心霊少年の軌跡 霊能者よりもプロの碁打ちの方が魅力的なのでプロになります   作:夢落ち ポカ

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やっちまったぜ(古い?)!!
ヒカルの碁に再燃して現実がヒィヒィギャァギャァしてる状況下で手を出してしまいました。



コロナの大変な時期で皆様大変かと思いますが、どうぞ最低限の外出を心掛け、コロナに罹らないようこの苦境を乗り越えましょう(本音)。



第1話

 日本棋院———幽玄の間

 

 鞍馬静流(くらましずる)新初段と桑原仁本因坊が新初段シリーズでの対局を前に盤外戦が繰り広げられていた。

「思ったより早く上がってきたのぉ霊感坊主。

()()()()()()()のお陰かのぉ?」

 ひゃっひゃっひゃっと、耳に残る笑い声をあげる老棋士に、スーツに着せられた感のある静流が口を開く。

「お爺ちゃんみたいな盤外戦仕掛けてくる陰険女がいたりしたけど、ぶっ潰して夏の一枠を勝ち取ってきちゃったよ。

 あと、口添えなんて貰える訳ないじゃない。

 お爺ちゃん、真剣勝負に茶々を入れる気質が()()にあると思ってる? 

 そんなことしたら、見捨てられる上にボクお山のジジ様に出禁にされちゃうよ」

 とても10歳とは思えないほどの落着きぶり、そして何よりその不遜ぶりに桑原はしみじみと、だが羨ましさを隠そうともせず口を開いた。

「羨ましい限りじゃのう、名のある碁打ち()が師匠なぞ、羨ましすぎるわい。

 秀策はいたりするのか? 

 見ることが出来ずとも、死ぬ前に一局打ってもらいたいもんじゃ」

「道策様ならいるよ、会話が殆ど出来ないけど。

 毎日ボコボコにされて、泣いちゃってるよ」

 げんなりとした様子で静流は首を振った、思い出したくもないのだろう。

 対局を前に無駄なエネルギーを消費したとぼやく。

「お主の目玉(めんたま)半分貸してくれんかのぉ」

「うわ物騒なお爺ちゃんだなぁ。

 不眠症になって寿命縮めたくなかったら止めた方がいいよ」

「ひゃっひゃっひゃっ!! 

 碁聖と打てる代価がその程度なら安いもんじゃて!!」

「……まぁ環境が羨ましいって一柳先生が言ってたなぁ。

 …………じゃあ、この対局で勝てたら戦わせてあげてもいいけど?」

 思わぬ提案に、桑原の目がギラリと見開かれた。

 破格の賞品を前に、喰いついてしまったようである。

 他所から見れば賭け碁と見られ兼ねない事態に、立会人たちも困惑していたが2人の闘志はここにきて最高潮に達していた。

「生意気な奴じゃのぉ、懲らしめ甲斐があるわい」

「そのにやけ面、すぐに出来なくさせちゃうから。

 何ならハンデいる? 

 変わろうか?」

「抜かせ、中押しでギャンギャン泣かせてやるわ」

 静流は下座に座ると、カバンから大量の菓子袋──―ブドウ糖(10個入り200円《税抜き》)の入った大量の袋とミネラルウォーター(500㎖)5本を傍らに置き、始まりを待つ。

 桑原も上座に座ると始まりの合図が上げられるまで悠然と構えていた。

「———そ、それでは、時間になりました。

 新初段の先番でコミは逆コミ5目半で持ち時間は2時間。

 持ち時間を切りましたら一手1分の秒読みになります。

 では、始めてください」

「「———お願いします」」

 先手、静流が碁笥から石を取ると予め決めていた手を放つ。

 初手、3・4小目。

 先程までと打って変わって表情さえも殺した年に似合わぬ目をした少年棋士の戦いが始まった。

 

 

 ***

 

 

