心霊少年の軌跡 霊能者よりもプロの碁打ちの方が魅力的なのでプロになります   作:夢落ち ポカ

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久々の投稿です。

出来上がったのは本日の午前1時35分。

予約投稿が本日の19時になっています、眠い。

以前感想に、突然塔矢アキラ君が出てきた…みたいな感想を頂いて、『あ、コピペミスった』と気付いたので編集しています。

***塔矢→佐為 です正しくは。

コロナの脅威も大分落ち着いてきた…(一部の件を除く)ようなのですが、やはり医療系福祉系は中々問題が山盛りで現状維持が続いているところが多いようですね。
うちの職場も現状維持であんま変わりません、しんどい。

作者のリフレッシュとして、囲碁をアプリでしているのですが、15級の9路盤で既に苦戦しています、ザコザコです(勝率3割)。

それなのにこの囲碁の小説を書いている、もう専門書読みながら大丈夫かなぁって思いながら書いていたら6000字超えてました。

皆様もお家で出来るリフレッシュでコロナに罹らずに過ごされるようお祈りしています。

では、どうぞ。


第3話

 

 シズルが塔矢邸へ到着したのは、夕方の十八時を回っての事だった。

 車内で緒方と脳内対局を打ちながら五目半勝ちという勝利をもぎ取ったシズルは意気揚々とRX-7から降車した。

「やはり運転中に打つのは危ないな、青信号だと気付かずに後続からクラクションを鳴らされるわ右折しなければならないルートを直進してしまうわで、散々だ。

 もう二度と運転中に囲碁は打たないことにしよう」

 

「緒方さん、それもう今年で六回目だよ? 

 乗った僕も悪いと思うけど、いい加減にしとかないと死んじゃうよ?」

「そうだな、シズル君を運転中に死なせてしまうなんて()()後見人に知れたら、どんな目に合うか……何より楽しみにしていた先生との対局を前に死なせるなんて申し訳が———」

「———あ、死ぬのは緒方さん()()だよ? 

 僕お守りあるから車が大爆発起こしても無傷だから」

 誤解を招く発言だったとシズルが注釈を加えた。

「そっちだったか……」

 二人揃って事故死と思いきや、まさかの緒方のみの死亡という何とも言えない発言に、緒方も表情が固まった。

 これを機に緒方が運転中寡黙になることとなるのだが、それが原因で交際している女性から縁を切られる二重の落ちに至るまで、もう少し先の話である。

 インターフォンを鳴らすと、柔らかい口調が印象に残る女性の声がマイクから聞こえてくる。

 塔矢明子———塔矢行洋の妻にして塔矢アキラの母だった。

「こんばんは、塔矢先生とお約束している鞍馬です」

『まぁ、お待ちしていました。

 今開けますので、もう少しだけお待ちくださいな』

 一分と掛からない内に玄関が開かれ、シズルは明子に一礼する。

 夕飯までご馳走になるのだ、愛想良くするのは礼儀というものだろう。

 既に塔矢門下の弟子たちが揃っていて、外部から招かれたシズルと迎えに出ていた緒方———下車してからずっと黙ったままである、どうやら運転中に打っていた対局の検討をしているようだ———でようやく全員が揃ったようである。

 殆どがプロになっている弟子ばかりだが、こうした研究会で研鑽を積むのが囲碁打ち達の日常といえよう。

 シズルはといえば事情が事情なせいか基本()()ばかり相手しているが、プロになるまでその殆どを幽霊や妖怪といった人間以外と打ち続けてプロになったのは過去現在においてシズルだけだ。

 シズルの師匠を務めている幽霊の本因坊道策、そして妖怪であり時には天魔とまで呼ばれた大天狗、鞍馬大僧正坊はシズルに今を生きる人との接点を作るよう促し———実際は命令だったが———人との中で強くなれと伝え、それを律義にシズルは守っている。

