零のソウル   作:真田

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とある不死の旅路の終わり

 最初の火の炉。そこは見渡す限り白しか存在しない殺風景な風景が広がっている。

 あたり一面に積もっている白いそれは雪のようにも見える。しかし、それはちがう。これは灰だ。ところどころ岩肌も覗いており、その一部はまるで一度高温で熱せられたかのように緑色に変色している。

 そこに、一人の不死が存在した。

 不死。それはそのままの意味であり、永遠に老いず、永遠に死なない存在だ。

 不老不死。憧れ、羨望の眼差しを向ける人間は多いかもしれない。しかし、この世界での不死は呪われた化け物であり、不死を狩る騎士ロイドは英雄扱いされるほどだった。

 確かに不死は何度でもよみがえる。永遠の命を約束する。しかし、そんな化け物たちを人間はひどく侮蔑する。

 その理由。それは何度も死にゆく内にいつしか考える器官が崩壊していくからだ。

 そして、いつしか理性が崩壊し、おぞましき姿となった不死。それを人は「亡者」と呼ぶ。

 亡者となりし者は世界が終わるその時まで何も考えず、何も感じず。ただただ、機械的に人の持つソウルを求め、人を襲う化け物と化す。

 そんな過酷な運命を持つ一人の不死は「ボロ布のローブ」と呼ばれる、大沼と言う地で愛用されている灰色のローブを身に纏い、右手には「クラーグの魔剣」と呼ばれる曲剣を、左手に「呪術の火」と呼ばれる小さな火種を握っている。顔は頭にフードをかぶっているので性別すらもよく分からなかった。

 

 その不死の前には普通の人間よりも大柄な一人の神が立っていた。神とは言っても基本的な体型は普通の人間とさほど変わらない。普通の人より一回り大きいというぐらいの存在だ。

 その神の名を「薪の王グウィン」と言った。

 彼が身に纏っている服は、薪の王と言う名前に反比例するかのように、何か特殊な力を持っているわけでもない質素な物。

 そして、亡者であるがゆえに、肌は全身が干からびたミイラのようにしわくちゃで、顔の眼球にあたる部分には何も存在せず、ただただ深い闇だけが覗いている。何とも不気味な存在感をあたりにまき散らしていた。

 しかし、誰もが彼と相対すればそれを気にする余裕など吹き飛ぶだろう。いや、そもそもそれを確認する余裕などない。

 なぜなら誰もがその手に握った長大な大剣に目を取られ、それが目にもとまらぬスピードで襲い掛かってくるからだ。

 シンプルな形をしているが、超大で灼熱の炎を纏った大剣だ。並みの相手なら瞬時に焼切り、死体など燃え尽きて灰と化すであろう破壊力を兼ね備えた剣。

 その二人は戦いを繰り広げていた。

 不死とグウィンは互いに得物をぶつけ合う。いや、ぶつけ合うという表現は正しくないだろう。グウィンの攻撃は、剣で受け止めようものなら問答無用で武器ごと焼切ってしまいそうなほどに強大なのだ。

 故に不死は攻撃をひたすらに避ける。地面を転がる。体をそらす。黒騎士の盾と言う名の、真っ黒な焼け焦げたような盾を構えて受け止める。

 しかし、防御しているだけで攻撃には転じない。いや、転じれるだけの隙がない。戦況は誰がどう見ても不死の劣勢だった。

 

 

 もう、何度殺されたのだろう。

 不死はグウィンの横薙ぎに薙ぎ払われる剣を盾で受け止め、全身が砕け散りそうな錯覚を覚えながら思った。グウィンの力は圧倒的すぎる。

 これまでに幾度も幾度もグウィンに挑み、そして無残な敗北を重ね続けていた。

 しかし、防戦一方とはいえ、最初に比べれば随分と事態は好転している。初めの数回はろくな行動もとれず、最初の一撃で同じように焼切られたのだから。違うのは切られ方だけだったころに比べれば格段の進歩だ。

 

 グウィンが片手で保持していた灼熱の大剣を左上から右下へと、袈裟切りに切りつけてくる。

 いつものパターンであればこれを盾で防いでいるところだ。しかし今、手には盾ではなく呪術の火を握っているためにその方法は取れない。それ以外の凌ぐ方法の一つは、距離を取るなり地面を転がるなりして剣の軌道上から外れ、躱す事だ。しかしそれが難しい。後ろに下がってもあの大剣の超大なリーチの前では逃げ切る事が出来ない。横に移動して避けても、これまでの経験から二の太刀で真横に薙ぎ払ってくるので横もダメだ。

 なら、どうする?

