閃の軌跡~軌跡の刃~ 作:兄上、お労しい
「それじゃあ、予告通り実技テストを始めるわよ」
水曜日になり、エルドたちはグラウンドに集まっていた。
「前もって言っておくけど、このテストは単純な戦闘能力を測るものじゃないわ。《状況に応じた適切な判断》を取れるかを見るものよ。その意味で、何の工夫もなかったら、どれだけ短時間で倒しても評価は辛くなるわ」
要するに戦術リンクやアーツを駆使した上で勝てとのことだ。
「それじゃあ、これより、四月の実技テストを始めます。リィン、エリオット、ガイウス。前に出なさい!」
サラに言われ、三人が前に出る。
「じゃあ、とっとと呼びますか」
そう言って指を鳴らすと、何処からともなく浮遊するT字型の何かが現れた。
「こ、これは!?」
「ま、魔獣!?」
「いや、生命の息吹は感じられない!」
「そうよ。それは作り物。例えるなら、動くカカシみたいなものよ。そこそこ強めに設定してあるけど、倒せないレベルじゃないわ。例えば、戦術リンクを活用したりしてね」
そのセリフに、三人は納得して武器を構える。
「それじゃあ、始め!」
数分後、動くカカシは戦闘不能になり、動かなくなった。
「やるじゃない。この前の、旧校舎探索が効いたみたいね」
「はは、そうかもしれませんね」
リィンは武器をしまい、そう言う。
「それじゃあ、次!ラウラ、エマ、アリサ!」
今度は、オリエンテーション時の女子の組み合わせで呼ばれる。
こちらも、見事戦術リンクを活用し、動くカカシを撃破した。
もっともリィンたちほど、使い慣れておらす、少し苦戦していた。
「お見事。じゃあ、次はマキアスとユーシス!」
「「なっ!?」」
マキアストユーシスが声を上げる。
これには全員が驚いた。
マキアスとユーシスの仲の悪さは、Ⅶ組の人間なら誰でも知ってる。
それに元の性格も合わないので。余計に仲が悪い。
煽るユーシスに、煽られ易いマキアス。
まさに最悪の組み合わせだ。
「じょ、冗談じゃない!」
マキアスが叫ぶ。
「貴族と、それもよりによってコイツなんかと組めません!」
「不服だが、俺も同じ意見だ。サラ教官、組み合わせを変えてくれ。それが無理なら、俺は参加しない」
「ふ~ん、ま、やりたくないならそれでいいわよ。その代わり、アンタたちの評価が、厳しくなって単位に影響するわよ」
「「なっ!?」」
士官学院とはいえ、ここは学院だ。
そのため進級にも、卒業するにも単位が必要だ。
二人は苦虫を噛み潰した表情で、前に出て、武器を構える。
「うんうん、素直でよろしい」
サラはそう言って、指を鳴らす。
「予想してたけど、ここまで酷いとはね」
結果は、惨敗だった。
まず二人は戦術リンクが繋げれなかった。
これはある程度予想できた。
だが、その後が酷かった。
まったく連携は取れず、マキアスが銃を撃った瞬間、ユーシスが前に出て弾を食らい、ユーシスが剣を振ったら、いつの間にか隣にいたマキアスに剣が当たり、パックステップすれば互いにぶつかり、挙句動けば、相手の足を踏む。
「くっ、貴様!俺の邪魔ばっかりしおって!」
「なんだと!?君の方が、僕の邪魔をしていたんじゃないか!」
掴み合いの喧嘩に発展しそうな勢いを、サラが仲裁する。
「はいはい、喧嘩しないの。まさか、ここまで酷いとは思わなかったわ。とりあえず、あんた達は終わったんだから下がる」
マキアスとユーシスを無理やり下がらせ、エルドとフィーの方を見る。
「それじゃあ、最後!エルドとフィー!前に出なさい!」
「はい」
「ん。了解」
エルドとフィーが前に出て、それぞれ武器を構える。
「フィー、いけそうか?」
「ん、問題ない」
「俺がフィーに合わせるか?それとも、そっちが合わせてくれるか?」
「どっちでも」
「じゃあ、俺に合わせてくれ。できるか?」
「ん、いける」
「それじゃあ、行くわよ」
