『生きるためには喰うしか無かった』   作:ブラウン・ブラウン

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いつも読んでいただきありがとうございます。
2周年です。おめでとうございますありがとうございます。(自己完結)
周年なのでたまには。評価感想よろしくお願いします。


第50話【地の底に堕ちた私が、あなたの袖を引いていく】

 もし、私が2人いたら。

 あの時。あの時。あの時。

 もし、私が2人いたら。

 そうしたらどれだけの人を救えていただろうか。

 今一歩届かないこの手を、誰に届けることが出来たんじゃないか。手からこぼれ落ちる命を、すくい取ることが出来たんじゃないか。

 

「私と一緒に、あの化け物を倒しませんか?」

 

 これは、そんな積もりに積もった後悔を少しでも減らすための第一歩。

 一人じゃ無理でも、きっと二人なら。仲間がいるなら、私はまだ戦っていける。

 

 そう思って差し出した手は、

 

「え……無理に、決まってるじゃん…………」

 

 掴まれることは無かった。

 欲しかった握手の代わりに差し出されたのは、私を見る陽ちゃんさんの『無理解』が乗った表情だった。

 

 

 

 

 

 

 

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「っ……。ど……どうして、ですか?」

 

 息が詰まる。

 正直、断られることはまったく考えてなかった。

 私たちが戦わなくちゃいけないことくらい、バーテックスとまともに戦える力を持つ者だったらすぐに分かることだ。

 戦わなければ、本当にみんな死んでしまう。

 それなのに。

 

「いや、戦うって……。灯ちゃんまさか知らないの? アイツらバケモノなんだよ?」

 

「いや知ってますって! でも私たちなら戦えるじゃないですか!」

 

「戦えるって……ああ、さっき言ってたやつのこと? たしかにその、なんだっけ。鍬?の刃で切った張ったが出来るんだったら、それはすごいことだけど。でもそんなこと出来ないじゃん」

 

「本当に出来るんですよ! 注射器でみんなを回復できるみたいに、私はバーテックスを倒す力が!」

 

 まさかそこの段階から疑われているなんて。

 デパートのときみたいにまた実演したら分かってくれるだろうか。

 

「……ここで話すのもなんだし、ちょっと移動しよっか」

 

 口元に一本指を立てながら告げられたセリフにハッとする。

 そういえば、ここは病院だった。

 

「すみません、興奮しちゃいました」

 

 熱くなった思考がすーっと緩やかに、けれど確かに落ち着きを取り戻していく。

 落ち着かなければ何事もうまくいかない。ここが正念場なんだ、しっかりしろ。

 

「次から気を付けてね。それじゃあ……うん。来た道戻ることになるけど、レストランで座りながら話そっか」

 

 

 

 

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「……仮に」

 

「……はい」

 

 場所は変わってレストラン。誰もいないし誰も来ない(来ても何もない)この場所は、わざわざ連れてくるだけあって話し合いの場に適している。

 その一席に座り、陽ちゃんさんは落ち着いた様子で話し始めた。

 

「仮にもし灯ちゃんがそんなことが出来るとして。そして病室で話したことが本当だったとして」

 

「はい」

 

「まず、アタシにはその、灯ちゃんの言うようなスーパーパワーはこれっぽっちも感じないんだよね」

 

「でもそれは注射器に力が移ったってことになったじゃないですか」

 

「うん。でもということは、戦うにしても私はこの体一つで戦わなくちゃいけないんだよ」

 

「あっ……」

 

 ……そう、か。

 完全に忘れていた。そっか、陽ちゃんさんは強くないのか。

 つい、私が二人いる、って考えてたから気にしていなかった。

 

「二つ目。アタシはあのバーテックスたちの一体一体に区別がつかないから分かんないけど、アイツら何体いると思う?」

 

「ええっと……た、たくさん、ですかね……」

 

「うん、アタシもそう思う。少なくとも一向に助けが来ないあたり、ここら辺だけにバーテックスがいるってわけじゃないと思うの」

 

「そう、ですね。とりあえず埼玉の方にもたくさんいました」

 

 初日に山の上で見た、バーテックスが空から降ってくる光景が脳裏をよぎる。続けて川、山中、街。どこに行ってもバーテックスは姿を現してきた。

 

「仮に日本中にいるとするでしょ? それを私たち二人だけで倒し切るなんて、流石に現実的じゃないかなって思うんだよね」

 

「そう、ですね。でも、今回私がここに来たじゃないですか。それと同じようにまた力を持った人と会え、る……かのうせい、だって」

 

 自分の意見の荒唐無稽さに、最後まで言い切ることさえも出来ない。

 そりゃ私だって信じてきた。信じてきたからここまでやってくることが出来た。

 どこにいるかもわからない同じ力を持つ人。逆に今回会うことが出来たことが奇跡なんだ。

 

