俺が生きてきて結構たったなあなんてしょうもない事を考える。
両親は俺を産んでくれた。
兄弟はいなかったけど、2人に愛された俺は幸せだった。
ただ子供だった俺は反発したり良くないこともしたりした。
中学でむせながら吸った煙草なんて別に吸いたかった訳じゃないし、ただ悪いことがかっこいい気がしただけだ。
笑えるな。
俺にとっては意味もなくてただなんとなくの気持ちでした事も、両親にとっては良くないことで。
俺はしこたま怒られた。それにまた反発して。
だってそんなもんじゃね?
子供だったなんて言い訳かもしれない。でもその時はそれが俺にとっての本気だったんだ。
本気で嫌だったし、俺は本気でやりたいことをやらせてくれよ!って思ってた。
だっておかしいじゃないか。俺はこれがやりたいんだ。
親なら子供の為になる事を1番に考えるべきだろ。俺はやりたいことをやりたいんだ。わかってくれよ。
親父とは殴りあった。
中学の時に煙草を吸って殴られて、ボコボコにされた。
高校の時不良になって喧嘩して、それを知った親父に殴り合いがしたいなら俺がしてやる!って殴り合いになった。
そして、俺は親父に勝ってしまった。
息を荒くしながら床に倒れた父親を見た。自分で握った拳は痛みでジンジンとする。
俺が殴って倒れてしまった親父。
母さんが心配そうに駆け寄る。
そんなになっても、親父は俺に掴みかかってきて
「そうやって人を殴ることが楽しいか!なら俺を殴れ!ほら、お前のしたい事だろうが!殴ってみろ!」
倒れながらそう言って掴みかかる親父に、涙が止まらなかった。
ごめん…。ごめんなさい…親父…!
泣きながら謝った。
親父に抱きついてわんわんと泣いて。
俺は自分がしたことを、親父を見た時に初めて理解出来たんだ。
俺がやっているのはこういう事だって。
本当に後悔した。こんなに悲しい気持ちなんて知らなかった。苦しかった。
俺は自分のした事に押しつぶされそうになった。
自分のした事が怖くて、目の前の親父に、母さんに嫌われる事が怖くて。
でも親父は、俺を抱きしめた。
「お前が間違ったら殴ってやるのが親父だ。俺に出来るのはこれくらいなんだ。悪い」
その時初めて親父が格好良く見えて、尊敬する人になった。
結局俺は親父に救われたんだ。
本当にありがとう、親父。
それから俺は色んな人に気持ち悪いと言われるようになった。
何故か?
自分の好きな人に好きって言葉で言うようになったからだ。
あの日自分がしたことがあまりに怖くて、それから両親に好きだと言い続けてたらこうなってしまった。
親父は、本当に気持ち悪い。とことある事に言ってくるがお構い無しだ。
俺は人に好意を言葉に出して言うんだって決めたから。
高校を卒業して普通の町工場に就職した。
まあ給料も低いわけじゃないし、今まで真面目に生きてなかった俺がちゃんと就職できただけでまだマシだと思ってる。
母さんも親父も喜んでくれた。
ちゃんと働いたらそれでいいって。
嬉しかったから初給料でめっちゃいいレストランで食事をした。
俺も親父も母さんもフォーマルでの食事に慣れてなくて、皆がぎこち無くて、それが面白くて3人で笑いながら食べた。
楽しかったね。
社会人になって幾つか年がすぎた頃、独り身が寂しくなった。
今まで真面目に付き合った人は居なくて、遊びみたいなもんだった。
まあ本気で好きなんて思ったこと無かったし。
そんな事を考えながら過ごしてた。
いつだって物事は突然起こる。
俺は倒れたらしい。今だってよくわかんないけど、気が付いたら病院のベッドで寝ていた。
起きたら母さんがいて、抱きつかれた。
何が起こったかわからなかったから、どうした?って聞いた。
何も教えてくれなかったね。
今ならわかるよ、言いたくなかったんだよな。ごめんな、母さん。
結局俺は病気だった。
あーつまんね。
医者から言われたのは余命短いって事。
こうしてる今も実感がない。
とはいえ俺の体は確実に悲鳴をあげていた。
