そう、長すぎて分割したのです。流石に1話で1万3千字は多いかなって。
なので、更新されたお気に入りから飛んできた人は、一回前話にもどって確認したほうがいいかも。
そういえば、この小説の後に二つもまほ嫁二次が増えました。
大変喜ばしい。
『
ああ、聞こえる。怨嗟の声が。
意識して耳を閉ざさなければ気を持っていかれそうになる。
死してなお、いいや死したからこそ深く深く、濃く濃く、強い強い、憎しみ。
「誰がやったと思う?」
『さてな。だがこの国のモンじゃないだろうさ。自分の畑に毒を捲く奴はいねえだろ』
鎖を壊せば何処かに行ってくれるだろうか?
自由に暴れ回るだけな気がするし、例え何処かに行ったとして、それが人里離れた山奥である保証なんてない。それに、人里離れてるほど妖精や精霊たちに迷惑がかかる。
「せめてミアスマの発生だけでも止めれるといいんだけど……」
『竜を殺せば止まるだろうが、なあ?』
「雛ならまだしも、こいつは成体だ。
『だろうな』
それほどに竜というのは強力だ。
存在そのものが大きな力を持っているし、鱗の一枚、爪の一本ですらそれだけで強力な武具になる。
例え死していても、なんの準備もなしに戦いを挑むなんて、裸で冬のアラスカに行くようなものだ。
「とりあえず、まずはあの青年を逃がさないと」
あんなところで倒れてちゃ、いつ潰されてもおかしくない。
だがさっきのように近づいては、また尾で攻撃される。煙が晴れたため、今度は楽によけれるかもしれないが、それは一人での話。流石に大の大人を引きずってては出来ない。
考えろ考えろ。
あいつはどうやってこっちを察知している?
眼はない、つまり視覚ではない。なら嗅覚と聴覚か?
「……試してみるか」
ポーチから神楽鈴を取り出し、稲穂のように付いている鈴を取り外す。
本来は禊や祓い用に作ったのだが、音が鳴るならなんでもいい。大きく振りかぶり、青年とは離れた方へ投げる。
鈴は放物線を描いて飛ぶと、地面に落ちてリリンと澄んだ音を立てる────瞬間、竜の尾がそれを叩きつぶした。
続いて
「決まり、聴覚だな」
『鼻も潰されてるのか。哀れだな……』
聴覚ならば魔法で何とかなる。
取り出したるは紐で留めた紙の束。十枚ほど抜いて、残りはポーチにしまう。
『おい、何するんだ?』
「古来より、紙は式神にする一番手軽な触媒だろ」
紙に魔力を通して放り投げると紙がパタパタと織り込まれ、あっという間に折り鶴の式神となった。
ぱたぱたと回りを飛び回る式神たちに右腕をすっと伸ばしてやれば、腕を宿り木にしてさっと整列する。
よーしよし、いい子だ。紙で出来ていることそのものが弱点なのだが、それを引いても余る使い勝手のよさがこの式神にはある。本来は火炎を警戒しなければいけないのだが、今回に限っては口を封じられているためその必要もない。
先ほど外した鈴を一羽ずつ咥えさせれば準備オッケー。
「ラバーキン、今からこの子達が竜の気を引いてくれる。その間にあの青年を安全な場所まで下げるぞ」
『待ちな嬢ちゃん。念には念をいれるぞ』
ラバーキンは恐る恐る外套から外に顔を出し、吹き飛んだお陰でミアスマの影響を受けないことを確認すると、俺から飛び降りる。
そして何事かを呟きながら、靴の先でトントンと地面をノックした。
『よし、これでワシ達の気配が薄くなった。だが完全じゃない、わざと騒いだりするなよ?』
「サンキュー、助かるよ」
『なに、一蓮托生よ』
「そうだな。それじゃ行くぞ!」
それっ、と腕を振り、式神たちを飛び立たせる。
それぞれが咥えた鈴がリンリンとけたたましく鳴りながら、式神は竜の元へと飛んでいく。
竜はそれを潰そうと尾を、爪を振るうが、式神はそれをひらりひらりと
『性格悪いな……』
「失礼な。効果的と言って欲しいね」
竜が式神に煽られている隙に、二人してこそこそと青年に近づく。
ドシンドシンと音がしている中で青年は未だ気を失っていた。ちょっとやそっとじゃ起きれないほど危険な状態だということなのか、それとも単に図太いのか。まあ前者だろうな。
青年を仰向けにしてラバーキンに足を持ってもらい、自分は両脇に腕を入れる。
