思えばすでに予兆はあったのだろう。
今日の号外は一面でハリー・ポッターがグリンゴッツに侵入したニュースを伝えていた。
「ついに銀行強盗に走ってしまったか」
アルバートがラッセルに新聞を渡しながら言った。
「これで立派な犯罪者だな。しかし新聞によると金庫からは何も盗んでないそうじゃないか。せいぜいグリンゴッツのドラゴンくらいか? いったい何がしたかったんだろうな」
ラッセルは当然の疑問を言った。しかしこの新聞だけでは分からない。新聞は正しいことは載せないからだ。特に死喰い人絡みのことは。
「あとで部屋に戻ったらラジオでも聞こうぜ。何か分かるかも」
僕が言うと二人は深くうなずいた。
夜になって三人一緒に寝室でラジオを聞いたが、新聞と同じようなことしか伝えていなかった。どうやらポッターウォッチのメンバーでもハリー・ポッターの目的は分からなかったようだ。僕は少し失望してパジャマに着替えようとした。
「静かにしろ」
アルバートがあたりを見回しながら鋭く言った。もうラジオはとっくに消したはずだ。
「どうしたんだ?」
アルバートがドアに耳を当て始めたので僕は聞いた。
「なんだか下が騒がしい。それにアレクトの声が聞こえたかも」
「まさか!」
アレクトがレイブンクローの寮にいったいどんな用があるというのだろう。僕はパジャマを放り出してドアに耳を当てた。しかしよく聞こえない。
僕たちはドアをそっと開けて石階段を下に降りていった。他のレイブンクロー生も下の騒動を聞きつけたらしく、バタバタと出てきた。
談話室に続くドアを開けると濃紺の絨毯の上にアレクトが気を失って倒れていた。僕たちは状況が飲み込めず恐る恐るアレクトを取り囲んだ。これからどうすれば良いのか。指示を出すべき上級生は姿を消している。
「死んでるかもしれないよ!」
無邪気な一年生がアレクトの尻を小突いた。
「バカ、やめとけ」
ラッセルがあわててやめさせた。とは言え、このまま放置しておくわけにもいかない。
「どうする? フリットウィック先生を呼びに行くか?」
僕はラッセルに聞いた。今この状況で指示を出すべきなのは監督生である彼だった。
「そうだな。よし、それじゃ——」
ラッセルが指示を出そうとしたその時、談話室のドアが激しく叩かれた。怒鳴り声も聞こえる。僕たちレイブンクロー生はいっせいに凍りついた。
「アレクト! あいつを捕まえたのか? ドアを開けろ!」
アミカスだ。奴がこの有様を見たらどう思うだろうか。どう考えたって好意的に解釈してくれるとは思えない。
頑なに開かないドアに腹を立てているらしく、アミカスは呪文を放ったり、大声で喚きながら力のあらん限りドアを揺すぶっている。
アミカスが立ち往生している間にぼくたちは下級生たちを寝室へ追い立てた。
「カロー先生、何をなさっておいでですか?」
今度はマクゴナガル先生の声が聞こえてきた。そしてアミカスとの押し問答が始まった。といってもマクゴナガル先生は極めて落ち着いていて、アミカスをまるで相手にしていない。彼女がいるなら最悪の状況にはならないだろう。
談話室に残ったのが僕たち三人だけになったとき、アミカスが部屋に飛び込んできた。僕たちはあわてて階段へ走って隠れた。談話室の様子をうかがうためにドアは少しだけ開けておいた。
アミカスは完全に頭に血が上っているらしく、叫び声を上げている。
「ガキどもが妹を殺しやがった!」
「勝手に倒れていたんだよ、馬鹿野郎」
アルバートがぼそりと毒づいた。案の定アミカスは僕たちレイブンクロー生のせいだと思っている。幸いなことにアレクトを調べたマクゴナガル先生がその誤解を解いてくれた。
