『生きるためには喰うしか無かった』   作:ブラウン・ブラウン

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2人ともメンタル強すぎですが、あんまり気にしないでください。


第5話【黒焦げの願い事】

《2015年7月31日 山中》

 

 あれから私たちは、車で来た道をひたすら歩いて下っていた。道順はあまり覚えていないけど、たぶん道のりに沿って進んでいけばそのうち麓まで下りられるだろう、という甘い考えの下。

 道は普段からデコボコしているのに加えて、昨日の地震で木が倒れていたり大きな石が転がっていたりと歩きづらくなっている。

 ゆっくり足もとを確認しながら歩いているので、お昼時になったけどまだ少ししか進めていない。

 

「そういえば ともちゃんのもってるそれ、なんなのー?」

 

「ああこれ? これはね、鍬」

 

「くわ?」

 

「そう、畑を耕すときとかに使う道具でコレはおじいちゃんの。カネアキって言うんだって」

 

「カネアキ! すごくいいなまえ! つよそー!」

 

「え。あ、そう?」

 

 なんでそんなテンション高いのよ……。こっちはセンスないね、って言われると思っていたから「私が付けたんじゃないよ!?」って言おうと準備してたのに……。

 

「ともちゃん、カネアキさわらせてさわらせて!」

 

「あー、明のセンスはおじいちゃん似だったのか……。いいよ、はい。気を付けてね」

 

「やったー! うんしょっと、うおー……おもたい……」

 

「まぁ金属でできてるからね、そりゃ重たいよ。ってちょっと明! うまく持てないからって振り回さないの!」

 

「うわ~ めがまわる~」

 

「止まって! まったく、危ないでしょ。はい、もう没収。遊び時間は終了です」

 

「あ~ めがまわったよ~。でもおもしろかったー」

 

 少々危ない遊びだったけど、楽しかったのなら何よりだ。

 

「でも、なんでそんなおもたいもの もってきたの?」

 

 目が回ってふらふらしている明はもっともなことを聞いてきた。確かに畑を耕す道具は今は必要ない。けど、

 

「これはね、すっごく強い武器になるんだ」

 

 そう、これはすごく強い武器、というより、すごく強くしてくれる(・・・・・)武器。

 この鍬を握っているときにだけ、あの不思議な力が体の中に流れ込んでくる。それを使えば走るのが速くなったり、痛みや疲れがあまり感じなくなったりと超人的な力を身に付けることができる。

 今はまだ慣れてなくて全然使いこなせてないけど……。

 

 そして手を離すと、いつも通りの人並みの力を持った私に戻る。つまり、これが無いと私はあのバケモノに太刀打ちできない。あれ、そういえば……、

 

「明はカネアキ握ったとき、何か感じなかった?」

 

「ん? なにかって?」

 

「何かって、えーっと。なんか体の中から湧き上がってくる熱い力、みたいな?」

 

「なにそれ? なんにもなかったよ?」

 

 私の曖昧な表現に明は呆れた表情を浮かべていた。説明が下手な私も悪い、がそんなことより重要なのは『何もなかった』こと。

 私には流れてきて明には流れてこない。つまりはこの不思議な力は人を選んでいるのかもしれない。

 

 明と私は何が違うんだろう。

 性別は同じだけど、年齢・性格・体力なんかは異なっている。一定以上の年齢、なんてのは1番ありそうだ。

 でもそうしたら世界中が超人だらけになっちゃうか。「人類の突然変異」みたいな感じで大ニュースになってしまう。

 

 とにかく私だけってことはないだろうから、私なんかより腕っぷしのある人たちをいっぱい集めて一斉掃討すれば、アイツらなんかすぐに片付くだろう。

 そうすればすぐにまた平穏な日々は戻って──。

 

 

「ねえってば!」

 

「へ? どうしたの?」

 

「どうしたじゃないよー。なんどもはなしかけてるのに」

 

「ごめんごめん、ちょっと考え事してた。で、何の話?」

 

「えっとね、つかれました!」

 

「あー、もう12時近くなるもんね。まだ先は長いけど、ちょっと休憩しよっか」

 

「さんせーい!」

 

 考えていたら明に怒られてしまった。

 リュックに手を伸ばし、入れておいた壁掛け時計を取り出して見てみると、2本の針が真上を指そうとしていた。

 時間が分からないと不便だろうと思い、家にあった1番小さな壁掛け時計を持ってきたんだけど、持ち歩くにはちょっと……。

 でもあの家には目覚まし時計すらなくて、泣く泣くこれを選ぶしかなかった。

 にしてもこの時計、大きくて重くて邪魔。まあ実際のところはカネアキを触っているから重くはないんだけど。こんなことなら家に腕時計置いてくるんじゃなかった……。

 

 

