「最後の不死を...成敗いたす」
刀を自分の首に擦り付け、鉄の冷たさ、血の匂いが伝わる。
「人として、生きてくだされ」
刀を横へ滑らせる。刹那の痛みが起こり、意識が飛び始める。掠れた意識の中、回生が出来ない事が分かる。
隻狼の身体から桜が舞い、崩れ落ちた。
~隻狼の人返りのその後~
葦名城水手曲輪の抜けた先。墓、線香立て、黒い鞘の刀の前に、手を合わせる二人組が居た。
「行かれるのですね...」
「はい」
掌を合わせるのやめ此方へ向く。幼さが残る顔立ちだが、意を決した顔で口を開いた。
「私も、人として懸命に生き。そして、死のうと思います。我が忍が、そうしてくれたように...」
2人は気がつかなかった。供えてあった不死斬りの刀が、いつの間にか消えていたことに。
~ロキ・ファミリアのホーム「黄昏の館」にて~
「ちょっと!せっせと動きなさいよ!今日は遠征から帰って来る日なのよ!?」
ロキ・ファミリアの女団員は、憤怒していた。
「なんや~?ここらでかっかしてるのは誰なんやろうな!」
関西弁を使う赤毛の女は、怒っている女団員に息を吸うようにセクハラをしてくる。
「やめてください!そこも笑ってないで、働けぇ!!」
その女は、疲れていた。ファミリアの大部分は遠征に行ってる為頼れず、残った団員はこれ見よがしに、サボりにサボり、更には主神のロキまでサボりに加わり遊んでいたため、手につけれなかった。
「はぁ...疲れた」
ため息をつきながら中庭をぼーっと眺めていると、突如ピンク色の花びらが舞い始める。
「遂に幻覚でも見え始めたのかな...」
その幻覚とも思える光景を眺めていると、人が現れる。その人は、白みがかかった黒い髪。ボロボロになった小汚い橙色の服。背にかけた素人でも業物だと分かる刀。左手は義手。
女はその事実から目を背けようとしたが、思わず三度見する。
「し、侵入者だぁぁぁ!!!」
何かしらの行動をとると思っていたが、突如として現れた男は何もする事は無かった。それどころかこの状況に、狼狽えてる様子だった。
「どうした!!大丈夫か!?」
先程までだらけていたとは思えぬ変貌を遂げた団員達がやって来る。
「おい!貴様の所属ファミリアはなんだ!?それと、ファミリアの敷地内への不法侵入は、犯罪と知ってのことか!?」
男は、感情の起伏が無い無表情で此方を向く。
「済まない。ファミリアとはなんだ?」
「は?」
間抜けな声がでた。
「もう一度聞こう。ファミリアとはなんだ?」
「...ロキ、彼が言っていることは本当か?」
団員達の奥から、赤毛の女が出てくる。
「嘘やないで」
辺りに驚愕が走る。団員達は、切羽詰まった顔から一変し、困惑している。
「あんたはウチらに危害を加える気が有るんか?」
「無い」
「なら、着いてきなあんたのことをどんな奴か、見定めてやるわ。」
赤毛の女は指で着いてこいと指示する。その後を、侵入者がついて行くという奇妙な図を眺めている団員達は、もっと困惑に包まれていた。
~ロキの自室にて~
「まず、あんたの名前はなんや?」
「...狼と呼ばれていた」
「ウチの事は、ロキ様とでも呼ぶんやな」
「御意」
「堅苦しい奴やなぁ...どうしてここに居たんや?」
「...自害したら、ここに」
「嘘は言って無いんやなぁ」
十数分間の問答の後、ドタドタと扉の奥から複数人の足音が響く。足音はこの部屋の扉の前に止まり、ノック音が響く。
「ロキ、遠征から帰った。入ってもいいかな?」
「フィンか、入ってええよー」
扉が開かれ、小柄な男、褐色肌の女が二人、背が小さくも重圧な筋肉のした男、耳が長く緑色の髪をした女、狼と人間が混ざった様な男、異なる種族同士が混合した団体が現れた。
「その人が噂の侵入者かい?」
「そうや」
「それで、なんの目的で?」
「それかやなぁ...目的無くて、気づいたらここに居たと。しかも、どこから来たって聞いたら、葦名とかいう知らん場所やし」
「葦名?今、葦名って言ったかい?」
「せやけど...どうかしたんか?」
「実は...遠征の帰る途中で、倒れた子供を見つけてね。その子供を保護した時に聞いたんだ。どこから来たのか。そしたら、葦名から来たと」
ここでようやく仏頂面だった、謎の侵入者の口を開いた。
「...その者の名は?」
「九郎と名乗っていたよ」
「その者は今どこにいる?」
「...その人とはどんな関係だい?」
「...我が主だ。何処にいる?」
「レフィーヤ、連れて入ってきてくれ」
扉が開き、金髪の耳が長い女と共に、長年仕えた主の姿があった。
「御子殿」
侵入者は、御子と言われて子供に膝をつき、頭を垂れた。
「久方ぶりだな、狼よ」
「え?本当に主従関係だったんですか!?」
「そうだ。だが、どうして狼は生きている?」
「私にも分かりませぬ」
「ちょいと待ちや。私達にも分かるように説明しなはれ」
「そうだね。助けた代わりに君達の事情を説明してくれないかな?」
「分かった。それじゃあ、一から話すとしよう」
一時間後程
「そんなの悲しすぎるよ〜!良く頑張ったね〜」
ティオナと呼ばれる女は、話を聞いて号泣していた。九郎に抱きつき頭を撫でて慰めていた。
「その不死の呪いとやらはもう絶たれたんだよね?」
「ああ、それはもちろん。だから心配は無用だ。」
「なるほど...大体事情は分かったよ。それでこれからどうするつもりだい?」
「折角自由になったんだから、趣味に奔走しようかと」
「君は?」
「忍びの掟に従う。主は絶対だ」
「なら、我が忍びよ。また命を賭し、我に仕えてくれるか?」
「御意」