心霊少年の軌跡 霊能者よりもプロの碁打ちの方が魅力的なのでプロになります 作:夢落ち ポカ
主人公の名前:鞍馬静流 静流をシズルと記載します。
オカルト要素あり:バトルはありません(バトルになりません)主人公のオカルト発言はさらっと読む程度でOKです。
作者のレポート課題?
・・・・・・・・・HAHAHA!!
葉瀬小学校にて、進藤ヒカルはとある教室である少年と対面している。
鞍馬シズル———自分よりも背が低く普段から表情の乏しい彼が打って変わって険しい表情をしているのを見て、ヒカルは困惑していた。
(おい佐為っ!! お前シズルになんか恨まれるようなことしたのか!?)
(心当たりが全くありません!!
現世に再臨して二ヶ月も経っていない上に、初対面のこの少年からこれほどまでの敵意を浴びるなど…!!
というか、この少年ヒカルと同じ私のことが見えているんですか!?)
ヒカルは最近己に取り憑いた幽霊―――
シズルはポケットから何かを取り出すと、教室の四方へ投げつける。
それが長方形の何か読み取れない文字を書かれた紙だとヒカルが気付いた時、肉体を持たない筈の佐為に変調が起きた。
ただの紙がどうやって勢いよく教室の四方へ飛んでいったんだ、というどうでもいいことを一瞬考えてしまったのだが、しばらくして体の変調に気付く。
閉塞感とでもいえばよいのか、先程まで感じていなかった
「ヒカル・・・今日呼び出していたのはその
大丈夫、自我が凄く強くて退治し難そうだけど、大僧正様謹製の特急呪符を使ってその取り憑いている幽霊、後遺症
———どうしてこうなった?
ヒカルは、何故か相対する羽目となってしまったこの状況を思い返した。
***
———数時間前
ヒカルは久しぶりに登校してきていた学校の有名人、鞍馬シズルに用があって彼の教室へ休み時間に赴くも折り悪くシズルは席を外していて、仕方なくヒカルは放課後空き教室へ来てくれとシズルのクラスメイトに伝言を残していた。
用事というのも、自分に憑いた幽霊———藤原佐為と呼ばれる幽霊と囲碁の勝負をして欲しかったのだ。
(ねぇヒカル、その鞍馬シズルという少年は碁が強いのですか?
塔矢アキラ君よりも?)
(だと思うぜ?
だってあいつ十歳の時にプロになったってニュースになってたらしいし?
なんかすっげー強い爺さん倒して新聞にも載ってたって爺ちゃんが言ってた)
碁の初心者であるヒカルはシズルが二年前の新初段戦で戦った相手―――現本因坊、桑原仁に勝利したことを佐為に伝えたのだが、その説明がざっくりとし過ぎていた所為で当の佐為にはよく伝わっていなかった。
(ヒカルの説明がぼんやりとしていてよく分からないですね。
まぁ、ヒカルと同い年で既にプロとは、この戦いにも期待できそうですが・・・初心者丸出しのヒカルがプロに勝つというのは余りよろしくないのでは?)
石の置き方すらまだ安定もしていないヒカルはいまだに親指と人差し指を使った置き方しか出来ないでいた。
一度だけ、塔矢アキラの父親である塔矢行洋五冠との対局の時に何故か打てたあの不思議な感覚。
行洋の見せた輝く様な一手を自分も打ってみたいと偶然打って見せたあの時だけだ。
異常な強さを誇る佐為だが、肉体がない以上碁石を持って打つのはヒカルである。
素人丸出しのヒカルがこの打ち方では違和感しかないだろう。
ちぐはぐな強さに、素人感丸出しの持ち方。
不信感しか持たれないのではと危惧した佐為はどうするつもりなのかとヒカルに尋ねるが、ヒカルは大丈夫だとしか言わなかった。
(あいついつもぼーっとしてて何考えてるか分からねぇけど、良い奴だから大丈夫だって!!)