 少し歩いた先にあった倒れた木に腰かけて、リュックを肩から降ろす。

 このリュック、実は誕生日プレゼントとしてもらう予定だったものだ。今朝、出発する前に家の中を探してみたら、袋に包まれた状態のこれを発見した。

 いろんなものが壊れ汚れている中で、このリュックは何の被害にもあっていなかった。見つけた時は2人からの温かな愛情を感じ、しばらくの間動くことができなかった。

 それから私はお墓の前に行って2人にお礼を言い、大切に使うと約束して今に至る。

 泊まるために持ってきたものよりも一回り大きい、ベージュ色の可愛らしいリュック。2人とも私の趣味がよく分かってる。

 

 

 リュックから取り出すのはチョコレートとおせんべい。お菓子類は泊まりに来るときにたくさん買っておいたんだけど、全部お父さんの車の中に置いてきてしまった。だからもともと家にあったのしか持ってこれなかった。

 

 

 明が私と半分に分けたチョコレートに夢中になっている間に、もう少し考察を進めておこう。

 

 次のテーマは「この力は何なのか」だ。

 最初は元々が神器だったんだし、神様の力かと思ってた。

 だけど神器側から考えて、勝手に溶かされボコボコに叩かれ挙げ句の果てに別の形に変えられた神様は、果たして力を貸してくれるのだろうか。

 私だったら力なんて貸したくない。むしろ祟るくらいだ。

 

 なので一番ありそうだと思うのは、この不思議な力の正体はおじいちゃんとおばあちゃんが力を貸してくれているものだと思っている。

 非科学的なことだけどそれ以外に理由が思いつかないし、何より私がそう思いたい。

 離れていてもいつもそばにいて力を貸してくれている。そう思ったほうがなんだか力が湧いてくる。

 

 

 

 視線を感じたので顔をあげてみると、考え事をしていてほとんど食べられてない私のチョコレートを明がジーッと見ていた。

 何やら欲しそうな眼をしていたので、もう半分こしてあげた。

 

「もう、食いしん坊さんめ」

 

「はやくたべない ともちゃんがわるいんだよー」

 

「ははっ、何だそりゃ」

 

 

 考察するのは一旦やめて、つかの間の休息なんだし明との会話に花を咲かせることにした。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「さあて、続き進むよ」

 

「うへー、もうすこしやすもうよ……」

 

「泣き言言わないの、ほら立って立って」

 

 食べて一息ついたためか、とても眠そうにしている明の手を握って再出発しようとする。

 今の進捗は3分の1といったところか。なかなか進まないな。

 

「ほーら、ちゃんとシャキッとして」

 

「ん~ねむい……」

 

 目をこすりながらトボトボとついてくる。このペースじゃ今日中に着くのはちょっと無理そうだな……。

 

「んもー、しょうがない子だなあ。ちょっと待ってて」

 

 背負っていたリュックを前に持ってきて、右手のカネアキをその中にうまく入れて、っと……。

 

「こっち来なー。お姉ちゃんがおんぶしてあげる」

 

「うん……おんぶ、する……」

 

 ゆっくりと背中に乗った明を背負いあげ、体を弾ませてバランスを整える。バドミントンで毎日鍛えてるから、力を借りなくったってこれくらいはできるんだから。

 

「寝ちゃってもいいからね」

 

「ん……」

 

「ってもう目つむってるし……」

 

 言うよりも早く寝る準備をしていた。普段歩かない山道だし、しょうがないか。

 

「さあてと、今度こそ出発しますか!」

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 1人気合を入れて歩いていく。起こさないようにするため走ったりはできないけど、それでもさっきまでとは段違いに速い。これなら今日中に下りられるかも?

 

 

 数十分歩いていると、道に大きな岩が落ちているのが見えた。

 

「うわー、大きな岩。上から落ちてきたのかな? 気を付けよう」

 

 西遊記で孫悟空が封じ込まれていた岩くらいの大きさ。この下にも孫悟空がいて、私たちのことを助けてくれないかなー。でも、そしたらブタとカッパも集めないといけないな。

 

 そんな他愛もない昔話のことを思い出しながら近づいてみると、地面に「赤黒い血」の跡がにじんでいた。

 

「えっ!? 誰かいるの!?」

 

「……ん~?」

 

「あ、明!? 何でもないから寝てていいよ!?」

 

「んー……」

 

 大きな声を出したせいで明が起きかけてしまった。ゆっくり素早く慌てて近寄る。

 

 

 

──岩の下には、少女の遺体が上半身だけうつ伏せに出ていた。

 

 顔だちを見るに中学生くらいの女の子。こんな暑い日なのに巫女の服を着ている。

 全く知らない子、だからなのだろうか。死体を見ているのに、昨日ほど気持ち悪くは感じない。

 そばには、ひび割れたお面とお花の文様が小さく入った綺麗な白い服が転がっていた。

 

「白い花だ、これはえっと……」

 

 暇なときに読んでいた花言葉事典に似たような花が載っていたような……。

 

「確か、スノードロップ……だっけ?」

 

