ところで私は世界史をローマ五賢帝までしか受けてないので、近代史はチンプンカンプンです。「時系列おかしいだろ」「この時代にそれは無い」と思った近代史マニアは、そっと歴史を教えてください。
直す努力はしましょう。「私には無理ぽ」と投げ出すかもしれませんが。
あ、タイトル変えました。あまりにも適当すぎたので。
ガタゴトガタゴト。
西に向かう荷車の上で揺られること一日半、大きな街に着いた。
ここで避難は終わりかと思いきや、どうやらこの街もドイツ軍の侵攻ルートらしく、今度は北に向かって避難するらしい。
近隣の村から集まった避難民は街で気休め程度の水と食料の配給を受けてから、ベルギー軍の先導の元、慌ただしく北へと旅立って行った。
俺の目的地は、フランスを抜けてドーバー海峡を渡ったイングランドの端っこに位置するカントリーサイド。ざっくり言えば西。
向かう先が違うため、エリサ一家とはここでお別れだ。
エリサちゃんは寂しそうにしていたが、最後は元気に手を振ってくれた。
去りゆく荷車から、エリサちゃんが楽しそうに歌う声が聞こえる。旅の道中、俺が教えた歌の中でもエリサちゃんお気に入りの一曲だ。
それが荷車が遠くなるに連れて段々と聞こえなくなるのが、なんとも物悲しい。
ドナドナなんて教えるんじゃなかった(ブワッ
まあ適当に翻訳して教えたから、内容は明るい旅の歌になってるんだけど。
それでもちょっと、日本人としては、ね。
……そういえば、三十年くらい時代を先取りした歌だな。まあそのうち忘れるでしょ。
ともかく。
ここからはまた徒歩での旅かぁ、なんて思っていたのだが。
なんとこの街、鉄道が通っていたのだ。戦時中のため民間人使用不可とのことだが。
……知ってますか?
バレなければ犯罪じゃないんですよ。
というわけでちょっと隣人のお力を借りて軍備輸送の列車に忍び込み、出発進行。
シュシュポポー、シュシュポポー、僕らのロコモーションである。
丘、森、山、川、それらが右から左へと流れていくのを車窓から眺める。向こうでは写真でしか見たことないような景色だ。
まだまだ見ていたい、流れ消えないでくれという思い。早く次が見たい、進めもっと先へという思い。矛盾してる二つが同時に胸の内に宿る。
ああでも、どうだろう。
ほんの少しだけ、先を思う心の方が大きいか。
そうして景色を楽しんでいたら、いつの間にか大きな駅に着いた。首都ブリュッセルである。
そこから先、更に西に向かう列車はあるようだが、発車までしばらくあるようだ。
せっかくだし観光でもしようと街に出たのだが、
「うぇ、なんだこりゃ!?」
なんか街全体が黒い煙で覆われていた。
え、なにこれ、大気汚染?
石炭ガンガン焚いたらこうなるの? 視界が十メートルもないんですけど。
だが周りをよく見てみると、人々は気にすることなく過ごしている。なんなら煙の向こう側にいる人に向かって手を振ったりしてる。
「…………あ、そうか。これ魔術由来か」
そうと分かれば話は簡単。
目の魔力感度をぐぐっと下げれば……おお、なんだ結構良い街じゃん。旅行番組でみたことあるヨーロッパって感じ。
それじゃあ観光でもと一歩を踏み出した時だ。
『ぐぇ……』
「ん? なんか踏んだ?」
潰れたカエルのような声が足元から聞こえた。右足に、何か柔らかいものを踏んでいる感覚もある。
だが足元を見てみても、何もない。
『じ、ぬ……おも……』
「悪い、今退ける!」
一歩後ろに下がり、踏んでいた何かから足を退ける。それに合わせて目の感度も元に戻した。
あっという間にあたりは黒い煙で包まれたが、足元にいた者も見えるようになる。