一、二の三で持ち上げようとするも、
「うっ、重い……」
だめだ、全然持ち上がらない。女の子になった弊害だ、素のパワーが足りてない。
ちらりと竜の方を見ると、式神が七体に減っていた。あまり時間はない。
持ち上げるのは諦めて、ずりずりと引きずる。
ああもう、どうしてヒトってこんなに重いんだよ。
何とか竜から離れ、茂みに青年を隠した時には汗びっしょりになっていた。
竜の方は……式神がもう二体しか、あ、落とされた。
残った一体を手元に戻す。竜は相当苛立っていて、尻尾で地面をバシンバシンと叩いている。
「ふう……何とかなったな」
『ああ。だがここからどうする?』
もうじき芭蕉扇の効果も切れる。もう一回できなくはないけど、それをやると俺の魔力はほぼ空っぽになってしまう。
魔法を使うときに周囲の魔力を取り込めるのが魔法使いではあるが、自分の持ち出しがゼロのわけじゃない。特に大規模の魔法や、隣人の力を借りない魔法は、それだけ持ち出しが多くなる。
魔力切れの俺なんて、ただの少女だ。見栄を張ったって微少女止まり。
竜をどうにかするなんて、できるわけがない。
「芭蕉扇の魔法が切れる前に決めるしかないよな」
『手はあるのか?』
「……ラバーキンは?」
『…………ねえな』
「それでどうやって止める気だったのさ……」
『うるせぇ、屍竜が出るなんて予想できるか。人間程度なら何とかする手段はあったが、全部パーだ』
まあそうだよね。
…………仕方がないかぁ。
まさか師匠の元を出て、こんなに早く切り札を切ることになるなんて。知ったら怒るだろうな……いや悲しむか。使うなって、口を酸っぱく言われてたし。
「……ラバーキン、屍竜って生きてるって思う?」
『いいや思わん。動いてようが、恨みという意思を持ってようが、あれは死んだものだ』
「うん、なら
『そりゃ構わんが……何する気だ』
なら、それができるものになる。
そのために────
「ちょっと
ラバーキンと青年から離れ、竜と対峙する。
大丈夫、大丈夫。俺は俺、チセ
芯を失わなければ、自分を見失わなければ、きっと元に戻れる。
大きく深呼吸して、
腕の認識を外し、脚の認識を外し、瞳の認識を外し、ヒトという認識を外す。
年齢も、身長も、体重も。自分を構成するモノを外して外して外して。
そうして最後には、「自分はチセ トモカズである」という柱だけを残して、全てがバラバラになった。
腕は、どんな物でも引き裂ける力強いものを。
脚は、どんな重みをも支えれる強靭なものを。
瞳は、敵を見失わない千里を見通せるものを。
翼は、流星の如き速さで天空を渡れるものを。
かちりかちりと組み上がっていく。
そうだ、俺はチセ
チセ
龍だ。
『■■■■■■■■■■■■ッ!!!』
『な、な、はあああああっ!?』
腕、よし。脚、よし。AGIT■、よし。
うまくいった、今の俺は白龍だ。
これならいける。■には■を、ってやつだ。
『嬢ちゃん、竜人だったんかっ!?』
『違う。ちょっと■■を組み■えた』
視点が高い。当たり前か、龍だ■の。
違う違う、当たり前じゃない。普段はもっと■い。
っ、ダメだ。余計なこと考えるな。
じゃないと■に自己を塗■つぶさ■る。
『■バーキン、下■って■。■き込ん■ゃうかも■れ■いから』
『あん? 何だって?』
くそ、思ったより侵食が早い。
もう長くは喋れない。
『下がって、早く!』
『っ! おう!』
ラバーキンが避■するのを■■している余裕■ない。
身体を沈みこませて力を溜め、地を蹴った。
引き絞っ■弓から放たれた矢の■うに、一直線に屍竜に向かって突■する。
『■■■■■!』
『────ッ!!』
■■かり、組み伏せ、首に噛み付く。
屍竜もただではやられない。■でこちら叩き、振るわれた鉤爪で腕に■に傷を負う。
ゴキリと音がして、確■に首の骨を噛み砕■■。だが屍竜は平然■している。いいや、何も感■て■ない。
『■■なら!』
右腕に力を込め、一閃。
伝説の■■にもなるその爪は屍竜の鱗と■を易々と■■裂き、屍■の右腕■切り飛ば■た。
これで少しは──ッ!
