新趣味に手を出したり、人の誕生日プレゼントを作ってたりしたら遅くなりました。
そして学期末ゆえまた次の更新が遅くなりそう……。
白糸病院に帰還する。
まだここに来て一週間も経っていない。この場所に慣れていないのか、いまだに外から帰ってきた、という実感が湧いてこない。
「……ただいま」
返事はない。
ここは家ではないと、デパートではないのだと、無言の返答が教えてくる。
少し寂しい気がして、そしてそれを振り切って中に入る。
階段と化したエスカレーターを上り、二人が寝ている病室に向かう。
上っている最中、なにやら向こう側から声のような音が聞こえてきた。
「──……。──」
病室から聞こえてきている気がする。私たちの病室に尋ねてくるような人は陽ちゃんさんぐらいだし、その彼女は今私の隣にいる。ということは……、
「もしかして……」
一応静かにドアをスライドしてみれば、上半身を軽く起こした状態の二人がいた。
「あ、ともちゃんだ!」
「ん? お、ホントだ。なあ岩波、ここがどこだか……」
陽ちゃんさんが見ているのもお構いなしに、私は二人のもとに駆け寄った。
「よかった……二人とも生きてた……」
ベッドの上にいる明を抱き寄せる。ここに来たときは心もとなかった心音も、今は健康なリズムを奏でている。いや、急に抱き着かれてびっくりしたのか、心音が速くなってきた。
「死んじゃうかと思ったんだからね……」
「ははっ、大げさだなー」
「大げさじゃないよ! 二人とも熱が出て意識を失って、何日間も寝ていたんだよ!」
「何日も!? は~そりゃあ……」
「く、くるしいよ……ともちゃ……」」
「あ! ごめんごめん!」
興奮のあまり締めすぎてしまった。
私がアワアワしていると、遅れて陽ちゃんさんが病室に入ってきた。
「灯ちゃんが急に走り出したと思ったら、2人とも起きたんだ。調子はどう?」
「あ、すみません置いてっちゃって」
「ん? 誰なんだ? この人」
「だれー?」
「ああ二人とも、この人は……」
「白糸陽。この病院の……まあ医者みたいなもんだね、よろしく!」
「やっぱ見た感じ通り、病院だったのか……オレは天宮マコト。よろしく」
上半身をさらに起こして握手する二人。
「それでこっちの子が……」
「あ……えっと」
「明、ほら挨拶して」
「あ、いわなみ……明です……」
「うん、よろしくねー」
明の人見知りスキルが全力発動。それ以上話すこともなく、明は私を呼んで私の陰に隠れてしまった。
「すみません、初めて会う人で緊張してるみたいで……」
「大丈夫大丈夫、そういうの患者さんで慣れてるから」
「なあ、岩波」
「ん?」
今度は明に抱き着かれながら、マコトのほうを向く。
「えっと、それで結局ここはどこなんだ? オレとしては……ええと、白糸さん? がいるっていうのですごく驚いてるんだけど」
「そうだ、そうなんだよ! ここには他にも生きている人がいてね!」
「おお! 本当か!?」
「それからこちらにいる彼女はなんと、私と同じ力を持ってるんだよ!」
「まじか! 寝てる間に色々起こり過ぎだろ……」
ここに来た初日の私のように頭を抱えるマコト。反応は大きくないものの、明も興味を示している。
「それじゃ、2人が熱を出して寝ちゃったところから順を追って説明するね。えっと、二人が熱を出して倒れたから私が背負って……」
それから時間をかけて、今に至るまでの奇跡の軌跡を話していった。
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「……それで、さっきまで私が戦闘の仕方を見せてて、明日本番って感じなんだ」
「……は~。なんというか、すごいな」
「でしょ」
「正直一気に情報が来て、頭が追いついていない」
「はは~よろしくね。灯ちゃんのもとで頑張ってまーす」
「それでその注射器でオレたちを助けてくれた、と」
「そうだよ。この注射器を使えば誰でも……ってそうだ! みんなの回診に行ってこないと。時間は……もうこんな時間!? 話し込んじゃってた。ゴメン三人とも、アタシここで抜けるね」
