第四王子と舞踏会の花   作:烏賊焼き

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失恋の自覚

メアリへ抱いているものが恋愛感情であることを、つまり自分が恋をしていると自覚してからしばらくたった。ハント家にたびたび訪問し、メアリと共に時間を過ごす。それだけのことなのにとても楽しかった。メアリと共にいるだけで幸せな気持ちになれた。そんな日常が壊れたのはある日、俺がいつものようにお誘いをかけたときだった。

 

「今度はいつ来ようか。」

「そうですね…〇日はどうでしょうか?」

「ああ、その日は都合が悪いんだ。□日は無理なのか?」

「ごめんなさい。その日はカタリナ様との約束がありますので…」

「そうか…」

 

いつもなら別の日に都合をつけて終わっていただろう会話。でもその日は違った。

 

「カタリナはそんなにいい友達なのか?」

「はい!貴族らしからぬ天真爛漫な方で―」

 

ほんの軽い気持ちだった。彼女の言うカタリナがジオルドの婚約者であることも知っていたし、彼女から見るカタリナ・クラエスがどんな人物か知りたかったから。でも現実は俺が思っていたよりも残酷だった。

カタリナ・クラエスについて語るメアリは、俺がこれまで見てきたどんな顔よりもキラキラしていた。上気した頬。本人のことを思い出して言うのであろうか、遠くを見ている表情は美しく、そしてあまりにも見覚えがある顔だった。なぜならそれは俺が今朝も鏡で見てきた表情だったから。

 

メアリ・ハントは、カタリナ・クラエスに恋をしている。その単純な事実を俺はその日叩きつけられた。

 

その後何があったのか覚えていない。気づいたら自室に居た。胸が苦しい。貴族社会において愛のない婚約や結婚など当たり前。わかっていたはずなのに胸が張り裂けそうだった。自分に向けられていたメアリの笑顔は作り物だったのかもしれない。本当は俺と過ごす時間なんか邪魔でしかなかったのかもしれない。考えれば考えるほど悪い方向に気持ちが転がっていくのを感じる。

 

「メアリ…」

 

いつもは口にするだけで幸せになるその名を呟いてみても幸せな気分になんてなれない。ただただ苦しいだけだった。

 

 

―――――

 

 

なんて残酷なことをしてしまったのだろう。今日はアラン様が来られるから、なんてメイドたちが張り切って整えた髪やドレス。それらがぐしゃぐしゃになるのも構わず私はベッドに倒れこんだ。

 

「……」

 

カタリナ様について語る私がどんな顔をしていたのかは簡単に想像がついた。なぜならいつもそんな顔をして私を見ている人がいたから。私は自分を嫉妬深い方だと思う。ジオルド様やキース様と、婚約者や弟と話しているだけで嫉妬を覚える私が同じようなことをされたらなんて、想像するだけで気が狂いそうになるというのに。私はアラン様にそんなことをしてしまったんだ。

 

「アラン様…」

 

いつも笑顔でハント家を訪れ、笑顔で私と時間を過ごし、笑顔で帰っていく彼。そんな彼のあんな表情は初めて見た。絶望という2文字を表情にしたらああなるのだろう。できればもう見たくないが、私が彼の思いに応える以外に何か方法があるのだろうか。しかし応えることはできない。あれほど私を愛してくれている人に愛してるふりをするなんて不誠実な真似はしたくない。

 

枕に顔を押し付ける。そうしないと涙があふれてきそうだ。

貴族社会において恋愛結婚できる人は少ない。当たり前だ。貴族は自分の領地にいる者たちから税を取り立てて暮らしているのだから。私たち貴族には社交界でうまく立ち回ってより多くの権利と富を手に入れ、民に還元する義務がある。結婚はそのための手段の1つに過ぎない。お互いの家のために結ばれる婚姻。そこに私たちの意志などは関係ない。

私たちの婚約だって本当ならそういうものだったはずだ。お互いに相手を尊重してはいるがそこにあるのは親愛であって淡い恋心などではない。もしそうであれば私は彼との関係に胸を痛めることはなかったのだろう。むしろ『王子の婚約者』というカタリナ様と同じ立場になれたことを喜んでいたかもしれない。

 

しかし、彼は私に本気で恋をしてしまった。きっと私がカタリナ様を思うように彼も私を思っているのだろう。そして絶望したのだ。自分の想い人は自分に恋をしていないことに。

 

「あ、次の約束…」

 

あれからしばらく経っていい加減ベッドに居るのを止めようと起き上がってふと気づいた。彼はいつもなら次はいつハント家来るのか約束をするのだが今回はしなかった。

もしかしたらもう二度とこの私の所には来てくれないのかもしれない。そう思うと胸がもっと苦しくなった。

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