紅黒詩篇   作:七草青菜

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鬼謀と蓮華 エピローグ

 □【高位催眠術師】こゆき

 

 終わった。疲れた。

 

 ミアズマくんが思ってた数倍アグレッシブでびっくりした。

 

 あの時何が起こったのかというと、私に【浮上】の状態異常をかけ、身体を軽くするとともに海から浮かび上がりやすくしたミアズマくんは、私をピエリスの元までぶん投げた。

 

 そしてピエリスを受け取った私は、願いの力を使おうとしたピエリスを無理やり止め、やってきたミアズマくんにピエリスを任せ、そのまま再度ぶん投げてもらってウミガミ様を故郷である天地に帰した。

 

 で、絶賛落下中。実は瀕死です。

 

 さっき海から落ちる時にピエリスを庇って凄いダメージ食らったし、あと【ワダミダツ】くんの体表小さい茨みたいな棘びっしり生えてて凄い刺さった。

 

 このまま海に叩きつけられたらきっとデスペナってしまうだろう。

 

 まぁ、後のことはフラッシュさんに任せよう。私は頑張った。

 

 そして衝撃が、来ない。

 

 ふわっと、誰かに抱きとめられるような感覚。瞑っていた目を開く。

 

 ミアズマくんだ。

 

「っぶねーな」

「あ、ありがとう」

 

 ミアズマくんは、片手で意識を失ったピエリスを、そしてもう片方の手で私を抱き抱えていた。やだ頼もしい。

 

「どういたしまして……じゃ、こいつ頼んだ、ぞ 」

 

 そう言い残して、ミアズマくんは光に(ほど)けていった。

 

 ──え?

 

 ◇

 

「あーあ、死んじゃったねぇミアズマ君。まぁ仕方ないね。間に合わなかったもん」

 

 その後、ピエリスを連れて何とか船までよじ登った私は、なにやら船団の人達を説得したらしいフラッシュさんに迎えられた。

 

 え、説得したの? どうやって? 怖。

 

 そして、間に合わなかったとは。

 

「あの《不浄の蓮》っていうスキルね、使うと時間経過でHPが減っていくんだ。そして、解除するまでそれは続く」

 

 そうだったんだ。ミアズマくんは、デスペナ覚悟で私の作戦に付き合ってくれたんだ。

 それは、嬉しい。

 

「じゃあ、こゆきちゃんよろしく」

「えぇ……?」

「君、出来るでしょ?」

 

 出来るって、何が?

 

 ……え、言ってないよね私。

 

「この都市にセーブポイントなんてないのに(・・・・・・・・・・・・・・)、君はずっとこの都市にいた」

 

 どこだ、何処でバレた?

 

「この強力なモンスターの蔓延るグランバロアの海でだ」

 私の<エンブリオ>は対象を故郷に帰す《ホーム・インスティンクト》だけだって言ったはずだ。

 そしてそれ以外の情報は流してない。

 いくらフラッシュさんが心を読めるからと言って、そんな事まで見透かすのはもはやなんか違う技能だって。

 

「しかも君はウミガミ様が来る前、まだ列島船団が滅亡の危機に瀕していた時、ティアンを助けるように何度もモンスターと対峙していたらしいじゃん」

「なんで知ってるんですか……」

「船を探してる時に聞いたのさ!」

 

 もはや船探してないでしょそれ。ウミガミ様と私の情報探ってただけでしょ。

 

「それに君は、誰かがいなくなるのを気にしていた。わらびちゃんとか」

 

 それは、そんな些細なことで、見破られたの? いや、ありえないでしょ。

 

「その辺諸々を鑑みると、君がセーブポイントの<エンブリオ>を持っていることが伺える」

 

 バレてた。

 いや、まぁ積極的に隠してた訳ではないんだけど、それでもちょっと隠していたい気持ちはあったわけで。

 だって、なんか、ストーカーみたいじゃん。

 

 私の元に強制的に戻ってこさせる<エンブリオ>とか。

 

「違うでしょ、帰る場所を用意してくれる<エンブリオ>だよ」

「……そうですかね」

 

 そう言われると、まぁそうかもしれないけど。

 

「それで、ミアズマくんをこっちに持ってくるのは可能なの?」

「……出来ます。多分」

 

 このスキルは、対象をパーティメンバーに入れているか、もしくは《ホーム・インスティンクト》によって強制ログアウトした者に対して発動し、“私の<エンブリオ>の近く”というログイン地点を一つ増やすというものだ。

 

 一度使ったら壊れてしまううえに、再使用には一日かかるから使い勝手はあまり良くない。

 

 あと、パーティメンバーが私の元に戻って来てくれなかったとき、少し悲しくなる。相手にも事情があるんだろうけど、それを知る術は私にはないから。

 

「大丈夫、ミアズマくんはきっと戻ってくるよ」

「……フラッシュさん」

「なにせ、ミアズマくんは僕から離れられないからね!」

「フラッシュさん……」

 

 でもまぁそんなものか。理由があるから人は帰って来れるんだ。

 

