□△月○○日
里の外れに恨めしそうにこちらを見る女が目撃されるという話があるので、
見に行くことになった。
夕暮れになると現れ、こちらが近づくと呻き声をあげて消えていく。
そんな話を梅吉から聞きながら霊の場所に着いた。
確かにその女はいた。
長い髪は乱れてボサボサで、髪のスキマから覗く顔は
幽鬼のように青ざめ恐ろしい形相をしている。
試しに近づいてみるが、全然消えない。
目の前まで近づいても消える気配が全く無い。
聞いていた話と違うと思っていると、
その女に頭を触られる。
「髪が無い・・・。」
ひどく残念そうな声でそういった。
梅吉が近寄ると女は呻き声を上げて消えていった。
唐突に消えていったことに二人して驚いた。
なぜ俺が近づいても消えなかったのだろうか。
□△月○×日
女のことが気になったので、今度は一人で行くことにした。
例の場所にやっぱりあの女がいる。
近寄ってみても昨日と同じく消えない。
また頭を触られたので、なんとなく髪を伸ばしてみるとすぐさま髪を切られる。
切った髪をむしゃむしゃと貪る女。
また髪を伸ばしてやると、直ぐに髪を切って直ぐに食う。
しばし椀子蕎麦のように絶えず髪を供給していると、
満足したのか髪を切る手が止まった。
乱雑に切られた髪を落として、またつるつるの状態にすると、
貴方も妖怪ですかと聞かれた。
人間だと答えると、最近の人間は凄い便利なんですねと言われる。
少し血色の良くなった女は髪切りという妖怪で、
最近里の人間の髪を食べられずにひもじい思いをしていたそうだ。
剃刀のように鋭く尖った爪をシャキシャキしながら、
俺以外の人間に近づけずに困っているなんて言っているのを見て、
ふと毛難除符のことを思い出す。
また俺が原因か。
□△月○☆日
髪切りの前に、木製チェア、素朴な洗面台、木製の姿見を置く。
髪切りのボサボサの髪を洗った後、髪を結ってやる。
顔を晒すことに恥ずかしがって抵抗したが、
髪を食いたいなら我慢しろと言ったら渋々したがった。
髪切りの毛量が多くまとめにくいので、
適度に髪を梳いて、少し入れ込んでまとめる。
姿見とテーブルミラーを使ってどんな感じになったのか見せてやる。
これが私なんてコテコテの反応を見せる髪切りに、
ギブソンタックという西洋の編み方だと教えてやる。
貸本屋にあった髪結いのカタログと図書館にあったヘアカタログを渡す。
今度は俺が椅子に座って髪結いの練習をさせる。
□△月×○日
髪切りの練習をさせていたら、
私も髪を結って貰ってもいいですか?と女性がやって来た。
髪切りが女性の髪を結っているのを見てみる。
やはり髪に関係する妖怪だけあって、
数日練習しただけで様になっている。
女性の髪を結綿に結い上げた手並みは見事と言うほかない。
□△月××日
髪切りのところにいったら既に人が並んで、
大盛況だった。
なんでこんなに人が来るの~?と泣き言を言っていた髪切りに、
昨日来た子は大店の娘さんで、毎週神社に通って髪に潤いケアしに来るほどの、
美髪マニアで里の流行の発信源の一つだと教えてやる。
ひいひい言っている髪切りを尻目に、
お客さんがゆっくり出来るように椅子とテーブルを設置しておく。
もう大丈夫そうだ。
□△月△○日
日課終えて神社に向かったら、道中に床屋が出来ていた。
入ってみると髪切りが女の子の髪を結っている。
髪切りの話を聞いてみると大店の娘さんの計らいで、
店を作って貰ったそうだ。
丁度娘さんもいたので話を聞くと、神社の帰りに床屋が欲しかったとのお言葉が返ってきた。
それに神様公認の女髪結いなんでしょ?分かってる分かってるとか言ってきた。
まあいいか。髪切りも災いじゃなくなったみたいだし。
□△月△□日
冬囲いをした木々に雪が積もり始めた頃、
甘味処で水羊羹を食べていたら、
里の住人が行方不明だという噂を聞いた。
行方不明・・・神隠しにあったんだろうか?