『再■……ッ』
傷口■泡立っ■■と思え■、ズルリ■腕■生え■■た。
『地脈から力を吸ってやがる!? 一撃で消し飛ばせ嬢ちゃん! いくらでも再生するぞ!!』
ああくそ、■■■■ことか■。
なら■■■しかねえ。それにはこの鎖が■■だ。
鎖を■み、■■に■■■ぎる。どうやら■■を■■ぎ止めること■特化■■■■せいか、■■■■と壊れ■。
手には■、繋■■■は■竜。
『■■■■■■』
翼■広げ、飛■■がる。■■は抵抗■■■鎖で■■れ、そ■身体は宙■■浮■た。
五十■■■■ほど■高さで■■■■■、■■■■■■■■■■。
■■■■■■■■■■■■■■■、■■■■■。
■■■■■■■■■、■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
『しっかりしろ!! 負けんじゃねえ!!』
『──っ!!』
あぶねえ、飲まれかけてたっ!
そうだ、俺は白龍じゃねえ。今だけの仮の姿。
さっさと決めて、■に戻る!
身体に絡みついていた屍竜を蹴り飛ばすように引き剥がすと、落ちる屍竜の鎖を掴む。
さあ気分は室伏、狙うは■メダル!
ブォンブォンとハンマー投げのように振り回し、天高く鉛直に屍竜を投げ飛ばす。
反動で俺は地面へと吹っ飛ぶが、好都合。
ズドンと地響きを上げて着地し、天を向いて屍竜を視界に捉える。
『屍竜よ、
大地を両脚で踏みしめ、地脈から力を吸い上げる。
『
腹でそれ溜め込め純化し、
『迷わず進め』
■で指向性を与え、
『■■■■■■■■ッ!!』
天に向かって吠えた。
限界まで開いたアギトのその奥から、
黒い竜巻は弾けとび、天に光の柱が立つ。
屍竜は自ら飛び込むようにして、光に飲まれた。まるで帰る家が見つかった迷子の子供のように。
時間にして数秒にして、ブレスは屍竜を欠片も残さず消し去った。
バチンとアギトを閉じ、ブレスを終わらせる。
『
口の中を火傷しちまった。こりゃお醤油がしみるぞ。
『締まらねえなぁ……』
『いいんだよ下手の方が』
だって慣れてないってことは、本来の姿じゃないってことだろ?
『なあ嬢ちゃん、その姿は一体何なんだ?』
『あー……俺、
それをラハブ師匠が組み立ててくれたお陰でヒトに戻れたのだが、少々失敗して矛盾を抱えたまま組みあがってしまった。
本来ならその矛盾のせいで、また自己がバラバラになるかもしれないという爆弾のようなものなのだが。
『逆に考えれば、矛盾を起点に自己を組み直せるってことじゃん?』
俺がヒトなのは、俺がヒトとして組み上がり、この
じゃあ、俺がヒトではない何かとして組み上がったら?
