ジオン水泳部で戦機道、はじめます!   作:逃げるレッド五号 4式

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やあ、ダニエル!(人違い) 僕はレッドだ!キミに投稿を見せにきたんだ!
そして今日やっと原作風の谷のナウシカ全巻揃えれました。やったぜ。

pixivでお絵描き上げてます。詳細はマイページにあるので良かったらどうぞ。

さて、この回で遂に雌雄が決します。勝者は勿論いますよ?敗者も然りです。 試合なんですから。戦車道も戦機道もタイブレークなんかありませんからね!

それでは、どうぞ!



23. 描いた夢___と、ここにある浪漫。 〜その栄光は誰れのために〜

 

本来ならば、原作ならば【HADES】を搭載しているはずのないアレックス。紅色のオーラを纏った面妖な姿を見た観戦者達は、あまりの迫力にしんと静まり返った。

 

B兄貴「(システム機体は)怖いでしょう…♂(レ)」

 

観客2「え、アレックスが赤い霊気みたいなもん放ってるぞ……」

 

観客1「(これでアレックスが)最強♂とんがりコーン♂(レ)」

 

観客364「あ、おい待てい!なんでペイル特有の仕様をガンダムタイプが搭載してるんだゾ!?」

 

ガノタ「有り得ない……ハデスを使うなんて!」

 

観客893「チッ!(舌打ち) ありゃどう見ても強化システムの一つだ。強化システムは現在全て軍用しか存在してねえ……どこの国からどういったルートで引っ張り出してきたのかは知らんが……もしリミッターも何も付けて無いなら、あのネーちゃん、死ぬぞ…」

 

戦機道ファン1「軍用!?」

 

戦機道ファン2「ヤクザのお兄さんの言う通りなら、試合中止にならないと…」

 

観客810「でも例の女性偏向派閥(偏見)がいる時点で、(多分試合の即刻停止は)無いです。それに今までやってた審判員がごっそりどこかに連れてかれたの見たんですけども…これはもしかしなくとも、もう望み薄ですねこれは…」

 

 

当然各校のメンバーも似たような反応を示していた。

 

ノンナ「………そういう、ことでしたか…」

 

カチューシャ「え?ねえ、どういうことよ!説明しなさい!」

 

ダージリン「かなり早い時期に退役したアレックスと、この決勝戦を今観戦している日本戦機道連盟の例の派閥メンバー……」

 

アッサム「繋がりましたね。アレらが男子戦機道関連で動いていたのは本当のようです」

 

ケイ「システム機体なんて、大会での使用はまだグレーゾーンにあったはずよ!」

 

アンチョビ「…何がどうなってるんだ?」

 

英治「むぅぅ……こうなってしまったら…」

 

エビ「あとは守君に託すしかないなぁ…」

 

 

 

一方、上の方々がいらっしゃる特設観戦席。

 

辻「なっ!? 強化システムを搭載しているだと!? これはどういうことですか!!」

 

推進派1「なにも、ルール上にシステム搭載機体を使用禁止とする明確な文言は記載されてはいませんが?」

 

辻「しかし!エグザムやハデスはまだ国内では競技用に調整はできていないはずです!!」

 

推進派1「調整の終わってない機器を載せてはいけないとも、書いていませんわよ?」

 

辻「………!!」

 

???「待ちなさい!!」

 

辻「あ、あなたは!」

 

その時、スーツを着た一人の女性がこの場に現れる。

女性の正体は西住流家元にして、西住まほの母親、西住しほである。表情が並と比べて豊かではないとされる彼女の顔には若干の怒気が表れていた。

 

推進派1「あら? どうしたのですか西住先生?気分が優れていらっしゃらないようですが…」

 

しほ「惚けないでほしいわね。貴女達が裏で手引きしてアレックスを渡したのは聞いたわ。あんな機能を付与したなんて、私は聞いていないわ。説明しなさい!」

 

推進派1「惚けるな…と言われましても、私が指示したものでもなければ、このようなシステムが入っていることすら、私も知らされてなかったのですよ?言い掛かりはやめてくださいな。偶然が重なれば起こることもありましょう。 …まあ、それでも娘さんはあのシステムがあることを承知の上で起動させたのでしょうね。親や責任者がコレの把握ができていなかったのにも、問題がありそうですが…」

 

しほ「……っ!!」

 

明確な証拠がこの場に提示できない以上、何も出来ることが無いのが現実だった。

 

推進派1「…要は勝てばいいんですよ。勝利を手に入れることが出来れば、あとでどうにでもなります」

 

しほ「あなたは……!!」

 

 

_________

 

 

 

地上では色々と騒がれる中、話題の地下は物静かであった。

 

 

守「HADES……アレックスにまさかのシステム系かぁ、益々ヤバい匂いがしてきたぞ……」

 

まほ『10分も、あれば…お前を叩きのめせる…』

 

守「……そうですかい。んなら、こっちも!!」カチッ!

