狩人謳花   作:源十郎

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大輪の花

 産まれて此の方。親に「ダリア」と名付けられてから、何れ自分もヒトの親になる、等と想像したこともなかった。

 気付けば血腥いモンスター狩りなどに手を染める――ハンター何ぞになっていた。

 生きれば英雄、死なば肥やし。人の身に過ぎる強大な生物相手に、命を張って。と言えば聞こえは良いが、冷静に考えれば、全く釣り合いが採れない。金と栄誉は直ぐに消し飛ぶ夢。普通に生きるなら付きもしない傷を付け、普通に生きるなら要りもしない装備に大枚叩いて。

 英雄などと呼ばれれば、次には「アナタならこのモンスターも狩れるでしょう」と無理難題を押し付けられる。逃げれば弱腰、立ち向かうに必要なのは良い装備と己が力量、そして運。

 好き好んで強力な敵に挑む馬鹿も居るが、ダリアには理解出来ないことだ。

 出来ることなら至って真っ当な「普通の営み」を送りたいと常々考えている。

 だが、実際問題、ダリアに見合った職業が「ハンター」なのだから、世の中どうかしている。

 両親を早くに亡くして、生きるために必死になっていた結果がこれなのだから、半ば諦めもつくと言うものだ。

 ビクビクと肩を震わせ、脚を震わせ、息を乱して採集作業に従事していた幼少期が懐かしくて仕方ない。

 偶々チームを組んで初狩りに挑んだあとは、ずるずるそのままハンター街道まっしぐら。心機一転ソロ活動に戻るも、下手に名を上げてしまったが故、要らぬ依頼も度々来る。

 突っぱねてしまえば良いのだが、「まぁいいか」と気軽に受けたのが運の尽き。断る理由が思いつかない学の低さに、己を呪っては大型種も狩る日々が続く。

 何れ自分なんかより、余程腕も度胸もある「ハンター」が来る。そうすれば自分に依頼は来ない。

名も顔も知らぬ立派なハンターよ、私はお前を待っている。そろそろ来る。もう来る。きっと来る。さあ来い。さっさと来い。

そんな「何時か」を夢にまで見て、今日も今日とて狩りに行く。

 そんなある日、運命の出会いを果たす――

 

 

 

 夕刻の森丘。狩りも終わり、要らぬ傷に顔を顰めて洞窟で休んでいる時。

 村へ帰る街道に出る前に、一休み、と体を横たえていた。

 比較的、人の通りが多いところは、モンスターも少ない。だが、居ない事もなく、人が襲われることも多々ある。

 縄張り意識が強い原生生物ではあるが、決してテリトリーから出ないとは限らない。

 縄張りを追われるか、はたまた散歩か食料確保か。

 理由なんぞを問うたところで、ヒトの言葉を解するでも無し。結局のところは不明なままだが、そんなことはどうでもいい。襲われるか、襲われないか。それだけが焦点である。

 今日、今し方に限って言えば――まあ、「ハズレ」だったのだろう。

 ただ、「ハズレ」を引いた不幸は自分ではなく、キャラバンと言うには小さい、多くの積荷を背負った荷車だった。

 隊商ならば付いてくる筈の護衛もない、単独の商業者だったのか。もしくは、大丈夫と高を括っての引越しだったのか。

 結論から言えば後者。引越しだったわけだが、そうなればたいてい金に余裕のあるハンターか商人か。

 ハンターならまだいい。自力でどうにかしよう。問題はこれまた後者、よりによって護衛の無い商人だった。

 もうどうしようもない程に絶望的。しかも近くとは言え、負傷しているやる気の無いハンターが既に襲われている荷車に駆け寄った所で所詮は後の祭り。散らばった荷物と朱い血と肉片。どうにもこうにも後味の悪さだけが残った遣る瀬無い状況。

 モンスターも小型とは言え、ハンターでも無い者が勝てるはずもなし、唯一息のある女性に駆け寄った所でどう見ても手遅れだった。

 男一人と女一人。夫婦なのはなんとなくわかった。間違ってたらすまんとは思うが、女の手にはまだ小さい赤ん坊が居るのだ、これで違うと言われても困るし――男は既に事切れている。肝心の女も虫の息。もう駄目だ、と思いながらも女の介抱をしようと思う辺り、自分の良心と言うものも、多少なりともあったのだな、と後になって思う。流石にこの時は目の前の死に逝く命を食い止めようと必死だったのだ、そんな余分は頭の片隅にも残ってない。元より学もなし。だが、生きるために積んで来た経験は早々無くなる訳もなく、勝手に手は動くものだ。頭でどうこう考えるより、体は勝手に動いていた。

 だが、やはり何もかもが手遅れ、虫の息が多少良くなったところで、人の息程に回復せねば意味がない。だが、それがこの女性の最後の望みを叶える結果に繋がった。

 そう思えば、強ち自分の手当の腕も、手遅れでも駆けつけたことに意味があったのだ、と慰めにもなる。勿論分かっている。本当は彼女も彼も、子と共に生きたかったに違いない。だが――

「この子を頼みます」

 ――そう言って、別れに笑みを浮かべて死に逝く者が居たのだ。血濡れで傍目に無様に見えたかもしれないが、ダリアにはそれはもう美しく見えた。状況は無謀な引越しと、心無い者に笑われるようなモノだったとしても、死に際を魅せられて心揺さぶられた出来事は初めてだ。助けられずに済まない、と云う罪悪感を覚え、母の強さとも言うべき出来事に不覚にも涙し、ささくれ立つ心を慰めてくれた。

