とある魔術の叛逆者   作:バナナイトナカイ

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学園都市 PSI-missing.

 学園都市は、総人口二三〇万人のうち一八〇万人が学生で、その学生全員が漏れなく能力を宿している特異な街だ。

 能力は無能力者(レベル0)から超能力者(レベル5)と六段階あり、無能力者はスプーンを曲げることすらできない。

 低能力者(レベル1)は、ようやくスプーンを曲げられる程度の力。

 異能力者(レベル2)は、低能力者を少し強くした程度の力。

 強能力者(レベル3)は、日常では便利だと感じられる程度の力。

 大能力者(レベル4)は、軍隊において戦術的価値を得られるほどの力。

 超能力者は、軍隊と対等に戦えるほどの力――と定義されている。

 能力者の六割は無能力者で、逆に超能力者は七人しかいない。

 超能力者の七人のうちの一人、『超電磁砲(レールガン)』の異名を持つ御坂美琴(みさかみこと)は名門常盤台(ときわだい)中学の生徒で、才色兼備の少女である。

 そんな彼女のDNAマップを利用して、『量産型能力者(レディオノイズ)計画』なるものが画策された。

 水面下で進んだこの計画の内容は、御坂美琴のクローンを量産すること。軍隊と対等に戦える人間を自由自在に量産できれば、世界情勢がどうなるかなど言うまでもない。

 しかし、事はそう上手く運ばなかった。

 実際に生み出されたクローン――便宜上『妹達(シスターズ)』と呼称された――は、オリジナルの御坂美琴の万分の一にも満たない程度の力しか有さなかった。

 しかしながら、劣化コピーでしかないとはいえ、せっかく量産したクローンだ。莫大なお金だってかかっている。

 そう簡単に『今回の計画は失敗でした。次頑張りましょう』とは割り切れない。

 何とか有効活用できないか。

 計画を進めてきた研究者らは考えて、『量産型能力者計画』でも利用した世界最高峰のスーパーコンピューター『樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)』を使って、さらなる計画を企てた。

 七人しかいない超能力者の中でも頂点とされている『一方通行(アクセラレータ)』。

 彼が二万体の妹達を殺害することで絶対能力者(レベル6)になれるという計算が、『樹形図の設計者』によって弾き出された。

 こうして計画されたのが『絶対能力進化(レベル6シフト)実験』。

 一方通行による妹達の虐殺が始まるきっかけだった。

 

 

 某日某所。二一時五八分。

 廃屋の屋上で、一方通行とミサカ一九一一号は向かい合っていた。

 

「第一九一一次実験開始時刻まで、残り一分と二八秒です。準備はよろしいでしょうか、とミサ」

 

「いちいちうっせェンだよ。ンな半端な時間の報告いらねェ」

 

 黒のTシャツに灰色のズボンというシンプルな格好の一方通行は、両手をポケットに突っ込みながら首をゆっくりと回していた。

 やがてその回転を止め、ぼーっと空を眺める。

 雲はちらほらあるが、夜空に瞬く星も見える。快晴とは言い難いが、まあ普通の晴れだ。

 などとどうでもいいことを考えていた一方通行が、ふと視線を妹達の方へ戻す。

 いつの間にか彼女の前に、黒いスーツに身を包んだツンツン頭の少年が立っていた。

 

「誰だ、オマエ」

 

「妹達を殺しているのが気に食わない。実験から手を引いてほしい」

 

 少年は一方通行の質問には答えないどころか、生意気なことを言った。

 この実験に割り込んでいること、発言内容からして只者ではないと判断したうえで一方通行は答える。

 

「オマエに指図される筋合いはねェな」

 

 一方通行だって、好き好んで二万体のクローンを殺しているわけではない。こんなの作業でだるいし、時間だってかかる。

 それでも、絶対能力者になるためには、この方法しかない。

 これは、必要悪なのだ。

 

「自ら実験を降りないのなら、ぶっ飛ばすまでだ」

 

 鋭い眼光は、それが虚勢ではないのを物語っている。

 だが、そんなことでおめおめ引き下がるような一方通行ではない。

 