 

プシューーーーッ!!

 

逸樹はコックピットの中央にカバーで覆われていたスイッチに手を伸ばし、起動させた。

すると、ゾゴックの全身各所の冷却機構や周りから桃色の粒子のようなものが漂う。一見するとそれは、まるで桜吹雪のようである。

 

まほ「!? なぜ…なぜだ!! お前たちのようなチームに、そんなものを手に入れる機会すら無いはずなのに!!」

 

まほの叫びは意に介さず、ゾゴックのシステムは完全に発動する。

 

【 H A S S 】

 

守「さあ…? でも現にここに存在してますし。……どうですか、まほさん。まだ俺だってやれますよ!! 8分もありゃぁ上等だ!!」

 

まほ『どこまでも私をコケにして…!! お前の、お前たちの夢も終わらせてやる!夢になんか、絶対に手が届かないことを、私が教えてやる!!』

 

ゾゴックとアレックスの…激しい射撃戦が再開された。お互いの死力を尽くしての戦いとなるのは間違いない。

 

両雄、再び激突せり。

 

 

 

_________

 

 

 

そしてまたまた場面は変わり、地下演習場の道へと続く傾斜通路。

 

ズババァアアーーーーー!!!

 

ドルルルルルルルルッ! ガガガ! ガガガガガンッ!!

 

シゲ「無理はするなよ!引く時はゆっくりと引いて、火線を途切れるようなことは無く!! あと数分この踊り場に陣取り、時間を稼ぐ!!」

 

タクミ『マズイですよ司馬先輩!僕のシールドの携行弾薬は2割も無いです!!それとシールドも耐久難しくなってきました!!』

 

モッチー『俺は射撃武装がバルカンと腕マシしかないからなぁ〜、もう補給しちゃったし、キツいゾ〜これ〜』ガガガッ!

 

ユウ『俺なんか腕出すだけで被弾するぞ! くそ、カノン適当撃ち当たってくれぇ! タクミンはもう少しだけシールド立てて!』

 

そこにはレンコウの残党MSが集結して防衛線を築いていた。地上から侵入しようとしてくる黒森峰を迎え撃っていたためである。

 

シゲ「弾薬は有限では無いのが痛く分かるな……。予定より早いが、後退しなければならないか…?」

 

それでも主にジュアッグやアッガイの射撃を中心に、地上に向けて曳光弾や粒子砲が途切れることなく放たれ、いまだ弾幕の形成を維持していた。

 

特に黒森峰の突破を難しくしている要因として一役買っているのが、傾斜通路踊り場のど真ん中にシールドを構えてガン待ち体勢のアッガイとその背後に陣取るハイゴッグだ。

 

ダラララララ!! ダラララララ!!

 

ズババババッ!!

 

ユウ『カノン緊急冷却!マシンキャノンで牽制する!!』

 

タクミ『盾が…壊れるよ!!』

 

ユウ『構わねえ!退却まで持てば御の字!!』

 

モッチー『ラストの給弾オナシャス!』

 

タクミ『了解です!』

 

一方相手側の黒森峰は地上の入り口にMSを横に張り付かせ隠し、突入のタイミングを伺っていた。

 

エリカ「こちらは5機…強行突入してもいいけれど、一気に行けばやられた機体の残骸で通れなくなる可能性もある…。 くっ!隊長の所へまだ着けないの……!!」

 

小梅『時折飛んでくるビームが厄介です。………え?』

 

エリカ「小梅どうしたの?」

 

レイラ『隊長からの一方的な通達…?みたいなものが来て……。 なんか、はです……っていうのがどうたらって…』

 

エリカ「はです……ハデス…!! もしかして!試合前の話は冗談じゃ…でも、これが本当なら……」

 

グラーフ『……その様子だと、急いだ方がいいらしいな。だが…』

 

 

 

ババババババッ!! ババババッ!!!