 理に適っているからという訳でない、単純に育ての親ともいえる幽霊と天狗に頭の上がらないシズルが二人の言葉を信じているからだ。

 シズルは明子から夕食をご馳走になると、食器をシンクにおいて研究をしている部屋まで向かっていく。

 殆どが成人を迎えていたり高校進学をしていないプロばかりで、朝から対局していたのだろう、畳の上には何十枚もの棋譜が纏まって重なっていた。

 行洋は息子のアキラと対局をしていたようで、既に終盤に入っている。

 盤面をちらりと見るが、敗色はアキラの方で表情が硬く奥歯を強く噛む音が聞こえてくるほどに悔しかったのだろう。

「……ありません。

 ありがとうございました」

「ありがとうございました」

 泣きはしないものの、望んだ碁が打てなかったような表情に見え、シズルはアキラに声は掛けず、行洋に挨拶した。

「塔矢先生、本日はお招きいただき、ありがとうございます」

「ああ鞍馬君、久しぶりだね。

 天元戦以来かな。

 七局と言わず十局、二十局と打ちたかったのだが……」

「ですねですね、出来れば意識飛ぶまで打ちたかったです。

 まぁ、天元戦の結果は縦四とストレート負けして先生に落胆されんじゃないか冷や冷やしてました」

 思い返すも楽しく悲しいタイトル戦。

 天元戦の予選を突破したシズルは王座位を持つ座間を決勝で打倒し、天元位を持つ行洋への挑戦権を獲得した。

 だが、ここで緊張の糸が切れたのか、いざタイトル戦が始まると結果は縦四という全敗という結果が残ってしまったのである。

 シズルが挑戦者と決まった時の新聞の見出しは『霊感少年、タイトルホルダーに!?』から縦四後は『霊感少年、タイトルはまだ早かった』というメディアの扱いに更に凹む始末で、後日あった対局で勝ちはしたものの八つ当たりのような酷い碁になってしまったとぼやいていた。

「そんなことはない、四局ともすべて私の方が冷や汗をかいたものだよ。

 また天元位か、それとも他のタイトルか分からないが、私もうかうかしていられないと気を引き締めたものだ」

「そう言ってもらえると頑張った甲斐があります。

 それじゃあ、僕は最初に誰と打てばいいんですか?」

「シズル君、ボクと打たないか?」

 気持ちの切り替えが終わったのか、アキラがシズルに対局を申し出た。

 未だプロではないが、アキラの棋力はプロと同等と父でありタイトルホルダーである行洋から太鼓判を押されている。

 そして、新進気鋭の鞍馬シズル()()に己の力量がこの同年代最強と呼ばれるシズルにどこまで喰らいつくことができるのか興味があった。

 彼と戦ったのは行洋がオーナーを務めている囲碁サロンでの一局のみ。

 当時桑原本因坊を新初段シリーズで打ち破ったと新聞の見出しに載った頃だ。

 緒方に誘われたシズルは囲碁サロンで六面打ちをして客寄せを何故かする羽目になっていたが、それからすぐアキラに声を掛けられたのである。

 結果はこれまでアキラが積み上げてきたプライドが瓦解しかねないほどの惨敗で、しばらく食が通らなくなるほどだった。

『あー、三十一手目のコウでミスったねー。

 こっちの左辺から稼いでからじわじわ来た方がよかったね。

 あと、中央の戦線が攻め切れなかったのが痛かったかな、もう少し手堅くツケてきたら僕も困ったと思うよ。

 いやぁ、強いねアキラ君!! 

 僕と同い年? 

 プロになったらずっと君みたいな子と盤上で殴り合い出来るなんて、やっぱ僕霊感少年止めてよかったー。

 早くプロ(こっち)に来てねアキラ君、その時は僕も全力で殴り合い(打って)あげるからさ』

 検討も序盤から指摘を受けてそこから終盤まで読んでいたのかと読みの深さに驚愕し、加えて自分の不甲斐なさに顔が赤を通り越して真っ青になりそのまま意識を飛ばしたくなるほどの羞恥だった。

 あれから一年以上経ち、アキラも更に研鑽を重ねた。

 シズルも同じく研鑽を重ねている以上、そう簡単に距離を詰めることは難しいだろうが、それでも試したかった。

「いいけど……いいです、先生? 

 予定している人と対局ずれちゃうんですけど」

「ああ、構わない。

 最初は芦原君と打つ予定だったが、どうやらあちらは押しているようだからね」

 芦原と呼ばれていた青年は向かいにいる笹木というプロとの対局が長引いていていまだ終盤に辿り着いていない状況だった。

 盤上を見ると黒の笹木が芦原を押しているようで、何とか芦原は抵抗を続けている状況が中盤から続いているように見える。

 行洋も長引くと察したのだろう、アキラとの対局をむしろ勧めていた。

「そういうことなら、わかりました。

 それじゃアキラ君、二年振りにしようか」

「ああ、父さんとの天元戦でも分かっているけど、まだボクじゃ君に太刀打ちできない。

 けど、今のボクがどこまで喰らいつけるのか、それを今後のプロ入りの測りにさせてもらう!!」

「うわ、何か測りにさせられちゃってる? 