 これが運命の出会い。他人の子だが、間違いなく自分の愛娘と言える「ストレリツィア」との出会いだ。

 

 

 

 

 慎ましい生活を送ろう、と息巻いた女性ハンターが、どこで拾ったのか分からない赤子を抱いて、都合よく順風満帆な生活を送れる訳も無かった。

 子育てなんぞ一度も経験したこともない。いつ目を離していいかも分からず、苛立ち募る日もざらにある。唯一助かったことと言えば、アイルーと云う獣人種が村の仮屋に居た事だ。普段は精々美味い飯を作ってくれて、一緒に狩りにも行ける便利屋程度だったが、娘をおっかなびっくりとは言え、同じ目線(物理的にも)で見てくれるので、非常に助かった。こんなにアイルーに感謝する日が来るとは露にも思わず、娘と一緒に遊んでいるのを見て、妙に愛らしく思えて一緒に抱きかかえた。

 アイルーは悶え苦しんだが、娘はきゃっきゃと歓声を上げて喜んだのだ、思わず頬ずりしてしまったが、悪いとは思ってない。勿論アイルーも一緒だ。苦しかったと、言われたが知るか。そう言ってやった次の日には、娘と一緒に遊んでいる時に近づくと怯えるので謝った。次は苦しくない程度に可愛がろう。

 依頼は極力難易度の低い物を選ぶようにした。もう言い訳の必要はない。危険を冒してまで金が必要だ、と云う事態にならない限り、生傷を増やそうとは思わない。弱腰扱いされようが、無視した。

 しかし、どうしてもハンター家業からは抜け出せそうもない。

 普通の仕事が出来そうも無いのと、自身の戦闘スタイル故だ。

 今でも乙女だが、今よりか弱い乙女だった頃は、腕力も大して無かった。採集、採掘をして、荷運びしてればそれはもう筋力は付くだろうが、大剣を振り回すほどでもない。意外に思う者も居るが、弓も相当筋力が必要だ。何より、的に向けて引き絞った弦、それを維持する力は並ではない。断続的に力を使う近接武器と、持続的に力を使う弓では方向性が違うが、どちらもそれなりに訓練か資質が無いと上手く扱えない。

 となると、どうなるかというと……ボウガンと云う選択になる。

 これも重いものを抱えて走るのだから、まあ、筋力は使う。ただ、抱えて走る、と云う部分だけ見れば、良く良く馴染んだ行動だ。それがより重たくなっただけ。

 射出時の反動こそあるが、両手をぴんと張る弓のようなこともない、流れる武器を引き戻す近接武器の煩わしさもない。それにセンスがあったのか、的を狙い撃つ工程は驚くほど馴染んだ。

 何より真っ当に体を鍛えた訳でも無し、ゴテゴテした重装備で剣を振るう体力がある訳でもない。端的に言えば、「丁度良かった」。

 初めはいい。軽装のライトボウガンで、その辺で拾ったカラの実とハリの実などを適当に組み合わせて弾を作って撃てば良い。何より採集の際の邪魔なモンスターを狩るだけの護身用程度。ポケットは常に空に近い状態で、大型を狩るような「やる気装備」には程遠い。

 上級ハンターに言わせれば「ピクニックか」との嘲笑を受けるかも知れないが、そもそもこれでも「か弱い乙女」には立派な「素材ハンティング」だ。笑いたければ笑え。ただし、「か弱い」は笑うな。

 初めはそうでも、偶々――本当に「偶々」、4人チームで狩りに行った。低ランク3人が、どうにもハンターらしさの無いダリアを見るに見かねて、お節介にも手を貸そうとしたらしい。迷惑だ、と言うには度胸も無い「か弱い乙女」が、低ランクとは言え自分より余程修羅場を潜って来た者が3人。逆らおうとは思わず、「まあ、手を貸してくれるならいっか」と安請け合いしてしまったのが転機。曲がりにも小型とは言えモンスターは狩ってるのだから、初(うぶ)と言うには過ぎている。慣れてくれば支援専門としては十分に活躍できるので、あれよあれよ云う間に己の腕とは不釣合に名前だけが値上がり状態。

 ハンターになって長いが、武器屋にあまり顔を出さないダリアでも、流石に身の危険の度合いも上がれば、金で命を買うとばかりに装備は新調するペースも上がる。だが、獲得の難しい素材は極力使わない貧乏人根性は治らなかった。

 しかし、拘りはそれ相応に生まれてきていて、なるべくブレと反動の少ないモノを選ぶ傾向にある。その頃には、武器はへヴィボウガンとなっていた。

 重量はかなりある。大きさもかなり。背負えば走るのに苦は少ないが、展開すると運ぶのに苦する。それでもこれを選んだ理由は、何よりも「火力と防御」に尽きる。

 小さいし、武器の性質上、全身を隠せるほどの盾は付けられないが、それでも気休めとは言え、盾が付けられる。軽快に走りながら撃つより、どっしり構えて、敵の射程外から一方的に撃つのが性にあっているので、逃げきれないと思った時の盾の有り難さは身に沁みていた。

