閃の軌跡~軌跡の刃~ 作:兄上、お労しい
侯爵家城館に戻った後、エルドはハイアームズ侯にパルムに行き、その道すがら手配魔獣を討伐することを伝えた。
ハイアームズ侯はそれを了承し、パルムまでの足として馬を手配してくれた。
現在は、南サザーランド街道へ集合していた。
「これから手配魔獣の討伐とパルムでのヴァンダール流道場との交流試合の依頼をするけど、馬に乗れる人はいるか?」
「俺は問題ない。故郷では馬が足替わりだったからな」
「私も問題ない」
「私もよ」
「僕は乗れないかな」
多く馬を借りるのも、申し訳ないので馬は三頭だけ借り、ガイウスとラウラが馬に乗り、ガイウスの後ろにエリオット、ラウラの後ろにアリサを乗せ、エルドは一人で乗ることになった。
「それじゃあ、周囲を警戒しつつ手配魔獣の捜索。討伐後は、パルムに向かい交流試合。行こう」
全員が馬に乗り、南サザーランド街道を移動しつつ手配魔獣を捜索する。
「それらしい魔獣は見当たらないわね」
「こちらもだ。これだけ広いと、見つけるのも一苦労だな」
「う~ん……大分探しまわったのにね」
「エルド、手配魔獣の特徴はないのか?」
「ちょっと待ってくれ」
エルドは手配魔獣について書かれた紙を取り出し、確認する。
「花のような見た目らしい。それと絶えず、甘い香りをまき散らしてるらしい」
「甘い香りか…………」
エルドから情報を聞くと、ガイウスは眼を閉じる。
「ガイウス?」
「…………エルド、向こうの方からわずかに甘い香りが風に乗って流れてきた。あちらの方に、手配魔獣が居るかもしれん」
「本当か?」
ガイウスの言葉に、エルドは少し考えこむ。
「目視で見つからない以上、ガイウスが頼りだ。あちら側に向かう」
エルドの言葉に、全員が頷きガイウスが匂いを感じた方向へと向かう。
馬を走らせること数分、花のような魔獣を見つけ、全員が馬を止める。
「あれが手配魔獣だ!」
「見つかったな」
「ガイウスのお陰ね!」
「うわ~、本当に花のような魔獣だ……!」
「全員攻撃態勢!戦術リンクを使用し、手配魔獣を討伐する!」
「ああ!」「ええ!」「承知!」「うん!」
「《炎の呼吸 壱ノ型 不知火》!」
エルドが先制攻撃を仕掛け、突進する。
魔獣は蔓を伸ばしエルドに攻撃を仕掛ける。
エルドは蔓を斬り飛ばし防ぐ。
「敵の能力を解析するよ!《ディフェクター》!」
魔導杖の機能を使い、エリオットが魔獣の解析をする。
「能力解析完了!エルド、アイツは炎が効くよ!それと、斬撃にも弱い!」
「分かった!アリサ、炎の矢で奴の動きを遅らせてくれ!エリオットは炎系のアーツで援護!ラウラ、ガイウス!二人は俺と一緒に奴に攻撃!」
「「「「了解!」」」」
エリオットがアーツの駆動を開始し、アリサが矢を番える。
ラウラが接近し、大剣を振り下ろす。
魔獣は蔓を重ね合わせ、防御する。
大剣は重ねられた蔓を半分まで斬って、止まる。
ラウラはこれ以上の追撃は無理と悟り、そのまま後ろに下がる。
魔獣はそこを攻撃しようと、蔓を鞭のようにしてラウラに攻撃する。
「させないわ!」
アリサが素早く炎の矢“フランベルジュ”を使い、蔓の鞭を弾き、続けた放った弐発目を、花と茎の間に打ち込む。
「行くよ!《フレイムウェイブ》!」
エリオットが炎のアーツを使う。
魔獣の下から炎が波打つように溢れ、魔獣を下から焼く。
「《ゲイルスティング》!」
魔獣が熱さにのたうち回る中、ガイウスが背後に回り、風の槍を打ち込む。
風の槍は魔獣の体を貫き、ダメージを与える。
「はあああ!《地裂斬》!」
そこをすかさず、ラウラが地面を割るかのような一撃を放ち、その衝撃を飛ばす。
衝撃は地面を割りながら進み、魔獣に地面の破片事、衝撃が伝わる。
「《風の呼吸 弐ノ型 爪々・科戸風》!」
エルドも、《爪々・科戸風》を使い、魔獣の体に四つの斬撃を付ける。
魔獣は見るからに疲弊し、動きが悪くなっていた。
その時、魔獣が体を震わせて、花の部分から光り輝く粉を出し始めた。
「まずいぞ!あの魔獣、回復する気だ!」
ラウラが、魔獣の行動に気づき声を上げる。
「止めないと!」
アリサが立て続けに《フランベルジュ》を打ち込むも、魔獣はひるまず回復を続ける
「くっ!」
エルドが接近しようとするも、エリオットが使ったアーツで、地面が熱く接近は容易じゃなかった。
このままでは回復し、魔獣が再び襲ってくる。
その為にも、ここで仕留めないといけない。
その時、エルドはあることを思いついた。
「ガイウス!俺に風を打ってくれ!」
「……ああ!分かった!」
ガイウスは一瞬困惑するも、エルドの意図を理解し頷く。
「はああああ……《ゲイルスティング》!」
《ゲイルスティング》がエルドの背中を捕らえる。
その瞬間、エルドは、ガイウスの《ゲイルスティング》を上手くからめとり、そのまま上空へと上がる。
「《風の呼吸 伍ノ型 木枯らし颪》!」
地上に向けて広範囲を竜巻の様に魔獣を斬り付ける。
さらに、起きた風で地面が冷やされ、エルドは地面に降り立つ。