子供特有の根拠のまるでない、だが力強く断言して見せたヒカルに佐為は天を仰いだ。
(私はその鞍馬という少年を知らないんですよヒカル・・・)
話の通じないヒカルに藤原佐為、現世に二度目の降臨をして途方に暮れたある昼間の出来事だった。
***
そして現在、していた教室に向かったヒカルと佐為は既に教室に来ていたシズルとようやく出会い、だが佐為にとってこの状況は混乱の極みにあった。
ヒカルとしては、目の前の友達の勘違いをどう説明したらいいのか言葉が見つからずに黙ってしまう。
加えて、言葉のいくつかに物騒な言葉が紛れていたので聞き間違いであってほしいという現実逃避もしていた。
(ヒ、ヒカル!?
この少年、もしかして陰陽寮の術師なのですか!?
そういえば、どこか平安の世にいた陰陽師に似ているような気迫を感じます!!
ご、誤解です、誤解なんです!!
ヒカル、彼に私への誤解を解いてください!!)
佐為の慌てぶりに現実へ帰ってきたヒカルは目の前のシズルへの説明が口から出てこないでいる。
(そ、そういわれたって、なんて説明すればいいのか分かんねぇよ。
佐為の方から言ってくれよ、悪い幽霊じゃないってさ!)
(幽霊の私の言葉をこの少年陰陽師が信じると思いますか?
見てくださいあの表情、今まさに私のことを成仏させようと狙いを定めた狩人の目ですよ!!)
(いや、あいつの無表情は年中無休な感じだけど・・・あーけどあんなに眉間にシワ寄せてるのは初めてかも?)
(ヒ、ヒカルぅ、何とかしてくださぁいっ!!
神の一手を極めてもいないのに成仏なんてあんまりですぅっ!!)
動揺から遂においおいと泣き始めた佐為に頭痛に苛まれ始めたヒカルは舌打ちする。
どういう理屈か、ヒカルは佐為の強い負の感情———悲観や絶望など———の影響を受け易く、体の変調を起こしてしまうのだ。
特に初めて会った時などショックで気絶してしまい一時検査入院する羽目になってしまったのである。
あんなことは二度と御免だと、ヒカルはかぶりを振った。
(あーもう、泣くなよ頭痛くなるだろ!?
分かった、何とかするから泣き止めって!!)
ヤケになって安請け合いしてしまったヒカルは、シズルに誤解だと叫んだ。
「違うんだってシズル、聞いてくれって!!
今日お前に用があったのは、こいつの碁の相手をしてほしかっただけなんだって!!
幽霊退治はお前の勘違いなんだよ!?」
勢いに任せて口にした言葉だが簡潔に事情は伝える事が出来ていたようで、シズルはヒカルの表情から自分が勘違いをしてしまったのだと納得したのだが、手に持った札から手を離さないあたり佐為を警戒しているのだろう。
「けどヒカル、全身が残っている幽霊っていうのはすごく力が強くて、取り憑かれたら調子を崩しやすいんだ。
さっきもそのお化けの影響を受けて頭痛で頭抑えてたよね?」
心当たりがあり過ぎてドキリとしてしまったヒカルだが、今は佐為の成仏ではなく碁の勝負、対局の申し込みだ。
テレビを賑やかせていた頃の幽霊少年の印象が強いシズルだが、現在はプロの碁打ちとして活動しているシズルにヒカルは用があったのだ。
「そうだけど・・・佐為は俺の囲碁の師匠なんだ。
シズルが俺のこと心配してくれて魔法みたいなことして助けてくれてるようだけど、それは俺的に困るからやめてくれ」
ヒカル正直な気持ちを聞いて、シズルはじっくりと佐為を見やった。
いかにも気の弱そうな長身の美青年幽霊はシズルを何故か拝んでおり、『私は悪い霊じゃありません、助けてください』とおろおろしている姿にようやく警戒を解いたのか、手にしていた札を下ろしポケットへと入れた。
「・・・うん、誤解してごめんなさいヒカル。
さいっていうんだね、その幽霊は?