それにしたって命が無くなるような感覚はなくて、苦しいだけだ。
と、思ってたのに。
最近は命が無くなっていく感覚がある。
本当につまんね。
こんな時彼女でもいたら隣にいてくれたのかな。
心残り?いや、そんな事無いよ。
どうせこうなるなら残していく人なんていない方がいいと思うし、結果良かったかもね。
そこじゃなくて、2人のことだ。
子供の頃から親不孝者で、これから返せると思ってたんだ。
これからだって。
本当にごめん。
悔しいなぁ。
本当に、つまんね…。
でも二人の子供に生まれて良かったよ、親父、母さん。
幸せだったんだ。
最後に会えないかもしれないからさ、ここで言っとくよ。
愛してる。
パタン、とノートが閉じる音が病室に響く。
「な、んで…先によんじゃうかなぁ…」
そういった青年は体をベットに預け、喋ることもままならないようで、その体は衰弱仕切っていた。
「あんたがこんな物を隠さないで置いておくからでしょ」
彼の母親だろう。妙齢の彼女はそう言い、呆れたように笑う。
「こんな物残すくらいならもっと気の利いたもの残せ、ばかもんが」
隣にいる彼の父親は、なんとも言えない表情で悪態を着く。
「おやじぃ…これは気がきいてないか…?」
弱々しく呟く。
母親はそんな2人を笑いながら、青年の頭を撫でる。
優しく、優しく。
「お前が呼んだんだろ。何か欲しいものでもあったか?」
どうやら2人は彼に呼ばれたらしく、その用事は聞いていないようだった。
「わざわざ病院から電話あったからびっくりしたわよ。何かあった?」
ゆっくりと、聞き取りやすいように喋る母親は、依然頭を撫でながらそう聞く。
「ごめんな…もうむり…ぽい」
そう言って笑う彼に、何を返せばいいと言うのか。
「おれさ…おやふこうしちまったから…でも、」
前の様に喋れなくなった息子。
昔はやんちゃな子だった。
確かに世間からは後ろ指さされてしまうようなこともしていた。
でも彼は友達からは愛されていた。
息子の暴力行為は誰かを守るためだった。誰に何言われようと友達守るのの何が悪いんだ!と叫ぶ彼の姿をいつまでも思い出せる。
それでも暴力はいけないと言われると、それを直そうとする素直な子だった。
「何言ってんだ。人の最後なんて分かるわけねえだろ」
彼の言葉を遮るように喋る父親。
何かを堪える様にしかめた顔からは、感情が見える。
たとえそれが無表情に見えるとしても。
「きけ、よ…おやじ。さいごなんだ…」
屈託のない笑みを浮かべる青年。その笑顔はしかし、衰弱している体ではとてもそうは見えなかったが。
「最後だなんて言わないで…!」
母親は既に耐えられなくなったのか涙をこぼす。
「しあわせだったんだ…ふたりのこどもで。さきにいってしまうのは…わりぃけど」
彼は手を伸ばす。先に手を取ったのは父親だった。
知らず彼の目からは涙が落ちており、破顔した顔は必死に堪えようとしているようだった。
「おやじのこぶし…いたかったなぁ…。ありがとな」
声は声にならず。
嗚咽だけが漏れる父親はついにその顔が伏せていく。
「かあさん…のて。いつだってあたたかいよな」
病室には泣き声だけが響く。
「おとうさん、おかあさん、あいしてる」
青年は笑顔だったが2人の両親は抱きしめられたその腕が、力なく落ちるまで泣きながら抱きしめ続けた。
忌まわしき3,11
愛しい人を無くした人は少なくないでしょう。
かく言う私も友達を失いました。
彼は津波に追われる前に私に連絡をしてきました。
親でもなく、私に。
動揺する彼にかけられた言葉はとにかく逃げて高いとこにいけという事だけ。
一言、ただ一言友達に愛してると言いたかった。
私にできたのは、水を飲んで真っ白な友の死体を前に謝ることだけでした。
そんな後悔をしないように。
大切な人にはその気持ちを伝えるように。
言えなかった後悔は、ずっと自分の心を痛めつけてきます。
大切な人を大切にしてください。