 火力もそう。通常の弾でも、より貫通力を増す為に、複雑大型化したのがへヴィボウガン。端から走り回って撃つことは想定されてない。種によっては反動も大きいが、本体の重量故に、安定度は計り知れない。その分、取り回しに難が有るが、ダリア自身のスタイルにマッチした構想だ。そもそもから敵にまとわりつくような、そんな間合いで戦うことなどダリア自身が想定していない。敵の目の届かない所で撃つのが良いし、その為に罠があるのだから取り回しなんてものは考えるだけ無駄。と云う持論である。

 滅茶苦茶だし、絶対にそれが上手く行くとは限らないが、そんな状況にならないならば、端から戦わないと、一層清々しいまでの潔さ。敵の間合いには絶対に近付かない徹底っぷり。撃てないならば無理に撃たないスタイルは、まさにスナイパー。良くも悪くも名を上げる手助けをしていた。

 そんなこんなで、自分のスタイルを確立したことが、後のハンター生活を決定づけてしまったのだ。

 曰く――「お金がかかる」

 何とも世知辛いが、ボウガンの宿命だ。採集した物で弾を作っても、いずれ足りなくなり、急な時は金で買う。金が足りなくなってきたら狩りに行く。狩りに行けば弾を使う。弾を使えば……

 極力採集した素材で間に合せはするものの、所詮個人で採集したものでは限界もある。毎回毎回、難度の低いクエストだけが張り出されている訳でもなく、中には複数人で狩るような大物だけの時もある。小遣い稼ぎ程度のクエストが毎日でもあるのなら、喜んでそれだけやっているかもしれないが、世の中そう甘くはないのだ。寧ろ、低ランクで事が済むようなモノばかりなら、そもそもハンター稼業が成り立つわけもなかった。

 万人が両手を上げてハンター様々と嬉しがる理由が、「手に負えないような被害」を駆逐するからであって、採集程度で済むのならば大枚叩いてハンター呼ぶ訳もなし。故に、英雄と呼ばれることもあるのだし、滅多にお目にかかれない素材、食材が一般の目に触れるのだ。大物の素材で作った装備は、ある種ハンターのステータスとも言える。

 では、ダリアはどうか、と言えば、武器はそれなりだが、防具は拘りもへったくれもない。店売りの既製品ではあるが、新米では手が出せない高級品。しかし、珍しいものでもないので、人によっては「漸く新人卒業か?」と冗談交じりに言ってくる。一応他にも防具はあったが、全部「売ってしまった」。

 なんのことはない、娘のためだ。極力一緒に過ごすようにしようと、まとまった金欲しさに売った。故に、武器も防具も、一種類しか持っていない。あとは全部売った。

 それもこれも、村長の婆様から聞いた話が元だが。

 ダリアの居る村は寒村で、割かしモンスターの被害が多い地区だ。何故そんなところで生活するのか良くわからないが、何でも昔、偉大な英雄様が居たおかげだとか、そのせいだとか。

 そんなこんなで、被害続出の寒村で、自身も被害に遭いながら生活してきたが、やはり娘に自分と同じ思いはして欲しくない。

 そう思い立ったが吉日。村長に相談すると、何やら温泉が有名な村があるとのこと。比較的モンスターの被害も少なく(無いわけではない)、林業などが盛んらしい。比較的平和な、気候も安定した所。

 温泉と聞いて「良し行こう。今すぐ行こう」と乗り気であったが、村長曰く「遠い」らしい。

 具体的には、「そもそも大陸からして別」となれば最早年掛りの大移動では? と云うレベル。それでも決行したのは、只の馬鹿だったのか英断だったのか。

 決め手は温泉だったが、それよりも、逆に考えての「別大陸ならば自分を知る者は居ない筈」に尽きる。

 下手に知名度が上がると、またぞろ、逃げられない負のループに陥る。ならば初めからやり直すくらいがいい。

 そう思い、無謀な大引越しが始まる。

 

 

 

 

 有り体に言って、もう少し娘が大きくなってからでも良かったのでは? と思わなくもない。寧ろ、自分の頭の弱さを痛感する出来事トップ。

 何をトチ狂ったか、気付けば娘のためだったのが、娘を危険に晒す始末。

 そう、忘れていたわけではないが、結局のところ、本来のストレリツィアの親と同じことをしていたのに気付いた。

 まあ、でも、その長旅自体、決して悪いものではなかった。

 何度かモンスターに襲われることもある。その都度に思うのが「守りながらは難しい」と言う今更な事実。

 基本、チームを組んでも一人遠くで単独行動をすることが多いべヴィボウガン使い。そんな自分が守りながらの戦いに向いてる訳もなく、アイルーの「トトキ」が居なければ結構危うい所があった。

 従順で、娘にも愛情を以て接してくれる、優秀なアイルー。

 専ら、盾としてダリアに着いて来てくれただけあって、事守りに関してはダリアよりも優秀だった。本当に頭が下がる思いである。愛おしさも一入だ。

 旅は楽ではなかったが、楽しくもあった。

 途中の村で滞在しては、クエストを受けて旅銀を稼いで、多くの人と触れ合うのが楽しいのか、ストレリツィアも大喜び。

 そんな中で、いつの間には少しとは云え言葉も覚え始めたストレリツィア。「おかあさん」とたどたどしくも、健気に自分を呼んでくれると思うと、ダリアは疲れが一瞬で吹き飛ぶ気がした。

