第四王子と舞踏会の花   作:烏賊焼き

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カタリナの言葉

15歳になり私―カタリナ・クラエスは魔法学校に入学した。それは恐れていた乙女ゲームが始まるということだ。現にキースとジオルドは既に主人公であるマリアとの出会いイベントを果たしており、キースに至ってはもう攻略されかけている。しかしアランに関してはゲームでの出会いイベントは行われていない。ゲームならばならば張り出されたテストの結果を見て、ジオルドはおろか平民であるマリアに負けたことでマリアに絡みに行く。しかし、

 

「人には向き不向きがあるんだから比べてもしょうがないからな。」

 

そう笑顔で言ってのけたアランはゲームのアランとはもはや別人と言ってもいい人物だ。しかし、万が一ということがある。そう考えてしまうくらいにはマリアはいい子だった。私が攻略対象だったらそりゃあ惚れるなと納得するぐらいいい子だったのだ。

だからこそ考える。アランがマリアに絡んでいかなかったからと言って、アランがマリアと恋に落ちないなどどいうことはあるのだろうか。現にキースはゲームとは違いマリアが落としたハンカチをその場で返している。しかしキースはマリアに恋をしているのだ。そのことを指摘した時の反応から見て間違いない。

 

もしゲーム通りに進んでアランとマリアが恋に落ちたらどうなるのか、メアリがその身を引くのだ。自分よりマリアのほうがアランの隣に立つのに相応しいと諦めてしまうのである。

そう考えて私の心が痛んだ。あんなに相思相愛な2人を引き裂いてしまうのか。人の恋路に口を出すなんて間違っているとは思う。しかし、私はアランとメアリに添い遂げてほしい。そのまま二人で仲睦まじく笑っていてほしいのだ。

 

(だからごめんね、マリアちゃん。)

 

もしあなたがアランルートに進むなら、私は貴女にバッドエンドを迎えてほしい。

 

 

―――――

 

 

カタリナ様に呼び出された。2人きりで会いたいと言われた。その時の私の心境は言葉で表そうとしても表しきれない。

 

『少し2人で話したいことがあるんだけどいいかしら?』

 

その言葉を思い出すたびに胸がドキドキするのを感じる。頭の中でカタリナ様がそんなこと言う訳ない、そもそも私の恋心に気づいてすらいないのだからと冷静に諭そうとする私がいるが、もしかしたらもしかするかもと期待してしまう私の方が圧倒的に優勢だった。

そうして心臓が爆発しそうだと思いながらカタリナ様が来て下さるまでの地獄のような時間を過ごした後、カタリナ様は現れた。

 

「待たせてごめんね。」

「いえ、大丈夫ですわ。」

 

ちゃんと笑えているだろうか。顔は真っ赤じゃないだろうか。落ち着け落ち着けと自分に言い聞かせ続ける。

 

「ごめんね?急にこんなこと言って、でも大事な話だから。」

 

そう言って私の目をまっすぐと見つめるカタリナ様。対して大事な話という一言で舞い上がる私。冷静な私が何か叫んでいるような気がするがその声が届かないほどの上空にいた。

 

「あなたの恋のことなんだけど、」

 

どういうことですかカタリナ様?もしかして私の恋心に気づいていらっしゃったのですか?それで大事な話ってつまりそういうことですか?私の胸の高鳴りはとどまるところを知らなかった。

 

「諦めなくていいからね!」

 

そう言って私の肩をつかんだカタリナ様の目を見ながら、私は叫び声をあげなかった自分をほめたたえていた。諦めなくていいというのはつまり女性同士という高い壁についてなんですか?つまりはそういうことですか?私とそういう仲になって下さるということですか?私は今から天国への扉をくぐ―

 

「たとえアランにお似合いな人が現れても諦めなくていいから!」

 

天国から叩き落された。そうして舞い上がっていた私は地面にうずくまり嗚咽を漏らす私になった。地上からすべてを見ていた冷静な私がだから言ったでしょうと馬鹿にしてくるがそんなことに構っている余裕はない。令嬢らしからぬうめき声をあげそうになるのを必死に抑えた私を誰かほめたたえてほしい。

 

「私は貴女たちほど相思相愛で仲睦まじい人を他に知らないわ。それほどにあなたたちはお似合いの2人なのよ。音楽の神の申し子と舞踏会の花、この2人が恋をすることに誰が異を唱えるというの。だから『アラン・スティアートの恋人にふさわしいのは私メアリ・ハントです』と堂々と胸を張っていいの。貴女が身を引く必要なんてどこにもないの。私は貴女たちの恋路を心から応援しているわ。」

 

冷静な私も地面にうずくまり嗚咽を漏らす私への仲間入りを果たした。それは完全な善意から放たれる言葉だとわかっているからなおのこと泣きたくなってくる。カタリナ・クラエスという何の裏もない人物の言葉。いつもなら笑顔で聞けるはずのその言葉は、しかし、私に追い打ちをかける鋭いナイフと化していた。

 

「あ、ありがとうございます…」

 

私のその言葉を聞いて満足したのか実に晴れやかな顔をするカタリナ様。社交界で鍛えられた笑顔の仮面は今日も大活躍である。実にいいことをしたと言いたげなカタリナ様の背中を見送った後、私はとある場所に足を向けた。

 

 

―――――

 

 

腕の中でうぅ~とうめき声を上げるメアリの頭を撫でる。こうして抱きつかれているあたり男としては全く意識されていないという思いに胸がチクリと痛むが、それよりもメアリへの愛おしさが勝っていた。

 

「それで?カタリナのこと諦めるのか?」

「…これで諦めるならもうとっくに貴方のものになってますわ。」

 

少し拗ねたような声で、しかしまっすぐに俺の目を見てそう返すメアリに、それでこそメアリ・ハントだと内心で思う。

 

(そんなメアリが愛おしいんだろうな…)

 

好きな人に恋愛の悩み事を話されながらそう思うあたりだいぶ毒されていると思いながらも、俺はメアリの頭を優しくなで続けた。

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