「《雷の呼吸 陸ノ型 電轟雷轟》!」
魔獣の体を瞬時に隈無く切り裂く。
「これで最後だ!《炎の呼吸 伍ノ型 炎虎》!」
炎虎が決まり、魔獣は息絶えた。
だが、息絶える直前、花の中にあった何かが破裂し、辺り一面にピンクの粉が広がった。
エルドは毒かと思い、《風の呼吸 参ノ型 晴嵐風樹》を使い、周囲を竜巻のように激しく連続で斬り付け風を起こし、粉を吹き飛ばす。
「皆、大丈夫か?」
「ああ、エルドが粉を吹き飛ばしてくれたお陰で吸わずに済んだ」
「最期のあの粉、一体何だったんだろう?」
「まぁ、今となっては分からずじまいだな」
「とにかく、これで手配魔獣の討伐は終わったし、パルムに向かいましょう」
「そうだな」
パルムへ向かおうと、馬の所へと戻雨とした時だった。
突如、四方八方から魔獣が現れ、エルド達を囲んだ。
「どういうことだ!?」
「どうして魔獣が!?」
「数が多いよ!」
「エルド!まさか、先程の粉は!」
「恐らくそうだろう!ここら一帯の魔獣を引き寄せる粉だ!」
最後に出した粉の正体が分かるも、エルドたちは焦る。
数が多く、見た限り40体以上いるのは明らかだった。
「エルド!どうする!?」
本来なら、一点集中で囲みを突破して撤退するのがいいが、このまま40体以上いる魔獣を放置するのもできなかった。
この魔獣がパルムやセントアークに向かえば、被害がどれだけの物になるのかは容易に想像がつく。
「俺が囮になる!その隙に皆はセントアークに向かってくれ!」
「なっ!エルド、何言ってるのさ!」
「囮になるって、死ぬ気なの!?」
「死ぬつもりなんかない。呼吸の技には、一対多を想定した技もある。セントアークまで逃げて、ハイアームズ侯に連絡してくれ!そして、領邦軍を連れてくるんだ!」
「なら、私も残る!そなたを置いて、逃げるなどできん!」
「俺も残ろう。一人での残るより三人での方が生存率も高い!」
ラウラとガイウスの二人が残る意思を示す。
「ダメだ!ここに向かってる魔獣が他にもいるかもしれない。そうなったら、魔導杖のエリオットと、導力弓のアリサじゃ対処しきれない!二人も一緒にいないと!」
「だが!」
話がまとまらず、言い合いになりかけたその時。
魔獣の一体が動き、襲い掛かってくる。
「くっ!」
エルドは刀を構え、攻撃を受け止めようとした。
その瞬間、何者かがエルドの視界の隅に映り、そして、目にも止まらぬ速さで魔獣を切り裂いた。
「え?」
「今のは………」
全員がその人物を見た。
紫色の瞳と、蝶の髪飾りを付けた袴の女性。
手には、刀があった。
「あの人は、俺とアリサが見つけたモデルの人じゃないか」
「本当だわ……でも、どうしてここに?」
「今の太刀筋は……」
ガイウスとアリサが困惑する中、ラウラは女性の太刀筋に見覚えがあることに気づく。
「やっぱりだったのか………」
エルドはその女性を見て、そう呟いた。
「エルド、やっぱり知り合いだったの?」
エリオットがエルドに尋ねる。
「知り合いと言うか、その………」
「………話は後。今はこの状況を切り抜けるのが先決」
女性はそう言って、手にした刀を構える。
その刀は、刀身が薄い桃色をしており、丸型の鍔には花模様が施された、華やかな意匠があった。
「全部で48体。ここに来るまでの間に、こっちに向かっていた魔獣はすべて倒してあるから、ここにいる魔獣達で最後。私が半分引き受けるから、残りをお願い」
そう言って、女性は魔獣の一団に突っ込む。
「あっ!」
アリサが危ないと叫ぼうとした。
だが、女性は魔獣の攻撃を全て躱し、刀を振るう。
「《花の呼吸 肆ノ型 紅花衣》!」
前方に向けて大きな円を描くかの様に斬り付ける斬撃で、あっと言う間に魔獣を倒していた。
「今のは!?」
「《花の呼吸》だと!?」
「それって、エルドのと同じ奴の!?あれ?でも、呼吸って五つしかないんじゃ」
「詳しい話は後だ!とにかく、あの人が来てくれたお陰でここは何とかなりそうだ!全員で魔獣を倒すぞ!」
エルドに言われ、全員が武器を構え直す。
その後、女性の介入もあり、全員が魔獣相手に怪我することもなくすべて倒すことができた。
「皆、大丈夫か?」
「ああ、俺は大丈夫だ」
「私もだ」
「ぼ、僕も、疲れたけど大丈夫」
「私もよ。それにしても、あの人、凄いわね」
「ああ、半分と言うはずだったのに、八割近くの魔獣を倒していた。それに、息切れ一つしていない」
「エルド、あの人は知り合いなのか?《花の呼吸》と言ってたし、関係がないとは思えないんだが」
「ああ、説明はするよ」
ガイウスに言われ、エルドは頭を掻きながら言う。
「お~い!母さ~ん!」
「「「「母さん?」」」」
「ああ、あの女性は俺の母さんだ」
「皆さん、初めまして。エルドの母、カナ・グリファスです。息子がお世話になってます」
そう言って、エルドの母、カナはにっこりと笑った。
五つの呼吸しか出すつもりはなかったのですが、折角なので他の呼吸も出そうと思います