なんていう字を書くの?」
『し、信じていただけるのですか!?』
誤解が解けたのかと思ったのか、明るい表情をさせた佐為はシズルを再度拝んだ。
佐為に拝まれて居心地が悪くなったのか、シズルは眼を逸らすとヒカルの為だからと言い訳のように、早口に言った。
「面倒くさがりなヒカルがこれだけ信じてるから、まぁ、少しは信じてあげてもいいかな・・・と思っただけ。
おかしなことしたら
「じゃあシズル、さっき教室に張った札取れよ、何かアレ張られてから俺もちょっと気分悪いんだよ」
シズルはヒカルが佐為の影響を受け易いと気付いたようだが、先程の件もあった為、急いで札を剥がすと破り捨てる。
それと同時に、教室に漂っていた閉塞感が消失し息苦しさが無くなったヒカルはなんとなしに教室の窓を開けて深呼吸する。
閉塞感の理由は窓が閉まっていたからではないのは分かっていたが、気分的にそうしたかったからだ。
「よし、じゃあシズル、佐為と打ってくれ!!
あと、俺ともその後で打ってほしい!!」
「えっと、佐為さんに成仏してもらう為に打つっていうことなのかな?」
誤解は解けたがそれ以外はまるで要領を得ないシズルはヒカルにどういうことなのか尋ねた。
ヒカルはシズルにこれまでの佐為と出会った頃からを掻い摘んで教える。
途中、佐為の正体が江戸時代に現れ現代に至るまで最強の棋士としてその名を轟かせている本因坊秀策であったと聞き、一瞬だがシズルの眉間にシワを寄せたのに二人は気付かない。
そしてヒカルのいたずら小僧ぶりにシズルの白けた視線を受けた本人は苦笑いしているが、それが佐為との出会いであるというのなら、二人には縁が繋がっていたのだろうと、そう思うことにしたシズルなのであった。
「・・・道策様、これ聞いたら怒るだろうなぁ・・・大僧正様もなんて言うか」
シズルはこの場にいない知り合いにこのことを報告しないといけないのだと思うと憂鬱になったのか、はぁとため息をつく。
「シズル、どうかしたか?」
「何でもないよヒカル、それと佐為さん。
碁を打つのは今日はちょっと都合が悪いんだ。
今日は夜から研究会にお呼ばれしてて、明日じゃダメ?」
「研究会って?」
研究会と言われてヒカルは首をかしげた。
プロの碁打ちをしているシズルがする研究会と言えば囲碁以外に何があるのだろうとは言わないシズルは目の前の鈍い友人にゆっくりと説明をする。
もちろんだが、傍らにいた佐為は察しがついていたようである。
「もちろん囲碁のだよ。
僕は基本どの研究家にも所属してないけど、今日の夜から緒方先生に誘われて塔矢名人の研究会に行くんだ」
「塔矢名人って・・・塔矢アキラの!?」
『シズル殿はあの者と打てるのですか!?』
「そうだよ、ヒカル・・・というより、佐為さんが二人と何度か打ったことがあるって言っていたよね?
