心霊少年の軌跡 霊能者よりもプロの碁打ちの方が魅力的なのでプロになります   作:夢落ち ポカ

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遅くなってしまい申し訳ございません。

仕事と私用が重なってなかなか難しい日々が続いています。

最近不思議なことがあったんですが、凍結させているなろうのお気に入りユーザーが増えたり減ったりを繰り返していて、凍結して大分経つのに酔狂な人がいらっしゃるなぁと苦笑しています。

いえ、素直に嬉しいです。

あちらに残した作品のどれかを改めて書きたいなって思う程度の気持ちになりました。

けど、放置しているヒロアカとかHSDDとか、更新しないとなぁと思っているのですが、今は今作に目が行っていますので、ある程度進めてからそちらに戻るのかなぁと思っていたりしますね。

タグに色々追加しました、あと新しいキャラクターも登場(オリキャラとは言っていない)しています、原作感が出てるかな?出てたらいいなと思います。

ではでは、どうぞ。


4話

 塔矢邸での研究会から二週間後。

 葉瀬小学校にて、シズルはヒカルと空き教室で静かに碁を打っていた。

 もちろんヒカルに取り憑いている佐為も同伴しているのだが、口は一切出していない。

 ヒカルの打つ一手一手に百面相をしているが、助言などはしていなかった。

 ヒカルの手筋はやはり初心者レベルの棋力で、プロ棋士であるシズルに敵う筈もない。

 目を見張るような一手もなく、ただ一方的に、ヒカルはシズルにボコボコにされた。

 置き石は九個置いての対局でこれである、殻のついたひよこ状態といえよう。

「……ヒカル、この調子じゃアキラ君を相手取るにはまだまだ先だねぇ」

 おっとり刀でバッサリと言い切ったシズルに、ヒカルは苦々しそうな表情をして唸っていた。

「ああ、あー、うー分かってるって。

 打ってきた時間だって塔矢に敵わないのに、そんなバッサリ言わなくたっていいじゃん!! 

 それよりも、次だぜつぎ!! 

 佐為以外のプロに教えてもらうんだから、時間がもったいねぇ!!」

『ヒカル、私も打ちたいのですが……クスン』

 弟子ではないが、ヒカルはシズルから囲碁の指導を受けていた。

 とはいえ、基本的にヒカルの指導者は取り憑いている佐為が行っている。

 シズルは対局日があれば学校を休む上に、対局日以外でも休んだりしていて学校に来ている日が少ないからだ。

 それでも、学校に来た日は放課後の時間を使って丁寧に、ゆっくりとヒカルへ指導碁を行う。

 本来ならば指導料が発生するのだが、対価として本因坊秀作こと佐為との対局が支払いとなっている。

 勝率はシズルが三割といったところなのだが、佐為はヒカルと同い年の少年が自らに匹敵する碁打ちだと瞠目するには十分な衝撃だった。

 かの塔矢行洋に比肩するのではと口にしたが、シズルは『名人には公式戦で勝てたことないなぁ』と頭痛を抑えたかのような表情をしていた。

 シズルはふと外の景色を眺める。

 校庭の端にある桜の木も寒々しく窓ガラスも二人だけの呼吸で曇ってしまうほどで殺風景な景色だが、シズルはもうこんな時期かとぼんやりしていた。

 周りを見ない気にしないシズルはふとした拍子に周りを見て周囲とのズレを確認する。

 体感気温からして、今が真冬の時期ということも確認すると、おでんが食べたいと碁とは関係ないことを思い浮かべていた。

「佐為さんはまた今度ね。

 まずはやる気になっているヒカルに定石を覚えてもらう。

 その後は何度も練習で打ってもらおう。

 飽きも来るだろうから、僕と佐為さんの交代でね」

 予想以上のスパルタに、勢いのあったヒカルの闘志のこもった焔が揺らめいた。

 シズルは見た目に反して攻撃的な手筋が多い。

 相手に息をつかせない早碁も得意としていて、大概の対局者は持ち時間をすぐに無くしてしまい最終的に満足に打てず高段位者でも中押ししてしまうことがあるくらいだ。

 早さは力、とは誰の言葉だったか。

 一歩間違えれば自滅の刃だが、その分嵌れば嵌るほど切れ味は増していく。

 ヒカルが早碁に適応するかは不明だが、多少は出来るようになればその分何局でも打てるというメリットもあってシズル的にはお勧めである。

「……そういえばもうすぐ卒業だけど、ヒカルは進学先どこになるの? 

