閃の軌跡~軌跡の刃~ 作:兄上、お労しい
「どうか!どうか指輪を探してきてください!」
そう言って、エルドの前で頭を下げて頼み込むのは、一人の男性だった。
実習開始直後、エルドの提案により指輪探しとモデル探しは二手に分かれて熟すことになった。
エルドとエリオット、ラウラの三人は指輪探しを、ガイウスとアリサの二人がモデル探しををすることになり、エルド達は依頼のあった宿屋へと向かった。
「事情は分かりました。とりあえず、指輪をなくしたことに気づいたのはいつですか?」
「そ、それが……昨晩は友人と飲んでて、それで、酷く酔ってしまったみたいで昨夜のことをあまり覚えていないんだ」
「分かる範囲で構わないので」
「そうだな………」
男性は腕を組み、首を傾げる。
「たしか、友人と飲んでて、酔い過ぎたから酔いを醒まそうと思って宿を出たんだ」
男性は昨晩の事を思い出しながら、少しずつ語る。
「人もほとんどいなくて、夜空が綺麗だなって思いながら聖堂広場に向かって歩いて、その後、確か教会前のベンチに座って、暫く夜風に当たってたんだ」
「その時、指輪は?」
「う~ん……どうだったかな?付けてた様な、付けて無かった様な…………」
「そうですか………その後は?」
「夜風が寒かったからすぐに宿屋に戻ったよ。確か、貴族街の方を回ったかな。そして、そのまま自分の部屋に行って、そのままベッドに倒れ込むように寝たんだ。で、起きたら指輪が…………ああ!妻になんて言い訳したら!」
「とりあえず、分かりました。自分たちは外を探すので、もう一度部屋の中を探してもらっていいですか?」
「あ、ああ!よろしく頼むよ!」
部屋を男性に任せて、エルド達は街を出る。
「とりあえず、まずは聖堂広場に向かって、そこで指輪を探そう」
エルドの提案で、聖堂広場へと向かう、指輪を探し回る。
聖堂広場にはいくつもベンチがあり、そこから探すのは少し骨が折れると思い、三人は手分けしてベンチ周辺を探す。
「エリオット、ラウラ。そっちはどうだ?」
「ううん、指輪は見つからなかったよ」
「こちらもだ。もしや、誰か拾ったのではないか?」
「その可能性は否定できないな」
とりあえず、聞き込みもすることになり、聖堂広場にいる人たちに話を聞くも、誰も指輪らしきものを見た者はいなかった。
「エルド、どうする?」
「う~ん、これだけないとなるとやはり誰かに拾われた可能性が高いな」
「一度宿屋に戻ってみてはどうだ?もしかしたら、部屋で見つかった可能性もある」
「そうだな。ここにない以上、一度情報整理の為にも宿屋に戻る必要があるな」
ひとまず宿屋に戻ることにし、エルドたちは貴族街を経由して宿屋に戻る。
宿屋に着くと、依頼人の男性が酷く落ち込んだ様子で居た。
「あ、皆さん!どうでした?」
男性の反応から、部屋に指輪はなかったんだと思い、エルド達は結果を伝えた。
「聖堂広場前のベンチを隈なく探しましたが、指輪は見つかりませんでした。念のために、聞き込みもしましたが、誰も指輪を見ていないと」
「そうですか……はぁ……妻になんと説明すれば………」
「お~い、そろそろ出発時間だぞ?出られるか?」
すると、そこに男性の友人が現れた。
「ああ……もう時間か。分かった、すぐに荷物を持ってくるよ」
「おお。それで、この学生さんたちは?」
「自分たちは、トールズ士官学院の者です。実は……」
エルドは自分たちがここにいる理由を説明する。
「指輪探し?もしかして、お前の結婚指輪か?」
「そうだけど……何か知ってるのか!?」
「いや、知ってるも何も、俺が持ってるし」
「…………え?」
「忘れたのか?」
友人の話をまとめると、昨晩、二人で酒を飲んだ時、男性が酔い覚ましで外に出ようとした時に、指輪を落とさないように外し、友人に預けたそうだ。
で、そのまま男性は帰って早々に部屋で寝てしまい、友人は指輪を渡すタイミングがなく、そのまま就寝。
指輪は後で返そうと思ってたそうだ。
「その、御迷惑をおかけしました………」
「いえいえ、指輪が見つかって良かったです。でも、これからは飲む量に気を付けてください」
「はい、以後気を付けます。本当にありがとうございました」
男性は深々と頭を下げ、友人と一緒に帰って行った。
「なんとも人騒がせな依頼であったな」
「まぁ、無事に見つかって良かったよ」
「とりあえず、ガイウスたちと合流してモデル探しの依頼の様子を聞こう」
「エルド!エリオットにラウラ!」
ガイウスたちを探そうとすると、声を掛けられエルド達が振り向く。
そこには、ガイウスとアリサが居た。
「ガイウスにアリサ!」
「そちらも片付いたのか?」
「ええ。ちょうどいい絵のモデルの人が見つかったのよ」
「依頼人も満足そうだった。絵に関して、俺は素人だがあれほどのモデルならいい絵が描けるだろう」
「へ~、そうなんだ。どんな人だったの?」
「凄く綺麗な人よ。確か、袴って言う東方の服を着てたわ」
「紫色の瞳と、蝶の髪飾りも特徴的だったな」
「え?」
モデルになった人の特徴を聞き、エルドは思わずそう声を漏らした。
「ん?どうかしたのか?」
「い、いや!なんでもないぞ!それより、残りの依頼を片付けよう」
エルドは誤魔化すように言い、侯爵家へと向かった。
その様子に全員が疑問に思うも、特に口に出したりせず、エルドの後を追い、侯爵家へと向かった。