『生きるためには喰うしか無かった』   作:ブラウン・ブラウン

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いつも読んでいただきありがとうございます。
きっと最後の重役持ちオリジナルキャラの登場です。


第48話【ようこそ白糸病院へ】

「──はあはあ、っ大丈夫ですか!?」

 

 誰もいない廃病院だと思っていたところから、見知らぬ女の子が飛び出してきた。

 

「…………だ、だれ……?」

 

 誰だ? 想定外の突然の来訪者にうまく言葉が出て来ない。まさか本当に病院に人がいるなんて。

 生存者だ。ここ何週間も探しても見つからなかった生存者。しかも私と同じくらいの年齢の女の子。大人じゃない。

 一人で来たみたいだけど、一人で生き残っているのだろうか? そんなわけはないと思いつつも、彼女のほかに足音は──今のところ聞こえない。

 

「わっ…アタシと同じくらいの子だ……。えっと、大丈夫、じゃないよね……? 大丈夫だった?」

 

「えっ、あ。ああ、いや……。ええっと、あなたは一体……?」

 

 思ってもみなかった遭遇に、いつも以上に言葉がうまく出て来ない。

 

「アタシは……って、そんなことより! 後ろの2人ぐったりしてるじゃん! 見るに体調悪いんでしょ。ほら早く。アタシもどっちか肩貸すから、アイツらに見つかる前に中に入って」

 

「は、はぃ……?」

 

 そう言った彼女は、「じゃあアタシはこっちの男の子の方を持つから、そっちお願い」とこちらが何かするよりも早くマコトを背負って病院の中に入っていってしまった。

 

「ちょ、待ってください!」

 

 急いで私も立ち上がって明を背負い、彼女の後を追う。何をされてもすぐに対応できるように、強く鍬を握りしめた。

 

 開きっぱなしの自動ドアから中に入ると、そこは外の建物と比べてあまり損壊が進んでいない不思議な空間だった。他の建物は半分ほどが倒壊、残りの半分も大々的にヒビが入っていたりと破壊の傷跡が見られるものがほとんどだった。

 けれどこの病院は、びっくりするほど損壊がない。いや、普通にあることはあるんだけど、想像以上に無事な状態だ。

 外観が無機質な冷たい白一色で塗られていた壁とは異なり、病院の中の壁には可愛らしいクマやウサギの絵が描かれていて、外とのギャップに少しの違和感を覚える。

 

「3階に運ぼうか。ついてきて」

 

 白一色といえば彼女もそうだ。白のダッフルコートに身を包み、下にはこれまた白のパンツと靴を履いている。フードを目深に被り、露出の少ない肌も白く塗られているため、遠目から見たら雪だるまに見えなくもない。

 ファッション……なのだろうか。流行には疎いからよく分からない。

 

 デパート旭と同じように動かないエスカレーターを上っていくと、3階は患者さんが入院するエリアになっていた。

 

「んーと、確かこの部屋はまだ空いていたよね。君、こっちのベッドにその女の子寝かせてくれる? これからこっちの子と一緒に ”治療” するからさ」

 

 その中の一室、4つベッドがある病室に通され、明を寝かせるように言われた。従う理由はないけれど、逆らう理由もないし言うとおりにする。

 それに彼女は治療と言った。この病院の医者には見えない年齢だけど、一体何をするんだろう。

 ベッドにそっと寝かせると、明が苦しそうに熱に浮かされていた。顔も赤くなっていて額には汗が浮かんでいる。

 ティッシュを取り出して汗を拭いてあげると、白い彼女から声をかけられた。

 

「んーと、2人ともただの風邪だけ? それとも他の病気とかにもかかってる?」

 

「えっと、たぶん風邪だけだと思います。ここのところ食欲がなかったみたいで、きっとそれで免疫力が落ちて……」

 

「あーよくあるやつだね。ウチにもいるよそういう人。んじゃ、元気取り戻すためにチャチャっとやりますか」

 

「チャチャっと、って……ええっ!?」

 

 やるぞーと言った彼女の右手にはいつの間に握ったのか、少し、という言葉では大きすぎる注射器が握られていて、その針をマコトの腕に突き刺そうとしていた。注射器の中には見たこともないような透明なのに発光している謎の液体が入っていた。

 確実におかしい。……敵か?

 鍬を強く握りしめ、今にも突き刺そうとする彼女に一瞬で近づき、首元に刃を向けて威嚇する。

 

「──っ」

 

「か、勝手に私の仲間に手を出さないでください。何を打とうとしているんですか。風邪の治療にそんな変な薬液、使わないですよね?」

 

 突如向けられた刃物に、彼女は目を白黒させている。そのまま両手を上にあげて無抵抗アピールをしてきた。

 

「わっわぁ~、すごい。今どうやって動いたの?」

 

「答えてください!」

 

「ごめんごめん、また悪い癖出ちゃったな……分かったから刃向けるのやめてもらえる? さすがに刃物は怖い」

 

 注射器をポイと布団の上に投げたのを確認したので、彼女の首を解放する。けれど力は発動させたままだ。またいつ何をするか分からない。

 

「病人をほったらかしにしているのは医者志望としてはアレだけど、たしかにまずは説明が必要だったね。あー、また父さんに怒られる……」

 

 ぶつぶつ言いながら彼女はマコトのベッドに腰かけた。私も明のベッドに座ることを勧められたけど、彼女に対する物理的な安全面の観点からお断りさせてもらった。

 