 

シゲ「ここはまだ通さん!! 全員、今暫く耐えるんだ!!」

 

ユウ『死んでも粘り切ってやるぞ!!!』

 

レンコウ's「「「おう!!」」」

 

情景だけを見ればジャブロー降下作戦の逆転バージョンと言えば良いのか。地下へと続く道を遮るように守るジオン機体を見ていると不思議な感覚に囚われる。

 

 

プリンツ『火力が衰える様子は無いね…』

 

グラーフ『そう簡単には行かせては貰えない、か。全く…彼の言う通りだな…』

 

グラーフはエリカの声色が変わったことに気づき、試合の通常運営以外に何らかの事態が発生していることをなんとなく察知した。

そんなエリカはなんとか平静を取り戻し、現状の打破という目標を見失うという事態から逃れられた。しかしそれと同時に、今まで溜め込んできたものなどを含めた、様々な要因から来た劣等感が押し寄せてきてしまったのは偶然ではない。

 

エリカ「…ここで感情に駆られて、無闇に行っても無駄よね…。どうすれば……私はどうしたらいいの……」

 

小梅『エリカさん……』

 

今度は答えの無い問いを自問自答する、堂々巡りに陥ってしまった。

側にいてその様子を見ていた小梅には、エリカに対して侮蔑や侮辱といった感情は湧いてこなかった。 ただ、この現状をどうすれば解決出来るのか、自分の頭の中で考え、エリカの代わりにそれを実行するべく動き出した。

 

小梅『エリカさん、皆さん、…私が先行します!相手の火力が私に集中している間に敵機の撃破と防衛線の突破をお願いします!!』

 

グラーフ『正気か?』

 

エリカ「こ、小梅…?」

 

小梅『あはは……。考え方は違うと思うけれど、ちょっとだけ、みほさんの背中が見えた気がします。それでは、突撃します!!!』

 

ゴォオオオオオオ!!

 

小梅のザクⅡ改が両手にバズーカとマシンガンを持ち、スラスター全開でゲート内部に突入した。 一瞬ながら呆気に取られたのは黒森峰側だけではない。当然東北連合側も同じだった。

 

シゲ「何っ!? 単機での突撃…いや特攻か!! 応戦だ、一機たりとも通させはせん!!」

 

ユウ『改ザクか!火力を集めれば倒せなくは___っ!! その後ろからゲルググが来てる!アクトもだ!!』

 

モッチー『(カバー)無理みたいですね!』

 

だが、勝負に関わるコンマ差での反応速度の遅れは致命的なものとなるのは皆が理解している。それ故にレンコウMS隊の迎撃動作に焦りが加わり、正確な射撃が崩れた。

 

タクミ「ええいっ!ばら撒きタイムだ!!」

 

ダラララララ!! ダラララララ!!

 

小梅「西住隊長から引き継いだこのザクでええええええ!!!」

 

ガキン! ガキキキキィイン!!

 

弾幕の嵐を掻い潜って小梅のザクが盾を構えて引くに引けないアッガイに迫る。

 

タクミ「嘘だろう!? ボーラは…間に合わないか!」

 

小梅「遅いです!…押し通る!!」

 

崩れた射線に小梅は飛び込む。狙いはただ一つ。後続の部隊の障害となるだろうアッガイの無力化である。

そしてアッガイに体当たりを敢行し肉薄するザク。

 

ズガガッ!!!!

 

タクミ「うおっ!…なんとぉお!!」

 

小梅「はあっ!!」

 

ドガアッ!

 

タクミ「っ!! まだだ!」

 

アッガイはクロス・シールドを構え直そうとするが、小梅はさせなかった。 

ザクを小さく上へ跳ばせ、躍動感溢れるキックを繰り出しシールドを横に弾き飛ばす。

 

小梅「あなたをここで止めさせてもらいます!!」

 

タクミ「それはこっちのセリフさ…うおおおおお!!!」

 

そこから素早く背部にマウントしていたヒートホークを縦に引き抜き、唐竹割りを繰り出した。せめて相打ちにするべく、奇しくも同じタイミングでアッガイも右腕のメガ粒子砲をザクの胸部へ連射する。

 

タクミ「……っ、あちゃあ…深々といったねぇ…」

 

振り下ろされたヒートホークはアッガイの左肩から入り、ざっくりと腰部まで切りこんでいた。

 

小梅「……目的は、果たしましたよ」

 

ザクは機体の至る所がメガ粒子砲を受けて穴が空き貫通しており、コックピットのすぐ横をアッガイのビームサーベルユニットが押し付けられ貫かれていた。

 

ズゥゥーン……!

