□■列島船団・船首
グランバロアは、四大船団と呼ばれる巨大な四つの船と、幾つもの船団によって構成されている船上国家だ。
しかし、それとは別にグランバロアには都市が存在する。
それは四海の所々に点在しており、時折訪れる首都や、近くの国に属する海沿いの街との物資のやり取りを行い、発展を繰り返していた。
この列島船団もそうだ。いや、そうではない。
列を成すように連なった幾つかの船によって形成されたこの船団も、グランバロアの支配する海に名を連ねるひとつの都市だった。
四海の中でも東北に位置するその都市は、年中冬のような厳しい環境と、近辺の海洋に存在する強力なモンスターが理由で、近くの黄河や天地からの輸出、輸入が出来ない、まるで鎖国でもしてるかのような様相を呈していた。
誰も寄り付かず、誰も救えない。モンスターによって戦力は低下して行くばかりで、船そのものがモンスターによって破壊されるのも時間の問題。
誰が呼んだか“劣等船団”。
人々は傷を舐め合うかのようにその身を寄せ合い、終わりの時に怯えながら、細々と暮らしていた。
ウミガミ様と出会うまでは。
「ウミガミ様……」
ウミガミ様は、全てを救ってくれた。
近海の強力なモンスターは遂にその姿を見なくなり、代わりに海からは木が生えた。
マングローブのようなそれには、花が咲き、実がなり、そして新たな種を吐いた。
人々は歓喜した。飢えることも、死ぬことも、もう無い。
しかし、幸せとは、常に何かの対価を支払う必要があった。
船首に立ち、手を組んでいるのは、一人の少女だ。
少女は両目を覆うように包帯を巻いており、視界は完全に閉ざされていた。
服も酷く簡素なもので、これから無くなるのだから問題ないだろうと言わんばかりであった。
彼女は生贄だ。
それはよくある話。
みんなの幸せの為には、誰か一人が犠牲になる必要があった。
甲板には、この都市の全ての人が集まり、少女とウミガミ様に祈りを捧げていた。
ありがとう、貴方のおかげで、また幸せになれます。だから、全ての不幸せを背負って、死んでください。
そして、生贄である彼女も、それで良いと思っていた。
元より、その為に産まれた生命。
人々の祈りを一心に受け、誰かの願いを叶える存在となった彼女は、自己犠牲の念に囚われていた。
自分が幸せにならないことによって、みんなが幸せになれる。それで彼女は幸せだった。
「私は今日、貴方に全てを捧げます。だから、どうか……」
この都市を、お救いください。
そう、祈る言葉は、海の藻屑と消えた。
「──させねーよ、ばぁか」
だが、そんな藻屑を、拾い上げる声があった。
船首から、甲板まで響くような、よく通る声。その声の主は、船首にて終わりを待つ盲目の少女、その背後に居た。
「貴方は……?」
「俺は、一人を犠牲にしてみんな幸せみたいな、そんなクソみたいな展開が大っ嫌いなんだよ」
少女の問いに答えるでもなく、その声は一方的な独り言を放つと、少女を担いで夜の闇へ消えてしまった。
──そして、少女は解き放たれた。しかし、外れた枷は、行き場を無くし独り彷徨う。
To be continued