□【高位催眠術師】こゆき
グランバロアは他の国に比べて小さい。
それこそ、孤島である天地の半分も無いくらいには小さい。
そして、それは首都である四大船団の話だ。
四海に点在する都市はもっと小さい。多分日本より小さい。
ここもそう。
東北海に位置していて、列島船団なんて呼ばれてるこの都市も、当然のように小さい。
更にこの都市なんか鎖国みたいな事をしているらしく、グランバロアの首都がぐるっと四海を一周してやってくる時以外は一切の貿易を遮断している。まぁ列島船団もグランバロアだから別に貿易ではないんだけど。
鎖国の理由は多分、近くの国が天地で下手するとこの船団ごと乗っ取られるからだと思う……あの国修羅ってるからなぁ。
そしてそれを除いても、この都市は戦力が少ない。
都市のティアンに軒並み才能が無いらしく、鎖国してるが故に、そんな才能ナシの人達が才能ナシの人達とかけ合わさっていくから、遺伝的に才能が無い人しか産まれないシステムになっている。まさに逆天地。
だから列島船団ならぬ劣等船団なんて呼ばれてる。私もちょっと呼んでる。
とある事情からこの列島船団に乗船し、そのまましばらくログインできないでいた私は、見事首都である四大船団から取り残されてしまったのであった。めでたくない。
それでもまぁ、四大船団が戻ってくればそれに乗れると思っていたんだけど、今西海の方にいるらしい。正反対。
ログアウトしてセーブポイントから始めればいいじゃないか? 最後のセーブ地点ここなんですよね……。
という訳で、要するに何が言いたいのかというと、
「早くこのクソちっちぇ島からフライアウェイしたいって事だよね!」
……え、誰この人。
「僕は“フラッシュ”って呼ばれてるよ! よろしく!」
歳は13かそこら。
まだ幼さが残る顔立ちは、この辺でよく見るタイプの東洋風。
髪は真っ黒。これで瞳も黒だったらもう日本人そのものだったけど瞳は赤だった。血管透けてる。
そして、熱に対しての高い吸収性を誇っていそうな黒いスーツを着こみ、七五三でよく見るような可愛らしさを醸し出している。
千歳飴あげたい。ない。
そしてナチュラルに心読まれた……この感覚懐かしい。
「そしてこっちは助手兼主人のわらびちゃん」
「ん!
フラッシュの後ろからひょっこり現れたのは動きやすいようにミニスカになっている可愛らしい着物を着込んだ少女だった。
ぱっつん黒髪にくりくりした黒目、フラッシュより小さいので多分小学生いってるかいってないかくらいかな。非常に愛らしい。
二人は何故か揃ってドヤ顔をしており、なんか、こう、大変可愛らしい。
なんだろうこの子らスーツに着物で七五三コンビ? 兄妹そろって写真館にでも向かうんだろうか。
あ、違う、わらびの方は紋章あるけどフラッシュは無い。ティアンと<マスター>のコンビか。珍しい。
あれ、三人の中で? 二人しか居ない気がするんだけど。
「三人……?」
「え、見えないの? ほらそこ……」
あまりにも真顔で当たり前のように言うから普通に後ろを振り向いてしまった。
なんもいなかった。怖いでは?
「あっはは、
視線。嘘つかれた。小さい子に嘘つかれた。
まぁ子供ですからね。私は子供好きですし。分からせてやる。
「ほら、僕と、わらびちゃんと、君の三人ね!」
ああなるほど。確かに三人。
指さし呼称で自分、わらび、私の順に指さしたフラッシュは、そういってまたドヤ顔を放った。ドヤ顔マスターか?