 

___パパシュッ!

 

アッガイとザクは密着した状態で倒れ込み、ヒートホークとビームサーベル、そしてモノアイが光を失った。

これを見ていた臨時隊長の司馬が後退を全機…といっても片手で足りるほどではあるのだが、彼らに促す。

 

シゲ「優!引け、雪崩こんでくるぞ!!」

 

ユウ『りょ、了解!! タクミンすまねえ!』

 

プリンツ「逃がすと思ったら大間違いだよ!!」

 

ユウのハイゴッグはアッガイの真後ろに火力班としていたが、それゆえアッガイに密着してきたザクを攻撃することも出来ず、踊り場に残存している唯一のレンコウの機体となっていた。

よって彼は逃げの動作に徹するのみである。だがそれが仇となってしまう。

 

戦場は同じ空間。須藤と小梅が戦っている最中に周りの時が止まっているわけではない。上述の通り、当然周囲の戦況も変化しているわけである。

目の前にまでゲルググと近接戦特化のアクトザクが迫っていた。

 

ズドン! ズドン! ズドン!

 

小梅の特攻によって触発された黒森峰部隊が遂に傾斜通路へと進み出していた。それも全速力で、だ。

その中でも地上近接戦を想定したプリンツの駆るデザゲルが先陣を切ってアームドバスターを、逃げに徹してしまいそれ以外の動作が疎かとなっていたハイゴッグの背部に連続で撃ち込む。

ハイゴッグは踊り場の角に入る前に補足され、豊満なヒットボックスに全弾当てられたのである。最後に仕上げとばかりに胴体をナギナタで一閃される。

 

ズバッ!!___パシュッ!!

 

ユウ『!! しまった、デザゲルを前に出してたのか…』

 

シゲ「すまん……。損害が予想よりも早く出始めたな…ここからどこまで粘れるか…」

 

ユウ『みんな、ファイトだっす!』

 

ゲルググの主武装はビーム兵器。そう考えていたユウは、フリージーヤードを射出することを躊躇した。後退した後の使用を考えていたということもある。そしてその思惑にプリンツが漬け込んだ形となり、撃破に繋がった。

 

プリンツ『ハイゴッグ撃破!』

 

グラーフ『他の機体は一階層分、下に退避したようだな…』

 

エリカ「このまま追撃!最深部まで行くわよ!! ゾックが地上から来るかもしれない、後方の索敵も疎かににしないで!」

 

小梅『エリカさん、あとはお願いします』

 

エリカ「ええ、分かったわ。あとは…任せてちょうだい」

 

小梅の取った行動によって、エリカは何か大事なことに気づいたかもしれない…いや、思い出した。

人はなんらかの事象の中で変わり、絶えず成長すると言われる。それが今、エリカにとって良い方向へと働いた。

 

 

シゲ「ダイトと合流する前にもう一度仕掛けるか…? くそっ、いけるのか、本当に…」

 

 

防衛部隊の状況も、次第に雲行きが怪しくなってきていた。

 

______

 

最下層の演習場ではまだ絶えず爆風と閃光が疾っていた。実弾とビームの応酬。そして接近してからの実体剣と粒子剣のかち合い。

 

まほ『努力しても越えられない壁がある!天才と、秀才と、そう呼ばれる者も、所詮はみな人間だ!限界と言うものは必ず存在する!!

それなのに、周りの連中はそれ以上の期待を押し付け、圧力を私に加えてくる! アレならこれくらい出来るだろう、アレならば今度はもっと出来るだろう、とな!!そして伝統だ流派だなんだと叫ぶ!!私個人の感情など関係なくだ!!』

 

まほが今まで抱えてきたであろう、苦難や苦悩、負の感情を独白に近い形でどんどんと吐き出す。

彼女の乗るアレックス。その瞳は紅く輝いており、血の涙を流しているようにも見える。

その勢いに機体のスペックを抜きにしても、逸樹は押され始めていた。

 

守「くっ! キツいって!!パワー負けはかなりマズイ!!」

 

まほ『唯一の理解者だったみほも、私から離れた…。共に栄冠を掴もうと誓った、実の妹に!血を分けた妹に、だ!! 分かるか!?お前に、お前たちに!!』

 

守「でもここには、妹さんは、西住みほさんはいません」

 

まほ『黙れえええ!!』

 

ガギィイイイッ!!

 

結果的に火に油を注ぐことになり、強烈なキックを受けた逸樹。正論、というよりかは現実を含んだ言葉であったが故にまほは怒った。

そんなこと、誰だって分かる。そしてそれを一番理解してるのは自分であるのだからと。

 

守「ぐぅうう!!」

 

まほ『私はあの時の敗北で、私が信じてきたこと、やってきたことすべてを否定された!! 何も分かってない凡人、二流三流の外野、腐りきったメディア、実力も伴っていないOG……それも!それらが正しいと言っていた道を、私に強いてきた道をすべて否定した!!掌を返すようにあっさりと!!』

 

時に遠距離で牽制し、

時に中距離で相手を窺い、

時に近距離で仕掛ける。

そのどれもがアレックス有利に進んでいく。

 

守「それでも!支えてくれる人が、いたはずですよ!!」

 

まほ『そんな奴らも、どうせ私の本心を理解することが出来ない外野と同じかそれ以下だ!! 

