閃の軌跡~軌跡の刃~ 作:兄上、お労しい
翌朝、日が昇る少し前にエルドは目を覚まし、隣のベッドで眠るリィンを起こす。
「リィン、起きてくれ」
「ん?エルドか……おはよう。こんな時間にどうした?」
「少し、走り込みをしないか?夜明け前だから、涼しくて快適だぞ」
「………そうだな。折角だし、付き合うよ」
リィンはベッドから抜け出すと、軽装になりエルドと宿屋を出る。
「ふぅ……やっぱ走るのは気持ちがいいな」
軽く汗をぬぐいながら、エルドはリィンに話しかける。
「ああ、本当だな。………なぁ、エルド。話は何だ?」
「………やっぱり、分かっちゃうか」
エルドは観念し、リィンに昨夜のことを話した。
「やっぱり聞かれてたのか」
「すまない。盗み聞きするつもりはなかったんだが、つい聞こえてさ」
「いや、いいさ。エルドもすまなかった。俺が初伝止まりだって隠してて」
「……リィン、俺は別に怒ってないし、謝ってほしいとも思ってないぞ」
「え?」
エルドは荷物から飲み水を取り出し、リィンに渡しながら話す。
「確かにリィンはユン老師から初伝を与えられて、修行を打ち切られたかもしれない。でも、だからって、ユン老師がリィンを見限ったわけじゃないだろ?」
「それは………」
「もし、見限ってるなら初伝なんか渡さず、早々に破門してるかもしれないだろ?でも、老師はリィンに初伝を渡した。それはきっと、リィンなら、今の限界を超えてその先に進めると信じたからこそ、初伝を与えたんじゃないか?」
エルドがそう言うと、リィンは驚いた表情をする。
「リィン、俺もお前もまだまだ未熟だ。未熟だからこそ、まだ未来がある。一人では無理でも、仲間と一緒に超えられる壁もあると思う。だからさ、リィン。一緒に強くなろう」
「………ああ、そうだな。エルド、これからもよろしく頼むよ」
「ああ」
走り込みを終えた二人は、宿屋に戻り、既に起きていたメンバーと合流した。
合流し、朝食を摂った後、封筒を受け取った。
受け取った後、リィンはラウラへと向き合った。
「ラウラ、昨日はすまなかった」
「何のことだ?そなた自身の問題故、私に誤る必要はないと言ったはずだが?」
「いや、そうじゃない。謝ったのは、“剣の道”を軽んじる言葉を言ったことだ。『初伝止まり』なんて、考えてみれば失礼な言葉だ。老師にも、《八葉一刀流》にも、“剣の道”そのものに対しても。それを軽んじたことだけは、せめて謝らせて欲しいんだ」
リィンがそう言うと、ラウラは少し間を開けて言う。
「………一つ抜けている。そなたの事情は知らぬが、身分や立場に関係なく、どんな人間も誇り高く荒れると私は信じている。ならばそなたは、そなた自身を軽んじたことを恥じるべきだろう。………リィン、そなたは“剣の道”は好きか?」
「……好きとか嫌いとか、そう言う問題じゃない。あって当たり前。俺の一部だ」
「そうか」
リィンの答えに、ラウラは満足したのか笑みを浮かべた。
「よく分からないけど、仲直りしたってことでいいんだよね?」
「別に仲違いしてたわけじゃないけど……」
「うむ、そうだな」
「何よ、二人だけ分かった顔して」
「でもまぁ、これで今日も無事実習に挑めるだろ。リィン、今日の依頼内容は何だ?」
「ああ、早速確認しよう」
リィンが渡された封筒を開けて、中身を確認しようとした瞬間だった。
「女将さーん!大変大変!」
店の従業員の女性が店に飛び込んで来た。
「なんだい?朝っぱらから騒々しいねぇ」
「大市の方で事件ですよ!」
「事件……?また場所の取り合いか?」
「じ、実は昨日揉めていた二人の屋台が夜の間にバラバラに壊されちゃって、商品も盗まれたって……」
その言葉を聞き、エルドたちは驚く。
全員で顔を見合い、頷き、大市の方へと向かった。
大市に向かうと、昨日の二人がまた怒鳴り合っていた。
「君がやったんだろ!この卑しい田舎商人め!正直に白状したらどうなんだ!」
「なんだと!?この帝都の成金め!そっちこそ、この場所を独り占めにしようとしたんだろ!」
