閃の軌跡~軌跡の刃~ 作:兄上、お労しい
「皆さんもご存じの様に、かつてエレボニア帝国は存亡の危機に瀕していました。その危機とは、250年前の《獅子戦役》。時の皇帝亡き後、帝位を巡り有力な帝位継承者たちが数年にわたって繰り広げた内戦ですね」
トールズ士官学院の歴史学の教官、トマス・ライサンダーがⅦ組の教室で帝国史を話す。
間延びした声に、何処か睡魔を引き寄せられそうになっているエルドは何とか意識を覚醒させ、授業に集中する。
「この内戦は長期化し、各地の有力貴族も巻き込み泥沼へと呈していきました。多くの猟兵は野盗化し、略奪を行う騎士団すら現れたのです。国土は荒廃し、人心は乱れました。そんな中、民を顧みず続けられた骨肉の争いに終止符を打つべく、ある一人の流浪の皇子が辺境の地で立ち上がったのです。では、その王子の名は………エルド・グリファス君、分かりますか?」
突如名指して呼ばれ、エルドは驚き立ち上がる。
「は、はい!えっと、ドライケルス・ライゼ・アルノールです!」
「その通り!第73代エレボニア皇帝にして、《獅子心皇帝》と呼ばれる、中興の祖。この士官学院の創設者でもありますね!」
急に当てられたことで眠気が一気に飛び、エルドは席に座り直して息をつく。
「ちなみに挙兵当時、ドライケル軍は非常に少数でした。ですが、帝国各地で人心を掴み、心ある実力者たちの協力を得ることで、一大勢力となって行ったのです。そのドライケルス皇子が最初に挙兵した辺境の地とは………リィン・シュバルツァー君、分かりますか?」
「はい、ノルド高原。帝国北東に広がる高原地帯です」
「はい、正解です」
リィンも見事正解し、席に座り一息つく。
「当時ドライケルス皇子は、放浪の果てに異郷の地ノルドで遊牧民たちと暮らしていました。そして、帝国本土での内戦を聞き、遊牧民の協力を得て挙兵したのです。こうして、ドライケルス大帝は帝都を開放したわけですね。さて、そろそろ時間ですし、ちょっとした小話をして終わりとしましょう」
トマスは持っていた教科書を閉じ、話し始める。
「ドライケルス皇帝には、多くの仲間が居ました。腹心の部下、ロラン・ヴァンダール。槍の聖女、リアンヌ・サンドロット。共に立ち上がったノルドの民たち等々。ですが、彼にはもう一人、生涯の友とも呼べる者が居たのです」
あまり知られていない話に、全員が驚き顔を上げる。
居眠りしていたフィーも驚いたのか、顔を上げた。
「その者は東方より訪れた無名の剣士でした。その剣士はドライケルス皇帝の意思を理解、尊重し、、共に戦うことを決意したのです。内戦終了後、皇帝となったドライケルス皇帝は、彼を宮廷に招き、相応の身分と褒賞を与えようとしました。ですが、その無名の剣士は内戦が終了するや否や姿を消し、二度とドライケルス皇帝の前に現れることはなかったそうです」
丁度そこまで言い終えると、チャイムが鳴った。
「おっと、いいタイミングですね。では、皆さん。また次の授業で」
そう言い残し、トマスは教室を後にした。
「はーい。今日も授業は終わりね」
一日の授業が終わり、サラが教室にやってきて帰りのHRが始まる。
「知ってると思うけど、明日は自由行動日よ」
自由行動日は、授業がない日のこと。
休日と言うわけではないが、何をするのも生徒の自由で、自習するのもよし、訓練するのもよし、遊ぶのもよしだ。
「学院の施設は一通り解放されるから、そっちを利用するのもいいわ。それに、クラブ活動なんかもあるみたいだし、そっちを覗くのもいいわね。それと、来週の水曜日は実技テストがあるから、それに向けて訓練するなり、英気を養うなりするのもいいわ」
実技テストと言うワードに全員が反応する。
「実技テスト?」
「それは一体どう言う」
「ま、戦闘訓練の一環みたいなものよ。あと、その後でⅦ組ならではの重要なカリキュラムの説明もするわ」
その言葉に、全員がまたしても反応する。
「そう言う意味でも明日の自由行動日は有意義に過ごしなさい。それじゃあ、HRは以上!副委員長、号令」
「はい!起立、礼!」
副委員長のマキアスの号令に従い、HRが終わる。