「あ、はーい。行ってらっしゃい」
「行ってきまーす!」
広げていた荷物をすぐさま片付けて大急ぎで陽ちゃんさんは部屋を出て行った。けれどドアは静かに閉めたし廊下も走っている音が聞こえてこないところからも、彼女の病院に対する丁寧な姿勢を感じる。
「なんか、大変そうな人だな」
「うん、今はこの病院は彼女一人で回しているみたいなものだからね」
「それで……」
彼女がいなくなってしばらくして、マコトが真剣な顔をして私を見てきた。
「彼女……白糸さんは大丈夫なのか?」
「……っていうと?」
「悪い人じゃないかってこと。デパートにいた人だって全員が善人ってわけじゃなかっただろ? ……仲間だと思っていたら裏切られたこともあったし」
頭をよぎるのは何人かの人……そして、訳の分からなかった男の人と、ペラさん。
「……そうだね。でも、彼女はきっと大丈夫。なんかそんな気がするんだ」
「気がする……って曖昧な。まあオレは勘が良くないから岩波をあてにするしかないけど」
「それに……最悪私の方が戦ったら強いし」
「ともちゃんつよいもんねー」
「ねー」
人を疑いたくないってのもあるけど、彼女からは悪意みたいなものは感じられない。本当にただ相手のことを気遣う優しい女の子って感じで、私みたいに変に企んでいるような気配がない。
可能性として、私以上に性悪で気が付かなかっただけってのもあるけど、それはさすがに疑り過ぎな気がする。
「うん、だからきっと大丈夫」
「わかったわかった。じゃあそれはいいとして、あとは……そうだ。オレはまだ体がだるくて動き回るとかはできないけど、この先どうするんだ?」
「彼女と一緒にどうするかってことだよね」
「ん」
「まず戦い方だけど、やっぱり彼女は回復ができるから、私が先頭に立って戦って、疲れたりケガをしたりしたら後ろにいる彼女に回復してもらうっていう方法を取ろうと思ってる。あとは私の討ち漏らしを処理してもらうつもり」
いくら考えてもこのやり方がベストだ。リスクも少ないし、安心感も高い。
「それでこれからなんだけど、今までは防衛戦っていうか、籠城戦って感じだったじゃん?」
「まあバーテックスがどこからやってくるか分からないしな。その言い方だと、やりかた変えるのか?」
「うん。でさ、マコトは7月30日の夜のこと、覚えてるよね?」
「今生きている人で覚えていない人のほうがいないだろ」
「じゃあさ、あの日以降でバーテックスが空から降ってくるの見たこと、ある?」
「それは……ある? いや、ない……か? うん、ないかもな」
「そうなんだよ。としたら、もしかしたらあの日以降バーテックスの数は増えてない、とかないかなって思ってさ」
「明もみてなーい」
「でしょ。だからしばらくはここで彼女と一緒に戦い続けて、ここら辺のバーテックスをだいぶ倒したかなってなったら少しずつ陣地を広げていくっていう、陣取りゲームの方向でどうって思うんだ」
希望が詰まった理想論ではある。けれど、ないとは言い切れないと思う。有ると無いとの中間点。
でも……今この方向に切り替えないと、もとの平和を取り戻すっていう大目標は一向に叶わない。
「それが合ってるのかは分からないけど……本格的にアイツらをどうにかできるんだったら、良いんじゃないか? 食料面も白糸さんのおかげで気にしなくていいし、ケガも病気もしてもこうして治るし……ってそう考えると白糸さんすごいな!」
「本当にすごいよね、あの注射器。この世界の救世主って感じだよね」
「ともちゃんだってまけてないよー。ともちゃんは、ゆうしゃだもん!」
……『勇者』。今の私は明の想像する「勇者」たりえているんだろうか。……いや、たとえ「勇者」ではなく自称勇者な『勇者』であったとしても、そう振る舞わなければ。私はみんなの希望なんだから。
「よーし、私は『勇者』。彼女は「救世主」として頑張っていくぞー!」
「おー!」
「なんか壮大になってきたなー」
仲間である陽ちゃんさんを騙しているという申し訳なさに包まれながら、私たちは頑張る宣言をした。
のちに回診が終わって戻ってきた陽ちゃんさんに、病院では静かに、と怒られてしまった。
