いろんなことがあった。カタリナ・クラエス糾弾事件。マリア・キャンベルの失踪。カタリナの昏睡。そしてシリウス・ディークのこと。つい先日のことなのにだいぶ昔のことのように感じる。しかし、今俺の頭を悩ませているのはそれらのことではない。最近メアリの様子がおかしいと感じるのだ。目を向けてみてもメアリは貴族令嬢の仮面をつけていてよくわからない。ただ、なんとなく違和感を覚えるだけなのだが、どことなく不安に感じてしまう。
「二人きりで話してみてはいかがでしょう。」
そのことをジオルドに相談するとそう言われた。
「メアリは君にだいぶ信頼を寄せているようですし、君の部屋にでも呼んで二人きりの状況にしてみれば話してくれるかもしれません。」
俺はジオルドに礼を行ってメアリを探した。メアリは、学園に用意された庭園に1人ぽつんと座っていた。うつむいたその姿に息を呑む。その顔には、見覚えがあった。
「メアリ、少し話があるんだ。俺の部屋に来てくれないか?」
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いろんなことがあった。カタリナ・クラエス糾弾事件。マリア・キャンベルの失踪。カタリナの昏睡。そしてシリウス・ディークのこと。つい先日のことなのにだいぶ昔のことのように感じる。しかし、私の頭の中にあるのはそのことではない。
カタリナ様への想いが、消えてしまったことだ。
いや、無くなったわけではない。まるで陽だまりのようにポカポカと胸を暖めるものに変わってしまっていた。身を焦がすようだったそれはもう見る影もない。
(きっと、私は―)
この気持ちを諦めてしまったんだろう。もうどうしようもないと終わらせてしまったのだろう。思い当たるのは2つ。
カタリナ様が糾弾されたとき、カタリナ様が死に向かって眠り続けていたとき、私は何をしていただろうか。
何もできなかった。
カタリナ様の隣に立ちたいと、隣に立つのに相応しい人になろうと、そう思って続けていた努力は何の役にも立たなかった。舞踏会の花と呼ばれて、強くなったと勘違いしていた私は、何も変わっていなかった。カタリナ様に出会ったころと何も変わらない、臆病で泣き虫なメアリでしかなかった。
そして、カタリナ様が目を覚ました後、救出したマリアさんと2人抱き合っている様を見て、思った。
(カタリナ様の隣には、マリアさんが一番相応しい。)
まるで欠けていた何かがピタリとはまったようにストンと胸に落ちてきたその想いは、私の胸で赤々と燃えていた想いを小さな陽だまりに変えてしまった。きっともう戻らない。私がカタリナ様に焦がれることはもう二度とないのだと、悟ってしまった。
そうしてぼんやりしていると、アラン様に自室に招かれた。
彼と向かいの席に座り、彼の言葉を待つ。彼はしばらくためらっていたようだったが、意を決したように口を開いた。
「君の恋は、終わったのか…?」
その言葉に私ができた返事はただ頷くことだけだった。そうか、と返した彼。部屋が静まり返った。しばらくその状態が続き、私が口を開いたとき。何か暖かいものに体を包まれた。
「…君が笑顔ならそれでよかったんだ。カタリナと一緒になっても。自分の手が届かないところに行かれても。君が笑顔で過ごしてくれるなら受け入れるつもりだった。でも、そうはならなかったみたいだな。」
今の君の顔は、俺が君の想い人に気づいたときにそっくりだ。その声が耳元から聞こえたと理解したとき、ようやく私は抱きしめられていることに気づいた。ドクドクうるさいのは、どちらの心臓の音だろうか。
「アラン…様…」
ああダメです。そんなのダメ。だって、恋が終わったからすぐに別の恋を始めますなんてそんなのダメだろう。まかり通るわけがない。不誠実じゃないか。彼はこんなに待ってくれていたのに。そんな思いは胸の中でグルグルするばかりで言葉として出てきたのは彼の名前だけだった。
「好きだ。初めて出会ったあの日から、愛してる。」
「俺の、恋人になってくれ。」
そう言って私を放し目の前で手を出すアラン様。気づけばその手を取っていた。彼が手の甲に口づけを落とすのを見て、熱に浮かされたような気分になる。視線を上げた彼と目が合う。心臓の高鳴りはとどまるところを知らない。顔が熱い。もしも私の魔法適正が火属性であったなら顔から火を噴いていただろう。
人が恋に落ちる瞬間を見られてしまった。