全員がクラスを出ていく中、クラスにはエルドとリィン、ガイウスとエリオットが残っていた。
入学式以来、この四人で集まることが多く、授業の後はこうして集まることが多い。
「はぁ~、実技テストか……自信ないよ。魔導杖の腕にも自信ないし……」
「そんなに心配なら訓練に付き合うぞ。修練場もあるみたいだし」
「ありがとう。でも、実はこの後クラブ活動に行こうと思ってて」
「もう決めたのか?」
「うん、吹奏楽部だよ。担当はバイオリンになりそうだけど。三人は決めた?」
エリオットが三人にそう聞いてくる。
「俺は美術部にしようと思ってる。故郷では趣味で描いてたんだが、殆ど我流だし、きちんとした技術を学べるならありがたいと思ってな」
「ちょっと意外だな。俺は、まだどうしようか考えてる最中だな………エルドはどうだ?」
「正直俺も考え中だ。東方の武術はマイナーなのか、剣道部は無いし、かといって他にやりたいこともないし………」
腕を組み悩んでいると、クラスの扉が開く。
「あれ?サラ教官?」
「おっ、まだ残ってたわね。いやー、よかったわ」
サラはエルドたちに近づき、話を始める。
「実は、生徒会で受け取って欲しいものがあってね」
「受け取って欲しいもの?」
「それは一体……」
「学園生活に欠かせない物って言ったところかしらね。誰でもいいから、全員分受け取ってきてほしいのよ」
「だったら、俺が行きますよ」
リィンが立ち上がって言う。
「え?」
「いいのか?」
「二人はクラブがあるだろ?俺はまだ決めてないし、校舎内を見学しながら行くよ」
「そっか。じゃあ、お願いしようかな」
「よろしく頼む」
「なら、リィン。俺も付き合うよ」
エルドも立ち上がり、リィンに向かってそう言う。
「俺もまだクラブは決めてないし、何より受け取るものが重い物だったら一人じゃ大変だろ?」
「そっか。悪いな、助かるよ」
「じゃあ、二人ともお願いね。生徒会室は学生会館屋よ。生徒会は遅くまでやってるから、最後に回っても大丈夫だから。それじゃあ、よろしくね」
サラは妙に含みのあるウインクをして、立ち去っていく。
「じゃあ、リィン行くか」
「ああ。じゃあ、二人とも、またあとで」
「うん。じゃあね」
「気をつけてな」
ガイウスとエリオットと別れ、リィンとエルドは校舎内を見回りながら生徒会室へと向かう。
「結構いろんなクラブがあるんだな」
「ああ、そうだな。リィンは何か気になるクラブはあったか?」
「う~ん、これといってなかったな。エルドはどうだ?」
「俺も同じだな。おもしろそうだと思ってのはあるんだが、入ろうと思うほどじゃなかったな」
学生会館へ向かいながら歩いていると、ちょうど学生会館の前で声をかけられた。
「よ、後輩ども」
そちらを振り向くと、バンダナをした男子がいた。
「お勤めゴクローさん。入学してから半月経つけど、学園生活には慣れたか?」
言動からして先輩だと思い、二人は敬語で話しかける事にした。
「まぁ、なんとかやっていけてるって感じです」
「授業やカリキュラムが本格化したら目が回りそうですけど」
「なんだ、わかってんじゃん。お前さんたちは色々てんこ盛りだろうけど、肩の力抜いて、リラックスしろよ」
「あの、ところで先輩の名前は?」
「まぁまぁ、待てって。お近づきの印に面白い手品見せてやるよ」
そう言って先輩は、荷物の袋を下すと、ポケットを探り出す。
「えっと……あれ?ないな……悪いけど、50ミラコイン貸してくんね?」
「えっと、じゃあ、どうぞ」
「おっ、サンキューな」
リィンがポッケから50ミラコインを出し、先輩に渡す。
「それじゃ、よーく見とけよ」
コインを握りこぶしの親指の上に乗せる。
そして、勢いよく弾き、それを空中でキャッチする。
「はい、コインはどっちだ?」
「それは、右手?」
「そっちのお前さんは?」
「じゃあ、左手で」
「答えは………残念!どっちも外れだ」
そう言って開かれた先輩の両手の中にはコインはなかった。
「嘘……」
「御見それしました……」
「へへ、成功成功。ま、そんな訳で、これからも精進しろよ。精々、サラのしごきに耐えるんだな。あと、生徒会室は二階の奥の部屋だ。それじゃ、よい週末を」
