あつもり日記   作:syumasyuma

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●★月◯◯日

 

里を歩いているとちびっ子の服から芽が出ていた。

おおかた冬に入れた綿を抜き忘れたのだろう。

 

呼び止めてその事を指摘してやると、

恥ずかしそうにしていた。

 

走り去るちびっ子を微笑ましく見ていると、

去年巫女さんの服に入れた蒲の綿はどうしたのだろうかと気になった。

 

早速神社に向かい巫女さんに確認すると、

血相を変えて母屋に戻る巫女さん。

境内を掃除していたさっちんがどうしたのかと、

聞いてきたので一緒に母屋に向かう。

 

母屋に入ると案の定と言うべきか巫女さんの冬服から芽が出ていた。

さっちんがなんで服から芽が?と不思議がっていたので、

蒲の穂について教えてあげる。

こっちでは服に蒲の穂を入れるんですね。

 

なんて感心するさっちんに乾燥した蒲の穂は蚊取り線香の代わりになるし、蒲の花粉は薬にもなり、蒲の葉で蒲団なんかも作れる優れた植物なのだとドヤ顔で説明する。

 

説明している間、巫女さんはしょんぼりしながら綿を抜いていた。

 

 

●★月○☆日

 

手紙を配達するために香霖堂に入るとメイドさんが難しそうな顔をして店内をうろうろしていた。

店主に手紙を渡しつつ客がいるなんて珍しいこともあるもんだと言うと、

槍が降るより珍しいねと返される。

 

槍が降るのか。

幻想郷の気象について悩んでいると、店主がメイドさんが何を探しているのか教えてくれた。

なんでも月に行くためのロケットあるいはその部品だそうだ。

 

そういえば紅魔館がなにかしているみたいな話を聞いたような気がするな。

人伝だったか新聞だったかは覚えていないが。

 

メイドさんにロケットを探しているんだって?と話しかける。

メイドさんはお嬢様・・・吸血鬼のお姉さんからロケットを作るように言われているらしい。

幻想郷でロケットを作るだなんて無茶振りにもほどがあるなと思ったが、はたと気づく。

 

作れるじゃんと。

 

メイドさんに明日持っていくというと呆れられた目で見られた。

そうですかよろしくお願いしますねというと、メイドさんは部品を探す作業に戻った。

 

全く信じてないな。

 

 

●★月○●日

 

紅魔館を訪れ、衆人環視の中早速庭を借りてロケット作成に入る。

 

作業台で物を作成する時、作業は不思議パワーほぼ一瞬で終わる。

しかし作業内容や完成品の構造などは頭の中に入ってくるので、

直ぐに理解した。

 

あっ、このロケットめっちゃでかいと。

 

ゲームの画面と同じ大きさだと勘違いしていたぜ。

 

物ができあがる僅かな時間を使って竹籠を足で抱え、

出来上がったものが顕現する前に収納する。

 

無理な動きで足が攣ってしまった。

 

万一落としたときにロケットが出てきてしまったら、

門番さんの庭園が壊滅するところだった。

 

冷や汗を拭いつつ、もっと広い場所はないか確認すると、

大図書館の中に案内されたが、まだ狭い。

他に場所はないのかと言うと、どれくらいのスペースが必要なのか聞かれる。

発射時のことを考えた広さを伝えると、広めの体育館くらいあったスペースがめちゃくちゃ広がる。

キロ単位で広がった空間に慄いていると、周りからさっさとロケットを出してみろと急かされる。

 

籠からロケットを取り出して顕現させると出したときの衝撃で館が揺れる。

 

全長110メートル重さ3000トンのデカ物が発射台付きで現れたのだからしょうがない。

 

紅魔館の住人がロケットの周りを飛び回っているのを背景に、

メイドさんと紫魔女さんにロケットの詳細について話合う。

 

「ロケットの代金は36000回払いでよろしいですか?」

 

全くもってよろしくない。

踏み倒す気満々のじゃないか。

3000年ローンは債権者が回収できないので、

紅魔館に対する貸しということになった。

 

 

★○月○×日

 

日課を終えて飲み屋に入ると、既に管を巻いている男がいた。

まだ日が暮れたばかりだというのに早いものだ。

 

一人でグチグチ言っている男を無視して注文しようとしたが、

その独り言の中に興味深いものがあったので、

どうしたんだい?と話を聞いてやることにした。

 

酔っぱらいは、ぽつぽつとした語り口で話し始める。

 

男は里で易者という占いを生業しているもので、

何年か前に行方不明になった人を探すために占いをしたんだが、

その占いを介して外の世界を覗き見ることができるようになったと主張する。

 

外の世界は進んでいて、ここは停滞していると。

 

外の人間は闇夜も冬も妖怪も恐れずに生活していると。

 

俺たちは家畜なのか、妖怪の餌なのかと。

 

男は内心に秘めていた言葉を吐き出し終え、

ふらふらとした足取りで店を出て行った。

 

 

男の言葉を嚙み砕いていると店員さんから、

男の分の勘定をお願いしますと言われた。

 

・・・やられた!