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《2015年11月中旬 白糸病院から少し離れた場所》
「それじゃあ、やっていきますよ」
目標の野良バーテックスを捉えながら、手に刃をセットする。
「オッケー……」
少し緊張した様子の陽ちゃんさんも、私に倣って自身の武器・注射器を構える。
今日はバーテックス討伐実践の日。
昨日同様、周囲の警戒を最大限にして見つけた野良のバーテックスを目前にして、建物の陰で最終確認をする。
「私がアイツを叩き落すので、動けなくなっているところをお願いします」
「これでブスーッってやればいいんだよね」
こちらに見せてくる注射器の中の液体が、キラリと光った。
「はい、それでアイツを倒せるはずです」
「よし……や、やってやるぞ……」
今日の実践が成功すれば、バーテックスでも上手くいけば倒せる敵だって分かってもらえる。
余分な緊張も解けるに違いない。
「では、行きます」
建物の陰から飛び出し、明後日の方角を向いているバーテックス目がけて、勢いをつけて飛び跳ねる。
バーテックスがこちらの動きに気が付くよりも早く、大きく右手を振り上げて、がら空きの白い背中に突き刺した。鉄のように硬い感触とゴムのように柔らかい感触という、矛盾ともいえる不気味な感触が、刃越しに右腕に伝わってくる。
しかし、今回の目的はこのまま断ち切ることではない。
ほんのわずかに力を緩め、振りかぶった時の遠心力を使って陽ちゃんさんのいるところの近くへと振り落とした。
飛ばされたバーテックスは抵抗できるわけもなく、数回転したのちに地面へと落下していった。
そのデカい体躯に見合う衝撃が地面に激突し、数本の亀裂が入った。
手ごたえあり、力加減も切断一歩手前で完璧だ。
「今です!」
私が声をかけるのと同時に、隠れていた陽ちゃんさんが飛び出した。落ちてきた衝撃にもひるむことなく直進してくる。
構えは不格好。両手で注射器を握り、腕を伸ばした状態でバーテックスへと突っ込んでいく無防備な姿は、戦闘慣れしている私にとってはハラハラものだった。
「やああああああ!!」
ブスッ。
気合の入った声と共に刺さった注射器の針は、予想どおりバーテックスの硬い皮膚を貫通した。
けれど、これは注射器。刀や鎌と違って、もうひと手順踏まなければならない。
「続けてー-こう!」
注射器の押し子の部分を押し、中の透明な液体をバーテックスに打ち込む。
と、次の瞬間。バーテックスは一瞬身体を膨張させた後、風船が割れるように内側から弾け飛んだ。
「うわっ!」
「よしっ!」
弾けたバーテックスは、そのまま白い光となって空へと消えていった。
思わず空中でガッツポーズをとってしまう。
弾けると思っていなかった彼女は、驚いて尻もちをついてしまっていた。
「やった……。これで、この力でお父さんを……」
地面に降りた私は「やりましたね!」と声をかけたいところを我慢して、周囲の警戒に当たった。経験から、良い時ほどその良いものよりも一回り大きな良くないものが来ることは分かっている。
しばらくキョロキョロするも異常なし。どうやら今日のところは杞憂で終わった……いや、なにか嫌な感じがする。けど、そこまで強い嫌な感じじゃない。
「近くにもう一匹くらい野良バーテックスがいるかも。探しに行きましょう」
「オッケー。一回やってだいぶやり方分かったし、次も任せてよ」
「わかりました」
動きながら周囲を捜索していると、やはり一匹野良バーテックスが徘徊していた。普段はあまりお目にかかれない野良バーテックスが一日に二匹も。練習したいときに現れてくれるなんて、なんて”幸運”なんだ。
「それじゃ、さっき見たいに行きますよ」
「了解!」
再び浮遊しているバーテックスめがけて跳躍。
倒し切らないように、それでいて致命傷であるように。中途半端に振りかぶって、その白い胴体に鍬を振り下ろす。
ザクッと鍬が刺し込まれる音が……ん? ちょっとさっきより切込みが浅いかも? 手加減しすぎたかも!?