 やっぱり葉瀬中学校?」

 カレンダーを見ると三学期ももうすぐ終わる頃だった。

 シズルはヒカルがどこの中学に進学するのか、念の為に確認した。

「そうだろうな、うちは私立行くほど勉強頑張ってる訳じゃねえし、俺も行く気ねぇからな。

 シズルは?」

「僕も葉瀬中だよ、今と変わんない生活を送る予定かな。

 高校は行く気ないし……ということは、ヒカルとは来年も同じ学校なんだね」

「みてぇだな、ってか、シズル高校行かねぇの?」

「高校に行く暇あったら囲碁するかなぁ。

 正直中学校も行きたくないけど、まぁ義務教育だし、ほどほどに行こうかと思う。

 まぁ、変な話高校行って大学に行って就職っていうのが最近の日本人の人生の歩き方みたいだけど、僕もう就職してるから高校とか大学とか行く必要性って本当のところ無いんだよね。

 まぁ、学校の中で出来る人間関係ってあるとは思うけど、社会に出てるし最低限のマナーが分かっていれば囲碁界って大丈夫だからなぁ」

 強さが正義、という訳ではないのだが一般的な社会常識を最低限持ち合わせていれば囲碁界で生きるのには不自由しないだけの収入で生活ができる、と未成年のシズルが言うのである。

 中学では出席日数も計算に入れた生活を送る気であるとヒカルに言うシズルにヒカルは以前アキラに言われたことを思い出した。

「そういえば、塔矢も言ってたっけ。

 タイトルだけでも何千万もするって……俺、あの時金のことばっかり気にしてたけど、それだけの人がそのタイトルにお金出してるってことなんだよな、バカにしたようで悪いことしたなぁ」

『ヒカルは冗談のつもりだったようですが、あの少年は真に受けたようで……何とも』

「まぁ、アキラ君冗談が通じないところあるからなぁ。

 あれは天然さんだと思う」

「オマエモナー」

 話しているうちに盤から石がすべて取り除かれた。

 今回は置き石を置かず、定石を覚えてもらう為に一例ごとに見せており、時折佐為からもヒカルにも分かる様に噛み砕いた解説があり、ヒカルはうんうんと唸っている。

 ヒカルのちょっとした才能にシズルは気付いた。

 お互いの手番を拙いながらも『全て覚えている』ことである。

 始めたばかりの頃は手番を忘れてしまいがちで、忘れない為にメモを取る者も多いのだが、ヒカルは打ち始めて一ヶ月もしない内に棋譜を頭に作れるようになっていた。

 勉強脳とは違う囲碁脳が育っている証拠であるのだが、この成長ぶりは指導してきたシズルも目を見張るものだった。

 残念ながら棋力はまだまだであるが、今後の成長は(こう)ご期待と言い切れるほどには、シズルはヒカルの碁打ちとしての才覚を認めていた。

『まだまだですよヒカル、調子に乗ってはいけません。

 塔矢アキラ君を見習いなさい、筋の良い少年でしたよ。

 将来は虎か竜に成り得る、そんな可能性を秘めたものでした』

 かの本因坊秀作にそう評されるとは、アキラも思ってもいないだろうが、シズルはうれしそうに笑った。

「塔矢みたいに強くなれたら良いけどさぁ、何か二人ともお互い分かってますって感じの空気がなんかよく分からなくてさ、あの時は打ってるのは俺なのに、何かモヤモヤした」

 ヒカル独自の感覚に、シズルはそれがどう言うものか何となくだが理解できていた。

 己もかつては経験してきた感覚なのだと察したからだ。

「そっか、ヒカル、その気持ち、大切にした方がいいよ」

「あ、なんでだよ?」

 ヒカルにはまだ言語化できない感覚だが、それでもシズルはその気持ちを大事にするように伝え、傍らにいた佐為も頷いた。

 アキラと佐為の対局にヒカルは目の前で見て何も感じないのであれば、この二人との縁に疑問を持つところだった。

 碁打ちとしての才能、その一辺がヒカルに宿っていると分かっただけでも知れてシズルはくすりと笑ってしまう。

「ヒカル、碁打ちとしての才能は色々あるから。

 諦めないこと、誰よりも打ちたいこと、囲碁が大好きなこと、たくさんあるからね。

 ヒカルが二人の対局を見て『俺もこんな碁を打ってみたい』っていう気持ちがあれば、今じゃないけどいつか、いやきっと打てる日が来るよ」

「……シズルとも?」

 ヒカルの言葉に、シズルは声を出して笑ってしまった。

「うん、もちろん!! 

