『生きるためには喰うしか無かった』   作:ブラウン・ブラウン

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第2章【私はあなたの「勇者」になる】
第8話【人肌の温もりを求めて】


《2015年8月1日 町中》

 

 目的地がうっすらと見えていたのでさすがに迷うこともなく、麓の町に着くことができた。

 都会の街並みとはまるで違う、”町”という表現がよく似合う場所。

 よくここにはトイレ休憩の時に立ち寄るから、なんとなくの大まかな地図は頭に入っている。

 

 ここまで来るのに大変だった……。でもようやく人がいる町に着けた。

 これで助けを呼べるはず。お腹も満たすことができるはず。

 はずなんだけど……

 

「だれも……いなさそうだね……」

 

「そう、だね……」

 

 はぐれないように手をつないで入り口付近にまで来たけど、人の気配が全く感じられない。

 お昼時なのにここまで感じられないなんて、ちょっとおかしい。

 もともとそんなに人が多いような町じゃないんだけど、ここまでじゃなかった気がする。

 

 少し歩いてキョロキョロしてみる。

 

「いないねー」

 

「とりあえず、どこか建物に入ってみようか」

 

「そーしよー」

 

 立ち止まっていても何も始まらないので、ひとまず建物を探してみることにした。

 

 今日はそこまで暑い日じゃないので、この町にはのどかな風が吹いている。

 気持ちよくなるほどの青い空。こんな日には、外でサッカーでもしている子がいてもよさそうなのにな……。

 

 

 

 少し歩いていると、だんだんと建物が見えてきた。

 ようやく見つけた、と思ったものの、それは壊れ果てていた。

 鉄球クレーン車にぶつけられたような壁の壊れ方。屋根もなく瓦が地面に散乱している。

 おばあちゃんの家と同じように破壊の限りを尽くされていた。

 

「ボロボロの家……」

 

「じしんでこわれちゃったのかな?」

 

 明はまだこの状況の原因が分かっていない様子だった。

 それにしても嫌な予感が当たってしまった。やっぱりここにもあのバケモノは来ていたんだ。

 となると、家の中の人はもしかしたらもう……

 

「でも、ともちゃん! たてものみつけたよ!」

 

「ちょ、ちょっと待って!」

 

 急いで家に向かおうとする明の手を慌てて握りなおす。

 

「どうしたの? はやくいこうよ」

 

「え、えっとね……」

 

 こてんと首をかしげる明。

 なんて言えばいいんだろう。『死体があるかもしれないから行っちゃダメ』だなんてとても言えないけど。でも、どうにかしないと駆け出しちゃいそうだし……。

 

「そうだ。お姉ちゃんが先に見てくるよ」

 

「? なんで?」

 

「何でって、ええっと……」

 

「あ、わかった!」

 

 ん? 何が分かったんだろう?

 

「あかりよりもさきにいって、おいしいものたべようっておもってるんでしょ~。ふふーん、そのてにはのらないよーだっ」

 

「ああ、ちょっと!」

 

 掴んだ私の手を振り切って、トテテテテッと走り出していく明。

 なんだかとんでもない勘違いをしちゃっているみたい……。

 止める方法は思いつかないけど、とにかく今は追いかけないと。

 

 

 

 

 

 

 

 

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 ボロボロの家は壁も壊れていて、中に入らなくても外から家の内情を知ることができる状態にあった。

 だから、

 

「うわああああ!!」

 

 先に内部を見てしまった明の口から叫び声が上がった。

 

「ひと! ひ、ひとがたおれてるよ! まっか!」

 

「お、落ち着いて明」

 

 予感していた通りの結果を目の当たりにしてしまったようで、青白い顔をして大慌てでこっちに走ってきた。

 

「ひ、ひ、ひと! ひと!」

 