 

 

★○月○□日

 

紅魔館にてロケット完成記念パーティーが開催された。

嫌な予感がしたので参加を見送ろうと思っていたが、

妹ちゃんに攫われてしまった。

 

「このロケットでなんと月に攻め入るのです!」

 

人妖が入り乱れた会場には沢山のテーブルと料理と酒が並べられ、

パーティーに参加したものたちが思い思いに楽しんでいる。

 

そんなものたちを見下ろすように壇上に本日の主催がいた。

 

 

ロケットの模型を見せながら紅魔館の月面侵攻計画を話している吸血鬼のお姉さん。

 

その横で適宜解説をしている紫魔女さん、そして後ろで立っている俺だ。

 

会場に着いて早々に着替えさせられ、壇上に連行された俺は、

ロケットの外装を作った協力者という立場で、ここに立っている。

 

すごく近いところからすごい目で河童が見ている。

 

河童から目をそらすと山の神も興味津々にこっちを見ている。

 

視線を上げて壁を見ようとしていると冷徹な目で見てくる変な服の医者がいる。

 

冷汗が止まらない。

 

 

「そこで!このロケットの愛称を募集したいんだけどー!」

 

お姉さんのキャラ崩壊にも拍車が掛かっている。

いつもは可憐でクールでカリスマに溢れた人じゃなかったかい?

 

どうしてこうなったと天を仰いでいると、ロケットの愛称が決まったらしい。

 

しかしそんなことよりも目の前の視線が痛い。

 

 

 

★○月×△日

 

河童やら天狗やらの執拗な質問攻めを神様の権能ですと、

言い逃れして早数日。

 

ロケットの発射日になった。

 

この日も妹ちゃんに攫われて紅魔館に来た俺は、

なぜかロケットに乗っていた。

 

神様なんで俺がロケットに乗っているのでしょうか?どうか助けてくださいという懇願は、

神様からのお土産期待してるのじゃという言葉で一蹴された。

 

このロケット内装が完全に民家だなーと現実逃避していると、

メインエンジンを務める巫女さんがこのロケットは空飛ぶ神社だと、

言った瞬間ロケットが発射した。

 

凄まじいGに床に叩きつけられる。

俺以外は普通に立っているので、変な目で見られた。

 

窓の外で手を振る妹ちゃんの満面の笑みが嫌に記憶に残った。

 

 

★○月×□日

 

ロケットに乗って二日目。

 

巫女さん、マリちゃん、吸血鬼のお姉さん、メイドさん、妖精メイド二匹という、

女所帯に居心地悪さを覚えつつもなんとかやっている。

 

しかしロケットの一段目を切り離して、

二段目に移動したときに衝撃的な光景を見てしまう。

 

吸血鬼のお姉さんが子供用のテーブル付き椅子に座っているのだ。

思わず突っ込みかけたが、ぐっと堪える。

あの椅子に違和感を覚えているのは俺だけなのだから。

 

巫女さんもマリちゃんもスルーしているし、

メイドさんも・・・なんか笑顔だからあれが子供用だと知っているな。

 

 

★○月×☆日

 

ロケ三日目

 

みんなではめごろしの窓の外を見ている。

 

大気圏を抜けたロケットから見えるその光景は小さな箱庭に生きる者たちには、

とても鮮烈に映った。

 

「地球って丸いのね。お月様みたい。」

 

「しかも青いぜ。」

 

「うちの神社はどこかしら」

 

自分も知ってはいたが、実際に目の当たりにすると圧倒されてしまう。

しばらく見とれていると、巫女さんから三段目に移るように言われる。

 

明日には月に着くそうだ。

 

しかし俺以外の全員が船内を器用に移動するもんだ。

俺はあっちこっちにぶつかりまくりで、

妖精メイドさんに補助されてやっとこさ移動している。

 

 

★○月×●日

 

ロケ四日目

 

「おはようフラン。そっちはどうかしら?」

 

吸血鬼のお姉さんが妹ちゃんと電話している。

いつかの祭りで見たなんちゃら通信機だ。

 

