『生きるためには喰うしか無かった』   作:ブラウン・ブラウン

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いつも読んでいただきありがとうございます。遅くなりました。
ゆゆゆ3期良かった!
方言とか何も知らないので、この世界では方言は存在しないということで。
 
今回、とある少女の日記が出てきますが、内容は省略してあります(削る部分が一つもなく抜粋するにはあまりにも無作法で、全文を書いては違反になりそうだったので)。
のわゆを買って読んでください。



第46話【ここで生きた彼女は、確かにここで生きていた】

《2015年10月上旬 大阪府 梅田駅前》

 

 

 荒廃した道なき道を歩いて歩いて、時には隠れるなんかもして、歩き続けた長かった1か月。

 普段であれば車で半日、歩いて行ったって1週間もあればたどり着ける距離。それを迷いに迷って1か月もかけてしまった。

 

「ずいぶんと歩いてきたわね」

 

 ふうっ、と肩で息を吐く鈴さん。

 

「やっとここまで来ましたね」

 

「これで目標の半分ってところか」

 

「え~もう明歩きたくないよ~」

 

 その隣で同じように息を吐く私、マコト、そして明。明なんかしゃがみ込んでいる。

 1か月たった今も、みんな傷も負っていなく無事だ。強いて言えば、寝不足なくらい。特に鈴さんが、マコトと明の分も受け持って見回りや夜の見張りをしてくれることがあるから、目の下のクマがすごいことになっている。お化粧品もないからクマ丸見えだ。

 私は力のおかげか、あまり長い間寝なくても大丈夫な感じの体になってきた。バーテックスと戦わなければいけない今にとっては、意識を飛ばしている時間が短くなるからちょっとありがたい変化だ。長時間寝なくても良いなんて、平和になった世界での期末試験の前日の一夜漬けにも使えそうだ。

 

 そんな私たちは、冬がもたらす寒波から逃げるために西に向かっている。目的地:九州地方までの道のりをただひたすらに歩いている。

 今日はその目標の半分の地点にある、大阪府にある大きな駅:梅田駅に来た。

 なぜこの場所に来たのか。というのも鈴さんの話では、この梅田駅周辺には大きな地下街があるらしく、地下だったらバーテックスにも見つかりにくいだろうから生存者がいるのでは、と考えたからだ。

 

 ここまで来る途中に、大阪城に立ち寄ってみたんだけど、生存者は見つけられなかった。お城はあくまで地面を歩く人間に対しての防御力があるだけで、宙を舞うバーテックスからの攻撃にはその防御力は何の意味も持っていなかった。大砲が撃ち込まれたかのような大きな穴が天守閣の部分にいくつも出来ていて、遠くから見ても これは駄目だ、と思わせられるようなひどいものだった。

 

 だからこそ、この梅田駅の地下には人が生きていてほしい。

 

「まずはいつも通り私が先行していくんで、後からついてきてください」

 

「明ちゃんのことは任せてね」

 

「よろしくお願いします」

 

 探索の時は、鈴さんに明の目を塞いでもらっている。そこらに転がっている死体に目を向けさせないのと、明が勝手にどこかへ行かないようにするためだ。

 そんな鈴さんもグロいのに慣れていなく すぐに気持ち悪くなってしまうから、鈴さんもあまり探索には参加させずに、この中でこの環境に慣れている2人─私とマコトが主に探索をしている。

 

 

 駅周辺はかなり壊されていたけど、地下へとつながる階段はなんとか残されていた。ゆっくりと下に降りていく。

 

「誰か生きていてほしいな」

 

「そう……ってこれ」

 

 階段を降りている途中に、人の手で作られた棚やテーブルの山が見えた。普通ではあり得ない人工物感……バリケード?