私に残されたのは自分が築いてきた道で勝ち続け、私が間違っていないことを証明することだけ!! 頼れるのは己のみ!それをお前たちが邪魔をしている!分かるか!!』

 

そういったことが何度も、何度も超速で繰り返されている。

残像の代わりに妖しい紅色と桃色の光が高速で線を描いていく。

 

守「アイツ(ナギ)も言ってましたけど…分かるわけないでしょ!!」

 

まほ『なんだと!!』

 

守「当たり前じゃないですか!! 人の心なんて覗けない!すべてが必ず完璧に理解出来る人間なんていないんです!!」

 

まほ『それなら!お前はどうするんだ!! それでも自分が周りを引っ張っていかなければ、連中は愚痴愚痴と罵詈雑言を言うだけの人間になるんだぞ!!』

 

守「他人を、身近にいる人を信じきれなかったのが、そもそもの失敗です!

僕ならどうする? そんなの決まってんでしょ!周りに意見求めたりして、本音をぶつけ合っていかないといけないでしょ!! 人は全員同じ意思では動いてない。だからこそ必ず衝突が起きる!それを受け止めていかないと、次も機会も何もかもなくなる!!」

 

まほ『っ!! 五月蝿い、うるさいうるさいうるさあああい!!!』

 

アレックスが一気にゾゴックに迫り、両刀のビームサーベルを力強く相手へ挟み込むように振りこんだ。

それをなんとか後方への高速バック転で回避するゾゴック。だがタダで避けれたワケではない。各所の追加装甲と携行していたスパイクシールドを持っていかれたのだ。

 

守「だからって耳を塞ぐんですか!だからって同じやり方を続けて、停滞して、諦めるんですか!! それは違うと思います!

俺は、まほさん達、戦車道やっている人のこと、すごいと思ってます」

 

まほ『……!』

 

ここでまほが沈黙した。アレックスの動きがそれと同時に止まった。

今度は紅い霧を纏わず、白い姿となって。システムの制限時間が終わったのだ。観客の危惧に反してどうやらリミッターがご丁寧にしっかりと掛けられていたらしい。

至る所から、システム発動後に無茶な動きを続けて蓄積していた機体の負荷が表出してバチバチと火花を上げる。動くこともままならないだろう。だが、アレックスは何事も無かったかのような佇まいをとる。

 

逸樹は続ける。

 

守「だって、戦車道やって、戦機道やって、それに勉強も頑張って、もうすごいとしか言えないです。

きっと好きなことだけやれてる僕らよりも、断然辛いこと、苦しいことが多いだろうってことも考えれたので尚更です。

だから、言いたいんです。そこで育ったモノは、この先どうなるか分からないけど、必ず大人になってから役立つと思います。だから、目標から、夢から、回れ右はしちゃダメだって思うんです」

 

まほ『なら、これから…私はどうしたらいいんだ……もう、分からないんだよ…自分の道が…見えないんだ、見失ってしまったんだ…』

 

まほの目からポロポロと涙が溢れ出していた。人前で泣いてこなかった彼女が、今ここで涙を流していた。

もう何も見えなくなったというのは、あながち間違いではないのかもしれない。

 

守「………それなら、道も夢も消えた、探しても見つけれない、無くしてしまった…なら、今度は自分だけの道を、夢を自分で作ればいいと思います。敷かれたレールじゃなくて、そんなもんひっぺがして…!」

 

まほ『!!』

 

守「言わせときましょうよ、意味分からん奴らの声なんか。多分、本当にまほさんのこと信じてる人達は、友達は、ついてきますよ。まほさんが新しく作る道にも。きっと」

 

 

♪『心絵』

 

 

まほには、光指す道が見えたように感じた。この先どう進めばいいのか、分かった気がした。変化を恐れず進み、挫折しても立ち直れる、新しい道が見えた。自分の、自分だけの道。

そう思ったまほは袖で涙を拭く。そしてゆっくりと顔を上げた。

 

まほ『………ここで一つ…キミに言っておくことがある。………ありがとう。』

 

そう言ったまほの顔はとても晴れやかな、眩しい笑顔だった。

 

まほ『私は、キミのおかげで新しい道が、目標を見つけることが出来た。もう迷うことは無いと思う』

 

連られて逸樹も笑顔になる。

この人は、また強くなった。

でも、それでも、負けられねえ。こっちも夢や浪漫を携えて進んでいる。負ける気は…ない!

