第四王子と舞踏会の花   作:烏賊焼き

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ジオルド・スティアート

僕―ジオルド・スティアートはソルシエ王国の第三王子とても微妙な立場に生まれた。この国は現王が次の王を指名する指名制であるから一応国を継ぐ可能性はなくもないが、しかし僕は王座になど興味がなかった。むしろ兄二人に早く継いで面倒ごとを全て引き受けて欲しいと思うばかりである。そして僕はどうやら優秀な人間らしく、剣術も学問も一度教われば簡単に理解できた。大人たちが難しいという問題も何が難しいのかわからないぐらいには優秀だった。人の心を見透かすのもできたので適当に笑顔を浮かべておべっかを使う。毒にも薬にもならないようなただただ時間が流れていくだけの退屈な日々だった。

 

カタリナと出会うまでは。

 

恋は人を変えるというのはどうやら本当だったようで、ただただつまらなかった灰色の日常が楽しく思えた。カタリナ・クラエスという極彩色に彩られた世界は、とても美しかった。そんな彼女を僕だけのものにしたいと思うのは自然なことだろうと思う。第一僕は彼女の婚約者なのだから。しかし、彼女は僕の婚約者という立場でありながら他の人間を瞬く間に魅了した。

 

1人目は彼女の義弟であるキース・クラエス。最初に見かけたときは彼女との距離感を図りかねていたような様子だったのに、いつの間にかカタリナの傍で僕を牽制するようになった。正直言って邪魔で仕方がない。

2人目は僕の双子の弟の婚約者であるメアリ・ハント。カタリナがなぜか作っている畑の野菜がしおれてしまったとき、彼女が見事再生させた。その時に何かあったらしく、今や少し怖いと感じるくらいにカタリナに入れ込んでいる。

 

確かにカタリナは魅力的ではあるのだが、そうホイホイと何人も落とされるのは困る。それにどうもキースとメアリは僕に対抗するため手を組んでるような気がしてならない。まあ僕は婚約者なのだから時間がたてば必ずカタリナは手に入るのだが、それはそれとしてカタリナと共に過ごしたいと思うくらいいいじゃないか。

 

そこで僕は自分にも協力者を作ることに決めたのだ。その人物がいる楽器庫の方に足を向けると、軽やかなピアノの音色が聞こえてきた。

協力者候補は僕の双子の弟であるアラン・スティアート。最近は暇あらば楽器庫に足を運びピアノの練習をしている彼は、今僕と同じように恋をしている。相手はそう、彼の婚約者であるメアリ・ハントだ。だから彼を選んだ。彼を味方に引き入れることはメアリを動きにくくすることとほぼ同義だからである。

 

「失礼しますよ。」

 

僕が部屋に入ったことにすら気付かないほどに熱中していた彼に声をかける。彼は僕を見て驚いたような顔をしたが、それだけだった。それに少し驚いたものの、話を進める。

 

「てっきり嫌われているものと思っていたのですが。」

「この間までは何をやっても俺より優れてるお前が嫌いだったよ。でも、別にお前に勝てなくたって俺は特別な存在だ。勝ち負けにこだわる必要なんかない。そう気づいてから、お前に思うところなんてないよ。」

「そうですか…。」

 

これは嬉しい誤算だ。彼は僕に対する劣等感でいっぱいだと思っていた。その気持ちを溶かして話を聞いてもらえるようにするだけでも一朝一夕というわけにはいかない。そこから味方に引き込むにもかなり時間がかかるだろうから、その段階を飛ばしてしまえるのは楽でいい。

 

「少し話があるのですが、大丈夫ですか?」

「ああ。」

「君も、恋をしているようですね。」

「……」

 

目をそらされたが、かすかに赤くなった頬が何よりの返事だった。

 

「僕も君も同じ立場の女性に恋をしている。婚約者という絶対的な立場の相手に。」

 

そうでしょう?と聞くと何が言いたいのだという視線が返ってきた。僕はにこりと笑って答える。

 

「協力しませんか?」

「協力?」

「ええ。」

 

「想い人と長く同じ時を過ごしたい。そう思うのは自然なことでしょう?しかし今はそうではない。僕と君の想い人たちが女性同士だからと共に時間を過ごすことが多い。」

「まあ、そうだな。」

「そこで協力しませんか?別に大したことじゃありません。お互いが恋人と同じ時間を過ごすだけです。」

 

悪い話ではないはずだ。好きな人と一緒に居たい。恋する人なら誰もが思うだろうそれを、お互いに実現しようとするだけだ。きっと彼は乗ってくれる。そう思っていたのだが―

 

「断る。」

 

―まさか断られるとは。理由を聞いてもいいかと聞くと、彼は少し照れたように話し出した。

 

「メアリとは今でも十分仲良くしているし、俺はメアリの恋路を邪魔したくない。それに例え俺と一緒じゃなくても、メアリが幸せならそれでいい。」

 

そうですか。そう返すのが精一杯だった。なんだか自分のしていたことが急に後ろめたく感じる。これほどまでに愛しく思っているとは。彼の想いを無視するような提案だったことを謝ると、彼は別に問題ないと返してくれた。なんて優しい男だろうか。

 

その後しばらくお互いの想い人について話した後、彼の練習を止めてしまっていたことを思い出して部屋を後にする。その時ふと思い立った。

 

「ああ、そうだ。一つ言い忘れてました。」

 

ドアノブに手を掛けたまま振り返り彼を見る。どうした?という顔でこちらを見る彼にこう告げた。

 

「とても、いい演奏でしたよ。」

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