「うぅりゃ! すみません! もしかしたら浅かったかもです!」
「大丈夫! 頑張ってみる!」
さっきと同様に下にたたき落とし、そのもとに陽ちゃんさんが向かっていく。致命傷とはいかなかったものの大ダメージではあるから、すぐさま攻撃はされないと思うけど……。
不安に包まれる中、注射器がバーテックスに突き刺さった。後は中の液体を注入すれば……。
「よし! これで押し込めば……うわぁ!」
「陽ちゃんさん!」
一瞬バーテックスが陽ちゃんさんに牙を剝き、襲いかかろうとした。すぐさま駆け付けようにも、空中で身動きが取れない。
やってしまった。
そう思ったのもつかの間、バーテックスの体が膨張しはじけ飛んだ。
「あっぶな~! もう少しで食べられてた……。セーフ!」
「大丈夫ですか!?」
待ち遠しい自由落下の時間を終え、彼女のもとへ駆け寄る。自身の手を心臓にあててびっくりしているものの、齧られたりしてはなさそうだ。
「すみません! 危険な目に遭わせてしまって」
「いや~怖かったけど、これくらい経験しておかないと。灯ちゃんは普段見ている景色なんだし。襲われる恐怖も経験できてよかったよ」
私のやらかしをフォローするとともに経験値になったと言ってくれた。
注射器の注入が間に合って本当によかった。そう思い彼女の手にある注射器を見てみると、さっきまでと様子が変わっていた。
「それ、なんです? その白いの」
「ん? あ、本当だ。あー多分打ち込んだ時にグワーッってされたもんだから、びっくりして押し子の部分を間違えて引いちゃったんだろうね。ほら、きっとこれバーテックスの一部だよ」
「ええっ!?」
見ると確かに、バーテックス色をした小さいものが浮かんでいた。
「それ、大丈夫なんですか?」
「他のところに入ったんなら大変だけど、この液体の中なんだし大丈夫でしょ。だってこの液体を打ち込んでアイツら倒してるんだよ?」
「ま、まあそうです、ね」
「液体の中にいるんだから、時間が経ったら溶けて消えるでしょ。他の注射器に変えることもできないんだし、このくらいの大きさなら打ち込むのにも影響しないし、ね」
「まあ問題なく出るんだったら大丈夫、ですかね?」
「そうそう、気にしすぎだって。それより、アタシが戦えるようになったってことの方が重要でしょ」
少し不安は残るけど、彼女の言う通り気にし過ぎなのかもしれない。バーテックスを中に入れたって、その中にある液体を使ってバーテックスを倒しているんだから心配ないか。
「そうですね。早く帰って今日の成果をみんなに知らせましょう」
「うんうん、そうしようー!」
ひと悶着ありつつも、無事私たちの戦闘訓練は終わることができた。当初の目的である、陽ちゃんさんを戦えるようにすることもできた。
やけに元気な陽ちゃんさんとともに、帰るべき病院へと向かっていった。
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これまでも致命的な選択肢は何度もあった。
それでもこの日のこの私の選択。ここが”分岐点”だった。
ここから先は始まりだ。終わった世界での旅が終わって、世界を終わらせる旅が始まる。
この日、私はまた間違えた。
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ここから、この作品の起承転結の「転」に入ります。