アミカスとマクゴナガル先生のやりとりはまだ続いた。僕たちはその内容を逃さないように息をひそめて一部始終をのぞき、そして聞いた。
アミカスがマクゴナガル先生に唾を吐きかけたとき、事態は動いた。
「してはならないことを、やってしまったな」
ハリー・ポッターが突如現れてアミカスに磔の呪文をかけた。呪文による苦痛でアミカスは気を失い、床に倒れた。ラッセルが歓喜の声を小さく上げた。いい気味だ。
「マクゴナガル先生、ヴォルデモートがやって来ます」
ハリー・ポッターは落ち着いて言った。
「あら、もうその名前を言ってもいいの?」
ルーナ・ラブグッドがポッターに続いて現れた。
「ラブグッドだ! 生きていたんだ」
アルバートが驚きながらも声をひそめるのは忘れずに言った。そして僕はアレクトがなぜ談話室に倒れていたのかようやく分かった。この二人の仕業だったのだ。
どういうわけかアレクトはハリー・ポッターがここに来ると思って待ち伏せしていたらしい。アレクトの読みどおり、ハリー・ポッターはやってきて彼女はぶちのめされた、ということらしい。
そして今まさに、例のあの人がホグワーツに近づいている——多くの死喰い人を引き連れて。
ドアの向こうの三人は生徒を避難させることに意見を一致させると談話室を出て行った。
僕たちはドアを開けて談話室に入った。
「汚ねえインテリアだな、おい」
アルバートが天井を見て言った。青と金色の天井からカロー兄妹がぶら下げられている。マクゴナガル先生の作品だが、いかんせん素材が良くない。醜いことこの上ない。
「そんなこと言ってる場合じゃないぞ。早く寮のみんなを大広間に連れて行かないと」
ラッセルの言うことももっともなので僕たちは寝室へ続く階段をのぼっていった。
二十分後、僕たちは大広間に集まってマクゴナガル先生の話を聞いていた。フィルチとマダム・ポンフリーが避難の監督をとること、成人に達したものは城に残って戦っても良いことが手短に伝えられた。
「……みなさん、迅速かつ静かに移動するように。そして監督生の言うとおりに——」
マクゴナガル先生の言葉は突如響いた別の声にかき消された。聞くものを恐怖に陥れる声だった。
「お前たちが、戦う準備をしているのは分かっている」
例のあの人の要求は一つだった。
「ハリー・ポッターを差し出せ。そうすれば、お前たちは報われる」
大広間中の目という目がハリー・ポッターを見た。だが、ただ一人を除いて誰も彼を差し出そうとはしなかった。みんながその愚かな一人に向かって立ちはだかった。もちろん、僕も、アルバートも、ラッセルもそうした。それが正しいことで、そうしなければ僕たちの生き残る道は失われてしまうと思った。
「では出ておいきなさい。ミス・パーキンソン。スリザリン生は、その後に続いて出ていきなさい」
マクゴナガル先生の声を合図にゾロゾロとスリザリン生が大広間から出ていった。
「レイブンクロー生、続いて!」
生徒たちは列をなして出ていった。しかし、僕たち三人は残った。アルバートとラッセルなら残るだろうと僕は思っていた。きっと二人も同じようなことを考えているだろう。三人で互いに顔を見て笑い出した。
「三人一緒なら心配ないな」
僕がそう言うと、アルバートもラッセルもうなずいた。そして指示を受けるためにキングズリーと名乗る指導者がいる壇の方へ行こうとした。たが、思わぬ声に引き止められた。
「兄さん!」
振り向くとエレナが立っていた。隣には眼鏡をかけた少女がいた。
「エレナ、どうしたんだ?」
早く指示を受けに行きたかったが、エレナが腕を掴んで離してくれなかった。
「ポール、俺たちが指示を聞いてくるからちゃんと話してこい」
アルバートはそう言うとラッセルと壇の方へ人をかき分けて行った。