 

守「それなら、どうするんですか」

 

まほ『……ここから改めて、本当の一騎打ちと行こうじゃないか』

 

どちらの顔も曇りのない笑顔で溢れていた。

これからはじまる、胸の躍るものを待っている。そこには、強豪も新参も、男も女も、何も無かった。

 

守「それなら、行きますよ!まほさん!!」

 

まほ『ああ。来い!今の私は、何にも縛られない!!』

 

今から始まる。ただ楽しいものに夢中になろうとする心だけがあった。周りの視線も評価もお構い無しの、正真正銘の純粋なぶつかり合い。

勿論八百長も手加減も一切無い、本物の勝負。

 

まほ『こちらはHADESが切れたが、システムに頼らずとも、キミと全力で戦えること、教えてやる!』

 

守「お願いします! こっちも、出し惜しみはしません!!」

 

両者、動く。

 

 

まほ『行くぞ!!』

 

守「行きます!!』

 

 

______

 

 

シゲ「くそ………もはやこれまでか…」

 

ズゥウーーン………パシュッ!!

 

亜美『…東北連合、ジュアッグ戦闘不能!!』

 

 

鈍足機体であるジュアッグのカバーは、近接特化のアッグガイだけでは荷重であった。

それに加え、度重なる追撃を食らっていたのも災いした。

 

シゲ「だが、陸戦型は道連れに出来たことがせめてものフォローになるか…。ダイト、最終防衛線に参加するのはお前一人だけだ。すまない」

 

モッチー『ヌゥ…司馬だけでも逃げ切れなかったかゾ…』

 

レンコウの残存部隊は最後の門番となったゾックへの合流を待たずして、たった今、全滅してしまった。

 

ダイ『いや気にせんといてください!てことは、残りは三機ですね、こっちにやってくるのは。 あとは俺が死んでも守り抜きます!任せてくださいよ!』

 

シゲ「心強い…! 頼むぞ!!』

 

モッチー『あとは、よろしくな!』

 

 

 

エリカ「後退していた機体はすべて潰した!ゾックが現れる気配はない…あとはフラッグだけ!!」

 

グラーフ『この下のフロアに行き、降りた先を真っ直ぐいけば、最終ゲートだ!!』

 

レイラ『よし、それなら突撃だあ!!』

 

残り三機となった黒森峰MS隊。自分達の隊長の救援へ向かうため、彼女達は急ぐ。

 

 

 

 

 

 

 

 

レイラ『もうすぐラストのゲート前に続く広場が見えるはず!』

 

エリカ「隊長、もう少しで行けます!あなたは一人じゃない!!」

 

そしてエリカ達は遂に最下層まで到達し、地下演習場へと続く広場へと着くところであった。そして前衛を担当していたグラーフのアクトザクが、照明に眩しく照らされた空間に入った直後に事が起こる。

 

グラーフ『見えた!最奥の隔壁………なっ! エリカ、レイラ 避け___』

 

ズビィイイイイイイイイーーーーー!!!

 

隔壁の何らかの異変に気づいたグラーフ。それを後続の二人に伝え終える間もなく、黄色の光線にアクトザクは胴体部を易々と貫かれた。

 

グラーフ『はぅっ!!』

 

ズズゥウウン!

 

レイラ『グラちゃん! このビームは……!』

 

エリカ「………どこまで、私の邪魔をするのよ!!」

 

 

???「…すまんね。ここは死んでも通さんぞ」

 

パパッ!

 

巨大な鋼鉄のソレは、立ち上がると赤い何かを纏い出した。

 

エリカ「………ゾック…!!」

 

見た目だけで見るならば、RPGもののゲームに登場するラスボスのような存在。立ち位置もエリカ達を阻み、行手を塞ぐ正に強敵である。

こいつを越えて行かなければ、まほの下までは辿り着けない。

最後の最後まで厄介なヤツが残っていたのだ。 だがエリカの心は折れない。

 

エリカ「たとえ私とレイラだけでも、やってみせる!!」

 

レイラ『討伐開始だあ!!!』

 

ダイ「強敵がなんだ!返り討ちにしてやる!!」

 

 

_________

 

 

ズバババババッ!!