『マジ死ぬかと思ったぜ。ったく、どこに眼ェ付けてやがる』
「すまんすまん」
足元でプンスカ怒っている隣人に頭を下げる。
因みにどんな奴かというと、小さいおっさんだ。なんじゃそりゃと思うかもしれないが、背丈三十センチほどの髭面のおっさんだ。スーツ着て、わりと身だしなみはきっちりしている。
「ちょっと目の感度落としてたから見えなかったんだ。ほら、煙すごいじゃん?」
『煙だぁ? そんなチャチなもんじゃねえぞこれは』
ゴホゴホッと咳き込みながら、少しでも吸わないように袖口を口に当てて、おっさんは言った。
『
「み、みあすま?」
『知らんのか? ったく、最近の若いモンは……』
ぶつぶつと文句を言いつつもおっさんは教えてくれた。
『ミアスマってのは、簡単に言えば
「……それ、まずくない?」
『ったり前だろうが! だからワシがこうして出所を探してるんじゃねえか』
魔力を持つ者たちにとって、魔力とは即ち命と言ってもいい。
それが作れなくなるということは、血液を作れなくなるのと一緒だ、いずれ魔力が枯れて死ぬ。
それに魔力が乱されるとなれば、魔法魔術を使えないだけじゃなく、体調不良を起こしておっさんが言ったように倒れてしまう。
『妖精の国への避難は進めてるが、全員が避難するには、とてもじゃないが間に合わん。元凶を叩くしかねえのさ』
「はー、そういうことだったんだ」
『のんびりしてるがな嬢ちゃん、ワシが見えるってことは魔力持ちだろ。具合が悪く……なってねえな?』
「ああ、うん。この外套のおかげかな」
なにせ有り余ってた時間をふんだんに使って作った自信作だ。
『矢避けの加護、火除けのルーン、魔力防壁陣──おいおい、いったい
「わかんない。魔法も魔術も仕込めるだけ仕込んだから」
『なんつう……まあいい。確かにこれならミアスマを防げるな』
足元で俺の外套をしげしげと眺めていたおっさんだったが、急に決心したかのような顔になると、土下座せんばかりに頭を下げて言った。
『頼む嬢ちゃん、この外套を貸してくれねえか。こいつがあればミアスマを恐れず元凶に突っ込める』
「え、やだよ。貸したら俺が具合悪くなるじゃん」
『そこを何とかっ! 仲間の命がかかってんだ!』
「というか別に──」
『嬢ちゃんの魔力量ならすぐに命がどうこうってこともねえ。ミアスマが薄いところを教えるから、そこに居てくれればいい』
「あの、話を──」
『一日、いや半日でいいっ! このラバーキンの名にかけて絶対に返す。それだけじゃねえ、嬢ちゃんのために最高の──』
「話を聞けっ!!」
ようやくおっさんの話が止まった。
驚いたのか、目をまん丸に開いている。なんともコミカルな顔だ。
「あのさ、おっさん。確かに貸したくないって言ったけどさ、別に貸さなくてもいいじゃん」
『……ワシが平気なのは、ここがまだ薄い方だからだ。ミアスマを止めるにはどうしたって、濃いところに行かなきゃならん。今のままじゃ間違いなく片道切符だろうよ』
「だからさ、一緒に行けばいいじゃん」
『は?』
イマイチ飲み込めていないおっさんをひょいと手で持ち上げ、外套の中に入るように腕に抱く。
肩に乗っけて歩ければカッコイイのだけれど、それだと外套の効果範囲外だから、こうして猫を抱くようにするしかない。
「煙が濃い方に行けばいいんだよな?」
『お、おう……』
進むにしたって前が見えないのは危ないので、左目は魔力感度を下げて煙が見えないようにする。
何ともアンバランスな視界になるが、まあどうってことはない。
体験したい? 夜、予め左目だけを瞑って暗闇に慣れさせてから、部屋の電気を消せばいいよ。
どう、わかった?