 あまり “家族”というものに縁がなかったダリアには、血の繋がりが無くとも、決して揺るがない絆を持ったこの“家族”が堪らなく愛おしくなっていた。他人の子? アイルー? だからどうした。これは私の自慢の家族だぞ、文句があるなら出てこい――ダリアの足りてない頭では、精々この程度の言葉しか出ないだろうが、その言葉の内に秘めたる思いは十分に伝わるだろう。

 いつたどり着くかも分からない長旅。辛く苦しい時もあったのに、それでも笑って楽しく過ごせた記憶が多いのは、間違いなくこの素敵な家族のおかげ。

 そんな家族を見て、ダリアを見て――行く先々に出会ったヒトは皆こう言った。

「華々しく咲き誇る大輪の花」――と。

 

 

 

 

 ヘヴィボウガンの装弾レバーを引き、次弾を装填。慣れ親しんだ工程はスムーズに。一度の装填で、最大6発の矢弾が撃てるが、それで上手く敵を倒せなかった場合、再び装填するのに時間がかかる。ヘヴィボウガンの辛いところは本体重量が大きく、機種によっては装填に多大な時間を要する場合が多いこと。機動力の高いモンスターが一番苦手だ。

 故に、どれだけ早く敵を見付け、どれだけ遠くから必殺を狙うかが焦点になる。

 ダリアは幼少から危険な場所で採集作業をしたりで、他者より幾分かの危険察知能力に長けていた。寝ていても、足音などを聞き分けて、直ぐさま眠りから覚めることが出来た。遠距離武器使い故に目がいい――と言いたいが、実はそれよりも耳が良かったのだ。

 その耳が、夜営中の焚き火の音と、ストレリツィア、トトキの寝息とは別の重い音を聴いた。

 ゆっくりと、慎重を期すかのように、極力音を出さぬようにしているが、どうやっても微かに音は漏れる。何故なら、当のソレは静かに居たとしても、周囲がより静かなら、周囲が騷しいならばその限りではないからだ。

 例えば虫の声。ソレが歩くだけで死にゆく程の小さな虫は、己の危険を察知して逃げる。一匹だけのはずも無い。

 例えば鳥の羽ばたき。一羽、二羽、と止まり木を発つだけでもそれなりに煩い。鳥は人より高きを渡るモノだ。その鳥たちが我先にと飛び立つ程ならば、ソレの大きさも分かろう。少くとも人の丈など優に超えている。

 そして、ダリア自身は己の聴覚が優れていることに気付いているのかいないのか――小さいながらに自然では有り得ない音を発する、単純な仕掛けを周囲に張り巡らされた罠。木々の枝と蔦、草と根を使い、どれかに触れると互を揺する音を発する。小さな音だが、ダリアには十分だし、ある程度の大きさのモノでなければ反応しないので有用だった。内一つ、折れやすそうな細枝に橋渡しにしていた硬い木片が落下、幹や地面を打つ音が聞こえる。

 その音に反応したのか、ソレは急激な動きで暴れたのか、先程までの隠行をかなぐり捨てて、軽快な動きで飛び跳ねている――そう形容するような“音”の連続。

『なんてこと……よりによってナルガクルガとはね……』

 音の間隔、聞こえる位置幅、それらが俊敏さを表していて、それでいて、小型には有り得ない重量を想起させる地揺れの音。

 大凡、と前に付くが、間違ってもいないだろうとダリアは考えた。夜の狩人、なんて俗称があるほどだ、暗闇に紛れて襲ってくる前に気付たのは僥倖。

「ご主人様、どうかしたにゃ?」

 様子のおかしさに気付いたのか、頭を振ってトトキが起きる。周囲を見回し、ダリアが視線を向ける先を見付け、慌てて武器を構える。

「たぶん……ナルガだよ。トトキ、ツィーをお願い」

「わかったにゃ。ご主人様も気を付けるにゃ」

 短いやりとりで大凡を把握したトトキ。頼れる相棒に嬉しさの笑を零して。

 身を屈めながら、足音を消し、少し離れた場所に腰を据えて。

 ダリア以外に、この地方ではだれもやらないが、ヘヴィボウガンの重さで駆けるくらいならば、地面に反動を逃がすように腰を落として撃った方が効率的だ、とダリアは考えてこれをやる。

 目指す大陸では一つのテクニックとされる、所謂「しゃがみ撃ち」だ。

 直ぐさまポケットから取り出した毒弾を装填。次いで閃光玉を構え、投げる。

 敵予測位置の手前で破裂、眩い光が木々の遮りを無視するかのように周囲に広がる。

その光のなか、確かに見て取れたのは、黒い体毛に覆われた飛竜種、ナルガクルガである。

舌打ちと共に、装填された弾を、ナルガクルガが居たであろう場所に撃つ。初弾が当たったのか、悲鳴が聞こえるので、続けざまに装填された分を撃ち尽くす。外れてもいい。この暗闇でまともに戦おう等と一欠片も考えていない。

 次いで、通常の弾に切り替えつつ、武器を背負い夜営地に戻る。

「ご主人様、準備は出来たにゃ」

 トトキの頼もしい言葉と、足元に設置された罠に頷き、ストレリツィアを慎重に抱きかかえて荷車に走る。少しばかりの心苦しさを覚えながら、荷車の台にストレリツィアを寝かせ、ぐずる前に逃げ出そうとする。比較的柔らかそうな場所に寝かせたつもりだが、寝心地は諦めてもらうしかない。台に飛び乗り、こんな時でも逃げ出さなかった荷車の引手に感謝しながらも、容赦なく手綱を引いて急発進。振り向きざまに焚き火に向かって音爆弾を投げる。その音に向かって敵が誘導されることを祈り、その音に荷車の音が紛れるのを祈り、無事に逃げ切れることを切に祈りながら。

