『生きるためには喰うしか無かった』   作:ブラウン・ブラウン

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第38話【星屑との鬼ごっこ(前半)】

 鬼ごっこ。

 誰でも一度ならず何度もやったことのある遊び。私も休み時間によく遊んだもので、体力ないながらも男の子の中に混ざって校庭を駆け回った思い出がある。

 氷鬼とか高鬼とか、私の好きなやつだとバナナ鬼とか色々ある定番の遊び。本当の鬼ごっこだと、追いかけられている人は鬼にタッチされたら鬼が交代になって、タッチされた人は今度は追いかける側になるけど、私が今やらされている鬼ごっこは全然違う。

 鬼ごっこでいうタッチをされたら噛み砕かれて死んでしまうし、追いかける側にもなれない。バーテックスにとっては遊び感覚なのかもしれないけど、わたしには全く割りに合わない死活問題な話だ。

 

 どちらかというと、隠れ鬼に近いかもしれない。

 まあ、今回の鬼は隠れる時間もくれないんだけど!

 

「ああっもう!!」

 

 後ろにいるバーテックスが動くよりも先に逃げ出す。さっきまで走ってきて疲れている足を必死に動かしてみるけど、やっぱり遅く感じる。今追いかけられているのも走って逃げなきゃいけないのも、全部全部あの男のせいだ。

 恨み言を心の中で叫びながら、バーテックスとの距離感を掴むため後ろを振り返る。追ってきているのはあの男を食べた1体だけ。うん、大ピンチ。

 でも数秒で追いつかれるような距離じゃなかったから一安心……とは言えないから半安心。

 

 男を見ていた時に隠れていた建物の陰に逃げ込むけど、視界からも外れてないからすぐに見つかってしまう。

 息つく暇もなく次の建物へ、今度は家の中に逃げ込んでみる。超非常事態だから申し訳ないという感情もなく、そこら辺に落ちていた石を正面の窓ガラスに目がけて投げつける。

 割れる盛大な音とともに、大きな窓ガラスに穴が開いた。初めて聞くガラスが割れる音に、鳴らした張本人の私がビックリする。

 驚きのあまり手を胸に当てると、石を持った時に手に付いた土が少量服に付いてしまう。けどそんな小さな汚れも気にならないくらい、逃走中の私の体は全身汚れていて今更だなと感想を抱いた。

 

 割れた破片に気を付けながら、けれど最速を意識して家の中に逃げ込む。見渡してみると、入った家は以前食料調達に来たことのある家だと分かった。

 この家はファッション好きの女の子が住んでいたみたいで、可愛らしい服から実用的な服までたくさんあった。今着ているスキニージーンズもこの家のもので、本来の持ち主ではないのになぜだか帰ってきたような感覚が湧いてきた。

 と感傷に浸っている暇もなく、足元にバーテックスの巨大な影が伸びてくる。ぞくりと寒気を感じるよりも早く走り出して、さっき使った石を今一度拾い正面に見える窓に向かって投げつける。

 窓の前に置いてある机の上に乗って今割った窓に飛び込む、と同時にバーテックスが家の中に侵入してきた。

 開けられた穴が小さくって、飛び込んだ時に腕に切り傷がたくさんできてしまった。切れた時は紙で切ったみたいに一瞬の違和感しか無かったけど、後からじわじわと血とともに痛みが襲ってくる。

 以前までの私だったら取り乱していたけど、私だってこの1ヶ月で強くなった。力のない状態では過去最高の痛みだけど、この程度じゃ私の足は止められない。

 

「痛ったい……けど! この調子でいけば何とかなる、かも!」

 

 家の影をうまく利用していき徐々にバーテックスとの距離を離していく。ここら辺は住宅の密集地で助かった。しかもここら一帯は何度も探索してきた。地の利もこっちにある。

 バーテックスの視界がどうなっているのか分からないけど、これで一瞬だけどバーテックスから身を隠せたはず。このままグルッと回ってまずは壊れた鍬のところまで行こう。

 何の足しにもならないかもだけどバーテックスから逃げのびるのはさすがに体力的にも無理だし、もしできるんだったらもっと人類は生き残っている。

 

 慣れないアクロバティックな鬼ごっこに呼吸が苦しくなってきた。自分の呼吸がやけにうるさく聞こえて集中が途切れてくる。体育で1000メートルを走った時みたいにもうヘトヘト。

 けどおかげでようやく遠くに鍬が落ちているのが見えてきた。このままいけばやっと鬼ごっこが終わらせられるかもしれない。

 

 後ろを振り向いても追ってきている様子もない。小道を縫うように走ってきたし、どうやら撒けたみたい。

 最後のひと踏ん張り。傷だらけの腕を必死に振るって真っ二つになった希望に手を伸ばす。

 

「お願いおじいちゃん! 力を貸して!」

 

 これでもし鍬に触っても力が湧いて来なかったらゲームオーバー、私は食われてしまうだろう。

 緊張のあまり乾いた口から何とか絞ってつばを飲み込もうとするも、変なところに入ってしまい、盛大にむせた。

 

「ごぼっごほ! っんなんでこんな時に」

 

 体力も無くおぼつかなくなっていた足取りに咳が加わって、体がふらつき思わずよろける。涙目にもなり視界がぼやけてきた。

 一旦咳を落ち着かせようと、鍬を目前にして休憩することにした。

 

「あとちょっとなのに……」

 

 隔靴掻痒な気持ちでいると、突如後ろから大きな破壊音がし、一拍おいてさっきまで私が立っていた場所をバーテックスが通過していった。

 突進の風で不安定の体は宙に浮き、吹き飛ばされる。

 

「げほっ、さっきまでいなかったのにどうして…っぐあ痛っ!?」

 

 土煙と涙でにじむ目をこすって見てみれば、私が障壁として利用してきた家を破壊して最短距離でバーテックスがやってきたことが分かった。周囲にはガラス片やガレキが飛び散っている。

 強烈な痛みを足に感じ見ると、空から飛んできた屋根瓦が右足首に落ちてきたのがわかった。痺れるような鋭い痛みが足から全身を駆け巡る。

 

「そんなの、反則でしょ」

 

 必死で逃げてきたことも腕に傷を作ってまで走り回ったことも、バーテックス相手には全く意味のないものだった。

 あまりのバケモノっぷりにもう冷や汗すら流れてこない。迷路をぶち抜かれた気分だ。

 しかもバーテックスの立ち位置は私と鍬の真ん中。完全に振り出しに戻ってしまった。いや、さっきに比べて体力がなくなった分より最悪が深まった。

 それに足もやられて満足に動けそうにもない。打つ手なしのどん詰まりだ。

 

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