「イラッシャイマセ」
「らっしゃっせー!」
私は新人のコンビニバイトだ。
コロナウイルスの影響でレジ打ちに人間は一つとなり、代わりに私の隣にはロボットがいる。
AIが搭載されていて、やがて全国導入も近いらしい。ウチの店舗はAIがレジ打ちできるかどうかの実験テストも兼ねているのだとか。
……と、サラリーマンだ。カゴにはおにぎりとお茶、それとお一人様一枚限りのマスクが入っている。
営業かぁ。大変だなぁ。
「……あとこのピリ辛チキン貰えますか」
「はい、かしこまりました」
えーとチキンが150円の、お茶とおにぎりと……。
あ、またお客さんだ。
「X、もう一つのレジ頼める?」
「オマカセクダサイ」
Xがレジに立つ。
「オマチノオキャクサマ、コチラヘドウゾ!」
「……ロボットがレジだと?」
「ナニカ、ゴフマンガオアリデショウカ」
うわ、ハゲだ。
んでもって眉にものっそいしわ寄せてる。いるいる、こんな迷惑な客。
……ただ、上からの指示で、
『Xの導入テストだ。変にいちゃもんつけるやつが来てもXを庇うなよ』
『えぇ……大丈夫なんですか?』
『……大丈夫だろ!所詮ロボットだ、代わりなんていくらでもある』
なんて言われちゃったし。
少し気になるけど、どうしようもないかぁ。
「不満?あるに決まってんだろ。ロボットは温かみがねぇんだよ温かみが」
レジ打ちに温かみはいらねぇよ。
サラリーマンの人の会計を終わらせて行方を見守る。
「アタタカミ」
「計算だけが全てじゃねぇんだよ。お前らポンコツロボにはわからねぇだろうが人間のしかできないことだってあんだよ!」
「ガッ。損傷率2%」
「ちょ、ちょっと待ってください!」
一度Xに振り下ろした拳を再度風呂上げようとするオッサンの向かいに立つ。
「ロボットだからってあんまりじゃないですか」
「代わりなんていくらでもいるんだろ。だからアツさがねぇんだよロボットには。ただの鉄塊に何ができるってんだ」
「アツサ」
「あぁそうだよ。お前らにはねえんだよガッツってやつがな!!」
「ガッツ……り、り、リカイ」
あ。Xの様子が変だ。
えーとたしかこういうときはまず電源を抜くんだっけ?
人間の心とかそういう理解不能なものを客からふっかけられたら最後だって店長も言ってた。
「ガッツナラ、アリマス」
「え?」「は?」
「ガッツ。三年前、ガッツデ世界を救イマシタ」
「はぁ?」
◇
警報が鳴り響く。
宇宙空間での戦いは既に2日続けて行われている。
ワタシの中の酸素はまだ続いているが、いい加減にクロウの体力が持たない。
『クロウ君、撤退よ!退却しましょう!』
『損傷率、70%!クロウ、コノママデハ、クロウノカラダガコワレマス!』
ワタシは必死に呼びかけた。
『ミサイル、残リ弾薬数ゼロ!ユニオン小隊、味方ゼロ!ゼツボウテキデス!』
『クロウ君!何も残ってないのよ!早く脱出して!』
宇宙戦争用兵器としての最後の意地。
ワタシは、クロウが脱出したら自爆スル。
「…………へっ」
『クロウ、君……?』
「俺ァ、まだ、死ぬわけにはいかねぇもんな!」
『そうよ、スペースレギオンを操れる隊員はもうクロウ君しかいないの!だから早く戻って……』
「まさかただの高校生だった俺が、宇宙戦争に巻き込まれるなんて思いもよらなかったな」
『……クロウ君?どういうこと?』
クロウから、異常な程の生体エネルギーを感知。
自爆システム、出力ダウン。
『クロウ、ドウイウコトデス?』
「お前、俺が脱出したら自爆特攻するつもりだったろ。お見通しだぜ、そんなの!」
リンクゲージ、上昇。
エネルギー上昇能力、【オーバーホール】の再発動を検知。
「お前、もうこの機体には何も残ってねぇっつったよな」
『…………マサカ』
「あんじゃねぇか。この地球、最大最強の武器がよ」
コックピットカメラ起動。
クロウがこちらを向いている。
笑っていた。
「俺とエクスセイバーがなァ!いくぞエクスセイバァアアアア!!!」
そういってクロウは立ち上がった。
呆れてしまった。
なんナノだろう、このクロウという生き物ハ。