□□月○○日
神社への道中で大店の娘さんとすれ違った後、
神社の境内に入ると巫女さんがマリちゃんに絡まれていた。
どうしたのかマリちゃんに聞いてみると、
二人で口喧嘩の最中に参拝客が現れるやいなや、
巫女さんがそれまでの喧嘩腰の低い声を改めて、
1オクターブ高い声で愛想の良さを見せたらしい。
霊夢も人の子だな、なんてからかうマリちゃんに肘鉄を食らわせて、
巫女さんは神社に引っ込んで行った。
マリちゃんは巫女さんを追いかけて神社に走っていった。
多分また喧嘩になるだろうから、今日のところは帰るとしよう。
□□月○△日
酒飲み二人組みにいい屋台があると誘われ、
ほいほいとついていく。
人通りの少ない道を歩いていくと急に目が見えなくなった。
するとおっさんから耳を澄ませて歌声の方に行くんだといわれる。
「夜の鳥ぃ♪夜の歌ぁ♪人は暗夜に灯を消せぇ♪」
変な歌詞だなと近づいていくと、タレの焼けるいい匂いがする。
目が見えない中、手探りで席につくと、若い女将さんから注文を聞かれる。
とりあえず飲兵衛に注文は任せて、この何処かで聞いたことのある声について考えていると、
香ばしい何かを前に置かれる。
おっかなびっくり食べてみると濃い味で美味い。
急に目が見えるようになったので、顔をあげると見覚えのある顔だ。
確か異変の宴会の時に来た夜雀じゃないか。
「夜の夢ぇ♪夜の紅ぁ♪人は暗夜に礫を喰らえぇ♪」
女将さんにこれは何を焼いたんですかと聞くと、
八目鰻だよ、焼き鳥よりも美味しいでしょ?と返される。
うん、こりゃいい、焼き鳥より八目鰻がいいよと言いつつちょいと考える。
夜雀の歌に八目鰻ね・・・どうやら一杯食わされたようだ。
毒をくらわば皿までというし、たらふく食べて飲んだ。
飲兵衛二人組は女将さんの正体には気づいていないようだな。
そのまま三人とも千鳥足で帰った。
□☆月○○日
神社で二年参りを済ませ、
巫女さんの正月祭祀を見守る。
無事今年も太陽が明星をかき消したことに胸を撫で下ろし、
初日の出を拝んだ。
□●月××日
稗田の嬢ちゃんから縁起の版木作りを頼まれた。
ドンと積み上がった何十巻もある巻物は中々に、威圧感があるな。
☆○月○☆日
図書館で本を読んでいると、
ふと紫魔女さんのネグリジェっぽいローブドレスが目に入る。
いつもの無地の薄紫のものから縦にストライプの入ったものになっていた。
すごい分かりづらいイメチェン?である。
司書さんと相談してもっと色んな服を着るように言っておこう。
☆×月×△日
春祭りも何事もなく終わり、種まきに精を出していると、
ひょっこりとミミズが顔を出し、挨拶するように頭を動かした後、
また土の中に潜っていった。
ミミズに挨拶されたのは初めてだな。
☆☆月○□日
今年の蝉はやけにうるさく鳴いている。
特に魔法の森は酷い騒音で、アリスさんが里の診療所に夏の間は厄介になっているそうだ。
マリちゃんは神社と古道具屋を行ったり来たりしているらしい。
☆☆月×○日
神社で暑い夏を避けていると、マリちゃんがやって来て今年の蝉について話し始めた。
なんでもこの蝉は11年周期で発生する奇跡の蝉で、
外の世界には13年周期や17年周期の蝉がおり、
そのどれもが素数で他の周期の蝉と被りにくいんだそうだ。
それでも100年ほど前に周期が被ってしまい、
競争に負けてしまい、幻想入りしたのが11年周期の蝉らしい。
・・・古道具屋の受け売りだろというと、バレたかと言ってマリちゃんは舌を出しておどけた。
☆●月○☆日
神社の裏の森で山菜取りをしていたら外来人を見つけた。
神社に送り外の世界に帰して上げようとしたら、帰りたくないという。
しょうがないので空いている長屋に放り込んで、
世話役の婆さんにいろいろ教えてやってくれと頼んだ。
最近は帰ろうとしない外来人が増えたな。
☆★月××日
縁起の版木作りが終わったので、
貸本屋に引き取りに来て貰う。
流石に貸本屋の主人と嬢ちゃんだけじゃ運べないので、
長屋で暇そうにしていた外来人の大介も借り出して、
リアカーに積み込んで運ぶ。
嬢ちゃんはこれから刷るであろう本の量にげんなりしていた。
●○月○☆日
出来上がった縁起を稗田の嬢ちゃんから貰う。
書かれていた内容は既に知っていたので、
文字や絵に潰れがないか確認して、不備がないことにホッとする。
しかし何故か嬢ちゃんは深刻そうな顔をしている。
どうしたのかと聞いてみると、幻想郷の実情として妖怪に取って食われるようなことは無く、
平和になった幻想郷においての縁起の必要性が薄れ、
これ以上阿礼乙女が転生する必要があるのかという重たい内容だった。
幻想郷に阿礼乙女は必要不可欠ですよと返しても、
そうですかねと自信なさげだった。
根を詰めすぎて疲れ切っている様だったので、
体調を整える能力とマッサージを併用して、
リフレッシュして貰うことにした。
マッサージの途中で眠ってしまったが、
若いくせに凝り凝っていたので、もてる技術を総動員してマッサージをする。
この子骨がごっきごき鳴って面白いわ。
●○月○●日
俺のマッサージは次の阿礼乙女に残すべきだと、
稗田の嬢ちゃんに力説され、マッサージの取材をされる。
体調を整える能力も伝授できないか、神様と交渉するらしい。
すっげえ元気になってるじゃん。