「二人とも、落ち着くのじゃ!」
オットーがなんとか仲裁しようとしているが、二人は完全に頭に血が昇って歯止めの効かない状態だった。
「リィン、このままじゃ流血沙汰になる!」
「ああ、止めるぞ!」
エルドとリィンは飛び出し、二人の間に割って入る。
「待ってください!」
「おお、お前さんたち……!」
「また君たちか!?」
「口を出すな!屋台の仇を取るんだ!」
屋台は酷い壊され方をしており、今日明日でなんとかなるような状態ではなった。
「だが、相手を殴ったところで壊された屋台も盗まれた商品も戻ってくるわけではないだろう」
「うるせぇ!こうでもしねぇと、気が収まらねぇんだよ!こっちは商品盗まれて、商売上がったりなんだよ!」
「何をぬけぬけと!それも君がやったことだろ!」
「なんだと!?」
「そこまでだ」
今にも殴り合いになりそうな時、一つの声が響く。
そこには軍とは違う軍服を着た男と、同じ軍服を着た導力銃で武装した数人の男たちだった。
「領邦軍か」
アルバレア公が所有する領邦軍が現れた。
だが、領邦軍は、増税に対する陳情を取り消すまで大市へ不干渉を貫くと仄めかしていたにも拘らず現れ、そのことにエルド達は不信感を感じた。
領邦軍の隊長は、何が起きたかは聞くと、頷き、そして、大声を上げる。
「この者たちを連行しろ!」
「なっ!?」
「ど、どうして!?」
「いがみ合う者同士が、同時に同じ事件を起こした。そう考えれば辻褄はあうだろ?これ以上、騒ぎ立てる様であれば、そのような処置を執らざるを得ないということだ」
その一言が決め手となり、二人の商人には、大人しく引き下がった。
「ふん、それでよい。今後、あまりトラブルを起こさぬよう、気を付けるのだな」
そう言い残し、領邦軍は去っていった。
その後、オットーの呼びかけにより、壊れた屋台の片付けを行い、遅れながらもその日の大市は開かれた。
エルドたちは再びオットーの自宅に招かれ、このような状態が続いていることを知った。
それを知り、リィンはこの事件の捜査を刺せて貰うように、進言した。
オットーは、これは大市の問題だからと断ったが、“そういう判断も含めての特別実習”であると伝えると、捜査を許可してくれた。
「さて、捜査をする以上、生半可な結果で終わらせれないな」
「ああ。それに、捜査だけやって他の依頼をできなかったってのもダメだ」
「全てを熟してこその実習、と言うわけだな」
「そうだ。取り合えず、ここにある依頼を一通り終わらせてから、捜査をしよう」
「なら、二手に分かれよう。幸い、依頼も二つだ」
内容は、魔獣の討伐と、財布の落とし主の捜索。
そこで、エルドは二手に分かれて早急に片付けることを提案した
「落とし主の捜索は、俺とエリオットの二人で、リィンは、アリサとラウラを連れて魔獣の討伐。リィンとラウラ、そこにアリサの援護が加われば魔獣ぐらいならすぐに倒せるはずだ。落とし主の捜索ぐらいなら、二人も居れば十分だろう。どうだ?」
「ああ、構わない」
「それじゃあ、始めよう」
リィンたちが魔獣の盗伐に行くのを見送ると、エルドとエリオットは財布の落とし主探しを始める。
幸いにも、目撃者が多くすぐに落とし主は見つかった。
早く見つかったため、リィンたちはまだ帰ってきておらず、エルドとエリオットは、事件について町で聞き込みをした。
そして、リィンたちが戻ってくる頃には、ちょうど聞き込みが終わった。
「悪いな、二人とも。捜査のほとんどを任せちゃって」
「いや、魔獣討伐してきたリィンたちに比べれば、大したことじゃない。それより、時間が惜しい。早速だが、聞き込みで分かったことを話す」
聞き込みの結果、領邦軍は事件の被害者についてよく調べていたことがわかった。
「それのどこかおかしいの?」
「事件が発覚したのは今朝。そして、連中はロクな捜査もしなかった。なのに、奴らは装飾品を扱っているのは帝都から来た商人だったのを知ってた」
「なるほど。ロクな捜査もしてないなら、そんなこと知ってるはずがないってことか」