うん、塔矢門下っていって、塔矢名人主催でお弟子さんたちとか、運が良ければ塔矢名人とも打てたりするんだ。
この前、緒方先生・・・塔矢名人のお弟子さん、プロの碁打ちの人とトーナメントで当たってね、その対局は負けちゃったんだけど、その時に緒方先生から誘われたんだ」
緒方はこの二年で不調を完全に払拭し更には棋力を上げて現在九段と若手においてはトップクラスの実力者になっていた。
タイトル予選時に何度か当たった事のあるシズルと緒方だが、勝率は若干だがシズルの方が高い。
二週間ほど前、対局後に緒方から誘われた為、ヒカルとの用事が済み次第学校を出ようと思っていたのだ。
「秀策と打てるっていう感動とか名誉とかあるんだけど、約束が優先かなぁ」
『私も、私も打ちたいのですが・・・』
佐為も打ってみたいと訴えているが、以前ヒカルは行洋との対局に無礼な態度をとって逃げ出した経緯を思い出し、佐為を窘めた。
あの時は佐為が自分の体を乗っ取ったんだと言い張って―――今でもそう思っているが―――はいるものの、それほど月日を置かずまた行洋と打とうとは言えなかったし、大人に混じってい碁を打つというのはどこか怖くもあり行きたくなかったのだ。
そして何より、その場にいられても打つのは佐為で、ヒカルは代打ちをして見るだけ。
せっかく碁が楽しくなってきたのに、研究会に行けば自分は
「佐為さん、また明日打ちましょうね。
ヒカルも、また明日打とう。
本当は指導料とか貰わないといけないって棋院から言われてるけど、お金困ってないからタダでいいよ」
「一度言ってみてぇな、カネに困ってねぇって」
『ヒカル、シミジミ言わないでください、悲しくなってきます』
ヒカルは己の金欠ぶりにシズルのブルジョア(?)発言に混じりっけなしの嫉妬心を吐露し、佐為はその様子に呆れていた。
二人はシズルに今日は驚かせて悪かった、明日の対局を楽しみにしているといって、教室から出ていく。
シズルも教室から出てると、二人の背をぼんやりと見た。
「かつて江戸にその名を轟かせた本因坊秀策の正体が、まさか平安の碁打ちが
千年前の幽霊なんて原型無くしているか、
・・・まぁ、悪霊には為っていないようだし、ヒカルに何かない限り様子見しておこっかな」
佐為の幽霊としてどうやってこれまで存在していたかなど、シズルには興味はない。
今のシズルは霊感少年ではなく、プロの碁打ちとして生きていくと決めているのだから。
自分に害がない限り、オカルト関係において基本的に進んで関わるなどしないのだ。
流石に目覚めが悪いので、ヒカルに何かない限り様子見―――第三者から見ると完全に放置である―――する事に決めたシズルは小学校の駐車場へと向かっていく。
そこには見慣れた高級車―――マツダのRX-7が駐車され、車内には上下白のスーツというインテリヤクザ然とした三十代の男性がそこにいた。
助手席側の窓をノックすると、気付いたのか吸っていたタバコを灰皿へと押し込み換気も兼ねて窓を開けた。
「―――お待たせしました、緒方先生。
今日はよろしくお願いします」
「やぁシズル君、遅かったな。
久々の登校で学校の先生に宿題山ほど渡されたのか?」
「違いますよ、僕のクラスの担任は僕のこと基本的に無視するんで。
今日は友達に囲碁教えてって頼まれたんですけど、研究会あるからまた今度ねって話してたら長引いちゃって」
対局の度に学校を休んでいる内に担任の教師からは何も言われることのなくなったシズルは別段教師やクラスメイトから明確なイジメを受けているわけではない。
ただ班分けの時に必然的に残り、移動教室がある事をクラスメイトから教えてもらえなかったりすることが
学校にロクに通ったことのなかったシズルは学校とはそういうものだと思っており、このことが問題になるのは卒業式直前というまだ幾分か時間のかかる事であった。
「・・・聞き捨てならない言葉があったが、シズル君が気にしていないようだから横に置いておくか?
それにしても、シズル君に話しかける度胸のある小学生がいるとは、なかなか根性あるじゃないかその子は」
「はい、多分その子とその子の幼馴染の子以外とは話して無いから分からないけど・・・アキラ君くらいの度胸はあるかな?」
思った以上の評価に緒方は笑ってしまってもいいものかと頭を悩ませるのだが、シズルと関わってきてこれまで似たような事はいくつもあったことから、聞いていた内容は流すことにした。
さらっと重い話を投げてくるのはシズルにとっていつもの事なのだから、一々気にしていたら身が持たないのだ。
「そうか、そりゃ期待出来そうだな。
見込みがあればまた教えてくれ・・・じゃあ、出発するぞ」
「はい、お願いします」
緒方は車を発進させると、安全運転で塔矢邸へと向かっていくのだった。
読んでいただき、ありがとうございました。
作者はまた失踪します。
どこにかって?
・・・・・・本の中?