 もしヒカルがプロになるっていうのなら、僕は日本棋院でヒカルが来るのを待ってるよ。

 待たせ過ぎたらタイトルホルダーになっているかもしれないけどね?」

 タイトルホルダーが新初段シリーズに出る事は滅多にない。

 最近では桑原本因坊が新初段シリーズに出ていたが、それ以降は出ておらず、他のタイトルホルダーも出ていなかった。

「おう、今はずっとお前の後ろにいる……塔矢よりもずっと。

 だけど、俺もお前を追いかけていく。

 待ってろよ、シズル」

『ヒカル~私のことも忘れないでくださ~い』

 よよよ、とウソ泣きをする佐為を横に、将来を見定めた決意を口にしたヒカルだった。

 

 

 ***

 

 

《シズルside》

 日本棋院

 

 

 今日の対局は少し前に名人戦のリーグ戦で戦った鷺坂総司(さぎさかそうじ)七段(17歳)。

 血縁は関係ないけど、祖父に当たるのは塔矢先生の二つ前の名人位を持っていた鷺坂暁生(あきお)さんとのこと。

 後援会のお偉いさんからよく『鷺坂先生のお孫さん』と言われては苦虫を百匹噛み潰した顔をしている占いマニアだ。

 ポーカーフェイスのつもりなのか不敵な笑みで返しているけど、わかる人にはわかる、隠せてないよ総司君。

 ちなみに以前は名人リーグ最年少入りしていたけど、今は僕が最年少です、やったね。

 結果は総司君の次に戦った八段のプロに負けたけどね、残念。

「ヤッホー総司君、今日の運勢何位だったの?」

 今日のラッキーカラーはピンクだったのか、ピンクのシャツを着たスーツ姿の総司君に声をかけると、隠れていたのか、黒髪長髪長身の少女がひょっこりと現れる、こっちが鷺坂名人の実のお孫さんの烏丸和歌ちゃん(13歳)。

 確か今は院生をしていたと思う、打ったことはないけど、たまに総司君から話を聞くには面白い碁を打つらしい。

 まぁ、和歌ちゃんはそのことを知らないようだけど、自己主張の激しい自称祖父が教えてくれた。

 あと総司君、壊滅的にそのピンクのシャツ合ってない!! 

「こ、こんにちは鞍馬七段!!」

「こんにちは総司君のお弟子さん」

「おうテング坊主、今日のおうし座は絶好調だぜ? 

 お前は最下位だったようだな」

「んんん~? 

 大嫌いな牡羊座が最下位だったんだ? 

 負かし甲斐があるねそれは、頑張って抵抗してよ? 

 ボッコボコのボコだよ、言い訳する準備をしておくんだよ?」

「上等だ、お山に帰してやるよテング坊主」

 口上はこの辺でいいかな? 

 先に座って待っておこう、こちとら準備するもの多いからね。

 ミネラルウォーター5本、ミルクティー(缶)5本、ブドウ糖3袋をお盆の上に積み立てていく。

 ブドウ糖は袋から全部出してお茶請けの入れ物に全部出す、どうせ今日全部消費する分だし、気にしない。

 このブドウ糖、すぐに吸収できてお気に入りなんだけど、他の人たちはボクがこういうことしているとよくドン引きしていた。

 スペースの邪魔にはなっていないんだけどなぁ。

 総司君との対局は頭が痛くなるくらい糖分不足になることが多い。

 それを見越しての量なんだけど、少し離れたプロの人がドン引きしている、失礼だなぁ。

 総司君はその見た目の派手さとは逆で手堅くて地味な手を根気強く打っていく、集中力が切れない限りは早々に隙は見せてこない。

 リーグ戦の時は持ち時間が五時間だったから僕が二時間、総司君が二十分の大差をつけさせて精神的に追い詰めてから畳み掛けた事でその後の対局を勝ち切った終わり方をしたけど、今回はどうなるのやら。

