□【高位催眠術師】こゆき
「あ、ミアズマくん久しぶり! 元気にしてた? ちゃんと船持ってる?」
「あー話しかけんなうぜぇ」
ミアズマ君は割とすんなり降伏した。降伏というか、見つかったらそのままこっちに来た。かくれんぼで見つかったときと同じようなノリだった。ならそもそもなぜ逃げたんだ。
「あ、そうそう、この子がミアズマ君って呼んでた子だよ。ミアズマ君、こっちはこゆきちゃんね。新しい仲間だよ!」
「あっそ、どうでもいい」
こちらに一瞥もせずにそう零すミアズマ君。確かにちょっと厄介かもしれない。
でも挨拶はしておこう。こちらから歩み寄る意思が無いと向こうから踏み出しにくいだろうから。
「えっと、よろしくね、ミアズマ君?」
「……あー、よろしく」
腰を落として同じ目線で挨拶する私に対して、ミアズマ君は目を逸らしながらも答えてくれた。
厄介とか全然そんなことなかった、めっちゃ素直だった。フラッシュさんの方が500倍厄介だった。
「僕がなんだって?」
読まれたー。こういう所が厄介だと思います。思考にすら安息が無いのはキツいです。
「うわ、また心読んでる気持ちわりぃ」
「あーまたそんなこと言う! ねぇこゆきちゃん酷いと思わない!?」
こちらを向きながらミアズマ君の方を指さし、私に助けを求める。いや無理です。
口が悪いとは思うけど酷いとは思わない。
「味方が居ないー! わらびちゃんー!」
フラッシュさんがわらびちゃんの居る三番船の方に呼びかける。多分届かない。
そして多分この場にわらびちゃんが居てもフラッシュさんの味方はしないと思う。
「まぁ、人のパーソナルスペースに入り込んでくるのが悪いと思います」
「あーもー、あれだ、君アームズでしょ!」
アームズ……あ、<エンブリオ>のTYPEか。唐突過ぎて何言ってんのかと思った。
ってか合ってるし。
「傷つくことを恐れない人情家、独善的でストレスを溜め込む。そういう感じがする。ってことはテリトリー・アームズか」
「え、怖」
まだ出会って数時間も経って無いんですけど。
だけど、ミアズマ君にとってこれは日常らしく、大きくため息を吐いている。苦労してるんだなぁ。まだ小さいのに。
「……こいつはそういう奴なんだよ。一緒にいると<エンブリオ>の特性まで暴かれるぞ」
「えぇ……」
それは流石におかしいって。
いや、そんな「出来ないの?」みたいな目で見ないでください。
「あれでしょ? <エンブリオ>って<マスター>のパーソナルから発現するんでしょ? じゃあ性格とか性質から逆算してどんなスキルもってるのかある程度は推測できるじゃん?」
「普通はできませんよ……」
なんか変なこと言い出した。
まぁ確かに分かりやすい性格の人は居るけど、そこからパーソナルを逆算するとか無理だし、出来たとしても何千万とかではきかない無限通りの能力特性を探り当てるとか無理だって。
「いやできるって。君とか絶対できる。なんなら教えてあげようか? 師匠として」
「結構です。まだ弟子じゃないです」
そんなの覚えたら嫌われるじゃ済まないでしょ。触れられざる禁忌になっちゃうよ。生涯孤独生活の始まりだよ。
「で、なんの用だよ。ここに来た目的を達成するまでは別行動でいいんだろ?」
「うん。でももう目的達成したからいつでも帰れるよ」
目的とはなんぞや。そしてもう達成してるんだ。そもそもいつからこの列島船団に居たんだろうか。私は今日からだけど。
「僕達は昨日からだよー」
ミアズマ君と話していたフラッシュさんが首だけこっちを振り返って一言発すると、すっとミアズマ君の方に向き直った。
……あ、そうなんですね。そんなんだから気持ちわるいとか言われるんだと思いますよ。
「……わらびは?」
「まぁ探索中だけど、本拠地に行くなら着いてくるでしょ。村あるし」
「あー、っそ」
溜めたね。そんなに帰りたくないのか。
何か理由がありそうだけど……聞かないのかな? 話さないのかな?