「んーと、まずは名前か。アタシは白糸 陽。太陽の陽ね。ここのみんなからは陽ちゃんって呼ばれてるよ。君は?」

 

「私は岩波 灯です」

 

「岩波ちゃん……もしかしてそっちの子は?」

 

「……妹です」

 

「それじゃあ灯ちゃんて呼ぶね。よろしく」

 

 先ほど刃物を向けた相手だと分かっているのか、彼女…白糸 陽は笑顔で握手を求めてきた。鍬を右から左に移して握手に応じる。

 

「よろしくお願いします……」

 

「よしっ。次は……これの説明か。これはね、魔法の注射器なんだよ」

 

 魔法の注射器。

 普通だったらまず組み合わさらないだろう2単語で呼ばれたソレを私に見せるように構えて説明を続けた。

 

「魔法……ですか」

 

「そう! っていっても正確にはちょっと違うんだけどね。どこから話そうかなー。

 んと、まずここ、アタシの父さんの病院なんだけど、父さんは ”ゴッドハンド” って言われるくらいすごいお医者さんでね」

 

「ゴッド、ハンド……」

 

「そう。で、みんなから言われるもんだから父さんも自意識がちょっと過剰になっちゃって、『神が使う道具なんだから神様の力が備わっているものじゃないと駄目だろう』って言いだしちゃって。夜中に近所の神社に忍び込んで宝物殿から1つ神具を盗ってきちゃったんだよ」

 

「──……」

 

 なんてバカなお父さんなんだろう……って言いたいけど、おじいちゃん……。ここにも同類がいたよ……。心の中で頭を抱える。

 語りかけるように鍬を握っても、おじいちゃんの声が返ってくることはなかった。

 

「それをどうにかして注射針にしたものがこれなんだ。まあ、ちゃんとしたものじゃないから結局現場では使えなかったんだけどね」

 

「そう、ですか……」

 

「んで、話は飛んであの日。白いアイツらが降ってきた時、アタシは病院にいたんだけど何かに呼ばれるような気がしてウロウロしてたらこの注射器が光ってて。何だろうって触ったら変な力? みたいなのが流れてきたんだよ」

 

「そ、それって! なんか身体の奥が熱くなって身体が別のものになっていくような感じでしたか!?」

 

「う、うん、そうだけど……。え、なに知ってるの? 経験者?」

 

「は、はい! 私もこの鍬を触ったときに」

 

「それ何かと思ったら鍬だったんだ……。柄がないから全然分からなかった」

 

 まさかまさかの私と同じ力の持ち主だった。

 デパートでは私以外はいないって判断したけど、まさかこんなところにいたなんて……!

 少々疑心暗鬼だった心も、この事実一つできれいに吹き飛んだ。

 

「私の場合はこの鍬でバーテックスを斬ったり切り刻んだりできるんですけど、白糸さんはその注射器でどうやって戦ってるんですか!?」

 

「ええっ……急に元気になるじゃん……。それにバーテックス? って白いアイツらのこと?」

 

「あ、そうです。私たちのグループではそう呼んでました。…………もうみんな死んじゃったんですけど」

 

「あー、うん。まあ名前付いてる方が呼びやすいし、アタシたちもそう呼ぼうかな。んで、戦った、アイツらと? すごいね灯ちゃん。怖くないの?」

 

「怖くなくはないですけど、私たちにはほら、力がありますから。なんとか」

 

「いや、アタシはバーテックスとは戦えないよ? そんなスーパーマンじゃないんだから無理だよ」

 

「ええ!?」

 

 戦えないのに力を感じたことがある……ってどういうこと?

 

「んー…………あぁ、わかったかも」

 

「なんです白糸さん」

 

「陽ちゃんでいいよ。んとね、さっきの続きなんだけど、この注射器はたぶん灯ちゃんの言う力を人に与える力を持ってるんじゃないかな。灯ちゃん、腕貸してもらえる?」

 

「腕ですか? ってことは刺すんですよね、いいですよ」

 

「はーい。じゃあ……チクッと」

 

 ぷすりと刺されたところから透明に輝く液体が流れ込んでくる。

 白く塗られた白糸さん……陽ちゃんさんの手が気になったので聞いてみる。

 

「その手なんで白く塗っているんですか?」

 

「これ? 少しでもバーテックスに、人間じゃなくってお仲間に見えるかなって思ったから白く塗ってるの。だからほら、白コーデ」

 

「なるほど」

 

「……よし。注射終わり。どう? 体の調子は?」

 

 言われた通りに体を触ってみると、傷が無くなっていた。

 疲労感もかなり取れ、少し眠気も冷めてきた。

 

「これって……!」

 

「この液体は人の傷とか疲れとか空腹とかを全部解決するスーパー栄養剤みたいらしいんだよね。だからアタシたちは今までずっとここで暮らせてたんだ」

 

 ……なんて能力。革命だ。

 今までの私たちの苦労が、この注射器一本ですべて解決されてしまった。そりゃ、こんなところにずっと籠っていても大丈夫なわけだ。だって外に出る必要が無いんだから。

 

 そう言った陽ちゃんさんはその場でくるりと一回転し、注射器を見せびらかすようにしてこう言った。

 

「ようこそ、白糸病院へ。ここはこんな地獄に咲く一輪の奇跡の花みたいな場所だよ」




また新たな神器を生み出してしまった……。
武器が注射器って良いなって思います。
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