 いや、考えるまでもなく挑む前にこういう時にはどうするかは考えてある。事前に対策をいくつも考え、実行し、それがダメであれば別の方法を考える。それをこれまで何度も繰り返してきている。

 その策が成功すれば殺せる。失敗すれば死ぬ。それだけのこと。

 不死は右手にもったクラーグの魔剣を強く握り、一歩、グウィンとの距離を詰める。ここで零距離にまで詰める事が出来れば斬撃を無効とさせる事が出来、勝機も見えるのだろうが、そこまで距離を詰めるよりも大剣の速度が速い。

 しかし、そうなることはすでに死を持って経験済みだ。

 不死が見据えるのは、グウィンが剣を振るうために上に持ち上げた太い腕。今の腕の位置は頭より上。剣を振り上げている状態だ。そしてこのまま何もしなければ、大剣は下へと勢いよく振り下ろされ、長大な大剣は不死の身体を焼切る。

 不死は、呪術の火を握った右手を動かし、下からグウィンの腕に当てる。そしてそれとほぼ同時に、クヴィンの腕が一気に加速されようとした。

 そこを狙った。

 不死はその瞬間、右手に全力で力を込め、大剣を持った腕を押し返した。

 加速されようとしたと言うだけでまだグウィンの腕にはさほど勢いが乗っていなかったからこそできた策。それは成功し、クヴィンの無防備すぎる胴体が晒された。

 この機を逃す馬鹿ではない。

 不死はその手に持ったクラーグの魔剣で、グウィンの胴体に全力で突きを入れる。剣は根元まで突き刺さり、振るわれたと同時に纏われる混沌の炎がグウィンを身体の中から燃やす。

 

 それが止めの一撃となった。

 

 グウィンの身体から威圧感が霧散する。そして剣を引き抜くと、こと切れたように膝をつき、次に両手を地面につき四つん這いとなる。

 そして光の粒子となって消えた。

 

 殺した。

 

 その事実を確認した不死は軽く息を吐き出し、全身から緊張感を霧散させる。

 そして、煩わしく感じた頭のフードを外した。

 フードの中に窮屈に詰まっていた長い黒の髪が背中に流れる。このロードランの地に風呂と呼ばれるものなく、髪の手入れなどしたこともないのでその髪はボサボサだ。手で梳けば確実に途中で引っかかる。

 そこからのぞいた顔はまだ少女と言っても良いであろう顔立ちの女だった。しかし、見た目がそのまま実年齢を表しているかはわからない。なぜなら彼女は不死。つまりは年を取ることはなどない。すでに軽く1000年以上生きているのかもしれないし、見た目通りまだ10歳ぐらいの年なのかもしれない。

 そのまま彼女はじっとクヴィンが消えた場所を見つめていた。しかし、いつまでたってもその心中を達成感が満たすことはない。心中にあるのは酷い疲労と脱力感だけだった。

 そのまま自身の欲求のままに地面に座り込み、全身を弛緩させる。そんな彼女の目の前には今にも消えそうなほどに弱弱しく燃えている篝火がある。

 あの篝火を、「最初の火」を再び燃え上がらせること。それが彼女の不死としての使命。

 目を瞑る。ここまで来るにあった様々な思い出を心中に思い浮かべる。が、途中で辞めた。苦痛を伴った思い出しかないことに自重めいた笑みを漏らす。思い出しても気が滅入るだけだった。

 やがていつまでもこうしているわけにはいかないとばかりによろよろと立ち上がり。ゆっくりとその空間の中心にある篝火へと歩を進める。

 それを見て一度深呼吸をする。

 そしてゆっくりと、自らの右手をその篝火に掲げた。

 

 突如。篝火の小さな火種が大きく燃え上がる。彼女はそれを何の感慨もない様子でぼんやりと眺める。

 

 そして、次の瞬間。

 

 火が不死の手に飛び火する。不死はさすがに驚き、慌ててその火を消そうとする……が、それを実行に移すことなく、手から腕へ。腕から胴体へと火が燃え広がっていく様子を見つめていた。

火だというのに全く熱くない事に気づいたのだ。

 やがて、その火は不死の身体の全身を包むと、次にその空間を火が埋め尽くしていく。

 その光景は思わず見惚れてしまうほどに美しい光景だった。

 

 

 

 

 ─それは、不死が…彼女が使命を果たし終えた証だった。闇の時代は遠ざかり、再び火の時代が、神の時代が続いていくのだろう。

 

 ─これで、彼女の長い旅は終わる。

 

 ─そして……

 

 

 

 

 

 タスケテ…!

 

 

 

 

 突如。彼女の頭に響く声。そんな現象にまず驚き、何事かとあたりを見渡す。そして━━

 

 ─召喚されています

 

 そんな端的な単語が彼女の脳内に響き、瞬間、光に包まれた。

その眩しさに思わず彼女は目を瞑る。

 

 

 

─それは新たな物語の始まり。

 

─不死としてではない、生者としての物語が。

 

─彼女の意思の有無にかかわらず

 

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