『生きるためには喰うしか無かった』   作:ブラウン・ブラウン

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いつも読んでくださりありがとうございます。

主人公の勘違いにより、勇者服が裁縫好きの女の子の作品になってしまった。
でも普通だったら、あんな服着ないと思ったので勇者服は着ない事にしました。勇者服なんていう高防御の服は甘え。


第6話【決めて逃げて やらかして】

「なんで……こんなところに……」

 

 見れば分かる、あれは昨日も乗ってきたお父さんの車。あんな強い地震があったんだから、麓の避難所に避難してたりするんじゃないの……。

 

 あまりの衝撃に力が抜け、言葉が出てこない。

 顔から血の気がどんどん無くなっていき身震いする。

 頭が重力に負け、下に下がる。手から落ちた水筒が目に入るも焦点が合わない。

 今度はお父さんとお母さんも──

 

 いや、まだ分からない。まだ死……って決まったわけじゃない。

 そうだ、きっとガソリンが切れたとかなんかして乗り捨てただけかもしれない。それでちょうどそこに上から岩が落ちてきて、今みたいにまるで2人が中にいるように見える感じになってしまった。

 

 うん、そうきっと、そう、そうに違いない。状況を考えれば、走行中に崖から落ちてきた岩に巻き込まれたようにも見えるけど、きっとそうじゃない。そんなわけない。

 だ、だって私の両親だよ? そう簡単にやられるような、やわな人たちじゃないもの。うん、うん、そう。絶対そう。

 

 心の中で何度も自分を励まし頷きながら、何かを求める幽霊のようにふらふらと確かめに近寄る。

 と、視界が急降下した。

 

「うべっ」

 

 なんてことない。理由は単純で、足もとの水筒を踏んで転んでしまった。ここ最近、転んでばっかり。

 転んだ拍子に触れた河原の石は、なんだか油のようなべたつく感じがして気持ち悪い。

 

 こんなとこでつまづいてる場合じゃない。もう少しで分かるんだ、2人はちゃんと避難してるんだって。やっぱり私の考えは合ってて、逃げ遅れてなんかいないんだって。

 

 ほら、もう少しで中が見える。これで──、

 

 

 

「と、ともちゃん!!」

 

「ッ!!」

 

 想定してなかった明の叫びに心臓が飛び跳ねる。まさか見られ

 

「ともちゃん! ねえどこ!?」

 

 小さく、しかし確かな芯を持った緊迫感のある呼び声。何か問題が起きたのだろう。すぐに行かなくちゃ。でも……。

 

 中を確かめたい気持ちと明を心配する気持ちがせめぎあう。考えすぎて足が止まる。

 事態が急展開しすぎて混乱してきた。やらなきゃいけないことはたくさんあるのに、どうすればいいのか分からない。

 あの緊迫した声は、明に危険が迫っている可能性が高い。けど真実を確認したい。

 もしかしたらまだ中にいて、助けを求めているかもしれないのに。でも明は……。

 

 

 

 

『いい? もうどうしたらいいのか分からないー! って困った時はまず深呼吸をするの。それから自分が何をしたいのか、何を大切にしたいかを言葉にするの。

 そうすれば悩んでいたことも全部すっきりして、あなたが本当にやりたい事ができるようになるわ。大事なことだから忘れちゃだめよ、灯』

 

 

 昔、明がいじめられていた頃、家族として姉として、どうすればいいのか一人で悩んでいたらお母さんが教えてくれた心の落ち着かせ方。

 それがふと、頭をよぎった。どこか遠い場所から語りかけてくるかのように、頭の中にじんわりと温かく浸み込んでくる。

 

 そうだ、慌ててちゃだめだ。いつも気にしているのに、この数日の出来事ですっかり忘れてしまった。

 

 私のやりたい事、大切にしている事、しなければならない事。そんなの──。

 

 

 今は一つしかない。

 

 

 

 

「まず、落としたものを拾って状況確認。明の下へ行き、問題を撃退し安全を確認した後、そのまま山を下りる」

 

 一つ一つ、頭の中だけでなく言葉にして整理する。

 

「そして全部が終わった後、また2人に会いにここに来る! これが私の最適解!」

 

 認めてしまった。会いに来る、つまりは2人はこの場にいるということ。

 助けを求めている可能性(幻想)からも、無事だという可能性(幻想)からも背を向けた判断。

 でも現実から目を背けている場合じゃない。状況がそう物語っているのだから、認めなければならない。

 