 この出来事は、ダリアの心に禍根を残す結果になる。幼子を引き連れて旅をすることの後悔。普段とは一線を駕する恐怖心。

 家族を失ってしまいそうになる恐怖心は、モンスターと対峙した時の比ではなかった。良く冷静に行動できたと自分を褒めてやりたいくらい。それに運も味方したのだと、つくづく感じた。今日の夜営は諦めて、次の町村まで突っ切ろう。そう考える頭は沸騰しそうなぐらい熱く、胸の動悸はなかなか治まらなかった――

 

 

 

 

 無事に村までたどり着いて早々、嫌な噂を耳にした。少し前に遭遇したナルガクルガについてだ。

 ここ最近、村周辺に出没するようになっており、危険だという。

 ダリアは悩んだ。このまま無視してさっさとここを離れるべきか、と。

『いつ襲われるか、どこで襲われるか分からない。仕留めれば安全に行動できるけど、一人で行ってもな……』

 別に一人でも倒せないことはない。だが、それだけに危険は大きく、前回感じた恐怖心はなかなか拭えない。

 小さな村の集会所。ただの集会所ではない。ハンターが集うハンターの為の集会所だ。

 そんな中に、異物がある、とすればそれはダリア一家に他ならない。

 まだ年若い女性と、自力でついて回れるくらいに達者に歩けるようになった小さな子供。お伴のアイルー。集会所は子連れで訪れるようなところではない。禁止もされていないだろうが、場違い感は半端ではない。ましてや、どう見ても村の住人でもないのだ。ダリア本人は考え事でそれどころではないが、どう見ても耳目を集めまくっていた。

 気落ちするダリア。それに見かねたのか、村人の女性が声をかける。

「どうかされました?」

 落ち着いた声色。年若い見た目ながら物腰の柔らかそうな雰囲気。気遣わし気に眉尻を下げた顔は、優しさがこれでもかと滲み出る。

 ダリアはそんな彼女を見て、暫し呆然とする。

 その心境。初めは誰だ? と疑問を。自分と同じか少し上の歳に見える女性。それなのに、自分とは違う落ち着きっぷりに瞠目。明らかに自分なんかとは正反対の、肉を裂き、血吹き荒れる荒んだ世界の見えない壁、その向こう側、「平和」とダリアにとっては憬れの世界の住人。慈母を連想させる優しさ溢れるその瞳に、ダリアは嘗て無い程に見惚れていた。

『うわ。私なんかじゃ絶対になれない! 私が男なら放って置かないわ』

 ダリア自身、男に興味も何も、性に関心を覚える前に、生の実感を得る為に一向必死に生きてきたのだ。ノーマルだと自負するが、それはそれ、これはこれ。自分に無い、しかも望んでも得られない全てを持っている、そんな女性が居たら憧れる。ノーマルだ、と思うが、「貴女が欲しい」と問われたら、はいと答えてしまうかも知れない。

 男に興味、以前に女性に憧れたらノーマルじゃないんだろうか?

 そんな益体も無い事も含め、色々混ざり合った――不純なモノも含め――心情故に、只村の女性に目を奪われていた。

 そんなダリアを現実に戻したのは、トトキと悪戦苦闘しながらも、辛うじて手をベタベタにせずに果物を頬張っていたストレリツィアだった。

 小さく、まだ育ちきらない拙い手で、ダリアの裾を引き、注意を自身に向けようとする。その小さくとも確かな存在感をアピールしてくる幼子に、ダリアは忘れていた我を急速に取り戻していた。

 振り返り、ストレリツィアの瞳を見つめる。くっきりと開いた瞳は、ダリアを写している。自分でも驚く程に頼りない己の顔、それを娘が見ていたのか、と思うと更に気落ちもしようが、そこはぐっと堪えた。こんな情けない自分をこれ以上娘に見せたくない。親として、ダリアが持つ最低限の矜持。曰く――「やせ我慢」。

 ストレリツィアはその幼い頭で、無意識に物事を理解しようとしていた。母親の雰囲気が変わってきた。なんて言えばいい? どうすればいい?

 その時気付いた、母親を招く手とは逆に、甘い果実がある。ストレリツィアはこの果実を食べている時が少し嬉しかった。母親が何か考えて俯いてるのは悲しかった。だから、そう。母親も果実を食べればきっと嬉しくなるに違いない。

「これ、食べゆ?」

 拙い言葉で伝える。んー、と知らずに唸りながら、必死に腕を伸ばしてダリアの口元に近づけようとしているストレリツィア。そんな愛娘の姿に、悩む自分が馬鹿らしくなって、自棄糞とばかりに、その果実を齧ってやった。がぶりと一囓り。豪快に、だ。