 対局から一時間後四十七分後———

「……………………ありません」

「あ……りがとう、ございました」

 先手3目勝ちという、ここ数年でここまでの大番狂わせがあっただろうか。

『流石は大僧正が目に掛けたお弟子、指導者の1人としてこれほどの碁打ちに()()()があろうと勝てたこと、誠によろしい。

 97手目で甘い手がありましたがその挽回は今の貴方からすれば見事な返しでした。

 では、次は私の番です。

 この棋士と戦わせなさいさぁさぁ早く!!』

 静流は桑原に勝った。

 傍らにあったブドウ糖やミネラルウォーターは既に開始一時間とかからず喰い尽くし飲み尽くしていた。

 頭痛と腹痛に身を苛まれながら、目の前の老棋士を捻じ伏せる為に盤上で互いに殴りに殴り合った結果、お互い息も絶え絶えといった様子でヨセに入っている。

 桑原の方はと言えば、これが本因坊挑戦手合七番勝負の最終戦と言わんばかりの気迫ぶりで禿頭に絶えず汗が噴き出していて全身で疲労困憊を表している。

 桑原の背負った逆コミ5目半のお蔭でシノギ切った静流は途中立ち眩みを起こしかけながらも途中退席して別室に置いていた予備のブドウ糖を3袋も一気に平らげた。

 対する桑原も静流が退席している間に羊羹を1本平らげ、お茶を3杯お代わりする等、お互いに身を削りあった対局となっていた。

「……検討しても?」

『検討? 

 何を言っているのですこの未熟者!! 

 貴方が勝ってはいますが互先であれば12目半もの惨敗です!! 

 それくらい分かっているでしょう!! 

 ぐぬぬ、肉体の無いこの身が憎らしぃ口惜しぃ!! 

 貴方のような()()が使えれば今すぐにこの棋士と打つことができるだろうにぃぃぃぃっ!!』

(道策様、お爺ちゃんにはまた今度してもらうから、今日のところはこの辺で)

 頭痛の鳴止まない思考で頭を抑えた静流は、傍らで声高に打たせろと訴えかける『半透明の美坊主』を宥めた。

 ———本因坊道策、かつて江戸時代に活躍した碁聖と呼ばれた碁打ちである。

 その圧倒的な棋力は当時の御城碁へと登城していた殆どの囲碁打ちを圧倒し、近代囲碁の祖とも呼ばれている本来ならば『平成の世』に存在しない御仁である。

 見えて聞こえているのは静流だけで桑原や立会人たちに道策の姿は見えていない。

 それは静流の幻覚や妄想ではなく、本当に存在していた。

 ──―幽霊、という常識外の存在として。

 生まれてこの方、幽霊・妖怪・異存在と関わって来て居た静流は世間では『霊感少年』としてテレビに何度も出演したことのあるちょっとした有名人であった。

 無論そういったオカルト系の番組ではヤラセやトリック、イカサマが番組後炎上して打ち切り、というパターンが多いのだが、静流は番組に登場して5()()連続で出演しているレギュラー枠にあった。

 夏場となれば怪談番組がゴールデンを飾り、テレビ欄には静流の名前が出るのが当たり前となれば、その異常振りが理解できるだろうか? 

 もちろん、霊感少年としての実力を疑われて実証実験に何度も立ち会わされたこともあるが、結果は全て『証明不可能』という静流の霊能力に太鼓判を押す結果となり、複数の霊能力者も静流が霊能力者であると証言していた。

 そんな霊感少年が何故、囲碁界に乗り込んできたのか。

 それは、家庭環境からの鬱屈によるものだった。

 静流に霊能力があると知った両親はあからさまに息子への態度が変わった。

 静流に一切触れなくなり、食事も肉は不浄であるからと精進料理。

 外出も穢れが移るとテレビ出演以外では霊能力を鍛えるために山籠もり──―実際は山へ放置である──―という徹底ぶり。

 もはや虐待としか言えない状況を静流はこの5年余りを過ごした。

 本来ならば小学4年生の静流は学校へ出席をしておらず、人間の友達など一人もいない。

 そんな中で出会ったのが囲碁であった。

 妖怪──―天狗が住まう山寺に迷い込んでしまった静流が面倒見の良い天狗の膝の上で見ていた一局。

 十九路盤という白と黒の意思が織りなす独特な世界観に、静流は魅せられた。

 以来静流は面倒見の良かった天狗を師に持ち、その後出会った幽霊──―道策や安井算哲といった名立たる囲碁名人たち──―と交流を持ちながら次第に将来は『プロの碁打ち』になりたいという気持ちが宿ったが、碁のことなど何も知らない両親は猛反対し遂に手が出始めた。