 夢を見ていいのは寝ているときだけ。起きて生きている私たちは、夢の世界には行けない。

 

 祖父母に加えて、立て続けに両親までも失ってしまった。深い喪失感に包まれるけど、先ほどから大量に湧いてくるアドレナリンとバケモノに対する復讐心で無理やり抑え込む。

 

 

 

 私は勢いよく踵を返し、水筒とカネアキを手に取って、声のするほうへ駆け寄る。

 

「どうしたの!?」

 

 木々の隙間から明に声をかけると、私を見つけて喜んだのもつかの間、口に指をあてながら私を非難するような怒った目をして、無言で左側を指さしていた。

 そちらに顔を向けると、遠くのほうに昨夜の白いバケモノがいた。

 

 確かにこの状況で大声を出したら怒られるな。

 幸い、目的が無く行動しているのか、ふらふらとしているので、まだ私たちの存在には気づいていなさそう。

 一匹だけかと思ったら、後ろから何体かついてきていた。

 

「やっぱりまだいたか」

 

 一体何体いるのだろうか。数を数えようと見つめていたら、急にこちらに顔を向けてきた。

 

「うわっ」

 

 急に向くなよ……。ちょっとびっくりしちゃったじゃん。

 後、気のせいかもしれないが目が合った気がした。眼なんて機能してなさそうなのに、気持ち悪い。

 それからアイツらは、待ち人を見つけたかのようにニヤリと薄気味悪い笑顔を浮かべてた、ように見えた。

 あまりの不気味な雰囲気に思わず顔をそむけてしまう。

 

 とにかく、多分気づかれちゃったんだから早くアイツらが来る前に上に上がらないと。

 

 

「今行くね!」

 

 火事場の馬鹿力とでも言うのだろうか、来た時くらいスムーズに崖を登ることができた。

 顔にビシビシと葉っぱがぶつかってきてイラつく。

 それにしても事が起きる前に水分補給ができてよかった。あんな状態じゃうまく戦えない。

 

「明!」

 

「ともちゃん!」

 

 2人にして抱き合う。あっという間に合流することができた。

 横目で見てみると、まだアイツらはこちらに到達してないけどかなり近くなっていた。

 

「やっぱり気づかれてたか」

 

「どうするの!? しろいのこっちにきてるよ!?」

 

「すぐにここから逃げるよ!」

 

 ここで戦ってもいいけど、こんな狭い場所じゃどこから新たな敵が来るか分からない。囲まれたら大変だし、明を守り切れるかも怪しい。

 それに私の水筒は補充できなかったけど、明のはもう少しある。この場所を離れてもまだ大丈夫。

 

 荷物を前に持ってきて明をおんぶして逃げる準備をする。

 一旦林の中に隠れてやり過ごそう。

 

「ちょっと揺れるけど我慢してね!」

 

「うん!」

 

 地面を踏みしめて横へ跳び、林へと入る。

 木が障害物になってアイツらが進めなくなるのが1番いいけどどうだろうか。

 アイツらは、人間の走る速度よりは早いけど強化されている私には追い付けない。

 木々が流れるように過ぎていているのを目の端でとらえながら、隠れられる場所を探す。といってもそう簡単には見つからない。

 

「後ろどんな感じ!?」

 

「うんーと、うわ! きてるよ!」

 

 バキバキと木をなぎ倒しながら向かって来る音が聞こえてきた。

 残念、さすがに防げないか。

 こういう時に後ろにも目があるとホント便利だ。1人だったらとても焦ってしまう。

 縦横無尽に駆けているので、帰り道がだんだん不安になってきた。これで道に迷ったりしてしまったらシャレにならない。

 私は明を落とさないように、そして迷わないように林の中を逃げ回った。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 3分くらい経っただろうか。後ろを確認してもらうと、もう追ってきていなかったため足を止めて近くの丸太に腰かける。

 

「はー、びっくりしたー」

 

「早めに気づいてくれてありがとうね」

 

「えへへっ。ともちゃんもすごくはやかったね。ジェットコースターみたいだったよ!」

 

「ふふーん、お姉ちゃんが本気出せばこんなもんよ」

 

「かぜがもうビューンて、きもちよかったー」

 

「落ち着いたらまたやってあげるね」

 

「やったー! それにしても……あついね……」

 