 

「ってことは、ここに人はいたんだ!」

 

 人の痕跡があって急激に期待が高まる。しかもちょうど運良く人が通れそうな穴が空いてあってラッキーだ。

 

「ちょ、灯ちゃん! それって……」

 

「そこで待っててください! 一旦中に入ってこちら側から崩していきますので!」

 

「あっ……」

 

 何か鈴さんが言おうとしていたみたいだけど、そんなことより今はこっちだ。ぴょいと隙間から中に飛び込んでバリケードの裏側に立つ。さすがにただ力任せに壊したらどこにいるか分からないバーテックスを呼びかねないから、一つずつ静かに素早くバリケードを解体していく。

 学校でやった防災訓練の時にバリケードの作り方を教わったから、崩していくのにあまり時間はかからなかった。

 

「出来ました! 先に進みましょう」

 

「ともちゃん早ーい!」

 

「明も学校の授業をしっかり受けていれば出来るようになるよ」

 

「すご〜!」

 

「えぇ……今の小学生ってみんなあんなことできるの?」

 

「いや……少なくともオレの学校ではそんな変な授業やってないですよ」

 

「2人とも早く行くよー」

 

 学校で教わったことを実践できた時は、勉強を頑張ってきた甲斐を感じられるから気分がいい。

 バリケードを突破して、私たちはさらに下へと降りていった。

 

 

 

 

 

 

 

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 地下の空間は、地上ほど損壊していないものの少なからず壁や床にヒビが入っており、どこかからかバーテックスが侵入した痕が残っていた。

 階段を降りたすぐのところにあった紙の地図を広げて歩いていく。

 バリケードがあったようにここにもペットボトルやお弁当のごみなどが散乱していて、やはりここには人が、しかもごみの量的に数十人くらいの人がいたことが分かった。

 

「誰かいますかー?」

 

 けれど、生存者の声は返ってこない。

 4人で付かず離れずの距離でトイレの中や店の中をくまなく探すこと1時間弱。明も目を塞がれた探索にはもう慣れていて、見えないことを楽しんでいるような声が聞こえてきた。

 

 しばらく地下を進んでいくと、広場のような開けた空間に出た。地図には、ここには中央に噴水があってみんなの憩いの場だと書かれている。

 けれど、その中央には噴水よりも目を引く、死体の山が出来上がっていた。

 

「なっ……!」

 

「うっ!」

 

「えっ!? なになに!?」

 

 山と表現するに十分なほどの人数。いくらなんでもこの量は気持ちが悪くなる。

 さらにその吐き気を助長させるのは、その山の内容だ。

 

「なんで……服が……」

 

 その山の中央に行くに従って、服を着ている人が減っていっている。山の中心にいる人なんか、下着すら着ていないように見える。

 

「……もしかしたら、寒さ対策かもしれないわね。バリケードを使っていたのなら外に出て服の調達なんてできなかったと思うし……」

 

「ああ、だから異様に着てる人といない人がいるのか」

 

「……ごめん2人とも、私ちょっと……っ」

 

 この光景に鈴さんは目を閉じしゃがみ込んでしまう。目を隠されている明は、何が起きているのか分からず混乱している。それでも何か良くないが起きていることは察して、大人しくしている。

 

「鈴さんたちはそこで待っててください。マコト、行こう」

 

「っ。ああ」

 

「ごめんね……」

 

 動けなくなった2人を置いて、山の近場から手がかりを探してみる。

 すると、床に一冊のノートが落ちていることが分かった。

 中を開けてみると、そこには女の子の筆跡でこの中に閉じこもってからの日記が書かれていた。

 

 

 

 

 

 

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「ひどい……」

 

 読み終わってすぐに出た感想は、それだった。嘆き、苦しみ、孤独、怨嗟、飢餓、自棄。およそ負の感情と呼ばれるもの全てが詰まったような、読んでいるこちらまで苦しくなる日記だった。

 

「こんなことって」

 

 あんまりだ、悲しすぎる。頬を伝う涙が止まらない。

 いつぶりの涙だろうか。流れた熱い涙が冷たい空気によってすぐに冷やされる。

 日記から感じた彼女の悲しみ、不安。けれど一番私の心を打ったのは、彼女の妹に対する愛情だった。日記の半分以上が妹を心配する文章で綴られている。

 どれだけ苦しい状況にいても妹を慮って、自分が死する時も妹と共に在った彼女。

 

 この日記を書いた彼女はどこにいるのだろう。

 妹を愛し、この日記の最後まで懸命に生きた彼女はどこにいるのだろう。

 見つけてあげなくては。いくらなんでも悲しすぎる。

 

 日記を丁寧にパタンと閉じて、それらしき人影を探す。

 人の死体が敷き詰められた床の中から探すのは至難の業だったが、マコトと手分けして探すことで見つけることができた。

 