 数回咀嚼して、一気に飲み込む。ストレリツィアにも聞こえるように喉を鳴らして。

 ストレリツィアの瞳の中のダリアは、その顔に笑を浮かべていた。楽しみの笑みでもなく、嘲笑うでもなく――それは、言うなれば「大胆不敵」と擁される、何も恐ることも無し、と全てを跳ね除けるようなふてぶてしい面構え。にぃ、と擬音でも付きそうな程に、一歩間違えれば、子供相手に大人気ないような仕草だが、ストレリツィアはそんな母親の姿が好きなのだ。きゃっきゃと歓声を上げて、残りを齧り始めた。本調子を取り戻したように見えたダリアに習って、ストレリツィアも本調子で果実を貪る。大人しくしていれば汚れも少ないだろう手は、もう既にベトベトだ。

 それを「ああ、やはり私の娘だな」と苦笑しつつも、その頭を撫でて一緒に笑う。

 そんな家族を見て、先程の村の女性は――同じように楽しそうに笑っていた。

「いい子ですね」

「……だろ? 私には勿体無い、ほんと、いい子だよ」

「私にも娘が居るんです。まだ三つ歳を数えたばかりですが」

「? 一緒に居ないのかい?」

「今は、私の母がみています……それで、どうされました?」

 一瞬、問われた意味を理解できなかったダリアだが、数瞬して、答えに至る。

 間抜けだな、と自分に呆れつつ、細かいことはいいや、と開き直る。今更自身を取り繕ったところでどうにもならないし、被る猫も皮も無い。所詮、不器用なダリアには己を誤魔化し続ける器量などないのだ。

「いや、さ。噂になってるナルガ。実は昨日遭遇しちまってさ。なんとか此処まで来たんだが、次の街まで行くのに遭遇したら面倒だな、って」

 その言葉に、幾人かが反応する。大して大声でも無かったが、どうしても注目されるダリア一家だ、気になって様子を伺う者たちには丸聞こえだった。

「え? 遭遇してたんですかっ!? ……よく無事でしたね」

「ああ、私もそう思う。で、さ。結局ビクビクしながら移動……ってのもアレだし。金持ちの行商でも無いから、護衛を雇って――なんてのも無理。そもそも私自身ハンターだし」

 その言葉でまたしても周囲が反応する。確かに、出で立ちはハンターだったが、まさか子連れで集落間以上での移動を行っていたとは――と。

 どうしても異質な感じが付き纏う。ハンターに定住しろ、と言う訳でもないが、子連れで引っ越すにはリスクが高い。事実、彼女自身が言うように、普通はお目にかかれないナルガクルガに遭遇している。小型が3匹程度で群がっても、一般人は手に余ると言うのに、大型種など出たら新米ハンターでは無茶にすぎるし、ベテランでも子連れでどうこう出来るとは断言出来ない。

 血の気が多く、賢さに疑問符の付くハンターもそれなりに居るが、ぱっと見で、そんな無謀な輩には見えないのがダリア。悩みに憂いた表情は、そんな印象を抱きづらい。

 半ば勢いで出立したのはダリア的にも後悔の念があるだけに、無謀さ自体は理解している。

 詰まる所――『ハンターらしき出で立ちだが、趣味的なもので、金持ちの護衛付き引越し中。集会所は依頼主としてきた』と云うのが大方の予想だったわけだ。そのほうがまだ納得がいく、と言うことだ。

「ハンターでしたか。ですが……でしたら、何故にお悩みに?」

「まあ、ぶっちゃけると、そのまま無視して突っ切るか、誰かが討伐するのを待つかだよね?」

「普通はそうなりますね」

「だろ? でもさ、一向にアレ、剥がされてなさそうじゃない?」

 そう言ってダリアが指差すそこには、一枚の紙切れ。謂わば依頼票と云うやつだ。

 その依頼票、数日経っているも、一向に動いた形跡がない。詰まり、誰も依頼に見向きをしなかったと言う事だろう。

「……旅の方にこういうのも難ですが、この村は規模も大きくなく、今までにそれほど大きなモンスターの事例が無かったのです。言ってしまえば、ここの依頼票は、あくまで『優秀なハンターが訪れたとき用』に過ぎず、本命の依頼票は実はここより先の、大きな街にあります」

 なるほど、と納得。ダリアの居た村は、どういうわけかハンター自体がそこそこ居て、しかも一定以上に強い。訓練所も特設されているし、良く良く考えれば、依頼自体も多かった。ここの小さな集会所は、それから比べると、随分見劣りする。

 恐らく、複数人のハンターで行けば、十分討伐も可能だろうが、リスクと背中合わせに考えて、せめて街の優秀なハンターが来たら、共同で事に当たろう――そんなところか。

 大型種自体の事例が無い、と言う事は、それだけ経験が浅く、ハンターランクもそれほど高い者も居ないと予測できる。

 そこまで考えて、思わずダリアは額に手を置いた。安全を確保しようとなると、自ら赴いて討伐するか、もしくは討伐されるまで長期の滞在をするか。この二つ。

 乗り物を使っても、数日はかかる距離。それが村と街にある。家畜でもあるまいし、モンスターは必ず此処に居る、と云う保証も無く、来たからと言って直ぐに討伐出来る訳でもない。最悪、ハンターがクエストを達成出来なかった場合、また振り出しに戻る。必然的に滞在日数は延びるし、予測は付かない。

「結局二者択一。待つ方も考えたけど、それだと資金がね……」

 定住しないダリアにとって、資金調達方法は自ずとハンター稼業になる。

 それはそれで問題はないし、その為にこの集会所に来たのだ。しかし、それでも問題が起こっているとしたら?

