『生きるためには喰うしか無かった』   作:ブラウン・ブラウン

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今話は短いです。


第7話【夏の思い出にさようなら】

《2015年8月1日 山中》

 

──朝になった。

 希望の朝 なんてとても言えないが、とにかく夜が明けた。

 朝になったと言ってもまだ5時の手前で、今は明と2人で日の出を見ている。

 

 昨夜は7時くらいに日が沈み、照明がないため暗く特段やることもなかったので、穴の中2人で横になりながら夕食代わりにお菓子をつまみながら過ごしていた。

 30分くらい食事に費やした後は、疲れていたからすぐに寝てしまった。

 

 いつもは食べてすぐに横になったら叱られてしまうけど、私たちにはもう叱ってくれるような人はいない。

 結局、明には2人のことは伝えていない。伝えられるような状況でもないし、私自身まだ完全には整理がついていなかったから。

 なので、崖下であった出来事については適当にはぐらかしておいた。明もそこまで興味が無かったのか、追及してこなかったから助かった。

 

 ただ、いつもはしないのに昨夜は寝るときに抱き着いてきた。家族の直感で、私に元気がないことを察してくれたのだろうか。

 残された最後の家族の温かみに包まれて、過剰なまでに張り詰めていた私の緊張がゆっくりと解きほぐされていくのを感じた。

 もしかしたら寝ぼけて抱き着いただけかもしれないけど、それでも私の心は救われたんだ。

 

 

 

 一晩しっかり寝て頭がすっきりしたおかげで、道に迷っているこの現状を打破する策を思いついた。

 方法は簡単で、高い木に登って見下ろしてみる、というものだ。

 昨日、バケモノたちが木をなぎ倒しながら追ってきてくれたので、木がたくさん倒れている方に進めば元の場所に戻れるのでは、という考えだ。

 

 朝ごはんを食べた後、早速やってみると案の定、木が一面に倒れている方角があった。これならもう迷わずに下山できそう。

 ちなみに食料はとうとう朝ごはんでほとんどなくなって、リュックに入っている荷物はずいぶんと軽くなってしまった。

 

 

「それじゃ、そろそろ行こっか」

 

「うん!」

 

 夜明け前にはもう出発準備はできていたが、明が「ひのでみたい!」と言うので夜明けを待っていた。

 初めて見た日の出に目を輝かせながら、口がずっと開いたまま感動している明の顔はとても子供らしくかわいいものだった。

 

 降り注ぐ暖かな光。この光であの邪悪な存在も浄化されて、消えてなくなればいいのに。

 太陽を横目に見つつ、日の出が見れてご機嫌な明を背中に乗せて出発する。

 今日は最初からおんぶスタート。今日中に下り切らないと、お腹がすいて動けなくなってしまう。

 それに2日間も山を下りていないので、下の状況がとても気になってきた。ほかの人はどうしているのか、この力を持っている人は他にどれだけいるのか、警察や国は何をしているのか。

 

 携帯も一応持っているけど、この山は"県外"と表示されてしまうので使い物にならない。もしもの時のためにと電源を切っているので正確には分からないけど、充電もしてなかったからほとんど残っていないと思う。

 

 

 

 しっかしまぁ、おんぶって速いね。最初からやればよかったって思うほどスムーズに下山できている。昨日は探り探りな点もあったけど、今の私に迷いはない。

 明も心置きなくジェットコースター灯を満喫している。落とさないようにしないといけないから、あまり暴れないでほしいんだけど……。

 

 それにしても、私の心がすごく落ち着いている。いや、普段と比べれば落ち着いてはいないけど、たくさん遺体を見た後とは思えないほど凪っている。

 ちょっと不気味に思えるほどの冷静さ。慣れ、なんだろうか。もしそうだとしたらイヤだな。こんなことに慣れたくはない。死体慣れ、文字にするだけでも嫌悪を感じてしまう。

 こういうのは心理カウンセラーに相談すればいいのかな。でも、『もしかしたら死体慣れしてるかもなんですけど』なんて言ったらかなりヤバいやつになってしまう。アホと言われる私でもそれはできない。

 