 取り乱しながら私の手をぐいぐい引いてくる。

 引かれるままに家の近くまで来ると、そこには"赤い"模様が、かろうじて残っている壁一面に散らばっていた。

 床に倒れているのは1人だけ。男の人だった。

 晩酌をしていたのだろうか、床には空き缶が3本ほど転がっているのが見えた。

 明を追うのに必死で気が付かなかったけど、この家一帯にはツン、と鼻を刺す血の臭いが充満していた。

 

「ねえ! たすけてあげないと!」

 

 明は非常事態だとは認識しているけど、死んでいるとは認識していなくって、救急車を呼んで、と私に助けを求めてくる。

 けれど、なかなか動こうとしない私に業を煮やした明は、恐る恐るといった感じで死体に近づいていった。

 

「だ、だいじょうぶ……ですか……?」

 

 腰が引けている、ゆっくりとした足取り。震える口からわずかに絞り出された声は、少し涙声になっている。

 

「明、行っちゃダメなの。あのね、その人はもう……」

 

「ダメってなん、ってうわっ!」

 

 私の静止する声に反応して振り向こうとした明は、足がもつれてこけてしまった。

 

「いたっ! うっ……ぁ……」

 

 受け身も取れずに地面に向かって倒れてしまった。血がたっぷり浸み込んだ赤黒い地面に。

 

「ちょ、大丈夫!?」

 

 急いで近づき声をかけるも応答がない。起き上がらせて少し揺さぶっても目覚めない。

 青白い顔で、腕が力なくぷらんと垂れている。

 頭を打った様子はなかったから多分、むせかえるほどの悪臭が立ち込めている地面に近づいちゃったから、その臭いに耐え切れず気絶してしまったんだろう。

 

「もー、びっくりした……」

 

 この町には大きな病院はなかったはずだから、頭を打ってたりしていたら大変だった。

 明には悪いけど、ここで気絶してくれていたほうがやりやすい。目覚めた後のことを考えると大変だけど、今は説明の手間が省けたのでよかった。

 

 私もこんなとこにいても気持ちが悪いだけなので、振動が伝わらないよう優しく抱き上げ、一旦外に出る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 臭いがあまりしてこないところまで下がり、近くにあった丸石に腰かけた。

 明はうなされているようで、時折なにか呟いている。

 

 せっかく苦労して山を下りてきたのに、望んでいた景色とは程遠い実情に思わずため息が出る。

 

 

 

 それにしても、なんで私はこんなにも他人感覚なんだろう。

 死体を見て怖い、と思った。悲しい、とも思った。でも、それだけ。

 明のように大きく取り乱したりはしない。どうして。

 人の死を悲しめないなんて、そんなことあっていいはずがないのに。

 どこか他人感覚。自分の周りで起きたことだという実感があまり湧いてこない。

 

 こんなことは今までなかった。はっきりと分かる。この症状が出てきてのは確実にあの時からだ。

 鍬を握ったあの時、体の何かが変わっていくのを感じた。その時、体だけではなく心にまで何か変化があったんだと思う。

 そうじゃなければ納得がいかない。ほかに考えられるのはやっぱり慣れだけど、それだけじゃ納得できない。

 

──死に対して動揺しないなんて、”生”物じゃないんだから。

 

 

 

 

 

 ぐぅ~。

 

 自分の心身に不安がっていると、お腹が空腹を訴えてきた。

 そういえば何も食べていない。そもそも食料を探してここに来たのに何も食べずにボーっとしてしまっていた。

 

「お腹、空いたな……」

 

 ひとまず考えるのは後。優先しなきゃいけないのは食料確保なんだから。

 

 ここら一帯は周りには障害物がほとんどないためバケモノたちが来たとしてもすぐに発見できるだろう。

 そう思って横にいる明を見る。明はまだ眠っていて、少し離れたとしてもしばらく起きそうになかった。

 

「ちょっとだけ待っててね。ごはん調達してくるから」

 

 私はリュックと護身用にカネアキだけを持ち、ほかの荷物を明に託してさっきいた家へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