そして私はわらびより位が下なのか。
「改めまして、僕がフラッシュ。そして──」
「ん! わらびはわらびだよ! よろしくね!!」
息の合ったというかフラッシュの合わせ方が上手すぎるというか、ともかく息ピッタリな二人は姫と従者のようなコンビネーションで気さくな挨拶を行った。
台風と同じくらいに勢いがすごい。
「なるほどなるほど、私はこゆき。よろしくね二人とも」
「敬語を使いな! 姫の御前だぞ!」
「えぇ……」
暴君が過ぎる。
私は挨拶されたらちゃんと返す偉いタイプの若者なんだけど譲歩は無いんだろうか。無かった。まぁ、姫だから仕方ないか……。
わらびは姫というよりおめかしした村娘みたいな可愛らしさがあるけど君が姫と言うなら私も姫と呼ぶよ。
「そうでなくとも僕君より歳上だよ?」
「え?」
まっさか。見た目完全に中学生やん。箸が転がっても笑う年齢やん。やだ無邪気。
「レジェンダリアの小人、聞いたことない?」
……あー、いたかもしれない。なんか成長しても子供と同じくらいの見た目にしかならない長命種だった気がする。
そっかー、子供じゃないのか。まじか。
「だから、敬語使ってね!」
「ん! わらびも!」
「ちなみにわらびちゃんは年相応だよ!」
あ、はい。
謎の年齢マウントが入ったところで、フラッシュがいきなり話しかけてきたその訳を語ってくれるらしい。とりあえず体育座りしよう。よいしょ。
「実は僕<エンブリオ>の研究をしてるんだ。<エンブリオ>が欲しいからね!」
あー……ご愁傷さまです。
<エンブリオ>は<マスター>専用の可能性であり、ティアンに<エンブリオ>が発現することは決して無い。
でも、自分達でも頑張れば<エンブリオ>を授かることが出来ると考えてるティアンは結構いるらしく、日夜研鑽を続けているらしい。
まぁ<エンブリオ>の研究までしてる人は初めて見たけど……私が知らないだけで普通にいるのかな?
これは正解を教えてあげるのが優しさなのだろうか。いや、きっと何年も研究してるんだろうなぁ。夢はあった方がいいし多分言っても分からないだろうし……黙っとこう。
「それで<マスター>のサンプルが欲しいんだけど、どう?」
どう、とは? サンプルにされる? 殺される? 狂ってる? それトゲトゲ言葉ね。解剖はNG。古のオタクかな? まだJKです。
「サンプルってどういう意味です?」
「早速敬語で僕は嬉しいよ。まぁ、<マスター>がどんな生態なのかを観察させて欲しいだけかな。要は僕とパーティを組んで欲しいんだ。わらびちゃんみたいに」
なんだそれなら別に……いや違うわ。お荷物二つ増えるのでは? 彼らの強さは分からないけど。強かったら強かったで邪魔だし……危ないこれがドアインザフェイスか。詐欺師め。
「んーん! わらびはわらびの村に行くの!」
「分かってる分かってる。ここ終わったらちゃんと行くからね」
わらびとフラッシュが謎の会話を繰り広げている。やっぱり村娘だった。村長の娘だ。<マスター>だった。
「報酬はなんですか?」
「僕の笑顔! ……ってのは冗談で、この船団から出してあげるのと、あととあるアイテムを贈呈するよ」
「アイテム?」
とりあえずここから出してくれるのはありがたい。凄ーくありがたい。それに加えてアイテムまで貰えるという。ありがたい。
「これね!」
そう言ってフラッシュが胸ポケット……多分ポケット型のアイテムボックスから取り出したのは水晶。
この形と色、そしてアイテム名から察するにアイテム名だけで良かった気もするけど。
「【ジョブクリスタル】……?」
「そう! これを好きなだけあげる!」
「好きなだけ……!」
【ジョブクリスタル】は、使用する事でメインのジョブとサブのジョブを入れ替えることができる使い捨てお手軽転職神殿だ。
でも【ジョブクリスタル】ってわりと高いんだよなぁ。しかもメインとサブを入れ替えないといけないようなジョブ構成をしてるなら頻繁に消費するし。私は別にそんな事ないけど。
と、そこで私の中の天使が囁く。
これ好きなだけってことは貰った分売っぱらえば大富豪になれるのでは……。
「あ、転売は無しだよ! 自分で使ってね!」
「あ、はい」
自然な流れで心を読まれた。
「じゃあ早速この都市を出ようか! 僕のとっておきで!!」
とっておき? どんな船なんだろう。遊園地? まぁなんにせよ先に劣等民に挨拶したいからもう少し待って欲しいけど。
……あれ、私パーティ入るの承諾したっけ?