 そこら辺に落ちていた大きな葉っぱを団扇代わりにしてあおぐ。生ぬるい風が吹いてきて、涼しくはないけど無いよりはましだ。

 追っかけられるというのに慣れていないから、数分しか走っていないのに緊張で冷や汗が止まらない。

 本当に早めに気づけて良かった。いくら心を落ち着かせることができたとしても、間に合わないんじゃ意味がない。

 息を整えるために水を飲もうと水筒に手が伸びるも、手が止まる。そういえば水無いんだった……。

 

 水筒を取ろうと動いたのが明にバレないよう、そのまま直線状にあったリュックの中を適当に漁る。

 漁りながら、考える。

 この後どうしようかと。

 

 なにせ迷っちゃったからね。

 

 気を付けてはいたのに、持ち前の方向音痴がこんな時に発揮されてしまい、どうやら来た道を少し戻ってきてしまったような……?

 

 まあいいや。全然よくないけど。

 自分のやらかしの反省は一旦後回しにしよう。じゃないと話が進まない。

 

 時計を取り出し見てみても、もう暗くなるまでに山は下り切れなさそうな時間になっていた。道に迷っていなかったとしても、この時間からじゃ、さっきみたいなことが何度もあったら危険だ。

 今日のところはここら辺までにして、明日早起きして午前中に下り切ってしまおう。

 後は明にばれないようにうまく話をしていこう。

 

「明。今日はここらへんで降りるのやめとこっか。暗くなったら危ないし、疲れたでしょ?」

 

「えー、まだあかるいし、だいじょうぶだよ?」

 

 すぐに賛成がくると思ってたのに予想外の展開。

 

「もしかして……まよっちゃったの?」

 

「な、なんでそう思ったの」

 

「だってさっきからソワソワしてるんだもん」

 

「うっ……はい、迷いました……」

 

「もー、ともちゃんはダメだな~」

 

「と、とにかく! そういうことだから今日はもう休憩!」

 

 横に座っている明からジト目を向けられる。こういう時に抜けてるから、アホな子に思われちゃうんだよね……。

 

「ほ、ほら! 暗くなる前に、寝る準備するよ!」

 

「は~い」

 

 話題をそらそうと大きな声を上げて宣言する。まだ不満な様子だが、渋々納得してくれたようだ。

 

 まあ、準備すると言ってもやるのは私だけ。分かれて作業したら危ないからね。

 やることは寝床づくり。これは簡単で、力任せにカネアキで地面を掘っていくだけの作業。

 本来土を耕すためのものなので、土をすくいにくいが使いやすい。

 完成形は、大きな落とし穴みたいな感じになった。

 本当は洞窟みたいな天然のところがあれば楽だったんだけど、ちょっと探したくらいじゃ良物件は見つからなかった。

 

 最後に、掘った穴の上に、落ちている葉っぱ付きの枝を格子状に重ね合わせれば大体完成。

 これなら上からでも私たちがいることが簡単にはバレないだろう。

 中に入って見てみると、本当に落とし穴に落ちた人みたいになってしまって面白かった。

 

「よしっ、完成!」

 

「いえ~い!」

 

 明にも、床に敷く柔らかいものを集めてきてもらった。葉っぱとかで寝心地は良くないけど仕方ない。

 暑さも相まって2人とも汗だくになってしまった。農作業の大変さが身に染みて理解できる労働だった。これは腰曲がっちゃうよ……。

 

 空はだんだんと暗くなり、少しだけ暑さが和らいできた。これならなんとか寝られそうだ。

 

「水浴びは明日にして、今日のところはもう寝よっか」

 

「まだねむたくないよぅ」

 

「明がしっかり寝ないと、明日また私がおんぶすることになっちゃうから寝てください」

 

「んむ〜……。はーい」

 

 今度もまた渋々といった感じで横になって目をつぶってくれた。

 

 しばらくして寝息が聞こえてきた。

 私も横になりながら空を見上げると、星が出ているのが見えた。一瞬ビクッとしてしまった。あれが全部バケモノだったらどうしよう。そんなことを想像してしまった。

 そんなことはあるはずない、と頭では分かっているのに緊張してしまう。深呼吸をしてもなかなか落ち着かない。

 星が少し怖い、なんて嫌な感情が生まれちゃったな……。初めての感情に戸惑ってしまう。

 

 そういえば野宿は初めてだな、そんなことを思いながら私も目を閉じた。




地味に天恐発症(レベル0)
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