「兄さん、どうして逃げないの? ここにいたら危ないんでしょう?」
エレナは僕の腕をしっかりと握って言った。まるで僕がその手を振りほどいて行ってしまうのを恐れているかのようだ。僕はエレナを安心させるためになるべく落ち着いた声でゆっくりと話しかけた。
「エレナ、よく聞いて。僕はここに残って戦うことにしたんだ。だからここにいる。エレナの言うとおり、ここは危険だから早く逃げなさい」
「だめよ。兄さんがここにいるなら私も残って戦うわ」
エレナが顔を僕の胸に寄せて言った。みんなに見られていないか僕はひやひやした。
「そんなことしたら僕が義母さんに恨まれるよ! 君のことを頼まれているのに!」
「私だって母さんや義父さんに、兄さんのことを頼まれていたわ! 兄さんが危ないことに首を突っ込まないようにって!」
それを聞いて僕は胸に熱いものがこみ上げてくるのを感じた。
そして僕はエレナをここから逃すために卑怯な手を使った。
「エレナ、君は監督生だ。未成年の監督生は避難の指揮をとらなければならないのになぜここにいる? 僕は僕のやるべきことをやる。エレナも、エレナのやるべきことをやりなさい」
責任感の強いエレナならこう言えば逆らえないことは分かっていた。僕はエレナを抱きしめてやった。エレナは泣いているようですすり上げる音が聞こえた。
「分かったわ。私も私のやるべきことをやるわ」
しばらくするとエレナが僕の腕をほどいて言った。涙を拭って見つめてくる、その強い意志をたたえた瞳は初めて会ったときから僕の大好きなものだった。もう大丈夫だ、僕はそう判断し、静かに待っていてくれた眼鏡の少女に話しかけた。
「君、レイチェルだね。エレナからよく聞いているよ。エレナのことをよろしく頼むね」
レイチェルはこくりとうなずいた。
「それからエレナ。僕を兄と慕ってくれてありがとう。君が兄と慕ってくれたから、僕は君の兄でいられた」
エレナは今度は泣かなかった。ただ、涙で目を潤ませながら何度もうなずいた。
「兄さん、どうか無事で」
それだけ言うとエレナはレイチェルと急いで大広間を出ていった。
「ごめん、待たせて」
僕が二人のところに戻ったとき、話し合いはとっくに終わっていた。
「気にすんな。それより俺たちの配置が決まった」
アルバートが手を振りながら言った。
「俺たちは校庭で防衛するグループに入れられた。リーダーはな、喜べ、ルーピン先生だ」
「ルーピン先生が? 本当に?」
まさかルーピン先生がここに来てくれているなんて。とても心強かった。
「本当さ。ほら、こっちに来るぜ」
ラッセルの言うとおりルーピン先生が僕たちの方へ近づいて話しかけてきた。
「久しぶり。バウマー君、カチンスキー君、ミュラー君だね。覚えてくれているかな?」
「もちろんです。ルーピン先生。お会いできて嬉しいです」
僕が握手を求めるとルーピン先生は応じて手を握った。そして僕はその声を最近聞いたことに気がついた。
「あの、もしかしてポッターウォッチでロムルスを名乗っていませんか?」
「ああ、そうだよ。君たちも聞いてくれていたんだね。いかにも、私はロムルスだよ。ちなみにあっちの——」ルーピン先生がマクゴナガル先生と話している男を指さした。「——キングズリーと言うんだがね、彼がロイヤルだ。私たち不死鳥の騎士団のリーダーだ」
「そうだったんですね。彼が……」
キングズリーがまた壇に上がって話しはじめた。さっきは気づかなかったが、その声は確かにポッターウォッチで聞いたものだった。
「もうすぐ戦いが始まる。みんな各自の持ち場へ! 解散!」
戦いが始まる真夜中まであと数分——僕はこれまでの人生を振り返ろうとした。しかし、たった十七年の人生で特別振り返るようなことがあるだろうか?