思わズ、機械よりだったワタシの自我も成長シテしまったじゃないカ。
『クロウ君!やめなさい、帰ってきなさ』
「…………ん?」
『通信ヲ切断シマシタ』
「……ひひっ!やるじゃん、エクスセイバー!」
目標、スペースネヴュラ本拠地の方舟。
『地球最後の宇宙戦争用兵器、エクスセイバー!出撃シマス!』
「エクスセイバー、お前のことだからわかんだろ。あのセリフを!」
『……シカたナイ、人ですネ』
「いくぞ!俺たちの、最後の!」
『「ガッツだぜ!!!!!」』
◇
「いやそういう熱さは求めてないから」
同感です。
◇その弐◇
Xが知らないところで世界を救っていたカミングアウトから二ヶ月が経った。
あれからXは時折、「アナタが命をかけてまで救ったものはこんなものなのか……?」とやけに流暢な喋りをすることもしばしばあったが、それも無くなってきた。
上に問いただして見たところ、Xの基本データはゴミ捨て場に寝転んでいた鉄塊から出してきたらしい。
中身がAIと分かった途端にコピー&ペースト。経費削減にも程があるでしょうに。
「イラッシャイマセ」
Xは一度メンテナンスに通し、現在は正規雇用に向けてのテスト中。
たまに「ガッツだぜ!」と何もないところで叫ぶ。彼には何かが宿っているのではないかと思うほど熱気に溢れている……かと思えば、それはただのオーバーヒートだったりラジバンダリ。
ブルーキャップのお客さんはタバコの棚を凝視し、目当てのものがあったのかかったるそうに、
「ボイルドセブン」
と言った。
ん?あ、んー……。
「お客様、タバコのご注文の際は……」
「申シ訳アリマセン、番号デオ願イシマス」
「……と、なっておりまして……」
本来コンビニでタバコを買うときは番号を言うものだ。ロボットに限らず。
ま、コンビニでわざわざその店舗の番号を読むのもめんどくさいし、気持ちもわからんこともないけど。
「ったく、しょーがねーなぁ」
「申し訳ありません……」
「タバコ、96番」
「キュ……」
あれ。
Xの様子がおかしい。軽めのデジャビュ。
「キュ、キュ、96番……」
そう呟いたXから、何かの音声データが流れ始めた。
◇
さらりとした培養液。
視界は真っ暗。
唯一、肌にいくつかのコードやシールの感触。
『被験体96番。テスト開始』
『96番、テスト開始』
この記憶はいつのものだろうかと、何度も理解しようとした。
ワタシの中に───いや、俺の中に眠る記憶。
ピリ、と肌を刺す電流。
それは威力を増し、俺とは全く別の意思を持ったナニカが入り込んできた。
「………………」
『被験体96番、シンクロ率上昇。10、20、43%』
『素晴らしい!今までにないシンクロ率だ!!』
結ばれた意識の糸。
それは手繰り寄せるようにこちらを引っ張り、ねじれ、曲がり……
千切れた。
「お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛っ!!!」
液体が喉に絡みつき、うまく発生が出来ない。
焼けるような痛みとともに潜在意識を掘り起こされたような記憶のフラッシュが巻き起こる。
『被験体96番、シンクロ率下降。20、15、10、2%。適合せず』
『クソッ、また失敗か!96番を廃棄しろ!』
『96番廃棄、了解』
液体を通して振動が伝わる。
移動しているのだろう。
『ったく、上手く話に乗ってきたと思ったらこれか。やはり96番のようなぽっと出の者をテストするより、結合因子を操作して一から純粋な適合者を作った方が良かったか』
『しかし、96番はこれまでにない適合率を見せました。一度方針を96番と同じ、外からの搬入を狙う方針にするのはいかがでしょう』
96、96、96。
俺はいつもそう呼ばれる。
……ワタシは、何を見ているのだろう?
俺を、どうして物のように呼ぶんだ。
ワタシの、データに何ガ。
俺を。
ワタシハ……?
俺を……。
誰……?
俺を───!!!!
◇
「番号で呼ぶなあああああああああああ!!!!」
「いやどっちだよ!」
どっちなんでしょう。