──彼女は、彼女たちはそこにいた。

 

 2人の遺体。少し小さめのシルエットは日記に書いてあった妹だろう。その子を胸に抱き寄せるかたちで、彼女はそこで長い眠りについていた。

 頬は栄養不足からか痩せこけており、着ている服も泥にまみれてボロボロだ。他の人とは違って彼女が服を着たままでいるのは子供だからなのか、それとも服を剥ぎ取る人も亡くなったのか、それは分からない。

 ただ彼女たちの死体が非情に扱われなかったことが、どうしようもなくありがたかった。

 

「……こんにちは」

 

 気づけば私は彼女たちに話しかけていた。

 そばまで寄って膝をつき、この季節にはふさわしくない半袖でむき出しになった腕に触れる。

 そこから伝わってくる温度は、ただただ冷たかった。

 

「ごめんなさい。間に合わなくって」

 

 こんなに苦しんでいたあなた達を助けられなくて。

 

「日記に書いてくれないから、あなたの名前も妹さんのことも分からないけど、あなたの妹を想う気持ちは確かに伝わりました」

 

 伝えたい気持ちが溢れてくる。

 

「私にも大切な妹がいて。私も妹が生きていてくれているから、こんな世界でもなんとか生きてみようって思えてるんです」

 

 きっとこの2人も素敵な姉妹だったんだろう。生きている時に会いたかった。

 

「あなた達が生きていた頃のあなたと会うことはできなかったけど、あなた達がここで生きていたという事実は、私たちがずっと覚えています」

 

 自分の事のように共感してしまう。家族を一番に大事にしていた彼女の事を。

 

「だから安心して眠ってください」

 

 ここは安心できる世界ではないけれど、気掛かりを残して逝ってほしくはないから。

 

 一方的ではあるけれど、言いたい事は言えたつもりだ。最後に彼女たちに向けて黙祷を捧げる。

 

「オレ達だけじゃなくて他にも生きようと戦っていた人はいたんだな」

 

「……そうだね」

 

 隣で私と同じように手を合わせていたマコトがそう呟いた。

 その言葉で、悲しみしかなかった空間にほんの少しの光が差す。

 

 結果として、私は彼女たちの救出にも間に合うことができなかった。

 けれど、彼女の日記を見て、明確に助けを求めている人がいたことを再確認できた。

 この場で起きたことはひどく陰惨なものだとは分かっている。だからこその救いが必要だ。

 

 何ができるかは分からない。だって何もできなかったから。

 でも、みんなの不安を煽るあのバーテックスは排除できる。物理的な不安は拭い去ることができる。

 正直悔しいけど進化体には勝てない。だけど、逃げる時間くらいは稼ぐことができる。死の直接的原因を遠ざけることはできる。

 

 倒さなきゃ。生かさなきゃ。

 でないとこの力を持っている意味がない。

 この力がもし神から与えられたものなのならば、きっとこのためのものだ。

 

 力の使い道を再確認して、彼女たちのもとから立ち上がる。

 

「よし。鈴さんお待たせしました。あとはもう少し奥の方を見てからここを出ましょうか。……鈴さん?」

 

「……ぁ? 灯ちゃん、何か言った?」

 

「いや、もう少し奥を見たら出ましょう、と。……顔色悪そうに見えますけど大丈夫ですか?」

 

「ええ……大丈夫よ。ごめんね、ちょっと考え事してて」

 

「体調が悪かったらちゃんと言ってくださいね」

 

「そう、ね」

 

 暗い部屋のせいか、鈴さんの顔が青白いように見える。本人は大丈夫と言っているけどちょっと心配だ。

 でも大量の死を見てしまったら当然のことか。もうこの地下はかなり探したから、生存者はいないと思う。早くこんなところから出よう。

 

 

 あの光景を見た後だから、みんな口数も少なくなり重い空気が漂う。

 何かこの空気を緩和させられるものはないか。そう思い帰り道を進みながら辺りを見渡していると、良さそうなモノを見つけた。

 

「ちょっと先行ってて」

 

「お、おう」

 

 1人道を外れて──と言っても目につく距離だけど──そのモノを手に取ってマコト達の元へ帰る。

 