 どうしよう、すっごいボコボコにして泣かしたいって気持ちと、真摯に丁寧にボコボコにしたいって気持ちで揺れてるんだけど」

「……シズル君、どちらも変わらないように聞こえるのだが?」

「意気込みの話ですよ先生!!」

「そうのか……?」

 親の前で息子を盤上でボコボコにして泣かしますと宣言している以外に聞こえない行洋は目の前のシズルに思わず聞いてしまい、そして困惑した。

 緒方も二人のやり取りを見て、行洋もこの洗礼を受けるのかと内心同情していたが巻き込まれたくないのであえて聞き流すことにする。

 シズルとアキラは部屋の隅へ移り、対局することとなったのだった。

 

 ***

 

 Side シズル

 

 塔矢邸での研究会って何か息苦しくてちょっと個人的にあんまり合わないとこだった。

 いや、打つのは楽しいんだけど、何と言うかお通夜状態が通常(デフォ)なのってくらいに雰囲気が暗いのが印象に残るものばかり。

 芦原さんがいなかったら僕は最後までやり遂げられなかったと思う、それくらいしんどかった。

 塔矢先生は見た感じと同じ、樹齢何百年かの古木みたいなどっしりとした印象が強い人で、打ってくる一手がもう鋭いし重いしでもうヘトヘト、サンドバックになっていた気がする。

 息子の敵討ちか何かかな? 

 天元戦より気合入ってて後ろになんかアシュラみたいなの見えたんだけど、気の所為かな? 

 戦えたのは良かったけど、負けたのもまぁ別にいいけど、根っこのとこではなんか納得いかなかった。

 芦原さんは弱くはない……けど、ムラがあるのか、よそ見しなかったら十分打てると思うんだ、残念だなぁ。

 けどそれはプロの碁打ちとしての彼であって、普段の彼は明るくて塔矢門下のムードメーカー的存在だ。

 この人がいなかったら、このお通夜状態の研究会でやっていけなかったと思う。

 緒方先生はいつも通り強い、そう簡単に揺らがなくて盤上だとそう簡単に優位に立たせてくれない。

 相性としてはまだ僕の方が優位なのかな、油断してたらあっという間に逆転されるくらいの差だけどね。

 アキラ君は強くなっていた、うん、これは想像以上の進歩? 

 というより、進化じゃないかなってくらい強くなっていた、今何世代目なんだろう? 

 囲碁歴はアキラ君が上だけど、僕の方が()()強い。

 けど、この進化とも呼べる棋力の爆上げは正直予想外だ、まだまだ距離はあるけど近付かれた気がした。

「アキラ君、足早に打ったのは良かったけど、僕のエグリ……十三・1にはちゃんと殴り返してこないと、ヘコんだら僕もっと盤上荒らすよ?」

 囲碁は『手談』といって直接話すんじゃなくて盤上で話す。

 僕は話というよりは殴り合いしている感じなんだけど、よくその話をすると緒方さんには笑われる。

「そうか、ここでキリ(切れ)ば……」

 アキラ君が僕の指摘した箇所に石を討つ。

 丁寧なキリで僕の石が分断される、一目稼げたね。

「じゃあ次は僕がこっちから攻めるね、右辺から中央にかけて大規模陣地、三十五手で巻き返せない位の大幅リードしちゃう。

 どうやって防いでいく?」

 さっきアキラ君が手合の際に返せていたとしても、僕には他にも手があったから、試しに問題を出してみよう。

「……さっき切った右上隅の戦局は収まったけど、やっぱり右辺から右下隅、中央、下辺がいつでも一大陣地になれる状況が作られている……これを最小限に防ぐには、やっぱり中央から下辺の切って頭をオサエるしかない?」

 アキラ君が慎重に石を以てパチリと十一・13に打った。

 残念、そこは最小限には程遠いかな? 

「じゃあどこまで防げるかやってみよっか?」

 僕が石を取るとパチパチと打っていく。

 十手目まではアキラ君も予想していた通りの展開のようだけど、そこからは残念だけど外れていた。

 一大陣地を築き上げたくはあるけど、戦局をそこだけに集中させていたら後々怖いからね。

 かく乱も兼ねて、左下隅に不意の一手を打った僕に、アキラ君の目が大きく見開かれた。

「ここでこの一手を!? 

