愛されている。
そして神に愛されるのは一体どんな人間だろうか。
そう、”主人公”だ。
マンガを読んでいれば分かるだろう、アイツらの望みは何でも叶う。
欲しいものを手に入れ、良い女を手に入れ、大金持ちになってハッピーエンド。
大抵の主人公がそうだ。
となると、欲しいものが必ず手に入っている俺も”主人公”ってわけだ。
そのことに気づいてからは、外に出るなんて愚かなことはやめて、家の中で自分が主人公のこの世界のストーリーを考えることに夢中になった。
宇宙人が攻めてくるのか、隕石が落ちてくるのか、怪獣が現れるのか。俺が主人公なんだから日常系のストーリーなんてありえない、ゴリッゴリのバトルものに決まっている。
マンガを読み漁って毎日毎日イメージトレーニングをした。
でも何年経っても物語は始まらなくって……。
そうして俺の修行編が20数年続いてきて、豊かさの象徴である脂肪が全身に定着して膨れ上がってきた頃、ようやく待ちわびた物語が始まった。
空から押し寄せる怪物、逃げ惑う民衆、泣き叫ぶガキども。
やっと第1話が始まったと興奮したね。
どんな風に登場してやろうか。どの女を助けて惚れさせてやろうか。考えるだけでワクワクした。
だがすぐに行動してはダメだ。はやる気持ちを押さえなくては。せっかく何十年も経ったのだから最初は完璧にしたい。
一旦情報収集をしようと思って、ひとまずは何もしないで流れに身を置くことにした。
数日経って、そろそろ動き出そうとしていた時、アイツがやって来た。
アイツのせいで俺の計画は台無しになった。
怪物と対抗できる力を持って暴れまわり、ちやほやされているガキ。
俺がいるにも関わらず、「勇者」などと呼ばれてもてはやされている。
心底腹が立って、どういう物語なのかこの先の展開が読めなくなった。
そんな時、ある漫画を思い出した。
イメージトレーニングをしているときに読んだ、1冊の漫画。当時は気に喰わなくってその場でバラバラに引き裂いてゴミにしてやった、俺の主人公論を否定するような作品。
主人公AがBに殺されて、Bが主人公になるという主人公が交代する内容が書いてあるもの。
当時は主人公を殺されるシーンを見て、自分を殺されたような気がしてBが許せなかった。
なんで俺たちの主人公を殺してBが主人公をしているのか。
殺す理由が分からなくって、作者宛てにクレームを入れまくって脅しまくった。
その結果、作者を自殺させることに成功した。
あの時は、みんなを苦しめる諸悪の根源を討ち取った気がしてスカッとしたね。
けど今なら分かる。なぜBがAを殺す展開にしたのか。
今となっては不可能なことだが、作者には謝ってやりたくなるほどに納得した。
今の俺の状況とそっくりだ。
Bは許せなかったんだよな。
自分が主人公のはずなのに、なぜかAが主人公づらしてんだもんな。
許せるわけないよな。分からせるしかないよな。自分が本当の主人公なんだって。
俺は頭がいいから、アイツを観察していて分かったことがある。
アイツが戦う時はいつもあの鍬を持っている。
俺の見立てが正しければ、あの道具は主人公にしか使うことの許されない専用装備なはずだ。
つまりアイツは俺が見つけるよりも早く、勝手に俺の道具を使っているということ。なぜなら本当の主人公は俺なんだから。
そしてそれを取り上げればアイツは力が使えなくなり、その力は俺に譲渡されるはず。
返せ。それは俺のものだ。
この世界の主人公である俺にしか使うことの許されないものだ。
お前はただのガキなんだから引っ込んでろ。
それにもう1つ分かったことがある。
あのバケモノが合体したやつ。
あれにはアイツは敵わない。
なんか予感を感じたから外に出歩いてみてみたら、アイツがブッ飛ばされるところに遭遇した。
最終的には倒されてしまったが、アイツの攻撃は全くバケモノには通用していなかった。
コレだ。コレだよ。コレコレ。
コレは使える。
これでようやくアイツを排除する目途が立った。
さあ主人公交代のお時間だ。
ーーさあ、今度こそ俺の物語を始めよう。