「ああ。もっとも、エリオットが機転を利かせて質問してくれたからわかったことだ。エリオットのおかげだ」
「でも、何故そのようなことを」
全員で頭を悩ませていると、エリオットが口を開く。
「……下準備のためじゃないかな」
「え?」
「商人たちの許可書の出店場所が同じだったのは偶然じゃない。いがみ合わせて、事件を起こさせ、そして、ほとぼりの冷めないうちに、さらに事件を起こす」
「そうか。事件が起きれば騒ぎになる。だが、その騒ぎを止める領邦軍は大市には不干渉」
「“増税取り消しの陳情”が取り下げるまではな」
「あのタイミングで現れたのも、事件を強引とはいえ、収めることで領邦軍の存在をアピールした」
「つまり、あの二人は利用されたってことね」
真実はともかくとして、これで辻褄は合う。
「実行犯は領邦軍にはいないだろう。プライドの高い領邦軍が自らの手を汚してまで、するのは考えにくい」
「じゃあ、もう実行犯は遠くに逃げてるんじゃ」
「いや、それはないだろう」
アリサの言葉を、リィンはそう言って否定する。
「盗まれたものはそれなりに多い。それを一気に持って逃げるのは難しいだろうし、仮に無理やりしたとしても目立つ」
「なら、この近辺に潜伏して、ほとぼりが冷めたころに持ち出す。そういった考えだろう」
「この近辺で隠れられる場所って言うと…………」
「ルナリア自然公園。あそこなら、隠れる場所は多いだろう」
「そう言えば、聞き込みしたとき、最近、公園の管理人が変わったって言ってたよね」
「なるほど。これですべての辻褄は合う」
「よし、公園に行こう」
全員でルナリア自然公園まで向かうと、公園の門は南京錠で固く閉ざされていた。
その時、門の近くである物を拾った。
「エリオット、これを見てくれ」
「それって、装飾品!?」
「本当か?」
「ああ。俺もエリオットも、帝都の商人からサンプルの装飾品を見せてもらった。間違いないだろう」
「じゃあ、この先に事件の犯人が………」
「でも、門には鍵が掛かってるわよ」
「ふむ、少々強引だが、破壊させてもらおう」
ラウラが大剣を出し、南京錠を破壊しようとする。
「待ってくれ、ラウラ。ここは俺にやろう。大剣で破壊するよりは静かに壊せるはずだ」
「ほう……では任せよう」
ラウラは剣を収め、リィンに譲る。
リィンは刀に手をかけ、目を閉じる。
集中し、そして、目を一気に見開くと同時に、刀を目にもとまらぬ速さで抜く。
キンッ!っと小さな金属音が響き、少し時間をおいて、南京錠は音もなく、壊れた。
その光景にアリサとエリオットは眼を見開き、驚いていた。
「うむ。八葉の妙技、見せてもらったぞ」
「はは、初伝クラスの技だけどな」
「初伝と言えどもリィンの腕があってこそだろ」
「そう言われると嬉しい反面、少し照れ臭いな……とにかく、時間が惜しい。犯人たちの追跡を始めよう」
公園に入ると、自然公園の名にふさわしく、自然で溢れていた。
その暗さから潜伏するには打って付けだった。
しばらく公園の中を進むと、男たちの話声が聞こえる。
気配を殺し、全員でゆっくり近づく。
そこでは管理人の格好をした男四人が、沢山の箱を囲んでいた。
「やはりいたか」
「よし、行くぞ」
「ええ、戦うの!?」
エリオットは戦うとは思っていなかったのか、驚く。
「証拠を持ってた所で、領邦軍は奴らと繋がっている。かと言って軍に行っても来るまでに時間がかかる。なら、俺たちで戦うべきだ」
「うむ、私も賛成だ。このまま時間をかけても、逃げるまでの時間を相手に与えるだけだ」
「そうね。“そういう判断も含めての特別実習”だもの。行きましょう!」
「うう……ちょっと怖いけど、わかったよ。僕も戦う」
「全員覚悟はできてるみたいだな」
「ああ、皆、行くぞ!」
全員が武器を構え、一斉に飛び出す。
「な、なんだ貴様らは!?」
「が、学生だと!?」
「馬鹿な!門には鍵が掛けられてたはず……!」
男たちは狼狽えながらも、小銃を構える。
「トールズ士官学院特科クラスⅦ組A班!」
「特別実習を開始する!」