 有り体に言って、それほど多くの依頼が無かった。残った依頼は程度は低いが、時間が掛かりそうなものと、例のナルガクルガ討伐。

 子連れで移動中のダリアにとって、時間が掛かると云うのは頂けない。その間にストレリツィアの面倒を観てくれる人物を探さねばならないからだ。そして、時間に対する報酬の割合も低い。トトキと二人では意識しなかった問題が、ここに来て表面化してきた。専らソロが基本のダリアには、そもそもの時間的な縛りも、報酬の使い道も、何もかもが自由だったからだ。そこへ自身が庇護すべき対象が現れれば、状況が何もかも変わるのは必然だった。

「なるほど、確かにそうですね。事情は詳しく聞きませんが、“引越し”と言うならあまり長期滞在も出来ませんし、一人で危険な任務と言うのも……」

「ああ、クエスト中に私が死んだらツィーが独りぼっちになっちまうし、私が帰ってきたらツィーがどうにかなってたら嫌だしな。今まで適当だった匙加減が、急に難しくなったから」

 熟熟オメデタイ脳みそで引越しを考えたんだと頭も痛くなる。

「でしたら、私が娘さんの面倒を観ますか?」

そこへ突然の提案。美味い話には気を付ける、と云う考えが身に染みたハンター生活の長いダリアにしても、心が揺らぐ提案だ。ただの採集クエストだと思ってたら、近場で中型とは云え、初心者には厳しいモンスターがいて危うく死にかけたこともあるダリア。

そんな彼女でも、揺らぐ魅力的な提案。しかし、やはりどこか自分にセーブを掛けた思考が掠めるのも、その長いとは言えないが波乱に満ちた人生からの警告に似た何かだったのだろう。

「大丈夫ですよ。今は母が面倒を観てますが、これでも私、主婦ですから」

「あ、いや、そうじゃなくて……」

 妙に自信に満ちた笑顔で、えへんとでも声が聞こえそうな程に胸を張る村の女性。上品に胸元に揃えた掌も相まって、女性らしさを強調して余りある。それが故に余計にダリアの言葉は尻窄みになっていくのだ。

有り体に言って「心情的には別だが、経験的に疑ってます」とは言えなくなるほど眩しいその表情。何故か急に自分が汚い何かに思えてきて、視線が合わせ難くなってくるダリア。

「それに、そろそろ依頼を受領してくれる方が出なかったら、私が行こうと思ってまして」

 その言葉で陰鬱になりそうだった思考から、冷水を浴びせられたかのように覚めていく。

「え、あ……今、なんて?」

「ですから私が行こうかと。あ、私これでも“元”ハンターなんですよ」

 衝撃。色んな思考が頭を駆け巡り、脳内はぐちゃぐちゃだ。自分には無いと思っていた貞淑さを持ちながら、それでいて自分と同じハンター。どこか自分はハンターだから仕方ない、と云う言い訳に似た諦めの言葉で考えを放棄してきたのに、憬れの一般人がグレードアップ。憬れの元ハンターの主婦に。この際、ナルガクルガがどうこうとかは関係ない。

 震える手で女性の胸元に揃えられた掌を、ダリアの手が包む。突然のことでキョトンとした表情を見せる女性が、ダリアには堪らなく魅力的に見えた。

「どうか娘をお願いします」

 ダリアは一瞬、自分の口から出た言葉に驚いた。自身が何を考えていたのか……、いや、実質何も考えてはいないからこそ、だ。だが、どこかその言葉に納得しつつ、後付けのように思考に入り込む複数の言葉を整理していく。

「あ、なんていうか……。元ハンターってことは、現場退いて久しいんだろ?」

「え、ええ。娘を身ごもる前からですから、4年は過ぎています」

「だったら、私が――行く。だから娘を、あなただから、娘を預けられる」

 未だ収まらないぐちゃぐちゃの思考では、精々この程度しか言葉を伝えられない。本当はもっと言いたいこともある。貴女のように私の理想のような女性になら、と。

「はい。任されました」

 含羞むような仕草で、確りと頷く女性に、ダリアの方も妙にぽかぽかと浮いた心持ちで、同じように微笑んだ。何故だか分からない、嬉しいような、恥ずかしいような――そんな気恥かしさ。

 だが、そんな場所が場所だけに、かなり浮いた状態の二人。只でさえ、注目されているのにこれでは、周囲すべての視線が集まって仕方ない。

 それは様々な思考を持つ人が、様々な性格の人が――その光景を見ていることにほかならない。

「ちょっといいだろうか?」

 故に、そんな二人に声を掛ける者が居たとしても何ら不思議ではないのだ。若い男性が、剣士特有の重武装に身を包み、ダリアに声を掛けてきた。

「君たち、“コレ”をヤルのかい?」

 “コレ”とはナルガクルガ討伐のことだろう。あくまで、ダリア一人で、と。正確にはこの女性は別となる。依頼は受けるが、共に行こうと言う者が居れば、報酬を分けてでも構わない。寧ろ、一緒に来てくれるならそれに越したことはない。

「こう言っては難だが……大丈夫なのかい?」

 座して待っていた奴に言われたくはない、と云う言葉を危うく飲み込む。代わりに笑ってやる。声には出さずに、表情と態度で。ニヤリ、と口の端を釣り上げ、然も「詰まらない問答」とばかりに。