 私の<エンブリオ>である、蓮の意匠が施された栞を懐から取り出し、それを常備しているライターで燃やす。

 

「──《蓮のうてな》」

 

 スキル宣言と共に、目の前には椅子が現れた。蓮の葉のような座面、背もたれには栞の時と同じように蓮の意匠。

 

 そんなこじんまりとした椅子が、船の上に不自然に現れた。

 

「設置はしたので、来るかどうかは本人次第です」

「おー、ありがとう」

 

 デスペナは普通に受けるから、来るとしても三日後だけど。

 

「じゃあ、僕は船団の民とお話があるから向こう行ってるねー。ピエリスちゃんが起きたら、ちゃんと話するんだよー?」

「……はい」

 

 むしろ、ここからが本番なんだろう。

 

 ピエリスになんて言おう。

 

 いっぱい考えたけど、わたしには何も思いつかなくて、ただ先延ばしにした。

 

 ◇

 

 □<列島船団>・外れ

 

「いやぁ、上手くいったねぇ、良かった良かった」

 

 こゆきから離れた後、フラッシュは船団の者達の元には向かわず、一番船の外れ、人気の少ない場所へと向かい、船の淵へと腰掛けた。

 

「──上手く行き過ぎ、だろ」

 

 ふと、後ろから声をかけられる。

 

「よくあんな嘘即興で吐くよな。心底軽蔑するわ」

「酷すぎる。僕だって泣くんだよ?」

「むしろ泣けよ」

 

 それは、まるで泥でも被ったかのようなフード付きローブを纏い、灰色という表現が良く似合いそうな少年。

 

 ──それは、ミアズマだった。

 

「まぁまぁ、少しくらいヒロイックな方がウケがいいんだってー」

 

 しかし、そんなミアズマに、フラッシュが驚いた様子はない。

 どころか、生きているのが当然といった様子で、ミアズマと会話をする。

 

「それに、これでこゆきちゃんもこっちに来やすくなっただろうしね。」

「お前その手札全部暴いた上で味方になった方が得だと思わせるのやめろよ」

 

 ミアズマはフラッシュの後頭部を両手で掴み、ゆらゆらと揺らす。

 その仕草はまるで、仲のいい兄弟か何かの様だった。

 

「しかも結局やってること詐欺だしよ」

「いやいや、結果的には大団円じゃん。僕が一番得したってだけで」

 

 実際これが一番良い感じなんだってさー、とフラッシュが続ける。

 

「君たちにとって、この世界はゲームなんだろ?」

俺にとっては(・・・・・・)そうじゃねぇがな」

「細かいことは気にしないー」

 

 フラッシュがミアズマの手を振り払い、椅子から立ち上がってミアズマの方に向き直る。

 

「グッドエンドよりもハッピーエンドのほうが、ゲームっぽくていいじゃん?」

 

 そのまま右手を差し出し、ミアズマに握手を求める。

 

「んじゃ、次もよろしくねー、ミアズマくんっ」

「あー、嫌い。ほんとお前嫌い」

 

 ミアズマは、その右手を両手で受け取り、握手を行った。

 

 ◇

 

 □【高位催眠術師】こゆき

 

 ピエリスが目を覚ました。

 

「あ、ピエリス……」

「お姉ちゃん……なんで?」

 

 開口一番、ピエリスは私になんで、と言った。

 

 なんでっていうのは、なんで自分を助けたのって意味だろう。

 

「そ、それは……ピエリスには生きて欲しくって、それで」

「違うよお姉ちゃん」

「え?」

 

 だけど、私が思っていた事とピエリスが言おうとしていた事は違うらしかった。

 

「なんでお姉ちゃんは私にそんなに優しくしてくれるの?」

 

 優しくする理由。いじめられていたピエリスを助けて、生き方を教えた理由。それは、それなら決まってる。

 

「それは、ピエリスが私に似てたからだよ」

 

 そう、あの時のピエリスは私に似ていた。

 いじめを受けながらも、どこか仕方ないと、諦めの表情を浮かべていた。

 

 私には相談出来る相手がいて、その辛い場所から逃げることが出来たけど、船という囚われた空間にいるピエリスにはそれが出来なかった。

 だから、私が手を差し伸べた。

 

「もちろん、そんな考えは直ぐに改めさせられたけど……ピエリスはもっと高尚な考えでもって、みんなを幸せにしようとしていた」

 

 でも、最初の動機としては、いじめを受けているその姿が、私と重なった、それだけだった気がする。

 

「そっか……そうだったんだね」

 ピエリスは、どこかほっとしたようにそう呟いて、私の目を見た(・・・・)

 

「私は、お姉ちゃんのこと、好きだったよ?」

 

 好き、だった、か。

 

 うん。分かってる。

 

「ねぇ、良かったら私と……」

 

 そう言いかけた口は、ピエリスの人差し指によって、いとも簡単に塞がれた。

 

「……お姉ちゃんには着いていけないかな、だって嘘つきだもん」

「……そっか」

 