『ご覧の通り、
『…………なんつう、無茶苦茶な』
『まあ長く変身してそれが当たり前って認識しちゃうと元に戻れなくなるから、正直最後の手段だよね』
というわけで、さっさと元に戻るとするか。
腕を、脚を、鱗を
ヒトとしての姿を、チセ
「──っ、んんっ! あーあー、アメンボ赤いなアイウエオ。ヨシ!」
『お、戻っ……おい』
あれ、なんか違和感……げっ、翼が残ってる!
『何が「ヨシ!」だ。思いっきり失敗してんじゃねえか』
「やっべ! んんっ…………ダメだ、すぐには戻んねえや」
ちょっと急いで自分を組み立てすぎたみたいだ。まだ自分が龍だという認識が残っていた。
ただあまり強い認識じゃないようだから、時間かければ元に戻せる。
『ったく、まあいい。ありがとな嬢ちゃん。お陰でこのミアスマも消えてきた。これで逃げ遅れた仲間たちも助かる』
「そうじゃなきゃ困る。こんなに身体張ったんだから」
発生源が無くなったため、
何だか、ちょっと手伝うだけのつもりが、随分なことに巻き込まれてしまったな。
『礼といっちゃなんだか、最高の靴を作ってやるよ』
「いいのか?」
『むしろやらせてくれ。恩人に何も返せないんじゃレプラコーンが
「じゃあお願いしようかな……あ、でも俺、もうすぐ此処を発つぞ?」
フランスのリール行きの列車に
その後は乗り換えして、ドーバー海峡の街のカレーってとこに向かう。
『何っ!? ワシも連れてけ! もしくは足を置いてけ!』
「足は置いてけねえよ!? まあ、付いて来るなら止めはしないけど」
そういえば、今
ポーチから懐中時計を取り出して確認する。
「っ、五分前じゃねえか!」
『どうした?』
「急げラバーキン、列車が出ちまう!」
『列車って、あの鉄の塊に乗るのかよ!?』
「嫌なら来なくていいぞ」
妖精は鉄が嫌い、というか触ると傷つくから無理する必要ない。
だがラバーキンは嫌そうな顔をしたが、付いてくることに決めたようだ。
ラバーキンから外套とポーチを受け取り、身に付けていく。
翼が邪魔で外套を着るのに手こずっている時だった。
「……うっ、私……は……」
「お、気がついたか青年」
近衛魔術師が目を覚ました。身動ぎをし、ぼんやりとだが目を開ける。
さっと身体を魔法で見るが、魔力が不足している以外、問題なさそうだ。
「ミアスマの元凶は倒した。もう大丈夫だぞ」
「つば、さ? 君……は……」
「俺? そうだな……通りすがりの仮面r『ピイイイイイイィィィ!!』汽笛っ! 走るぞ、ラバーキン!」
『あ、おい、置いてくな!』
じゃっ、と軽く手を上げて青年に別れを告げ、駅へと走る。
遅れ気味のラバーキンは、途中で小脇に抱えた。
認識阻害の魔法をかけて背中の翼を誤魔化し、街を全力疾走。駅に着いた時には列車はもう動き出していた。
走って追いかけ、ホームギリギリのところで飛び乗る。
そんな風に慌てていたから、気付かなかった。
「屍竜を滅する者が居るとは……シュリーフェン・プランを見直すよう進言しなくては」
屍竜を街中に出現させた者の視線と、
「……天使だ…………」
青年が呟いた言葉に。
時代はうねりを上げ、全てを飲み込んでいく。
戦争はもう、
やっと俺つえええできた。
あらすじ未達を解消できて満足。
エリアスとチセに早く絡みてえ。主人公と絡まないとかまほ嫁二次名乗っていいのか不安になる。
「そのとき不思議なことが起こった!!」で百年後にならないかな……