 

まほ『どうした!システムを作動させる前の方が動きにキレがあったぞ!!』

 

守「これでブーメランは全て撃ちきった…ザクマシも残り少ないし、バズはあと二発…」

 

まほ『私を醒させてくれたのには勿論感謝している。だが、それで私が手を抜くだろうと思ってはいないだろうな!?』

 

守「楽に戦えるとは微塵も思ってませんよ!!」

 

ザクマシンガンで牽制程度に弾をばら撒き、当たらない前提で残弾僅かのバズーカを使い切る。

そして2本携行していたシュツルムは、先ほど必中の覚悟を持って撃ったものの、どちらも信管を見事に切り落とされ役目を果たせずに南無三したところである。

 

守「残るは豆鉄砲と、斧と剣、そして己の拳のみ…か。システムもちょうど残り3分、ウルトラマンかな?」

 

まほ『ほう、3分で私を倒す宣言をしたと受け取っていいのかな?』

 

守「やったりますよ!!」

 

まほ『それでこそ戦いがある!』

 

しかしゾゴックが全く不利である、というわけではない。

アレックスは度重なる戦闘でガトリングは残弾ゼロに。また逸樹の健闘により手持ちのビームライフルの破壊に成功していた。

そうなれば両者の勝敗を決定は自然に接近戦となる。

 

逸樹はヒートソードを背腰部に戻し、2本のヒートホークを引き抜く。

 

まほ『二刀勝負、受けて立とう』

 

格闘戦はまほが最も得意とする領域である。そのために慢心とまではいかないものの相当の自信があった。

戦車道では滅多に味わえないだろう金属と金属のぶつかり合い殴り合い…彼女にとって新鮮に感じるものがあったからでもある。

 

まほ『楽しむ…そういった要素が、今の私たちに足りなかったものだな』

 

守「(来る!)」

 

早速アレックスが距離を詰める。

そして真っ向勝負をすると見せ掛けて、サイドステップを披露。そこから低く跳躍して一気にゾゴックに近づく。

しかし逸樹も黙って見ているわけではない。斬られるわけにはいかないので当然応戦する。

 

守「二連大太鼓斬り!!」

 

ズババッ!!

 

側面から攻めてくるアレックスに対し、ヒートホークで横薙ぎに斬撃を与えようと横に振るが、アレックスが直前で後退したため、 空振りとなる。

それでもこちらに簡単には寄せ付ける意思は無いと表すことは出来ただろう。

 

まほ『今度は仕掛けてくるか!』

 

次に動いたのはゾゴックだ。

真正面から全速力で助走をつけ、はしり幅跳びの要領で詰める。

そして右手のヒートホークを陽動と回避潰しを兼ねて投擲。即座にヒートソードを引き抜き振り下ろす。

 

まほ『! キミと戦えたのは、とても幸運かもしれない!こんなに、楽しい想いをしたのは何年振りか…小さかった時のような、心の底から来るこの感情!』

 

守「怖いし強いしでヤバいはずなのに、僕も楽しいですねえ!」

 

まほのアレックスは飛んできた斧の柄部分を回し蹴りで弾き、今度はゾゴックが全重量を掛けて振り下ろしてきた振り下ろしを、二刀サーベル同士を横に接合して一刀にして斬撃を受け止める。

 

バチバチバチッ!!!

 

まほ『反応が鈍くなってはいないか?』

 

守「だんだんガタがきてるのかもしれないですねっ!!」

 

そう言った直後、ゾゴックが素の重量差を利用し踏ん張り、フッ…と横に避けてアレックスを前のめりにさせると、慣性赴くまま右足の回転蹴りをアレックスの頭部メインカメラに浴びせる。

 

まほ『くうっ!』

 

辛うじて回避運動を取れたアレックス。ギリギリ間に合わず頭部右側が潰れた。

 

まほ『まだだ!まだ終わりではない!!』ブン!!

 

守「うおっ!?」

 

しかし鋭い一太刀をゾゴック向けて浴びせ、追撃をさせないよう図る。その斬撃はゾゴックの残りの手持ちヒートホークを一閃した。

 

守「これで一刀か…それでもっ!!」

 

会場の観客らも息を呑んで見守る。誰も声を発さない。

切り込まれた逸樹は怖気付くことはなく、もう一度踏み込み、今度はパンチアームのリーチを活かした正拳突きをかました。

通常ならば絶対に届かないリーチ。

だがゾゴックの腕は他の機体とは一味違うのだ。当たらないと思うような一撃が、当たる。

 

ドゴォッ!!

