前話の「独自設定紹介と解説 26話〜50話まで」で紹介し忘れていた設定を一つ、昨日追加しました。
47話から続いている設定のやつです。明言してなかったものを解説しているので、よかったら見返してみてください。
区切りが良かったので少し短いです。
《2015年11月中旬 白糸病院から少し離れた場所》
──私は彼女を騙した。
生きているわけもない、とびっきりの幻想をエサにして、私は彼女の協力を求めた。
協力していく以外私たちに道がないとはいえ、ひどいことをした。
謝ってももう取り返しはつかない。だって謝るよりもずっと前からもう、取り返しはつかないんだから。
だから。
せめてもの償いとして、今ある彼女の大切なものを守れるように、私が助けないと。
今度こそ守るんだ。今度こそ……今度こそ。
「と、灯ちゃん……いたよ? 言ってた、野良? ってやつ」
「ほかにはいませんか?」
「たぶん……いないと思う」
「……分かりました。じゃあ今から私がやってみせるんで、ここで見ていてください」
「オ、オッケー」
建物の影から少し顔を出していて見れば、陽ちゃんさんの言う通り、一体のバーテックスを確認できた。
再度私も周囲の確認をするも、ほかのバーテックスは見当たらない。絶好のチャンスだ。
「じゃあ行きますよ」
バーテックスは私の存在に気が付くことなく、建物に隠れた私たちの横を通り過ぎていく。
せっかくの野良だ。仲間を呼ばれるわけにはいかない。
完全に通り過ぎて行ってから、そっと地面から跳躍し、宙に浮かぶバーテックスの背中に斬りかかる。
サクリ、といつもの手ごたえが元鍬の刃ごしに伝わってくるのと同時に、バーテックスの体はきれいに切断された。
「うわあぁ、すごい……。あんなにあっさり……」
着地の時も音を立てずに。静音をなるべく心がけて地面に降り立つ。
「それでこれが……へぇ~……」
バーテックスが星状のチリとなって天へと消えていくのを、呆けた様子で眺める陽ちゃんさんのもとへ静かに駆け戻る。
「っと、こんな感じです」
「なんか……灯ちゃんてすごいんだね! あんなぴょーんって行って一発でザクッって。アタシびっくりしちゃったよ」
「これくらいしか私は出来ませんから……って、ここに長くいるとほかのバーテックスがさっきのチリを見てくるかもしれません。話は移動してからで」
「そうだった! じゃあちょっとまた、お背中失礼して……」
「はいどうぞ」
ここまで来た時と同じように、私の背中に陽ちゃんさんに乗ってもらって白糸病院まで走っていく。
これが、陽ちゃんさん強化トレーニング実践編一日目の様子である。
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陽ちゃんさんと悪魔のような契約を結んでから数日。私は彼女との連携方法について頭を悩ませていた。
あの脅……話し合いでも出たし、あの後もう一度確認したから確かなことなんだけど、どうやら本当に彼女は自身を強化できないらしい。
これは彼女が回復特化なだけで普通は身体強化されるのか、彼女は回復特化で私はたまたま身体特化なのか、参考例が2人しかいないから判断はできない。
けどこれはかなり困った問題だ。
宙を舞うバーテックスと戦うんだったら強化されてないとまず届かない。となると……、
「メインで一緒に戦えないなら、やっぱりサポートに回ってもらうしかないよね……」
バーテックスを倒す作業を分担したかったけど、しょうがない。メインは私だ頑張ろう。
彼女には近くの建物とかに隠れてもらって、私が傷を負ったり疲れたりした時の休憩場所になってもらえれば……、
「……そういえば、あの液体って……」
彼女の武器である注射器……の中にあるあの白く輝く液体。人間に使えば超回復アイテムだけど、あれってもしかしてバーテックスに打ち込めば攻撃になるんじゃない?