「いいから早く帰ろうぜー。蒸気が恋しいよー」
「絶対帰らねぇ。これだけは俺の
なんかちょーっとだけ険悪なムードになってきた気がするので、この辺で部外者の私が口を挟むことにする。こういうのもあんまり好かれないんだよなぁ。
「まぁまぁフラッシュさん、とりあえず理由から聞きましょ?」
フラッシュさんはもう何で残りたがってるのか分かってそうだし、分かった上で帰ろうとしてるんだろうけど、やっぱりこういうのはちゃんと口に出すのが大事だから。
「ね、ミアズマ君。なんでこの船団に残りたいのか、話せる?」
「…………はぁ。話すよ。フラッシュ以外の奴の言葉は聞くことにしてるし」
なかなか可愛いことを言ってくれる。やっぱり根は優しい子なんだな。
隣から副声音で「酷いっ!」って聞こえたけどややこしいので無視しよう。
「簡潔に言う。今人を匿ってるからそいつをどうにかするまでは帰れない」
人を匿ってる。中々に衝撃的なワードが飛び出したなぁ。
「その理由は話せる?」
「……ウミガミ様に捧げる生贄だって言ってた。俺が止めなきゃ死んでた。だから奪ってやったんだ」
胸クソわりぃ、とミアズマ君が吐き捨てる。
その言葉に、フラッシュさんが何か三つくらい会話飛ばして結論を話し出す。
「えー、なになに? 恋ですか? 思春期ですかー?」
「うざいきもいくさい嫌い」
「酷い! 僕臭くないもん!!」
そこだけでいいんだ……いやまぁ自覚があるなら……余計
そして性別話してないのに女だってどこで分かったのか。
でも、そんなことよりももっと気になる話があった。
「……その話詳しく聞かせて」
ウミガミ様の生贄。私の考えが正しければ、
「あ? まぁいいけど……そいつの話によると、いまから一年前くらいに、ウミガミ様っていうモンスターが現れて、この都市のあらゆる問題を解決してくれたんだそうな」
一年前……ってことは現実では約四ヶ月前。私が受験勉強でデンドロを休止していた期間は約五ヶ月。
丁度私が休止していた時期あたりにそれはやってきたということか。
「そして、しばらく経ったある日……ってかここ数週間の話なんだが、そのウミガミ様が生贄を要求した。若い娘を生贄として寄越さなければ、自分はこの都市から離れる、と残して」
それは……ずるい。最初は何も言わずに都市を救い、後になって
もちろん、助けて貰った義理でなんて思うような人も居るかもしれないけど、私はそれは違うと思う。なんていうか、思いやりがない。
「そして、昨日生贄は捧げられるはずだった」
「それをミアズマ君が止めてくれたってことだね」
「あぁ……止めてくれた?」
良かった。本当に良かった。
ほっと胸を撫で下ろす。
「その生贄の子はどこにいるの?」
「こん中だが……変なこと言うなよ」
ミアズマ君が背後の錆びたアパートの一室を親指でさす。
変なこと……分かってる。どんなことになってても、私は受け入れるから。それが私と彼女との、約束。
ドアノブに手をかける。
錆び付いたドアはまるでどこかの牢獄のように重く、ギィィ、と軋む音は誰かの悲鳴のようだった。
ドアの向こうはワンルームで、彼女と私は直ぐに目が合った。いや、合わなかった。会うことは無かった。
彼女には眼球が無かった。ぽっかり空いた二つの眼窩は、まるで深淵の様に私を覗き込んでいた。
手に持っているのは【薬効包帯】か。
普段は目元に【薬効包帯】を巻いているのだろう。今は取り替え中であることが伺えた。
「あ」
ひとつ、声を漏らした。
これは自然と喉から零れた。
前は、ひとつだったのに。また使ったんだ。
「その声……こゆきお姉ちゃん?」
「ピエリス……」
生まれきっての生贄少女、列島船団の希望であるピエリスは、私のことをまだお姉ちゃんだと呼んでくれた。
To be continued