 相性的には僕の方が有利、けど以前の対局から二か月は経っているし、総司君も僕のことを研究してきてるだろうからなぁ。

 お互い研究してきて、それでも尚研鑽を積んでいく。

 総司君は対局の無い日は自宅に引き籠って殆ど一人で研究をしているって聞いている、義務教育の縛りのある分研究の量には必然と差がついてくる。

 僕は僕で塔矢名人のところだったり、じー様のところで時間を作って打っていたり、佐為さんと打ったりるから、一局一局の密度が濃いのだとは思う。

 軽口を叩いたけど、総司君が相性差を超える研鑽をしてくれば当然僕の負けが濃い。

「…………お願いします」

「お願いします」

 さて、先手は僕だ。

 黒、17・四。

 

 

 ***

 

 

《鷺坂side》

 

 

 警戒は怠ったつもりはない。

 静かに、静かに打っていた。

 周囲を手堅く打っていて、確実に陣地を広げていたつもりだ。

 テング坊主の早碁に釣られないように慎重に進めていた。

 だが、中盤で手順を間違えて、三目も零しちまった。

 それを見逃さない奴じゃない、抉り込むように傷口を開かれて、あっという間に左辺から左隅が一気にあいつの陣地にされていく。

 殺されていく、オレの陣地が黒に殺されていく。

 傷口は最低限に抑える事は出来ていない、どこかで挽回しなくては。

 慌てるとミスが出てくる、どうしても欲も出てくる。

 背後に敗北の言葉が迫ってきて、それから逃げるように起死回生の手を打った。

 ここだ、この一手から行けば中央から右辺を切り開く……っ!? 

 いや、違う、この手じゃ!! 

 白石から手が離れてしまった、これじゃトドメが来る!? 

 

 ———パチリ

 

 黒、十二・10

 ない、起死回生と打っていたオレの一手は、二十手先で四方八方どうしようもなく詰んでいた。

 百三十八手でテング坊主の勝ちだ。

「………………ありませ、ん」

 対局を見誤っていたつもりはなかったが、思えばどうにも中盤から誘導されていたようにも感じる。

 中盤の3目零したのも、すべてテング坊主の掌の上だったんじゃないかと錯覚しちまう。

「ありがとうございました」

 テング坊主は澄まし顔で一礼している、してやったりと内心で思っているんだろう、腹黒いガキだなチクショウが。

「ありがとう……ござい……ました」

「検討しよっか総司君、六十七手前に遡る?」

「そんくらい前から読んでいたのかよ?」

 オレが手堅く打っていたと思っていた一手一手は殊の外緩かったらしい。

 そしてオレの勘が正しかったのか、中盤あたりから誘導されていたようだった、また研究しなくちゃなんねぇな。

「まぁ、油断するつもりはなかったから最後まで打っていたけど、総司君の陣地決壊しちゃうのが()()()()()()し、もういいかなぁって」

 あんまりにも軽い、無慈悲な言葉にコイツとの棋力の差が如実に窺えた。

 打ってきた年数は低く見積もっても五年以上は差があるというのに、これほどの差がつくとは。

 言い訳すればキリがない上に精神的に更に落ち込むのでこれ以上考えるのは止めておくか。

 …………弟子(和歌)にカッコ悪い所見せちまったな。

 それから二十分ほど検討をしてテング坊主は席を立って行った、用事があるらしい。

 対局日だというのに用事を入れるだけの余力がある事に更に打ちのめされるのだが、やってしまえるだけの力があいつにはある。

 オレを『鷺坂名人の孫』としてでなく、 鷺坂総司(オレ)として語られるようになる。

 そんなオレの野望の前に、達成しねぇといけねぇ課題が出来た。

「し、ししょー……お疲れさまでした」

 恐る恐るといった様子で部屋の外から和歌の奴が顔をのぞかせる。

 ちっ、何で負けたオレより沈んだ上に泣きそうになってやがるコイツは。

「……帰るぞ、今日の対局の解説してやる」

 妙な縁で弟子になったコイツの目標はオレだという。

 院生への申請時に師匠の欄にオレの名前を勝手に入れやがった阿呆だが、紆余曲折あって弟子になった。

 ……弟子の前で不様は晒せねぇよな。

 コイツの前では俺が最強ってことを見せ続けなきゃならねぇんだからな。

 




読んでいただき、ありがとうございました。

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