「となると……!」
話は変わってくる。
飛べないなら叩き落せばいい。
私一人が一撃で倒さなくても、バーテックスを地面にたたき落としてトドメを刺してもらえばいいんだ。そうすれば強化されていない体でも問題ない。彼女のいる付近に落とせば移動する時間も短縮できる。
思い描いていた共闘とは少し違うけど、これができたらすごく気が楽になりそうだ。
バーテックスは集団で襲ってくるから、一体に二撃以上はかけている時間があまりない。つまり一撃で倒し切ることが重要になってくる。
その点、もし一撃で倒し切れなくてもなんとかなるこの案は、余計な緊張をしなくて済むようになる。これは精神的にすごい助かるお話だ。
メイン攻撃は私。トドメと回復役として陽ちゃんさん。うん、悪くない組み合わせだと思う。
「よし! この案で話をしてみよう」
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「……っていうの、どうですか?」
早速提案しようと彼女を探すと、いつものように病室を回っている途中だった。作業中だった彼女を呼び止め、以前も使ったレストランまで来てもらい、先の案を話してみた。
「わ、わかった……。頑張ってみるよ」
緊張した様子はありつつも、前回の問題点を改善した案に賛同してくれた。
「よしっ。それじゃあ早いうちに練習して……」
「でも、さ……」
善は急げじゃないけど、早いに越したことは無い。そう思い立ち上がろうとしたとき、困った顔を向けて呼び止められた。
「アタシそのバーテックス? ってやつ遠目からしか見たことないんだよね。いや、人を食べてるのはここから見たことあるからヤバいってのは知ってるんだけど、そんな感じで」
「? はい」
「その……アイツらのこと全然知らないっていうか……怖いっていうか……。不安で、さ。
だからまずはバーテックスのこととか教えてほしいんだよね」
……そうか。考えてみればそうだ。
戦える力がないんだったら、知ろうとなんて思わない、か。知ったってどうにもならないんだから、知ろうとするなんてただ自分の命を危険にさらすだけの行為だ。特にバーテックス相手では。
「もちろんです! そうですよねすみません、頭が回らなくて」
「いや、こっちもごめんね。ずっと籠ってばっかだったから、なんの情報も持ってなくって」
申し訳なさそうな顔に申し訳なさを感じる。ここ最近バーテックスのことになると思考が短絡的になりがちだ。戦ったことがないんだから、すぐに戦えるわけもないのに。
良くない癖だ、気を付けないと。
「教えてもらうのだけど、アタシはもう少し仕事が残っているから、それが終わってからでもいい?」
「はい! 大丈夫です。それまでうまく説明できるよう考えておきますね」
「よろしく灯ちゃん」
レストランから去っていく陽ちゃんさんを見送ってから、自室に戻ってノートに知っていることをまとめてみる。
まだ二人は目を覚ましていない。陽ちゃんさんが言うには、だいぶ体も元気になってきたからもうすぐ目を覚ますそうだ。
二人の早い目覚めを祈りながら、授業用のノートの作成に勤しんだ。
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そのあと、何回かに分けて私の知っているバーテックスの全てを陽ちゃんさんに教え込んだ。と言っても私も分からないことだらけだからはっきりとしたことは言えなかったけど、有意義な時間になったと思う。
そして今日、初の実践となり、冒頭のシーンに戻る。
「いつもの癖で灯ちゃんにも白くなってもらったけど、実際効果あると思う?」
背負っている背中越しに陽ちゃんさんが話しかけてきた。
出発前、いつも外出時は体を白くしている、と彼女が言っていたため、今日は私も体を白く塗ってもらった。白い服なんて持っていなかったから病院の白衣を貸してもらい、粉で肌と髪の毛を白くしてもらった。
「うーん、でもバーテックスも白いですし、一瞬のカモフラージュくらいにはなるんじゃないですかね。まあ、バーテックスに視力があるかは分からないんですけど」
「目っぽいのあるしある気がするんだけどなあ」
「まあこんな簡単にできることですから、効果があるかないか分からない以上やらない手はないですよ」
こんな民間療法みたいな策だけど、分からない以上やらずにはいられない。打てる手はすべて打たないと。
「今日は見てもらうだけでしたけど、明日からは一緒にやりましょうね」
「いやぁ、出来るか不安だけど……早くお父さんを見つけないといけないし、頑張るよ」
「……はい、頑張りましょう」
回された腕に力が込められ、そのぶん私の心が締め付けられる。
明日のレッスンも慎重にやらないと。彼女は初めてなんだから、出来ない前提の行動をとらないと、最悪彼女が死んでしまう。
これ以上大切な人の死を見てしまったら、この締め付けに耐えられなくなってしまう。
緊張と覚悟を胸に、もう二人の私の大切な人が待つ白糸病院に駆けていった。