しかしこの旅で気づいたのは、

俺の知っている母性溢れるお姉さんは妹ちゃんの前だけで現れるものだということだ。

 

ロケット内ではマリちゃんと一緒に騒いだり、子供椅子に座ってどや顔で紅茶の催促したりしている。

そこには妹ちゃんに見せる菩薩のような微笑みはなく、見た目相応の行動をする幼女でしかない。

 

「さあ、最後の仕上げよ!何かが起こるわ!」

 

ぼんやりと電話風景を見ていると、巫女さんが立ち上がってそう言った。

 

一体何が起こるのだろうか?と思ったらいきなり船体が傾いて、

月に墜落した。

 

 

打ち寄せる波を見ながら吸血鬼のお姉さんにお礼を言う。

ロケットが墜落する寸前、電光石火の早業で船体に穴を開けて、

そこから俺を助け出してくれたのだ。

 

月の海に墜落したロケットからずぶ濡れになった巫女さんとマリちゃん、

妖精メイドさんが浮かんでくる。

 

メイドさんはいつの間にか吸血鬼のお姉さんに日傘を差していた。

 

 

海で黄昏ている巫女さんとマリちゃんを置いて、

吸血鬼のお姉さん達と月を探検していると、

桃が大量になっていることが分かった。

 

というか砂浜からちょっと上がったら桃の木の森だ。

水分補給に桃を齧りながら見渡すと、遠くにSFチックな都市が見える。

それを眺めていると吸血鬼のお姉さんから封書を貰った。

なんでも神様から預かっていたもので、月の民に渡すように言われているらしい。

 

なんで俺にと思っていると、兎耳の兵士に銃を突き付けられた。

ビビっていると、お姉さんが兵士を追っ払い砂浜の二人の元に戻ると、

どうやら揉めているらしい。

 

なんだかよく分らんがマリちゃんの口車で、地球対月の弾幕勝負をすることになった。

 

まず妖精メイドさんVS兎耳兵士はあっさりと妖精メイドさんの負け。

 

メイドさんVS月のリーダーはメイドさんの弾幕を逆に利用されて負け。

 

マリちゃんVS月のリーダーもマリちゃんの大技ダブルスパークを破られて負け。

 

吸血鬼のお姉さんVS月のリーダーはお姉さんの体術が決まっていたが、天照大神の威光で一発KO負け。

 

巫女さんVS月のリーダーは序盤はいつものように針と札と水を使った弾幕で勝負した巫女さんの劣勢だったが、

中盤で巫女さんが大禍津日神の力を使って、月を人質に取った穢れ弾幕で優勢になり、持久戦になった。

最後は月のリーダーが伊豆能売の力を使い穢れを払い、驚いた巫女さんの隙をつかれて負けてしまう。

 

好勝負に思わず拍手をしていると月のリーダーに名前を呼ばれる。

 

なんで俺の名前を知っているのかと思ったが、彼女が神様の言う月の民に違いないと思い、封書を手渡す。

 

書の内容を確認している彼女を待っている間、近くに転がっていた月のかけらを拾っておく。

ちょっと集めただけで河童からもらった分を優に超えているので、月の家具を揃えることができそうだ。

 

月のかけらを集めていると月のリーダーが綺麗な青い球を二つ持ってきた。

 

月のリーダーが言うには沙伽羅竜王より賜った早珠と満珠という潮の満ち引きを操る宝珠だとか。

 

兎耳兵士が俺の足にロープを縛り付ける。え、なんで縛るの?

 

ちょっと触るだけだぞと言って、先ほどの弾幕勝負の中には無かった威圧感を醸し出してきた彼女から、

宝珠を丁重に預かり触れてみる。とても怖い。

 

しっとりしていて滑らかでいつまでも触っていたくなる魅力を持つ素晴らしいものだ。

しかし材質は何だろうかと思っていると宝珠から懐かしい磯の匂いがしてきた。

月の海にはない生命の香りがする。

 

つい食欲を刺激されて宝珠を舐めてしまった。

 

しまったー!と思った瞬間、凄まじい怒気を感じて、久しぶりに気絶してしまった。

 

 

はっと目が覚めるとそこはいつもの我が家の前で、

手には宝珠がしっかりと握られている。

加護付きの手袋を付けたままだったようだ。

脂汗が止まらない。

 

大事な日に大寝坊した時のような焦りを感じて跳ね起きると、

家の中から妹ちゃんが出てきて神社まで運ばれた。

 

どうやら神様が呼んでいるそうなのだが、

なにやらいつもと神社の雰囲気が違う。

 

巫女さんがいないからかなと思い、神様の前に行くと、

木像の手の上に宝珠を置くように言われた。

 