僕の思考はすぐに打ち切られた。死喰い人たちが城にかけられた保護の呪文を打ち破り、敷地に入ってきた。
芝生を踏みにじって歩いてくる死喰い人の一人がつまずいて転んだ。あらかじめ草結びの呪いをかけておいたところにまんまと引っかかったのだ。僕はそれを見逃さず、失神呪文を胸の真ん中に当ててやった。
アルバートはオパグノで大量の鳥をけしかけ、もがいている死喰い人たちに一人ずつ失神呪文を放っていた。
「やるじゃないか、アルバート!」
僕が褒めるとアルバートはニヤリと笑って親指を上げた。
「おい、戦っているんだぞ! よそ見するな!」
ラッセルがアルバートに呪いをかけようとした死喰いを失神させて言った。
お礼を言いきらないうちにラッセルは次の敵を見つけて走っていった。
「コフリンゴ!」
眼鏡をかけた敵にラッセルは爆発呪文を放った。敵はレンズの破片が目に入ったらしく杖を落として手を目に当てている。
「目が! 目がー!」
敵がそう喚いているのも気にかけずラッセルはきっちりと胸の真ん中に失神呪文を当てた。
僕はこっそりと相手に同情し、ラッセルの的確に目を潰そうとする意思におののいた。こいつは敵に回すまい、僕は誓った。
敵は片付いた。第一波を僕たちは防ぎきった。
「すぐに第二波が来るだろうから、気を抜かないように!」
ルーピン先生の言うとおりそれはすぐにやってきた。先程とは比べものにならないくらいの仲間を率いてやってきた。その数は実に僕たちの三倍はあった。
それでも僕たちはよく戦った。戦線を突破されないようにジリジリと後退した。そこに均衡を大きく崩すものが現れた。巨人が禁じられた森から現れた。
「逃げろ!」
誰かがそう叫ぶまでもなくみんないっせいに散らばった。
悲鳴の上がった方を見ると、今まさにラッセルが巨人の足に踏みつぶされたところだった。
ラッセルは運の悪いことに巨人の進行方向にいたらしい。巨人が再び足を上げたとき、ラッセルがいたところは血だまりになっていた。
そばに寄って息があるか確かめようとしたが、すぐにその必要はないと分かった。ラッセルの頭はスイカのように割れて中身を出していた。顔もぐしゃぐしゃにつぶされていて、たとえ彼の母親であっても教えてもらわなければラッセルとは分からないほどだった。
「城に入るんだ! 早く!」
ルーピン先生の指示に従って僕たちは城まで後退した。戦線に穴を開けてはならない。たとえ友人が死のうとも。
城に入っても戦いは激しさを増していった。敵は倒してもまた新たに湧いてきた。一方、脱落する仲間は増えるばかりだった。
アルバートはドロホフという死喰い人に脚を負傷させられた。傷は深く、エピスキーでも治すことができなかった。
僕はドロホフにやり返そうとしたが、ルーピン先生に止められた。
「ドロホフは強力な死喰い人だから、ここは私に任せてカチンスキー君を手当てに連れて行きなさい」
アルバートはまだ戦えると反論したが、ここにいても足手まといでいずれ無駄に死ぬだけだと説得されてあきらめた。
僕の方はまだためらっていたが、援兵が来たのでそちらに譲ることにした。
アルバートはそれほど重くないので僕は背中に担いで大広間まで連れて行くことにした。
大広間までの道のりは遠かった。その上あちこちから呪文が飛んでくるのでいちいち屈んだりしなければならなかった。それでも僕はできるだけ早く歩いた。アルバートの出血はいよいよ激しくなっていた。
「ごめんな、痛かっただろう?」
飛んできた呪文で甲冑が粉々に砕け、その破片を避けるために身を伏せたときに僕はアルバートに言った。
「ああ。でも、もう十分痛いんだからそう変わらねえよ」
アルバートは脂汗をにじませながら言った。顔色は青い。僕は早く大広間に連れて行くためにアルバートを担ぎなおした。
「ポール、一昨日はああ言ったけどな、お前才能あるよ」
アルバートが唐突に言い出した。
「なんだよ、急に。気持ち悪いぞ」
一昨日はあんなに散々に言っていたくせにこうも意見を変えるとは。痛みで頭がおかしくなったのだろうか。