 

コンクリートなどで建築された地下空間に鈍く、そして重い打撃音が響く。

 

まほ『かはっ!?』

 

普通の人間なら失敗などが立て続けに起こるとどうしても反応・判断に鈍さが生じるものである。

しかしまほは違った。渾身のパンチが当たる直前に紙一重で後ろに僅かだが退いていた。

結果は胸部先端の圧壊となったが、一発での即終了を防ぐ形になったのだ。

それでも全てのダメージを無しにできたわけではない。いくらかのダメージはコックピットにまで到達した。

 

まほ『ふーっ、まさに紙一重、だったな…』

 

守「せ、"聖剣 月"が、見切られた!?」

 

まほ『まだ勝負は終わってないぞ!!』

 

再びアレックスがサーベル二刀流で襲いかかる。

負けじとヒートソードと高速で繰り出す鉄拳でゾゴックが応戦する。技が効かなかったのはしょうがない。

それならば、他のやり方を模索して戦うのみである。何事も切り替えが肝心だ。まほがそれを許すかは別問題だが…。

 

 

一進一退の攻防。

 

 

両者共に負けず劣らずの気迫。

 

 

交錯する拳と剣。

 

 

激闘により両機体の損傷が目立ちはじめる。

どちらも片腕を失い、脚部の駆動系も鈍くなってきた。残りの推進剤もバッテリーも僅かである。

そんな中でも彼と彼女は全力で向かい合っている。技量もさることながら、その精神力は特筆すべきものがある。

 

守「………(そろそろかな…)」

 

そして遂に度重なる激戦の終わりが見えて来る。ゾゴックのシステムが切れかかってきたのだ。

当然まほはそれに気づく。しかし敢えて話を振らなかった。

 

守「そこお!!」

 

まほ『なんのこれしき!!』

 

彼女は知っている。システムがダウンした際にそれまで蓄積してきた負荷を一斉に放出するために動きが恐ろしいほど鈍ることを。

相手を確実に追い込むならば、狙うは自然とシステムダウン直後の機体動作のフリーズ…その一点となるだろう。

 

守「でやあっっ!!!』

 

ブゥウン!!

 

___プシュゥウーッ!!

 

まほ『! 今だっ!!』

 

ゾゴックがソードを横に振り抜いた瞬間、纏っていた桃色のオーラと各部のライトが消え出す。

 

まほは見逃さない。

 

背後を取っていたアレックスは、一撃必殺の剣撃を叩き込むべく、残りの推進剤をすべて消費して爆発的な推力を持って、自分と激闘を繰り広げたゾゴックに肉薄する。

 

守「……っ!(来たっ!)」

 

まほ『この一撃にかける!!これで、終わりだあっ!!!!』

 

戦いの終止符をアレックスが、まほが打つ。誰もが確信し、ある者は目を瞑り、ある者は目を見開き、ある者は待っていた勝利を得られると笑みを溢し、ある者は最期まで歯を食いしばる。

しかしここでまほが予期していなかった、不思議なことが起こる!

 

守「くらええええええーーーーっ!!」

 

まほ『なっ!?!?』

 

動きを止めていたゾゴックがアレックスの方に振り向いたのだ。そして振り向き様に繰り出すのはソードを握った右腕。しかしその繰り出しは斬り込みではなく、さきほど避けられた正拳突きであった。

 

まほ『うそっ_____』

 

これまた本来の腕のリーチを考えれば届かない距離から振り向いて繰り出される攻撃。

そして繰り出された拳に握られているのはヒートソード。その拳がアレックスの真横を通るように伸びる。

 

 

 

 

 

ズバァアアッ!!

 

 

 

 

 

 

 

パンチアームの伸縮によって発生する瞬間的な物理エネルギーを利用し、真っ直ぐに伸びていった拳に握られた明色の剣。

その剣はアレックスの胴体を上下に切り離した。

 

 

 

 

まほ『………見事だ…』

 

ズシャァアーーッ………パシュッ!!

 

 

 

 

 

 

しん…と会場は静まり返る。

 

 

 

 

亜美『………黒森峰女学園フラッグ機、ガンダムアレックス…戦闘不能!!!

 

 

よって、

 

 

東北連合高校の勝利っ!!』

 

 

 

 

 

守「………取ったぞ。日本一…!!」




太線入れる必要も今回は無かったかなと入れませんでした。

次回は逸樹君が発動させたシステムの説明を含め、試合終了直後から話が始まります。
ハデスはどうやらマデスだったようですね、よかったよかった…。
心絵はメジャーをはじめ、スポーツ・競技系アニメMADにとてもよく似合うと思ってます。一応わしも野球部だったから尚更ゾ。

それでは!次回もお楽しみに!


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