大体そんな感じだから。
『……いいのか、嬢ちゃん?』
「まあここで見捨てるのは目覚めが悪いし」
『誰かが撒いたミアスマだ。それを止めるってことは、もしかしたら戦いになるかもしれねえぞ?』
「マジ? あー、その時は逃げるか」
歩く教会並に硬い
『戦わねえのか? この外套作ったってなら、相当腕が立つと見たが』
「いやダメでしょ」
腕があれば殴れるし足があれば蹴れるけど、じゃあやるかと言われればNO。
それはいけないことだと学び、教え、生きてきた。
平気で人を傷つけるような奴は、
『とんだ甘ちゃんだな』
「まあね。でも、それを良しとする時代が来るよ」
そう、百年後くらいにね。
てくてく、てくてく。石畳の上はコツコツ。
おっさんことラバーキンの指示のもと、大通りを抜け路地裏に入り住宅街を進む。
どこもかしこも煙だらけで嫌になる。
「なあラバーキン、あんたってもしかして
『おう、そうだな』
「レプラコーンを捕まえると黄金のありかを教えてくれるって聞いたことあるけど、今の抱き抱えてる状態って捕まえたことになんの?」
レプラコーン。有名なのはグリム童話の『小人の靴屋』だろうか。
夜な夜な素晴らしい靴を仕立て上げるというあれだ。
『黄金が欲しいのか?』
「いや、いらない。ただなんとなく気になっただけ」
確かにあって困るものじゃないけど、別に必要な物でもないし。
『そうか、それがいい。どうせ他のレプラコーンも銀行の地下を指差すだけだ』
「あー、やっぱり?」
『おうよ。それなら嘘じゃないからな』
レプラコーンは同時に悪戯好きとしても有名だ。
水辺でうたた寝してる人を水中に引きずり込んだり、
『言っておくが、ワシはしないぞ? クルラコーンやファー・ジャグルの奴らならするだろうが』
「なら安心だな」
『……さては嬢ちゃん、この状況をワシの悪戯と疑ったな?』
「一割くらいね」
そうして話しながら歩いているうちに、だいぶ煙が濃くなってきた。
おそらくこの先の大きな公園に、発生源があるのだろう。
「そういや、発生源ってなんなのさ」
『さあな。普通、ミアスマは空気が澱みやすい坑道や、墓場なんかでできるんだが』
しかしそれは吹けば飛ぶようなものだ。
ここまで濃く、街一つ覆うようなのはラバーキンも聞いたことがないと言う。
『注意しろよ? 何があるかわかりゃしねえ』
この辺はもう一メートル先も見えないほどミアスマの煙で真っ黒けっけ。
左目は緑あふれる綺麗な公園を映しているだけに、右目はとても残念な感じ。
慎重に一歩一歩進む。
っと、何か柔らかいものが足に当たった。下を向いて確かめる。
「……っ! 大丈夫か!?」
人だ。
左目には映っていないが、右目にははっきりと軍服を着た青年が倒れていた。
肩をたたき呼びかけるが、反応がない。すぐに息と脈を確かめる。
「よかった、生きてる」
『おいその服、近衛魔術師じゃねえか!?』
近衛、つまりは王直属を許されたエリートだ。
多分この人もこの煙の発生を止めるべくここに来たのだろう。
それがこうして敢え無く倒れているということは……
風切り音がした。
「っ!!」
反射的に横へ飛んだ。
直後、何か太いものがさっきまでいた地面へと叩きつけられ、土煙を立てる。
「おっさん無事!?」
『嬢ちゃんにしがみついてたお陰でな!』
ずるりと音を立ててそれは煙の向こう側へと引き戻されていく。
「おいおい、これどう見ても尻尾だろ?」
『ああ……どうやらとんでもなく大物みてぇだな』
あの青年は……よかった。当たってないみたいだ。ミンチにされたかと思った。
でもマズイな、相変わらず気を失ってる。
敵の気を引きつつ離れないと、巻き込まれて潰されてしまう。
落ちていた小石を拾い、敵のいるであろう方向に投げつけながら、青年から離れるように走り出す。
悪いけど、ラバーキンを抱えている余裕はない。胸元に自力でしがみついてもらう。
また風切り音がした。今度は横から。
倒れるように身をかがめると、真上を先ほどの尻尾が通り過ぎ、そばにあった太い木をへし折った。
木は轟音を立てて倒れ、行く手を阻むように横倒しになる。
「おいおいおいおい、
『バカ、脚を止めるな! 逃げろ!』
気づいた時には真っ黒い壁が目の前にあった。
あ、これ壁じゃない尻尾───
まるでボールでも蹴り飛ばすかのように、軽々と身体は吹き飛ぶ。
五十メートルくらいは宙を飛んだだろうか。その後はバウンドして、地を滑り、木にぶつかってようやく止まった。