あー、これがドアインザフェイス……詐欺師のテクニック半端ない。私がアホです。押し切られると断れないんだよなぁ……やな性格。
◇
「あっれー? この辺に停泊しといたはずなんだけど……」
ここ思いっきり陸なんですけど。グランバロアの船上は陸。
海から引き上げたのかな。アイテムボックスに入れるべきでは。ポケットには入らないか。
「ごめんちょっと待ってて! 探してくるから!」
フラッシュさんはそう言うなり早足で駆けていった。
探すってどゆこと? 風に飛ばされる訳でもないし盗まれた一択では? ここの人そんな事しないけど。
でもこんな辺境に<マスター>が来るわけも無いしなぁ。あ、来てたわ。
私とわらび。
最初の挨拶の時からなのだけれど、わらびは自分の着ている着物を大変気に入ってるらしく、しきりに身体を揺らしてはヒラヒラと泳ぐ絹の流れを楽しんでいた。可愛らしい。
「着物好きなの?」
「ん! フラッシュからの貢ぎものだよ!! 見てね!」
プリントされた藍の金魚を、ん! ん! と見せびらかすのがとても可愛らしい。
抱きしめたら犯罪になるんだろうか。<マスター>同士は何しても犯罪にならないらしいよ。グッバイ倫理。
「かぁいいねぇわらびはー」
「ん! わらびは世界一可愛いよ! もっとなでてね!!」
自覚してらっしゃる。そしてだいぶ傲慢。でも可愛いから許す。なでなで。
手櫛で流すように髪を
わらびちゃんは黒髪黒眼なんだよねぇ。日本人形みたいでかぁいいねぇ。
頭に着いてる大きくて赤いリボンみたいなこれはガラス細工だろうか。透き通った太陽に反射してキラキラと輝いている。
「わらびちゃんはなんでフラッシュさんといっしょなの?」
「ん! フラッシュはわらびの村まで連れて行ってくれるんだよ!」
んー子供特有の圧縮言語。さっきもフラッシュさんと村がどうとか言ってたよね。誘拐か?
「わらびちゃんの村?」
「ん!! わらびの村だよ! みんな“びょうどう”にわらびが守ってあげるんだよ!!」
なんか高尚な言葉が飛び出してきた。本当に村の支配者的立ち位置に立って村を運営しようとしてるのか。私より世の中のこと考えてるんではないだろうか。
「そうなんだー、よく分からないけど偉いねー」
「んふぅ、もっと褒めてね!」
「かぁいいねぇ……偉いねぇ……」
よしよし……母性本能の存在を初めて感じた。
私も女なんだなぁ。女なんだよなぁ。
「ん! もういいよ! やめてね!」
「あぁ……」
私の腕をガッと掴んで引き剥がす。
こう、はっきり否定されると傷つくよね……子供特有の冷たさ……かぁいいから許す。
「探検するよ! 着いてきてね!!」
「あー……了解です隊長」
こちらを先導するように明後日の方向を指差すわらび。元気いっぱい突拍子はない。子供は生きてる時間軸違う説あるからね。
そして私は今日から隊員です。
じゃあ早速隊員としての仕事を務めさせていただきますか。
今日は一段と潮の匂いが濃い。
こういう時はいつだって良くない事が起こる。良くないモンスターがやってくる。
そんな時の対処法も、ちゃんと心得ている。
「JYUUUUUU!!」
「《ホーム・インスティ──」
対峙する私と巨大魚。
割って入るは謎の影。
「ん! 喧嘩はダメ!」
「隊長!?」
私を庇うように目の前に現れた小さい背中。
シャレにならないとその手を掴もうとしたその時、わらびは両の手を前に突き出した。
「《
瞬間、わらびを阻むように紅い半透明の壁が現れ、海より飛び出した巨大な魚を海へと弾き返した。
大きく飛沫が上がり、こちらに降り注ぐ。
しかし、その飛沫は赤の障壁を操り、斜め上に傾けたわらびによって防がれる。
すごい、けど、それだけじゃ止まらない。
一度船に狙いを定めたモンスターは、ちょっとやそっとじゃ諦めない。
再び海を弾き飛び、こちらへと大口を向けるモンスター。
その目からは、わらびが何度弾き返しても、何度でも同じようにこちらに向かうという意志を感じる。
やっぱりここは隊員である私が……そう思ったが、その必要は全くなさそうだった。
「ん! 帰ってね! ここはもうわらびの村だよ!! 入るなら“にゅうそんりょう”を払ってね! すぐだよ!」
わらびが声高らかに宣言する。
いやそんな傲慢の極みたいな言葉ををモンスターが受け入れるかーいと思って居たが、何故かモンスターはその身を翻し、海の中へと帰っていった。
あっるぇ? 私が知ってるグランバロアと違うんだけど……しばらく見ないうちにモンスターと対話できるアップデートでも入ったのかな?
それとも……
「もしかして……隊長強い?」
「ん! わらびは最強だよ!!」
そう言うなり、わらびは無い胸を大きく反らし、これまで見せた中で一番のドヤ顔を放ったのだった。
To be continued