「うん確かにその可能性もある。けど、ごめんね。灯ちゃんは探しに行きたいかもしれないけど、アタシはここを動くつもりはないし、もし死ぬときはここで死ぬってもう決めてるから」

 

 非現実的な可能性にも目をやり、そのうえで話し合ってくれる。

 それに比べて私は、ただの勢い任せの考えなしで、彼女を説得できるだけの言葉がない。

 

「ここはお父さんの病院だから。小さい頃から何度も遊びに来ては、病院内は静かにしろ、って看護師さんに怒られて。患者さんの病室に勝手に入って遊びに行ったこともたっくさんある。すぐに見つかって怒られたけどね」

 

 懐かしそうに愛しそうに、思い出の日々が口から紡がれていく。

 

「今ここにいる患者さんだって、ほとんどが見知ったお父さんの患者さんだから。娘のアタシが最後まで一緒にいなきゃいけないし一緒にいたい」

 

「……」

 

「だから私が戦って、もし死んじゃうようなことにはなりたくないんだ。ごめんね……」

 

 返す言葉が見つからない。

 陽ちゃんさんなりに真剣に考えて出してくれた結論。頭ごなしに無理というのではなく、しっかりとした理由も携えての解答。

 どうすることもできない。

 ただひたすらに陽ちゃんさんは正しいことを言っている。体は強化されていない、敵の数も正体も不明で無数、そして守らなければいけないものもある。

 こんな彼女を戦場に出す理由を、出さなければいけない理由を私は思いつくことが、………………。

 

 

 

 あ。

 

 あ、あ。……あ。

 

 ……っあぁ。思いついてしまった。

 なんともまぁ悪質で悪辣で、人の心がないようなアイデアか。そこら辺の犯罪者よりもよっぽど腐った考えだ。

 本当に自分が嫌になる。

 

 ……そういえば、私はすでに人を見殺しにしているんだった。

 ならもう、戻れない。

 

「………………じ、じゃあ」

 

「うん?」

 

 これから彼女に非情なことを告げる。

 

「じゃあ、お父さんを見殺しにするんですか?」

 

 どうか、どうか許してください。

 

「言ってましたよね、お父さんまだ見つかってないって。まだ生きてるかもしれないじゃないですか。私たちの助けを待ってるかもしれないじゃないですか。

 それなのに……探しに行かないってことですか?」

 

「そ、そういうわけ、じゃ……」

 

 みるみるうちに青ざめていく。ああ、そんな震えた声を出さないで。

 

「それに! ずっとここにいてもすぐアイツらはやってきます。デパートのみんなもそうだった、お父さんもお母さんもおじいちゃんもおばあちゃんも! マコトのお母さんだって!

 ……みんなみんなバーテックスに殺されました」

 

 胸の内側からこみあげてくる黒い熱が、私を突き動かす。

 

「目の前で喰い千切られる胴体。跡形も残らない遺体。助けてと伸ばされた手は掴めない! ……こんな気持ちを陽ちゃんさんには味わってほしくないんですよ…………」

 

 気づけば椅子から立っていて、目からは涙がこぼれ落ちていた。

 涙、感情、人の証。こんなことを陽ちゃんさんに告げてもなお、私の心は私に存在を訴えかけていた。

 

「だから、守りたいものがあるなら一緒に戦ってください。お父さんのことを助けたいなら一緒に戦ってください」

 

 病院の外の世界を知っている私が一番よく分かっている。

 絶対にお父さんは生きていない。

 それが分かっていてなお、私は再び右手を差し出した。

 

「…………」

 

 私だって守らないといけないから。家族みんなから託された、明の命。そしてその家族を奪ったバーテックスに復讐しなくてはならない。

 

「ぅ、だよね…………」

 

 弱弱しいかすれた声が聞こえる。

 

「そう、だよね…………生きてる、よね……」

 

 ふらふらと陽ちゃんさんが立ちあがる。

 

「きっと生きていると思います」

 

「そうだよね。うんそうだよ、お父さん昔から身体だけは丈夫だからきっと大丈夫だよ、うん!」

 

 その元気強いセリフとは裏腹な震える手が差し伸べられる。

 その手をギュッと掴み、震えが治まるよう左手も使って包み込む。

 

「一緒にここで生き延びましょう。そして大切なものをバーテックスから守りましょう」

 

「そうだね、よろしく灯ちゃん」

 

 ここに『勇者』と「勇者」の共同戦線が張られた。

 

 

 

 

 

 

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 これが私の罪。許されざる大罪。

 私が関わらなければ、彼女は少なくともあんな悲惨な最期を遂げることは無かったのだから。

 

 

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あと数話ほどでタイトル回収話が来そう。
そして恐らく全80話も行かずに完結できそうなので、最後までお付き合いよろしくお願いします。
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