素直に置いてみると、すぐに月の使者が来るそうで、

そこで座って待ってろと言われた。

 

いつもは胡坐かいているのだが、今日は反省を込めて正座していると、

ほどなくして月の使者が来たようだ。

 

そこでわざわざ来てもらったのにお茶も用意しないのは失礼なのではと思い、

急いで母屋に行ってお茶の準備をする。

 

お茶請けは煎餅で大丈夫だろうかと心配になりつつ、

戻ると何処となく月のリーダーと似ているお嬢様然とした女性と兎耳兵士に、スキマさんと狐さんが、

部屋の前で立ち往生していた。

 

部屋の中には神様の木像と妹ちゃんが蠟燭に照らされてぼんやりと見えているがどうしたのだろうか?

 

 

お茶をご用意いたしましたのでどうぞ中へ!と案内しても、中々入ってこない。

たっぷり時間を掛けて入ってきた月の使者様の顔色は真っ青だ。

兎耳兵士も歯をカチカチ鳴らしているし、体調が悪いのだろうかとオロオロしてしまう。

 

神様と俺は月の使者様に丁寧に謝罪をしたところ。

あっさりと許してくれた。

 

月の使者様は慎重に宝珠を預かった後、

ささっと帰って行ってしまった。

もう夜も遅いし、きっともう寝ている時間だったのかなと思い、

とても申し訳ない気持ちになった。

 

妹ちゃんがお姉さんに通信しているみたいだったので、

通信機を借りる。

お姉さんに月のリーダー様と交代してもらって、

改めて謝罪を行う。

月のリーダー様にも快く許してもらい、

今度菓子折りもって月に行きますと言ったら、

謝罪は受け取ったから来なくてよいと返された。

 

月の人っていい人だと感じ入っていると、

妹ちゃんが部屋にずらっと並べられていた古い木像を外に出していた。

 

部屋が暗くて見えなかったけど、なんで並べていたのだろうか?

妹ちゃんを手伝って木像を運び出した。

 

 

★○月×★日

 

さっちゃんと神社の掃除をしていると、

マリちゃんがやってきた。

 

マリちゃんから巫女さんはまだ月にいるらしいことを聞いた。

 

「霊夢だけ月の都に入れてずるいぜ!」

 

「ほんとに月に行ったんですね。途中で爆発すると思ってました。」

 

マリちゃんと異口同音でひどいとさっちゃんを非難した。

 

 

★○月△〇日

 

【我が信徒よ。喜びに打ち震えるが良いのじゃ!】

 

めちゃくちゃテンションの高い神様の言葉の続きを聞いて、

喜びの余り踊ろうとして、彫っていた木像に足をぶつけた。

 

違う意味で震えてしまったが、その日が待ち遠しい。

 

 

★×月〇〇日

 

 

果樹園と化した神社の木の冬支度をしていると、

巫女さんが帰ってきた。

 

やっぱり神社には巫女さんがいないと締まらないな。

巫女さんが帰ってきたことを聞きつけて、

人妖問わず集まってくるのを見ていると、

やはり巫女さんにはそういう人望があるのだろうなと感じる。

 

 

★×月〇×日

 

木像を背負い川沿いを下る。ひたすら南へ下っていく。

人里を離れて、無名の丘を越え、太陽の畑を通り過ぎた。

途中から花妖怪がどこに行くのかと聞いてきたので、

元気よく海へと答える。

 

頭の心配をされてしまった。

 

心配してついてきた花妖怪にお礼を言いつつ、

人里の川の終点についた。

 

そこは三途の川との合流地点だ。

 

三途の川は幻想郷の北、妖怪の山の裏から西へ流れ、

ぐるっと弧を描いて南、そして谷間を流れて幻想郷の外に流れていく。

 

三途の川は山と川に囲まれた幻想郷の唯一の出口。

 

三途の川は霧に包まれ全く先が見えない。

 

そこに木像を降ろすと、木像の手から青くて丸い珠がごろごろとこぼれ、

川に落ちていく。

 

珠はさらさらと溶けていくと、谷間に流れていくだけの川に異変が起こる。

 

谷間から徐々に波が返ってくるのだ。

 

打ち寄せる小さな波が草地の川べりを叩き、

あっという間に小さな砂浜に変えてしまった。

 

幻想郷の南に小さな海が出来上がり、

その海には確かに魚影が見える。

 

砂浜にはいつのまにか貝殻が落ちている。

 

新しい日課が生まれたようだ。




次回は番外編として主人公以外の視点で書く予定です。
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