 そうだよね。私は、どんな理由があろうと、ピエリスを騙したんだ。

 これは、当然の結果だ。

 

「私、これからもみんなと一緒に暮らすことにするよ」

「うん」

「みんな本当に優しいんだから、私も優しくしなくっちゃって思ってた」

「……うん」

「でも違ったんだね。私はまだ子供だから、まだまだみんなに甘えていいんだって、お姉ちゃんが教えてくれたから」

「…………うん」

 

 ピエリスは楽しそうに、これからの、未来の話を語る。それは確かに私がピエリスに求めていたもので、そのはずなのに。

 

「だから、私を救ってくれてありがとう、お姉ちゃん!」

「うん……ごめんね、ピエリス」

 

 これ以上ないくらいの笑顔でこちらを見据えるピエリスに、どうしようもなく胸が張り裂けそうになって、一言謝った。

 

 ◇

 

 □【詐欺師】こゆき

 

 三日後。ミアズマくんは無事に帰ってきたらしい。椅子も消えてたし、スキルはちゃんと発動した(・・・・・・・・)んだろう。良かった。

 

 私はこのデンドロ内での三日の間現実に戻っていた。

 さすがにずっとゲーム内に居てやること出来ていなかったし、ピエリスのいるこの場所に戻れる気もしなかったからだ。

 

 そしてミアズマくんが戻ってくるであろう時間帯にログインし、何故か出待ちしてたフラッシュさん……じゃないや、師匠に連れられ、そのまま【詐欺師】にされた。

 なんでこの船【詐欺師】のジョブクリスタルあるの……?

 

「やっぱり弟子になるんだったら詐欺師になってもらわないとねー!」

「不本意……」

 

 いや、まぁ詐欺師の弟子になるんだから詐欺師にならないといけないのは分かるけれども……なんだかなぁ。

 

「これでこゆきちゃんも晴れて《真偽判定》持ちになったわけだし、もうこゆきちゃんの前で嘘は吐けないなー」

「今までどんだけ嘘吐いてたんですか……」

 

 それに、詐欺師って《真偽判定》ごまかすスキルあるじゃん。どっちにしろそれ使うでしょ。

 

「いやぁ、僕そういうのは使わない主義なんだよねぇ」

「今(真偽判定)に引っかかりましたが」

「……細かいことは気にしなーい! それよりもミアズマくん、ほら出して!」

 

 話を全力で逸らすように、師匠がミアズマくんに催促する。

 

 ミアズマくんが煩わしそうにそれに答え、アイテムボックスから《即時放出》によって、二つの巨大な船を出す。

 

 ってこれ……。

 

「船は船でも、“飛行船”でしたー!!」

「うぉ、えぇ……」

 

 この世界飛行船とかあるんだ……初めて見た。

 いや、二つ? なんで二つ? 男女別?

 

「行先は、わらびちゃんとミアズマくんは厳冬山脈! そして僕とこゆきちゃんは天地!」

「え、別行動なんですか?」

 

 だから二つか。いやなんで私師匠と二人きりなの? 嫌なんですけど。

 

 私がわらびちゃんと行きたい。

 

「いやいや、君が行かなくてどうするんだよ。これから【ワダミダツ】の討伐権利持って天地との貿易権利ぶんどってくるんだから」

「え、えぇ……」

 

 初耳なんですけど。

 

「もう列島船団の長さんとは話ついてるし、僕の友達経由で天地の方にも話は通してもらちってるよ」

 

 じゃあ四人で行けばいいのでは? なんで別行動する意味があるんですか……。

 

「だってわらびちゃんにそろそろ村を見せてあげないと……」

「ん! わらびは早くわらびの村に行くんだよ! すぐ、でいいよ!」

 

 昨日と全く変わらない調子でわらびちゃんが宣言すると、さっさと飛行船に乗り込んだ。

 

「ていうか、ミアズマくんと師匠って契約で離れることが出来ないんじゃ……」

「ああ、あれ嘘だよ!」

「……はぁ?」

 

 え、そこから? まじ? もう師匠の何も信じられない。いや最初から信じるべきじゃないか。

 

 ということはミアズマくんは別に師匠から離れたい訳でもなんでもない……? え、ツンデレ? いやもう何も分からない。後で聞こう。

 

「じゃあ、出発前に晴れて弟子になったこゆきちゃんに僕からこの言葉を授けよう!」

 

 そんな私の混乱を無視して、師匠は私に何か言葉を授けるらしい。

 

「“嘘をつく詐欺師は三流だ。嘘をつかなくなってようやく二流になれる”」

 

 あ、はい。

 

 ん?

 

「え、じゃあ一流の詐欺師はどうなんですか?」

「決まってるじゃん!」

 

 師匠はバッと両手を広げ、世界を見せつけるように声高らかに言った。

 

「一流の詐欺師はみんな嘘つきさ!!」

 

 その言葉は、私の覚えたての《真偽判定》に思いっきり引っかかったのだった。

 

 

 

 Episode End

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