 その時、ダリアの指先を掴む小さな、慣れ親しんだ感触が神経を通して意識をそちらに向かわせる。突然、自分を無視して視線を低いところに向けたダリアを訝しがって、男もその視線の先を追う。そこには幼い少女、ストレリツィアが居た。

「おかあさん、おしごと?」

 その言葉は、何よりも衝撃だった。何気ない一言、それでもこの場の多くのハンター達の心に響く。それは何故か? 何も分かっていないようで、それでいて物事の本質を的確に見抜く目。そう言った素養が見て取れた。どこか不安そうに揺れる瞳は、お仕事、と言う言葉の中に、危うい雰囲気を滲ませる。おそらく、ストレリツィアの知りうる語呂に的確な言葉が無かっただけで、そのお仕事の危険性は薄らと、感じ取っていたのだろう。

 そう、言葉そのもの、と言うよりは、その少女自体の行動全てが衝撃的に思えた。

 ダリアは思う。こんな時にどうしたら良いのだろう、と。

 ただ、事務的にお仕事だ、と答えるのは簡単だが、それで娘の不安は取り除けるのだろうか?

 賢くなってしまったな、と嬉しくもある。嬉しくもあるが――こんなに空気が読める子供では、これからも余計に心配させてしまうかもな、とも考える。

 そんなストレリツィアを中心とした、混沌とした場所で、いち早く動いたものがいる。

「大丈夫。貴女のお母さんなら簡単なお仕事よ」

 娘と同じ視線に合わせる為に、村の女性は屈み込む。ゆっくりとその頭部を撫でて、微笑む。

 ダリアには、そんな女性の姿が眩しく見える。今日だけで何度この女性に見惚れたのか。そうだ、何も難しく考えることなどない。自分は誰だ? そうダリアは――

「ふふん! 私を誰だと思ってるんだい? ツィー――私はお前の“お母さん”だろ?」

 ――ダリアはストレリツィアの母親だ。

 親指を立てて、自らを指し、『大胆不敵』に笑って見せる。そうだ、いつもそうやって私は突き進んできた。任せろ、お前の母親は最強だ。何でも簡単にこなしてしまうし、いつでも笑っていく。余計なことは考えるな。己は何時も何処でも「ストレリツィアの母親」であればいい。胸を張って、幼子が抱える不安を吹き飛ばせ。不器用に生きてきた自分では、どうしても村の女性のような「女性らしさ」は見せられない。だからどうした? ダリアにはダリアの“魅せ方”がある。それがダリアの理想的な女性像と掛け離れていようが関係ない。必要なのは「ストレリツィアの母親である」その一点。

 そんなダリアの笑に、ストレリツィアはこれでもか、と云う程に良い笑顔を向けてくる。愛おしさが込み上げてきたダリアは、衝動に駆られるままにストレリツィアを抱きかかえる。それに嬉しそうな声を挙げるストレリツィア。普段の集会所では見られない光景だ。しかし、それが決して悪いものではないのは明らか。村の女性もそうだが、剣士の男も微笑ましそうに見ていた。

「お嬢ちゃん、お母さんは大丈夫だよ。ボクも一緒に行くからさ」

 剣士の男が、討伐に参加する旨を伝えてきた。それに黙って肯定の意味を乗せて頷くダリア。

「なんでぇ、お前さんじゃ、そこのおっかさんの手伝いにもなるめぇよ。ここはちっとばかし俺も手伝ってやるとすっか」

「ハン! てめえらだけじゃ不安だぜ。俺も行けば数刻で終わらしてやんよ!」

 次々に参加を意図する声を挙げるハンター達。皆一様にその顔に不敵な笑を浮かべて。

 ストレリツィアは、その幼いながらの思考で、周囲の空気を感じ取っていた。皆が皆、母親と同じような笑を浮かべている。それはとても“うれしい”こと。周囲に寄ってくるハンター達に手を翳す。その小さな掌に、男たちは親指を立てて近付けて来た。ダリアを見ると片目を瞑って同じように親指を立てている。皆がやっていること、ならば、とストレリツィアも真似をした。

 そこへ、最初に声を掛けてきた剣士の男が、怪我をしないようにとゆっくり、だが確りと拳を重ねてきた。代わる代わる、男たちがストレリツィアの拳に重ねて行く。「儀式」なんてものを理解出来ないストレリツィアだが、これはそう言った「儀式的な行為」と感じ取っていた。

「ツイー。待ってな。直ぐに終わらせて、今度はここでお祝いさ!」

 

 

 

 華々しく鮮烈。華麗な一輪の花。

 ハンターとしての強さ、伝説的な逸話――そう云ったモノなど何一つ無い。

 実力、名声。あらゆる意味で平凡でありながら、その女性とその家族たちは不思議と印象深かった。

 殺伐とした、狩って狩られての世界にありながら、どこまでも輝きを失わない在り方。

 

 野に咲く花が、ただそこにある。

 それに他者に介する力はなく、他者から戴く栄誉もない。

 しかし、無視できぬ存在感と、心に訴え掛ける力強さはあるのだ。

 

 ただ己の矜持を失わず、咲き誇れ。

 




モンハンってこんなんだっけ? そう思うことでしょう。
まあ、これも個性だと思って諦めてください。
見てのとおり、テーマは「家族」。もうこの時点でなんか違うでもない。元がハンティングアクションですし……

こんなんですがよろしくです
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