サラの合図で、動くかかしが現れる。
「それじゃあ、始め!」
サラの合図で、エルドが走る。
「《水の呼吸 壱ノ型 水面斬り》!」
軽く胴に向かって一太刀入れるが、カカシはあまり効いてないのか平然と腕を上げていた。
だが、いつの間にかフィーがカカシの頭上を取り、ガンソード二丁をカカシへと突き刺す。
この攻撃に怯んだカカシは攻撃の手を止め、頭上のフィーを振り落とそうと暴れ出す。
その隙を逃さず、エルドは再び攻撃する。
「《雷の呼吸 伍ノ型 熱界雷》!」
下から上に切り上げ、カカシを飛ばすのと同時にフィーはカカシから飛び降り、宙を舞うカカシに向け、銃を乱射する。
「ARCUS駆動……《フォルテ》!」
カカシが身動きが取れない内に、エルドは補助アーツの《フォルテ》を使い、自身の力を上げる。
「フィー!」
エルドはチャンスと思い、フィーの方を見る。
フィーも理解したらしく、頷く。
そして、同時に飛び出し、刀とガンソードを振る。
「《風の呼吸 捌ノ型 初烈風斬り》!」
「《シルフィード・ダンス》!」
エルドのすれ違いざまに相手を取り囲む風の渦のような斬撃とフィーの高速連続切りからの銃弾の連射により、カカシは完全に沈黙する。
「ブイ、だね」
「ああ、完璧だったな」
フィーがエルドに向け、Vサインをしつつそう言う。
そんなフィーにエルドはサムズアップでそう言う。
「うんうん、初めてとは思えないぐらい上出来ね」
サラがそう言って二人を誉めてくる。
「ありがとうございます。もっとも、殆ど俺に合わせてくれたフィーのお陰でしたけど」
「エルドも、私が合わせ易いように戦ってくれてた」
「まぁ、意識しなかったわけじゃないが、だとしてもフィーのお陰だよ」
隣でエルドを見上げるフィーにエルドはそう言い返し、皆の所に戻る。
「エルド凄かったね」
「ああ。息がピッタリだった」
エリオットとガイウスが小声でそう話しかけてくる。
「いや、あれはフィーが俺に合わせてくれたからだよ」
「だとしてもお互いの力をあれだけ引き出せるのは凄いと思うぞ」
リィンも小声でエルドに声を掛ける。
「それじゃあ、実技テストはここまでよ。先日話した通り、ここからはかなり重要な伝達事項があるわ。君達Ⅶ組ならではの特別なカリキュラムに関する、ね」
サラは手を叩き、注目を集める。
「いよいよか…」
「ふふ、流石に皆気になってたみたいね。それじゃあ説明させてもらうわ。君達に課せられた特別なカリキュラム。それはズバリ、特別実習よ!」
「と、特別実習…ですか?」
サラの口から出た未知なる言葉を聞いて、エルドたちを代表するかのようにエマが戸惑いの表情で尋ねる。
「な、なんだか嫌な予感しかしないんだが…」
入学式でのオリエンテーリングの事を思い出したマキアスは表情を引き攣らせる。
「君達にはA班、B班にわかれて指定した実習先に行ってもらうわ。そこで期間中、用意された課題をやってもらうことになる。まさにスペシャルな実習なわけね♪ちなみに、これが班分けと実習場所よ」
そう言ってエルドたちに一部ずつ、紙を渡してくる。
A班:リィン、アリサ、ラウラ、エリオット、エルド(交易地ケルディック)
B班:エマ、マキアス、ユーシス、フィー、ガイウス(紡績町パルム)。
班分けは以上となっていた。
「え」
「えええっ!?」
メンバー表に自分とアリサが一緒である事に気付いたリィンは呆け、アリサは驚きの表情で声を上げた。
「ば、場所はともかくB班の顔ぶれは!?」
「あり得んな」
マキアスとユーシスも自分たちが同じ班なことに嫌そうな反応をする。
そんな事情もお構いなしに、サラは話を進める。
「日時は今週末、期間は二日間の予定よ。両班共に、鉄道で実習地に行くことになるわ。それまで各自英気を養っておきなさい」
そう言い終え、実技テストは終了となった。