激しく視界がブレたために目が回り、頭がくらくらする。
「ら、ラバーキン大丈夫?」
『い、生きてる……ワシ、生きてる』
咄嗟に庇う様に抱いたため、ラバーキンも何とか腕の中にいた。
『死んだかと思った、いやむしろ何で生きてんだ?』
「そりゃ外套のお陰だよ──いてて、あちこち
外套に仕込んだ物理防壁、衝撃吸収、その他諸々は問題なく効力を発揮したようだ。
いや、実は仕込んだはいいが、師匠のところじゃ敵なんかいないから試しようがなくて。だからこれはぶっつけ本番というか何というか。
「しっかし、質量の差は考えてなかったわ」
外套のお陰で尻尾を叩きつけられた衝撃は全て受け止めれたものの、そこから先、質量の差で押されて吹っ飛ばされてしまった。
例えるならバランスボールを抱えた力士に体当たりされた感じ。痛くはないけど、吹っ飛ぶよな。
『それでもとんでもねえ性能だな』
「師匠にも認めてもらった自信作だからな。それより尻尾であのサイズって、本体は何メートルだよ」
『わからん。が、相当だろうな』
「全体が見えなきゃ対策のしようもないか……」
だいぶ距離が開いたからか、追撃がくる様子はない。このまま逃げたいところではあるが、あの青年を見捨てるわけにはいかない。
起き上がってぱっぱと埃を払ってから、腰につけたポーチの中をあさる。
『おい、何やってんだ』
「なんか使えそうな物探してる」
流石にこの状況を予想して、予め対策魔道具を作ってるなんてことはない。
だが、何作ったか忘れるくらいには師匠の所で色々作ったから何かある……はず。
「妖精よけのお香、
『よくもまあ次々と、色んなもんが出てくるな』
「四次元ポーチなんて魔法使いの必需品でしょ。チセも持ってるし……愚者の鎖、相手は幽霊じゃないので没」
『やはり魔法使いか。だが噂でも嬢ちゃんのこと聞いたことないな。なったのは最近か?』
「そうだよ、まだ仮免ってとこ…………お、これは使えそう」
取り出したのは芭蕉の葉。大きいものは二、三メートルになるが、これは小さい五十センチ程度の物。
チセも浄化に
「ラバーキン、今からこの辺のミアスマ吹き飛ばすから、落ち着くまで捕まっててね」
『そんな便利なもんあるなら最初から使わんか!』
ごもっとも。
だからこれで挽回しなくちゃね。
芭蕉の葉を扇のように持ち、
ここは赤き大地。
行く手阻むは八卦炉の欠片落ちし火焔山。
芭蕉の葉を持つ我は、翠雲山住みし鉄扇公主。
なればこの手の葉は秘宝たる芭蕉扇。
みよ、ひとたび扇げば風が吹く。みよ、ふたたび扇げば雲を呼ぶ。みよ、みたび扇げば嵐舞う。
「吹けよ風、舞えよ嵐。燃え盛りし火焔山の
芭蕉の葉を大きく振るう。
精々が
振るう振るう振るう。
木々がしなって悲鳴のような音をたて、土や木葉が舞い上がる。当然、周囲を覆っていた
振るう振るう振るう。
乱れ吹いていた風が段々と揃い、公園を中心として渦を巻いていく。遠くから見ているものがいれば、突然真っ黒な竜巻が天へと伸びていったかのように見えただろう。
中にいる俺たちにとっては、黒い壁がせり上がっていくように見えたが。
『やるじゃねえか!』
「あまり長くは持たないけどね」
俺の魔力だけで起こしてるから、すぐに限界が来る。
だがこれならば周囲の
実際、竜巻に吸い込まれて薄くなってきている。
これなら左目も感度を上げて問題ない。やっぱり片目だと目測が狂うから、随分と動きやすくなった。
さて、鬼が出るか、それとも────
「……ラバーキン、この場合、蛇が出たって言っていいのかな?」
『それは、ちと失礼だと思うぞ?』
巨大な尻尾から予想はしていたけど、いざ目の前にすると二人して顔を引き攣らせてしまう。
そこにいたのは全身を宵闇に染め上げたような、全長三十メートルはあるであろう黒の
「俺、初めて見る」
『今じゃ減っちまったからなぁ。昔は割とどこでも居たんだが』
「その初めてがこれって、ないと思わない?」
だがそれも、本来であればの話。
地から生えた鎖が首に巻きついて繋ぎ留め、瞳がある所には虚ろな空洞。口は開かぬよう鋲で縫い付けられている。
肉は腐り溶け、腐敗によって生まれた泡が弾けてはそこから
明らかに。そう、明らかに、この竜は普通じゃない。
「
呪文難しい。模倣系にしたけど、あんまりまほ嫁っぽくない気がする。
あ、実は長いので分割投稿です。
次の話は一時間後に更新。