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 依然として血の臭いが漂う家に戻ってきた。

 もしかしたらこの先も似たような家が続くかもしれない。今のうちにこの匂いにも慣れておかないと。

 

「お邪魔します」

 

 倒れている人に礼をしてから家に上がる。死んでいるとはいえ、家に上がらせてもらうんだから礼儀はきちんとしないと。

 

 地面には、食器棚から飛び出たと思われる皿がたくさん割れていて、素足で踏んだらとても痛い感じになっている。

 地震の影響でいろんなものが倒れてしまっていて、歩くのだけでも難しい。

 

 ちびちびと家の中を散策していると、冷蔵庫を発見した。

 何かないかと期待して扉を開けるも、中にあったのは缶ビールが4本だけ。

 思わず力強く扉を閉めてしまった。

 

 

 

 1人暮らしの様だから、アレがあると思うんだけど……。

 キョロキョロすると、お目当てのものがありそうな棚を見つけた。

 これもまた床に寝ていたので、近くのものをどかして起き上がらせて中を開ける。

 すると案の定、棚の中には保存食や乾麺がたくさん入っていた。

 この人は防災意識が高いのか、きちんと防災リュックも用意されていて、中にはクッキーやインスタント食品、乾パンなどが入っていた。

 近くには2切れの食パンも収納されていた。賞味期限を見てみると1日切れている。

 

「まあ、1日ぐらい平気でしょ」

 

 お腹が空いているのですぐにぺろりと食べきった。お腹いっぱいにはならないけど多少の足しにはなった。

 明の分も取っておこうかと思ったけど、賞味期限は切れてるしクッキーとかもあるから、いいってことで。

 

 

 

 よし、これでひとまずこの家でできることはこれくらいだろう。

 タオルとかも欲しいけど、さすがに大人の男の人のものはいらない。

 

 入り口まで戻ってきて、男の人にもう一度礼を言ってから外に出る。

 

「これ、お借りします。お邪魔しました」

 

 

 

 

 

 

 

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 外に出ると、太陽がさんさんとしていて少し晴れやかな気分になった。

 家の中も日差しが入っていたが、陰鬱な空気のせいであまり感じなかったから気持ちいい。

 

 明はまだ眠っていた。明に持たせるつもりで持ってきた防災リュックは、どうやら持ってはくれないようだ。

 私はリュック2つを前に回し、間にカネアキを差して明をおんぶする。

 以前よりも1つ荷物が増えたのでさらに視界が悪くなり、足もとが見えず不安になる。

 カネアキが肩に触れているから重くはないけれど、とても動きづらい。

 

 準備ができたので歩き出す。

 たぶんこの町には生き残った人はいないだろう、そんな気がする。

 だからここにとどまらないで、次の場所に行って人を探したほうが効率がいいはず。

 

 この町を出ようと歩いていると、たくさん家がある所に着いた。どうやらあの家は町はずれのところにあったみたい。

 どの家も無残に破壊されていて、中をちらと見ると、男性、女性、親子、子供、老夫婦、みんな倒れていた。

 思わず目を背けてしまう。

 

 申し訳なく思うも、その中から女性が住んでいる家を探して中に入り、タオルなどを調達する。

 その家の中には、私や明くらいの女の子もいた。

 同年代の子が倒れているのは、この異常な心も強く揺さぶられ、吐いてしまった。

 

 私もああなってしまうかも知れない。同年代の子のその光景は、私の心の、小さくなってしまった恐怖心を大きくさせるのに十分なものだった。

 

 途端に恐怖を感じだす。封印されていた心の封が弱まる。

 怖い、怖い、死ぬのが怖い。

 ここ最近生きている人と会っていない。死をとても身近に感じてしまう。

 みんな、体が冷たくなっている。

 

 だれか、生きている人はいないの……。

 

 おぼつかない足取りで、私は温もりを求め次の場所へと向かった。

 




小2の女の子が、死体を見つけた時のリアクションとか難しすぎました。考えつかなかったので気絶させました。
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