先輩は荷物を手に取ると、手を振って正門へと向かっていく。
「なんて言うか面白い先輩だったな」
「ああ、そうだな。………あ、50ミラ………」
そこで、リィンが50ミラを返してもらってないことに気づいた。
「一本取られたか………」
「ま、授業料だと思うんだな」
「そうだな。あれ?そう言えば、なんであの先輩、俺たちが生徒会室に行くって知ってたんだ?」
「………そう言えば」
面白く、何処かスキのない先輩のことを考えつつ、二人は生徒会室へと向かう。
「ここが、生徒会室か」
「やっぱノックして入るのが筋だよな」
そう言い、扉をノックする。
『は~い!どうぞ~!』
中から聞き覚えのある声に、二人は少し首を傾げて中に入る。
「生徒会室にようこそ、リィン・シュバルツァー君、それとエルド・グリファス君!」
二人を出迎えたのは、入学式の日、校門の前で会った女生徒だった。
「貴女は入学式の時の……!」
「生徒会長だったんですね……」
「うん!学院の生徒会長を務めてるトワ・ハーシェルっていいます。改めて、よろしくね!これから君たち、新入生と関わることは多いと思うんだ。分からないことや、困ったことがあったらいつでも、生徒会室に来てね」
「あ、ありがとうございます。あの、サラ教官から受け取ってきて欲しい物があるって聞いたんですが」
「あ、うんうん!ちょっと待ってね」
そう言ってトワは、机の引き出しから十冊の手帳を取り出す。
「はい!これが、リィン君ので、こっちがエルド君のね!」
「これって学生手帳?」
「そう言えば、まだ貰ってなかったな」
「Ⅶ組は他のクラスと違ったカリキュラムもあるし、戦術オーブメントも違うタイプだから、どうしても別の発注になっちゃうんだ。他の生徒たちは今までと同じ標準タイプのだったから、今までのレイアウトが使えたんだけど、君たちのは特注品だから、操作説明もかなり変わっちゃうから、少し時間がかかっちゃったの」
「もしかして、そう言った編集も会長が?」
「うん。サラ教官に頼まれてね」
「そう言うのって、普通、教官が手配するものなんじゃ」
「う~ん……サラ教官、忙しそうだし、他の教官の方たちの手伝いもするから今更って感じかな?」
『トワ!俺だが、入っても問題ないか!』
その時、生徒会室の外から大きな声が聞こえてくる。
「あ、うん!大丈夫だよ!」
『失礼する!』
そう言って入って来たのは、緑の制服を着た男子生徒だった。
「トワ、この資料の事で聞きたいことが……む?その者たちは?」
「新入生だよ、リアン君。あ、紹介するね!生徒会の手伝いをしてくれてる、リアン・パーガトリー君だよ!」
「うむ、紹介に預かった!リアン・パーガトリーだ!もしや、トワ!この者たちが、君の言っていた新生Ⅶ組の者たちか!」
「うん、そうだよ!」
「そうだったか!これからよろしく頼む!」
やたら声が大きいリアンに、エルドもリィンもたじたじになりながらも自己紹介をする。
「えっと、リィン・シュバルツァーです。よろしくお願いします」
「エルド・グリファスです。よろしくお願いします!」
「うむ!しかし、生徒会の仕事を手伝うとは、見上げた心意気だ!」
「「え?」」
リアンから突如そう言われ、二人は思わず聞き返してしまった。
「生徒会で処理しきれなかった仕事を手伝ってくれるんでしょ。サラ教官からバッチリ事情は聞いてるよ!特化クラスの名にふさわしい生徒として、自らを高めようって。流石は新生Ⅶ組だね!」
トワにそう言われ、ようやく二人はサラの妙に含みのある言い方と、あのウインクの謎が解け、納得したと同時に複雑な怒りを感じた。
ここで否定するのは簡単だったが、机の上の山ほどの書類を見て、断る気も起きなかった。
「はい、その通りです」
「俺たちにできることなら、喜んで」
「ありがとうね!仕事の内容は今日中にまとめて、明日寮のポストに入れておくから」
「最初だから、あまり難しいのはやらせないつもりだ!気楽にやってくれ!」
あの後、トワとリアンの二人から夕食をごちそうになり、エルドとリィンは学生会館を後にした。
「まさか、ごちそうになるとはな」
「ああ。それに、あの二人、まだ仕事があるからって生徒会室に戻ってたし、こりゃ、あの話は勘違いですとは言えないな」