「何持ってきたんだ?」

 

「内緒。後で上に上がったら見せるね」

 

 これさえあれば、きっと気分も元に戻るはず。

 右手に持ったモノに期待を込めながら、彼女達のいる地下を後にした。

 

 

 

 

 

 

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 暗い地下に長い間いたから、少し日が落ちたとはいえ外の光が眩しい。日もだんだんと傾いて、後少しもすれば日が沈んでしまいそうだ。

 

「で、上に来たぞ。何持ってきたんだ? 早くしないと日が沈むぞ」

 

「まーまー、そんな急かさないで。はい、まずは鈴さんに」

 

「……? 灯ちゃん何これ?」

 

「紙ですよ手紙。はいこれ鉛筆です」

 

「手紙? こんなものいつの間に……」

 

「帰り道に岩波が勝手に行動して持ってきたんですけど、蛍井さん見てなかったんですか?」

 

「ああ、考え事してて気が付かなかったかも」

 

「マジですか」

 

 ぼんやり気味な鈴さんに、帰り道に寄った文房具屋で売っていたピンク色のレターセットを手渡す。マコトには同じ物の色違いで緑色のを、私と明はオレンジ色のを配った。

 

「これに将来の自分、そうですね……バーテックスがいなくなっても街が元通りになるのに結構時間かかるだろうから……10年。10年後の平和な世界を生きている自分に向けて手紙書きましょうよ!」

 

「ってなんでそんな突拍子もないことを」

 

「だってここ最近ずっとこんな街しか見てないじゃん。だからたまには元通りになった街のことを思っても良いかなって。さっきのあの子だって元通りの世界のことを考えていたし」

 

「悪くはないけど……手紙かぁ」

 

「ね、鈴さん。ずっと暗い気分でいるのも疲れますし、たまには楽しいことを考えましょうよ!」

 

 外に出てきてもまだ顔色悪いし、楽しいことを考えて気分をリフレッシュして元気になってほしい。

 

「…………そう、ね。……10年後だと2人はもう働いているかもしれないわね」

 

「そっか! 何の仕事してるんだろう私」

 

「その力があったらなんでもできそうだな」

 

「確かにそうね」

 

「ともちゃんオリンピックに出てよー」

 

「ええ!?」

 

「そしたら何個金メダルが取れるんだろうな」

 

「陸上にウェイトリフティング、泳げるなら水泳もいけそうね」

 

「ちょちょっと! 私のことはいいですから、自分達の将来のことを考えてください」

 

「はいはい」

 

「将来、ね……」

 

 各人に手渡して少し将来に頭を悩ませていれば、もう夕暮れだ。

 寝床の家を確保して簡易的な夕食を食べながら、将来の自分への手紙を書いていく。

 明は手紙を広げて絵を描いている。あれは10年後の自分が見た時にどう思うんだろう。マコトはうんうんと頭を悩ましていて、鈴さんも筆が進んでいなさそうだった。

 

 ひとまず暗い気分は変えられたな。

 食べ終わると明が眠たそうにしていて、私も今日は色々あってちょっと眠たかったから、手紙も途中に寝ることにした。

 素敵な将来が来てほしい、そう思いながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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──次の日、目覚めると鈴さんが首を吊って亡くなっていた。

 

 鈴さんの近くには「ごめんね」と、昨日みんなそれぞれで書いていた手紙に鉛筆で、宛先もわからない謝罪文が刻み込まれていた。

 読んだこっちが泣きたくなるほど弱々しい字で、そう書いてあった。

 未来に向けた文章を書いたはずなのに、鈴さんの手紙にはその4文字しか書かれていなかった。

 

 助けたかった人を見殺しにして、助けた人を救えなかった。

 守ると言って見捨てて逃げて、守れたと思った人が自殺をしてしまった。

 

 地下にいた彼女の前で、誰かを助けたいと思った。けれど私にはその助け方が分かっていないのかもしれない。

 2か月間共に過ごした鈴さんにさえ、何もしてあげられなかったんだから。

 




原作キャラ登場(死亡済み)。
今回入った地下への入り口は、若葉達のとは別の入り口です。
 
若葉達とは違って、灯は生存者が全くいないとは考えていません。1ヶ月間生き残れたという実績があると思っているので。
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