 こうなってくると静流もすぐに限界がきて堪忍袋の緒が切れた。

 これまで絶対に人に向けて霊能力を使わないと決めていたが、その誓いを破ってでも親の作った檻を抜けようという気になったのである。

 天狗から教わっていた金縛りの術を両親に掛けると家を飛び出し、交番へ避難しこれまでの虐待を訴え出たのだ。

 静流のことを団地の有名人として知っていた警察官はすぐさま自宅へと急行し両親を緊急逮捕。

 金縛り状態の両親をなんとか警察所へ連行してから暫くして、世間は大いにこのスキャンダルに飛びついた。

 静流が得ていたギャラを本来は将来の為に管理していたはずの両親の金遣いの荒さに。

 いつの間にか仕事を辞めていた両親が静流の稼ぎを当てにしていたことを。

 キャバクラや有名ブランドショップで頻繁に目撃されていたこともあり、火が付けばあっという間に世間は静流の両親を叩き、静流を虐待されていた可哀相な子供と記事を掲載した。

 親戚は静流の霊能力を恐れ引き受けようとせず、児童養護施設に預けられることとなるが、これまでまともな人間関係を築けたことのなかった静流は残念なことに、関係構築に失敗し孤立する事となる。

 それでもなお、己の夢──―プロの碁打ちになるという夢は色褪せなかった。

「──―中盤の荒らしが成功したのは終盤のいい布石になったと思う。

 けど、終盤のコウ合戦が複雑で……」

「最後まで気を抜かんとボカボカ殴りおって……年寄りを少しは労わらんか」

「こんだけ元気に殴り合って年寄って冗談よしてよ()()()()()、実は中身三十代でしょ?」

「憎まれ口ばかり叩きおって……この中央からの……」

 遡って検討をする二人は次第に活力が戻ってきたのか、互いに軽口を叩き合いながら石を置き続けた。

「……むぅ、少し力み過ぎたのぉ……やはり中盤じゃな。

 中央のワカレが痛かったわ」

 じゃらり、と石を碁笥に戻すと手で顔を覆った桑原は長年勤めてきた観戦記者の目から見ても初めての光景だった。

 棋力は未だ桑原が圧倒的に上田、静流の腕前が初段以上とはいえ、それは覆しようのない事実。

 自らが仕掛けた盤外戦に逆に釣られた挙句のこの失着。

 言い訳を上げればきりがないが、負けは負けである。

 桑原はこの一局を忘れないだろう。

 久方ぶりの心身を苛む敗北感に、力なく笑ってしまった。

「……なんにせよ、わしの負けじゃ。

 碁聖との一局はまた機会があれば……」

「──―はい、僕のいる養護施設の電話番号。

 近いうち引っ越しするからこっちは僕の後見人さん番号だよ。

 お爺ちゃんの体調が回復して、絶好調な時にまた打ってほしいな」

 静流は胸ポケットから二枚のメモ用紙を桑原に渡した。

 約束だった桑原の勝利を提案した側から反故にして、景品を差し出した静流に、桑原の目が大きく見開かれる。

「お主……よいのか?」

「今日は僕もへとへとだから無理だけど、別日ならいいよ。

 今ずっと道策様が狂乱しててね、お爺ちゃんと打たせてあげなかったら悪霊になっちゃうのは御免だしね。

 それじゃぁ、本日はありがとうございました」

 プロとなってから半年ほど経てば十分な引っ越し資金も貯まるだろうと計画している静流は養護施設を出て、一人暮らしをする気であった。

 霊能力者時代のお金は両親にくれてやった、これで縁切りとなるのなら安いものだと割り切ってしまった静流は引っ越し予定地の寺の住所も伝えると席を立った。

「あっ、すいません鞍馬初段、ちょっといいかい!?」

 観戦記者が検討を終え立ち去ろうとした静流を呼び止めた。

 すぐにでも帰りたかった静流は嫌そうな顔を隠そうともせず、険しい表情をして振り返る。

「なんです?」

「対局の感想を聞いてもいいかい? 

 なんせあの桑原本因坊を相手に勝利を手にした感想を聞かせてほしい」

「楽しかったけどしんどかったです。

 終盤のヨセが丁寧に終えられてちょっと気分がいいです。

 あ、中盤の荒らしも楽しかったです、帰ったらまた検討したいです」

 そういうと、静流は今度こそ幽玄の間を去ってしまう。

「ま、待ってくれ!! 