「そう言って、やめる気はないんだろ?」
「まぁな。あの量の仕事見たらな」
互いに苦笑していると、リィンのARCUSに着信が入る。
「はい?………え?スピーカーに?ちょっと待ってください」
「誰だ?」
「サラ教官だよ。スピーカーモードにしろってさ」
リィンがARCUSの通信をスピーカーにし、エルドにも聞こえるようにする。
『グーテンターク。我が愛しの教え子たちよ。トワ会長とリアンに、夕食をごちそうしてもらったみたいね』
「その教え子に、何をやらせようっていうんですか?」
「納得のいく説明が欲しいんですが」
『詳しくは言えないけど、来週行うカリキュラムにも、ちょっと関係してるのよ。誰か一人にそのリハーサルをやってもらおうと思ってたんだけど、まさか二人もやってくれるなんてラッキーよね。それに、生徒会の仕事が多いのは事実だし、一石二鳥でしょ?』
「あの二人の仕事を増やしてるのは教官たちなのでは?」
「とりあえず、趣旨は分かりました。明日の自由行動日は、生徒会の仕事を手伝えばいいんですね?」
『あくまで二人の判断に任せるわ。なにかクラブ活動に入るってなら、無理にとは言わないわ』
「それは別に問題ありません。俺もエルドも、入りたいと思うのがないので。でも、一つだけ教えてください」
「どうして、俺たちだったんですか?学生手帳を受け取るだけなら、委員長のエマや、副委員長のマキアスで良かったはずです」
「それに身分のことを言うならユーシスやラウラでもよかった。なのにどうして……」
二人の問いに、サラ教官は少し間をおいてから、話をする。
『それはね、リィン。貴方があのクラスにおいて特別だからよ』
「「え?」」
『言うなれば重心。中心じゃなくて、あくまで重心よ。対立する貴族生徒と平民生徒、留学生も居るこの状況において君の存在はあらゆる意味で特別だわ。それは否定しないわよね?』
「それは…」
サラの言葉にリィンは何も言わなかった。
『そして、エルド。貴方は柱よ』
「俺が柱?」
『いずれ動乱の世に巻き込まれる帝国。そんな中で、貴方は決して挫けない、常に立ち続け、前を見据え、誰かの心の支えになりえる存在。故に、柱よ』
「そんな大層な役目、俺にはできませんよ。そもそも帝国が動乱に巻き込まれるって一体どういうことですか?」
『そんなの私は知らないわよ。私も聞かされただけだしね。でも、この事を言ってた人は、貴方に期待をしていたわ。精々、その期待を裏切らない様に精進しなさい』
そう言って、サラは少し間を開け、続きを離す。
『だから、私はまずその重心と柱に働きかけて見ることにした。Ⅶ組という初めての試みが、どうなるか見極めるためにね。それが理由よ。ま、あまり深く考えずにやってみたら?特にリィン。貴方は何かを見つけようとして、少し焦ってるように見えるわ。まずは飛び込んでみないと、自分の立ち位置も分からないわよ。それじゃあ、私はこれからビール飲むから、切るわね。門限までには帰ってくるのよ』
そう言い、サラは通信を切る。
「俺たちが重心と柱か………どう思うリィン?」
「そうだな……サラ教官の言う通りかもしれない。まずは、動いてみるのもありかと思う」
「違いないな。………なぁ、リィン。サラ教官が言ってたお前が特別って言うのは、この前の特別オリエンテーリングの時に言ってた、高貴な血は流れてないってのと関係あるんじゃないのか?」
「………やっぱり、エルドには分かるか。俺の身分は、一応は貴族に当たるんだ。帝国北部、温泉郷ユミルを治めるシュバルツァー男爵家、それが俺の実家だ」
「そうだったのか。血は流れてないってことは、養子なのか?」
「ああ」
何処か暗そうに言うリィンに、エルドはリィンの背中を叩く。
「リィン、お前にも色々事情があるんだろう。それを気にするなとは言わない。でも、何かあったら遠慮なく頼ってくれていいんだからな」
「エルド………ああ、ありがとうな」
「気にするなよ、友達だろ」
そう言い、二人は笑いあって、寮へと帰った。
リアン・パーガトリーは、鬼滅のキャラで言う煉獄さん的なキャラです。
名前は煉獄を英語と中国語にしたものです