今日も今日とてメアリに会いにハント家に訪れると、メアリが少し浮かない顔をしていた。理由を尋ねると、ロマンス小説のことで悩んでいるらしい。
「なんで急にロマンス小説が気になったんだ?」
「カタリナ様が最近ロマンス小説に熱を上げているようで私も手を出してみたのですが、どうにもいまいち楽しめなくて…」
「そうか。」
メアリ曰く、登場人物に感情移入しきれないのが原因らしい。悩ましげな様子のメアリに、声をかける。
「無理して好きになる必要はないんじゃないのか?そういうのは向き不向きの問題だろうし。」
「そう、ですよね。そうですよね。カタリナ様にも私には合わなかったと言っておきましょう。」
そうしていつももどおりの笑みを浮かべるメアリを見て思う。やっぱりメアリには笑顔の方が似合ってる。そのまましばらく話した後、俺はここに来る一つの目的を思い出した。
「そうだ。今度俺たちの方でお茶会を開くことになったんだ。結構大規模なものになると思う。今度正式に招待状を送るよ。」
「まあ!それは素敵ですね!」
そう言って笑うメアリに釣られてこちらも笑顔になる。素敵なお茶会にしなくては今から気合が入った。
そうして迎えたお茶会当日。準備が進められる様子を眺めていると、ジオルドが居た。どうやら俺と同じように会場を見回っているようだ。
「よお、ジオルド。」
「ん?ああ、アランですか。」
「随分と念入りに見て回ってるんだな。」
「それはあなたもでしょう?彼女たちをお招きするのですから完璧なお茶会にしなくては。」
「完璧か、お前らしいや。」
少し前までならばその言葉は自分を貫く鋭い刃と化していたのだろうが、今は違う。それを聞いて胸が痛くなることもなければ、苦しくなることもない。普通の兄弟関係がそこにはあった。
そうして二人で話しながら準備が整う様子を眺め、ついにお茶会が始まった。そうして俺たちの前には、王子と面識を持ちたい貴族たちの壁が出来上がった。両方に正式な婚約者がいるため娘を宛がおうとするものが居ないのが救いではあるが、それでも多い。人の多さに少しうんざりしていると、その集団の中にメアリを見つけた。どうやら主催者に挨拶をしに来たようだ。
「メアリ。今日は来てくれてありがとう。」
「こんにちは。ジオルド様。アラン様。今日はこんな素敵なお茶会にお招きしていただきありがとうございます。」
綺麗にカテーシーをしてそういうメアリに一瞬見とれかける自分を押しとどめ、二言三言交わすとメアリは喧騒の中に消えていった。できれば一緒に居たかったが目の前には貴族の壁がまだ残っている。少し憂鬱になりながら応対を再開した。
お茶会の日は結局その後合流することは敵わず、後日メアリを訪ねるとなぜかロマンス小説を読んでいた。
「ロマンス小説は合わないんじゃなかったのか?」
「そうですけど、カタリナ様の新しいご友人がロマンス小説をとても好きな方のようで…」
女性同士で集まったときに話題についていけなくなるかもしれませんから。そういうメアリにそうかと一言返して、俺もロマンス小説を手に取る。平民の少女が王子に見初められる話らしい。メアリは何か声をかけるか悩んだようだが、しばらく視線を躍らせた後本に目を向けた。
部屋にページをめくる音だけが響く。たまにはこんな日も悪くないな、とメイドが気を利かせて入れてくれた紅茶を飲みながら思った。