 最後に、これだけは聞かせてくれ!!」

 記者は慌てて追いかけ、静流に追い付いく。

 幽玄の間から出て別室で待機していた他のプロたちと話していた静流はまだ何か用があるのかと記者に訝しんだ。

「こ、今回の対局に、()()()()()()()()()()()()()()?」

 この質問をした瞬間、静流を中心に他のプロたちの目が一気に険しくなった。

 中心にいた静流は周囲のプロたちとは違い呆れたような目で見ていたが。

「桑原のお爺ちゃんにもいったけど、あの人たちは僕の対局に関わることはないよ。

 余計な茶々を入れられて喜ぶ碁打ちなんてプロ失格でしょ?」

 年に見合わない冷めた言葉を投げかけた静流は記者から視線をずらすと、隣にいた白スーツの男──―緒方七段にぺこりとお辞儀した。

「緒方先生、他の先生方も、本日は僕と桑原本因坊の対局を見に来てくださってありがとうございました」

「いや、あの爺さんが新初段相手に本気になって空回りして負けたなんて珍事を見れて良かったよ。

 今後も励むといい、何なら俺と今打つかい?」

 上機嫌な緒方はつい最近桑原へ本因坊七番手合に挑みストレート負けという気の狂いそうな結果を残してしまい不調が見られていたが、この一局のお蔭かメンタル面での復調が見られた。

 別室で静流たちの対局、特に中盤の荒らしに静流が成功させた時など周囲に見えないようにガッツポーズするほどであったという。

「えと、また今度時間を頂きたいです? 

 じゃなくて、緒方先生のスケジュールを教えていただけたら、僕から伺います」

「なんだ、随分と桑原の爺さんと違って固いじゃないか。

 盤外戦の時みたいなふてぶてしい態度の時ぐらいでちょうどいい」

「…………えっと? 

 じゃあ、緒方先生、休みの日があったら教えてください。

 盤上で殴り合いしましょ?」

「あぁ……楽しみだよ」

 疲労困憊しているとはいえ高段位者からのお誘いに、静流は口調を崩して緒方相手に挑発してみせた。

 緒方としてもこの特異な新初段と一度対局してみたかったこともあり、不敵に笑ってみせる。

 帰ってから研究だなと内心で呟くと、一足早く帰っていく。

 途中受付で静流のプロ試験中の棋譜もコピーする事も忘れず、緒方は棋院から出ていった。

 非公式戦で、門下でもないのに高段位者、更にタイトル保持者との対局をこの短時間で手にした静流は疲れ切った脳を叱咤し迎えのタクシーに乗り込んだ。

「あー愉しかった。

 やっぱり、囲碁のプロ目指してよかったぁ。

 道策様、またご指導お願いしますね?」

『…………静流、緒方とかいう棋士のこれまでの棋譜は持っているのですか?』

「………………あ」

 棋譜は日本棋院で手にする事も出来た筈だろうに、静流はそこまで気が回らすタクシーに乗り込んでしまっていた。

 既に出発しているタクシーはどんどん日本棋院から遠ざかっていく。

「おじさん、運転手のおじさん!! 

 やっぱり戻って、日本棋院にバック!! 

 忘れ物した!!」

 締まらない終わりに道策は静流の隣で呆れ、帰ったらビシバシ扱くことを心内で決める。

 日本棋院へ戻り養護施設へ着いた頃には、夜も更けていた。

 これが鞍馬静流新初段の初めてのプロの戦い。

 これから続く長い長い人生を囲碁という十九路盤の世界で戦い抜く棋士たちとの戦いの、始まりであった。




読んでいただき、ありがとうございました。

とある女友達との一幕

Aさん「ねぇ、ポカ君?今年から社福取るためにレポート課題2本毎月提出するんだよね?」
ポカ「はい・・・(-ω-)」
Aさん「なのに、どうして部屋の中に囲碁の参考書とか囲碁の漫画とか九路盤とか十九路盤とかあるの?先週までなかったよね?」
「ヒカルの碁《完全版》全巻」
「星空のカラス 全巻」
「天地明察 全巻」
「石倉昇:ヒカルの囲碁入門」
王銘琬九段考案:『初めてでも10分でできる囲碁 純碁』
 折り畳み十九路盤(リサイクルショップで500円)
ポカ「はい・・・(-ω-)」
Aさん「社福取ったら、次は精神の方もでしょ?」
ポカ「はい・・・(-ω-)」
Aさん「今日まで(2020/4/30)にレポート何本上げたの?来月の15日までが締め切りだよ?」
ポカ「・・・・・・0本です(-ω-)」
Aさん「・・・・・・ポカ君、やる気あんの?(´∀`)(∀` )(` )( )( `)( `д)(`д´)ゴルァァァァァ」
ポカ「ひゃい・・・ヾ(_ _*)ハンセイ・・・」
Aさん「がんばろうねポカ君、応援してるヨ (´0ノ`*)オーホッホッホ!!」
ポカ「ひゃい・・・(((;゚ρ゚)))アワワワワ」

作者は失踪します。
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