それが幸災楽禍の何よりの喜び 作:ベルク・カッツェ
ノイズ。それは人に襲い掛かり人と共に炭素の塵へと返る人類の天敵。位相差障壁という、無敵の防御能力を持ち、人類ができることと言えばノイズが自戒するまで逃げ続けること。
「でぇもぉ、そんなノイズを操れる力を手にしたら、人はどうやって生きてくんすかねえ〜。wktk!」
街頭の上に
「さて、それじゃあかくさーん! ポチッとな!」
ノイズの発生件数が増えた。異常なまでに。
了子達対策二課は原因を持った調査中だが、理由は不明。
「どうにも、妙だ。ノイズが銀行を襲い現金を盗んだりなどと………」
「人間ではなく、犬を襲ったケースも確認されてますね。他にも、店員には目もくれず店を破壊したりなど」
「おおよそノイズらしくない行動が増えてるわね」
「もしかして、誰かが操ってる、なんて……」
と、誰かが口に出す。その可能性も確かにある。信じ難いことだが、むしろその可能性が高い。しかし、だとしたら動機がわからない。行動があまりにめちゃくちゃなのだ。
「操ってる人間が、複数だったらどう?」
時にノイズ同士で戦う事例も確認されている。目的が判明しないのではなく、そもそも複数の目的を持っているとみた方が良いのかもしれない。
「それと、これは関係あるのか分かりませんが、どうもここ最近原因不明の意識障害が増えているようです」
「ンマーイ!」
街中でアイスを食べながら叫ぶ青年。口元をベタベタと汚し、まるで子供のよう。周りの人間もおかしな物を見るような目で見る者、面白いものを見るような目で見る者、哀れなものを見るような目で見る者など反応は様々。中にはクスクス指差しながら笑う者もいる。
「シェム・ハたんもエンキ君もおんもしろい星残してくれたなあ。シェム・ハたん、この程度の規模の星を一つにしたところで俺に勝てる気だったのかねえ。www」
食べていた途中のアイスをポイと後ろに投げる青年はそのまま立ち上がる。ゴシゴシと手の甲で適当に口元を吹くと長い舌を伸ばしてベロベロと舐めとる。
「…………おん?」
不意に青年は顔を上げる。木の上に、女の子がいた。枝に引っ付いた女の子は枝の上でプルプル震えている猫に向かって手を伸ばす。
「もーすこし、もーすこし………ほらぁ、怖くないよぉ。おいでぇ」
「わっ!」
「ふにゃ!?」
「みゃあ!?」
青年が大声を出すと猫と少女はビクッと震え落ちてくる。下で見ていた青年の上に。
「おん? あべし!?」
「あいたたたぁ…………あ、ご、ごめんなさい!」
「ノープロブレム。俺は大丈夫さ。譲ちゃんは? 君、ちょっと重いね」
「そ、そんなことないもん!」
青年の言葉に顔を赤くして飛のく少女。青年が埃を払いながら立ち上がるとわー、と声を漏らす。思ったよりずっと大きい。190はあるだろうか?
「その、本当にすいませんでした…………お怪我はないですか?」
「だいじょーぶ! 俺は丈夫だからね! それよりそっちこそ大丈夫?」
「は、はい。何とか、貴方のおかげで私も猫も………ありがとうございます」
「にゃんこ? あらほんと」
改めて謝罪とお礼をした少女を見て、青年は少女の腕の中にいる猫の顎をコショコショ撫でる。
「あんらぁ〜、かんわいい猫ちゃ〜ん」
「にゃう〜、なーん!」
顎を撫でる指を捕まえモグモグ甘がみしてくる猫を見てほんわりする少女に青年は問いかける。
「君、この猫ちゃんのために気に登ったの?」
「はい。困ってたみたいだから………あっ! ていうか、なんでいきなり脅かしたんですか!」
漸く目の前の青年が自分達が落ちた原因である大声の正体と気づきプンプン怒る少女に対して、青年はケラケラ笑う。
「面白かったから〜」
「面白いからって、そんな」
「ノンノン。周りをよく見なきゃ駄目ですよ? 世の中、そんなもの。吊橋をゆっくり渡るのを見たら、揺らしたくなるでしょ? 特に名前も知らず、話したこともない相手でも周りがいじめてるなら自分も虐めていいと思うでしょ? 人間、そんなものさ!」
「────っ!!」
その言葉に、少女が一瞬だけ肩を震わせた。
「……………人間、甘い物がだあい好きなんすよお。味わうために相手がどれだけ傷つこうが知っここっちゃない。よく言うじゃないっすかぁ? 人の不幸はハニーの味って!」
「そ、そんなこと……!」
「ないことはないって、君が一番知ってるじゃないっすか」
両手を上げてクルクル回りだした青年に少女は反論するが青年はピタリと動きを止め少女と顔の位置が同じになるように腰を横に折る。
「まあ、仕方ない仕方ないさー! ところで学校は良いの?」
「え? あ!」
青年の言葉にハッとした少女は学校の方角を眺める。そして、腕の中の猫を見てオロオロしだす。
「預かりましょーか」
「い、いいんですか?」
「イエスイエス。アイアムフルゥィィィトゥアァァァ! 平日の昼間っから暇なので、そこの公園で猫を見てましょう」
「そんな、外で待たせるなんて…………あ、そうだ! 連絡先交換しましょう! 学校終わったら、あそこの公園で!」
「いっすよー」
「私、立花響! また放課後、フリーターさん!」
「お気を付けてー」
元気よく手を降る少女、立花響にヒラヒラと手をふる青年。猫を抱えたまま歩き出し民家の扉を開ける。
「は? ちょ、ちょっと誰よあんた!」
「どーもどーも。管理者でーす。俺の上げた力、きちんと活用してるみたいでーすね! それで、彼女が哀れノイズに殺された幼馴染は、ゲットできたんすかあ? できてないスッよねえ?」
「─────っ!!」
青年の言葉に家の中にいた大学生ほどの女性がスマホを弄ると、人類の天敵であるノイズが現れる。
「何処でそれを………!」
「管理者だって教えてあげたのに、仕方ないか。お前ら原始人だもんね〜」
「やれ!」
女性の言葉にノイズ同士で青年に向かって襲いかかる。が、青年が指を突き出すと動きを止め、頭部が破裂した。
「な、あ───?」
女性が目を大きく見開き、しかしその目のギョロリと瞼の裏に隠れる。倒れた女性を踏み付け青年は引き出しを漁る。
「ほほお、ノイズ保険なんてのもあるんすねえ! 意外と金持ち? 喜べ猫ちゃん、今日の昼御飯は高給ドッグフードでございやすよお!」
エン・リル
発展した技術を破壊目的に使用し、己自身は兵器を使うことなく戦争を引き起こさせ母星を死の惑星へと変えた異星人。その後も宇宙各所で己の星の技術をばら撒き原住民同士で憎み合い殺し合う姿を鑑賞するのが何よりの喜び。同族からは悪意を持った災害とされていた。