 そうスノードロップ、印象的な花言葉だったから何となく覚えていた。

 花言葉は「希望」とか「慰め」とかなんだけど、確か状況で意味がまた別のに変わるんだったよね……って、今はそんなことを考えている場合じゃない。

 

 いったい何のために彼女はここにやってきたのだろうか。この先を進んだとしても、あるのはおじいちゃん家しかない。

 おじいちゃんの知り合いなんだろうか。いや、おばあちゃんは以前裁縫の先生をやっていたから、そのお弟子さんかもしれない。

 おばあちゃんは元巫女さんだったから、会うときは巫女姿って決めてたのかな。そうじゃないと普通着ない。

 

 落ちている服に手を伸ばす。それにしても、この白い服は素晴らしい完成度だ。素人の私でさえ神々しさを感じる。

 なぜだか無性に自分のものにしたい欲求が湧いてくるが、それをぐっと堪える。これは彼女の遺作なのだから勝手に盗ってはいけない。

 

 屈んで明が落ちないように工夫して手を合わせ黙とうし、彼女に背を向ける。埋葬してあげたい気もするけど、可哀そうだがそんな時間は私たちには無い。

 名残惜しい気持ちを静めて、私は静かにその場を離れた。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 最初から数えて3分の2くらいは歩いただろうか、進めど進めど木ばっかで進んでいる気がしてこない。

 

 彼女と別れてからしばらくして、明が目を覚ました。今は元気に走り回って、少し先を歩いている。

 水筒に入れてきた水も、この暑さの影響で既にすべて飲みきってしまい、喉はもうカラカラ。

 

「はやくしないと、おいてっちゃうよー!」

 

 先にいる明がこっちに向かって叫んでいる。まったく、寝て元気になったからってあんなにはしゃいじゃって。

 私はもう眠い。こっちは睡眠時間たったの4時間なんだよ、普段だったら昼寝案件。私も誰かの背中の上で寝ていたい……。

 

「ともちゃーん!」

 

 そんな私の事情なんぞ気にもしない明は、大声で何か聞いてきた。こちらも気は進まないが大声で返答する。

 

「どうしたのー、なんか見つけたー?」

 

「あのね、みずのおとがするよー?」

 

「水?」

 

 言われて耳を澄ましてみると、確かに川のせせらぎの音が右側から聞こえてくる。

 右側は崖ではなく、少々キツイ傾斜の坂のようになっていた。これならなんとか降りられる。木々の隙間から覗くと、うっすらと川の存在が確認できた。

 川、つまりは水がある。これでようやく喉の渇きを癒せる。

 

「明、これ頼んだ!」

 

 居ても立っても居られなかったので、明のところまで駆け寄り、カネアキと2人分の水筒以外の荷物を預けてそのまま坂まで跳んでいく。カネアキを補助道具に、颯爽と駆け下りていく。

 

「やったああ!」

 

水が飲める喜びで、なんだか変に陽気になってしまう。早く飲んで調子を取り戻さないと。

 

 

 

 滑り落ちるように降りたので、時間もかかることなく川に到着した。川はとても澄んでいて、何もしなくてもそのまま飲めそうな色をしている。

 急いで川に口をつけゴクゴクと飲む。喉が潤い、体と脳にじんわりと浸透していく。ぼんやりとしていた体の機能が回復していく感覚が伝わってきた。

 コップで言えば3杯ほどの量を一気に飲み干し顔を上げる。

 

「プハー 生き返る〜」

 

 お酒を飲んだ後のお父さんみたいな感想が口から出てしまう。荷物もないので大きくグーンと体を伸ばす。動いてなかった筋肉が引っ張られて気持ちいい。

 それから澄み切った空気を取り込もうと鼻で深呼吸する。

 

 

 すると、鼻に異臭が飛び込んできた。思わず顔をしかめる。魚を焼きすぎた時みたいな焦げた臭い。おかしいな、ここは山なのにどこから臭うんだろう。

 水を汲むため屈んで水筒の蓋を開けながら見回すと、右奥に「黒い物体」が見えた。

 

「えっ」

 

 

 それは大きな塊だった。それは本来あるべき向きとは逆さまになってそこに存在していた。上から落ちてきたのだろう、所々がへこんでしまっている。

 落下した時に爆発したのか、ガラスは飛び散り本体は黒焦げになっている。

 近くには、大きな岩がいくつも転がっていた。

 

「う、そ……」

 

 かろうじて焦げきっていないナンバープレートを読む。

 

 そして理解してしまう。

 

 

 

 

 

 

──あれはお父さんの車だ。

 

 

 

 

 ゴトン

 

 手から滑り落ちた水筒が、音を立てて転がった。




不穏に終わらせがち、人死にがち。
スノードロップ、諸説ありますがシチュエーションで別の花言葉になる面白い花です。泣けるほど暇だったら調べてみてください。最後らへんに少し関わってきます。
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