 ……いや、そうか、ここで更に左辺への足掛かりを打っておくなんて!!」

「アキラ君の今の実力なら、プロ入りは間違いないよ。

 まぁ、今のままなら当分は僕の連勝記録は保てそうだね?」

 感心しているところに水を差すのはよくないけど、まぁ言っておこう。

 アキラ君は強い、けど()()()()()()()()()()()は知らないけど、そんな精神状態じゃプロ入りしても結果は振るわないと思うな。

「対局中に()()()()を探しているような手を打たれると、ちょっと僕もㇺかってくるね」

 アキラ君がドキリとした表情を見せる、図星だったんだろう。

 僕の大本は道策様と大僧正のじい様に鍛え上げられた、まぁちょっと古臭く感じられる手が多くみられる打ち方をしている。

 弱い訳じゃない、その実力が現代にまで十分通用しているといっていい。

 江戸時代と現代ではルールが変わっているから若干打つ手が変わっているけど、僕の打ち方はそれに対応している、じい様が鍛えてくれた手だ。

 アキラ君は僕の一体()()()意識していたんだろうね? 

「……ごめん、少し前に変わった子と打って、その事を少し思い出していた」

「変わった子? 

 アキラ君、僕以外の同年代の子と打ったの? 

 普段は打たないよね?」

 同世代でアキラ君と打ち合える子なんて僕を除けば耳にしたこともないんだけど、アキラ君はその変わった子と打って何があったんだろう。

「……持ち方は初心者なのに、定石が古く、けど、僕に()()()をさせるくらいに強かった、不思議な子がいたんだ」

 ………………あれ、なんかその話を最近どこかで聞いたような気が? 

「指導碁? 

 アキラ君相手にその子は指導碁を打てたの?」

 またデタラメな子が出てきたね、塔矢名人がアマの大会には相手に悪いから出さないって言い切るくらいアキラ君の実力は抜きんでているっていうのに、指導碁を打てる? 

「とんでもない子がいたもんだね、あれかな、もしかしてその子、()()()()()()()()()()()?」

『秀策の生まれ変わり』と聞いて、アキラ君の目が大きく揺れた。

 あれ、冗談のつもりだったんだけど、アキラ君フリーズしちゃったよ? 

「そうだ……あの打ち方、あのコスミ、あれは秀策のコスミそのものだった。

 シズル君、突拍子もない事を聞いてしまうんだけど……」

 再起動したアキラ君の目が僕を睨みつける、何で睨まれてるんだろう。

 アキラ君は僕に普段なら絶対に口にしないだろう言葉を投げかけた。

「生まれ変わり……本因坊秀策の生まれ変わりって、存在しているのかい?」

 存在しているのなら、生まれついての才能で、前世の実力が継承されているのか、そんな質問もしてきて、僕は思わずため息をついてしまう。

「オカルト関係の話になると証明が難しいからあんまりしたくないんだけどなぁ」

 だって、都合の良い事しか信じない人多いからなぁ。

 アレは幽霊の仕業だ、心霊現象だっていうけど、見える僕からすると偶然何かが光っていたりそれっぽく見えるだけでいうことを言ったところで、見えない人は納得しないんだもの。

 挙句の果てには僕に実は幽霊なんて見えていないんだ、インチキだっていう面倒な人が出てくるし本当に面倒。

 見えていないのなら、どんだけ良かったことかっていう気持ちと、それだと囲碁と出会えなかっただろうし道策様とかじい様と会えないと思うと複雑な気持ちがグルグルして頭が痛いよ。

「ご、ごめん、シズル君が気にしている事なのに、ボクときたら……!!」

「いや、それは今更だしどうにもならないから()()()()()()よ。

 それと、生まれ変わりについてなんだけど……僕の知る限り、()()()()()()()()()()()()()……と思うよ」

 ──―幽霊になってこの世に残っているからね、佐為さんと、()()()さんが。

 これは言わない方がいいだろうね。

 現代において最強の碁打ちは誰かっていう議論がされる中で、絶対に上がってくるのが師匠の道策様、そして秀策──―虎次郎さんの皮を被った佐為さんだ。

 佐為さんはヒカルをどうするんだろう、また虎次郎さんみたいにしてしまうのか、それとも僕みたいに……。

 虎次郎さんについてはどうしようもない、佐為さんに会わせてもよくないだろうし。

 やだなぁ、幽霊が見えるってだけで嫌な巡り合わせが見えちゃって。

 ヤダヤダ、囲碁に集中したいな。

「そうか……すまない、おかしなことを言ってしまって。

 今度はちゃんと打つから、最後にもう一度打ってくれないかな?」

「そうだね、今は僕がアキラ君と打っているんだから、僕のことだけ考えてよね?」

 夜も更けてきた、そろそろ迎えも来るだろうし、最後は早碁で終わらせよう。

 その日、僕の対アキラ君の連勝記録が三つ増えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




読んでいただき、ありがとうございました。

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