「オマエ、誰に喧嘩売ってンのか分かってンのか?」

 

「学園都市の()()()()()()()()()()一方通行。()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 一方通行を嘲るような発言をした少年――上条当麻は一方通行までの数メートルの距離を一歩で詰める。

 通常の人間ではありえない挙動だが、学園都市においてこの程度の現象は不思議でも何でもない。肉体強化系はもちろん、並の能力者なら使い方一つで起こせる。それっぽい予備動作やモーション、兆候らしいもの(たとえば、筋肉が異常に隆起するなど)がなかったのが多少特異ではあったが、強力な能力者ならそれも不可能ではない。

 だから一方通行は、殊更に驚愕はしなかった。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「あ、がァ?」

 

 殴られたことによる激痛も相当だったが、それ以上に驚きの方が大きかった。

 一方通行は『ベクトル操作』――体表面に触れた運動量、熱量、光、電気量などのあらゆる種類の『向き』を自在に操る――という能力を宿している。デフォルトは反射に設定、常時展開されているため不意打ち、動体視力や反射神経など速度に由来する問題すらクリアされている。

 あらゆる攻撃は一方通行には届かず、それどころかすべて相手に跳ね返る……はずなのに、今のこの状況は何だ?

 困惑する一方通行へ、接近した上条の右拳が再び振るわれる。側頭部を殴られ脳を揺さぶられた一方通行は為す術もなく横に倒れ、止めと言わんばかりに腹部に蹴りが叩き込まれる。

 

「もう分かっただろ。俺とお前の間にある絶対的な実力差を。妹達は俺が匿う。お前では俺には勝てない。お前は実験を続行できない。だから、お前には自主的に実験を降りてほしい」

 

 一方通行にとっては腹が立つ言い分だったが、内容は事実であり真実であろう。あっという間に叩き伏せられ、反撃どころか起き上がることすらできない現状がそれを指し示している。

 少年の靴のつま先部分がわずかに破損していることから反射自体は機能しているはずだが……無意識に能力を切ってしまったとかでなく、機能しているうえで攻撃が通っている方が厄介だし、機能していようが何だろうが、痛めつけによってそもそも体が動かないのだからどうしようもない。

 ……実験はもう進まない。

 

「待ってください。勝手に話を進められても困ります、とミサカ一九一一号はサブマシンガンの銃口を少年に向けて突き付けます」

 

 上条は振り返りもせず、両手を挙げて、

 

「お前たちは学習装置(テスタメント)によって、『自分達は実験動物である』と脳に刷り込まれている。実験中止は存在意義を奪われる……そう考えているからそんな行動に出るんだろう」

 

「……あなた、一体どこまで……」

 

「だけど、少し考えろ。これまで一方通行に惨敗し続けたお前たちが、その一方通行を圧倒した俺に勝てると思うか」

 

 大体、と上条は振り返りながら続けて、

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。こんなくだらない実験は絶対に止める」

 

 そして、上条の姿が一九一一号の視界から消える。

 一九一一号は一瞬戸惑い――上に跳んだと気付いた時には、大ジャンプから高速降下した上条が一九一一号の背後を取っていた。一九一一号が振り返る間もなく、彼女の肩に左手が置かれる。

 そのアクションの意味は分からなかった。

 痛みはなかった。

 

「一体、何を……?」

 

 疑問を感じたところで、一九一一号の全身から力が抜け膝から崩れ落ちる。意識がだんだん薄れていく。

 

「お前は連れていく。じゃあな、一方通行」

 

 上条は気絶した一九一一号を肩で抱え、その場を後にした。

 

 

 某日、『絶対能力進化実験』の中止が決定した。

 実験の要となる一方通行は何者かによって倒され、妹達の一九一一号も行方不明。

 極めつけに『樹形図の設計者』も破壊され、実験続行は困難だと判断されたためだ。

 実験中止により、存在意義がなくなった一九一二から二〇〇〇〇号までの妹達は、学園都市の一部の人間や学園都市の協力機関によって、新たな居場所が作られた。

 しかし、忘れてはならない。

 学園都市に巣食う闇は、まだ蔓延っていることを。

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