 ほかに可能性を考えると多分、この力の影響なのだろう。そうであってほしい、ヤバいやつにはなりたくない。

 何の意味があってこうなってるのか分からないけど、もしそうなら私以外にも同じ症状の人がいるはず。

 

 早く人と会いたい。一抹の不安を胸に抱きながら、私たちは颯爽と山を下っていった。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 2,3時間ほどで麓の舗装されている道まで下りてくることができた。

 途中で1回バケモノに遭遇しかけたけど、木に隠れてなんとかやり過ごせた。もし見つかってたら大幅タイムロスになっていたのから本当に良かった。

 

 さっきまでは、揺さぶられ過ぎたせいで明が気持ち悪くなってしまったので休憩をとっていた。ゴメンね……喜ばれちゃったからお姉ちゃん調子に乗っちゃった……。

 

 私たちが今いるここら辺には清流が流れているので、水分補給がてらに周囲を気にしながら代わりばんこに水浴びを実行している。

 一緒に入ろ? と誘われたけど、1人は入ってもう1人は警備役ということにした。

 もともとこの道は私たち家族以外利用する人はまずいないんだけど、それでも人の目が気になる。

 ましてや今は何が起こるか分からない。あーあ、お風呂はゆっくり入りたい派なのにリラックスできないなんて辛すぎる。

 

 結局のところ私の警戒は杞憂で、何も起こらなかったし誰も来なかった。脱いだ服をビニール袋に入れてタオルできちんと髪を拭いて新しい服を着たら、きれいさっぱりな2人の少女の出来上がり。

 

 "明と一緒に川遊び"。想定していたものとは状況も内容もかなり違うものになったけど、とても気分転換になる楽しいものだった。

 

 

 

 一通り済んだので時計を見ると、10時過ぎになっていた。

 

「スッキリしたし、そろそろ出発するよー」

 

「りょーかいでーすっ! おっひる♪ おっひる♪」

 

 どうやら頭の中はすでにお昼のことでいっぱいみたいだった。まぁもう町も遠くにうっすらと見えているし、すぐに昼ご飯にありつくことができるだろう。

 

「あ」

 

「ん?」

 

「マズイ、どうしよう」

 

 大変なことに気づいてしまった。

 

「どしたの、ともちゃん」

 

「お金……持ってきてないや」

 

「えっ」

 

 先ほどまでルンルンだった明が急に固まる。

 

「財布持ってきてない……」

 

「えーー! そ、それじゃ、ごはんは……」

 

「ちょっと、厳しい、かも……」

 

「そ、そんな~~!」

 

 ヤバイ、完全に忘れてた。こんなことになるなんて思ってなかったから、財布も自分ちに置いてきたまんまだし。

 今からおばあちゃんちに戻るには時間がかかりすぎるし……。

 

「ま、まぁ、なんとかなる、でしょ……」

 

「む~、おひるたのしみにしてたのに~。どーするのー」

 

 幸先が不安になり、明がむくれてしまった。

 でもほら、私たち子どもだし「お金ないです!」って言ったら恵んでくれたり……しないかなぁ……。優しい人がいるのを祈るばかりだ。

 

「ホントともちゃんってダメだよねー」

 

「うぅっ、面目ない……」

 

 姉ポイントがまた1つ減ってしまった。姉としての威厳がどんどん減っていく……。なんとかおいしい食べ物を見つけて挽回しないと。

 

「な、なんとかなるよ。お姉ちゃんにまかせなさい」

 

「たよりないなー」

 

 声が少し上ずってしまった。落ち着いて、落ち着いて……。

 

「さぁ、ごはん探しに出発するよー」

 

「おー」

 

 ちょっと落ち込んだ明より少し先を歩き出していく。一刻も早く町に行かないと。優しい人がいますように。

 

 夏の思い出がいっぱい詰まった山を背にして、私たちは新たな地へと歩みを進めていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この時、私たちは想像もしていなかった。たった2日しか経っていないのに、世界がこんなにも変わってしまっているなんて。




たった2日しか経ってないのに、1章が終わりました。

もはや のわゆ もどきのオリ小説……
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