「ラッセルも言ってたよ。お前は才能があるんだ。絶対に書き続けろよ」
僕が動くたびにアルバートは小さく悲鳴を上げながら言った。
「分かったからもう寝とけ。そしたら目が覚めたら治療は終わっているだろ」
僕が言うとアルバートは今度は本当に眠ったらしく、僕が呪文の光線を避けるたびに痛みでうめくことはなくなった。
何度もつまずきながら僕は大広間までの道のりを歩いていった。
ようやく大広間についたとき、僕はようやく安心した。アルバートを起こさないようになるべく優しく床に寝かせた。
僕の足はひどく震えていたが、とても満足していた。アルバートを傷をつけることなくここまで連れてくることができたのだ。
大広間にはすでに多くのけが人がいた。その間を縫うようにマダム・ポンフリーはかけまわっていた。
「マダム! けが人です。足をやられています」
僕がマダム・ポンフリーを呼ぶと、彼女はこちらに走ってきてアルバートを眺めた。しかし治療を始めようとしない。
「マダム・ポンフリー、早く治してやって下さい」
僕は急かしたが、彼女は気の毒そうな顔をして首を横に振るだけだった。
「マダム? 早く——」
「残念ながら、お亡くなりになっています」
僕は彼女の言う意味が分からなかった。アルバートに目を向けた。アルバートはピクリとも動かない。
「違う、眠っているんです」
「いいえ、死んでいます」
彼女は痛ましそうな顔をしながら、しかしきっぱりと言い切った。
「そんなはずはありません。さっきまで僕はこいつを話していたんです。今は寝ているだけなんです。——おい、アルバート、起きろよ」
僕はアルバートを抱き起こそうとした。すると手にぬるりとしたものを感じた。僕は頭の下から手を抜いて見た。
「これは——」
血だ。僕の手にアルバートの血がべっとりとついていた。大広間に来る途中で僕の知らないうちに金属の破片がアルバートの頭に穴を開けていたのだ。その穴はごく小さなものだったが、それでもアルバートが死ぬには十分なものだった。
マダム・ポンフリーは僕の肩に手を置くと、新しいけが人の治療をしに慌ただしげに行った。
「……アルバート、君も逝ってしまったか」
天井を仰ぎ見ると星が瞬いていた。まだ夜中だ。夜が明けるまでにはまだ時間がかかるだろう。火の消えかかったロウソクが見えた。これらはいつも通りの光景であり、なんの感慨も湧かない。ただ僕の友人、アルバート・カチンスキーが死んだだけである。
ただ、それだけだ。
僕の友達はみんなもうホグワーツにはいない。残ったのは僕一人きりだ。この戦いが終わったあと、僕にはいったい何が残っているだろう。果たしてこの先の世界に順応していけるだろうか。上手くやっていく者もいるだろうが、途方に暮れてそのまま滅びていく者も多いだろう。それほどまでに僕たちはこの戦いですり潰されてしまった。
もしかしたら僕のこの懸念は杞憂に終わるかもしれない。けれども僕が経験してきたことはこれからも生々しく身体が覚えているだろう。それで良いのだ。
僕は立ち上がって大広間を出た。
僕はまだ歩ける。僕はこれからも何物にも邪魔をされずに自分の足で歩いて行くのだ。たとえそこに希望は無くとも、僕は前へ進んで行く。僕は生きているのだから。
ここまで書いてきたポール・バウマー君もついに戦死した。
発見された時、バウマー君はうつぶせになって寝ているように転がっていた。ひっくり返してみるとその顔は極めて穏やかで、あたかもこのような最期を迎えたことに満足しているようだった。
1998年5月2日、その日ホグワーツにおいて発生したハリー・ポッターが率いる勢力とヴォルデモート卿が率いる勢力の衝突は、ハリー・ポッターの側が勝利して終わった。この出来事は歴史に残され、次の世代の人々に語り継がれていく。
しかしこの戦いで失われた多くの人々と同様に、ポール・バウマーという名前が歴史に刻まれるような時はとこしえに来ないだろう。
『僕たちは生きている』 終
ここまでお付き合い頂きありがとうございました。