ベルがひみつ道具を使うのは多分間違ってる   作:逢奇流

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プロローグ

「うぅむ……」

「どうしたの、のび太君?」

 

 日曜日の真っ昼間。

 こんなに日差しがいいのに、いつもなら昼寝しているのび太が珍しく真剣な表情で考え込んでいた。

 明日は槍でも降るのかしら、と少し失礼なことを考えながらドラえもんは声をかける。

 

「なにを考えているんだい?どうせまたしょうもないことだろうけど」

「失敬な‼」

 

 ぷんすかと怒り出すのび太。

 だが、彼の前に広げられているのが教科書でも小難しい本でもなく、ただの漫画なのだから。

 

「なになに?『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか?』?随分と長ったらしい題名だなぁ」

 

 内容は、英雄になりたい少年がオラリオと言う街で出会いを繰り返して成長する王道もの。

 あらすじを見る限り、のび太が頭を使うような複雑な内容には見えない。

 

「で?これがどうかした?」

「空き地で拾ってきて面白かったから読んでいたんだけど、ちょっと意味が分からない字があって……」

「それで唸っていたのか……」

 

 ふたを開ければ本当にどうでもいい内容だった。

 なんで辞書を引かないんだろうかこの小学生。

 

「……辞書の引き方くらい分かるよね?」

「文字一つのために全ページ確認してたら日が暮れちゃうだろ?」

 

 なんで1ページずつ読むことが前提なのだろうか。

 ドラえもんはロボットなのに頭が痛くなってきた。

 

「もういいや、どの字が分からないの?」

「ここ、このページ」

 

 渡された漫画を確認する。

 ……あれ?

 

「ここの漢字。()()とか、()()とかなんのこと?」

 

 のび太の言葉にドラえもんが飛び上がった。

 

(な、なんてもの見ているんだ!こんな如何にも少年漫画みたいな見た目でなんて破廉恥な‼)

 

 憤りと羞恥で青い顔を真っ赤にしたドラえもん。

 堂々と娼館通い?

 こんな純朴そうな顔をしておいてとんだエロガキじゃないか!

 ストーリーを見ずにそう判断したドラえもんは憤怒した。

 こんな風紀を乱す漫画を許していいものか?いやいいはずがない!

 

「ねぇ、ドラえもん。娼館って……」

「そんな言葉二度と使うんじゃありません!」

 

 一人百面相をするドラえもんに話しかけたのび太だったが、今のヒートアップした猫型ロボットはまともに会話できない状態だった。

 完全に置いてけぼりなのび太をよそにドラえもんはお腹のポケットをまさぐる。

 22世紀の四次元ポケットには、今の技術ではあり得ない奇跡を起こすものがあった。

 そんな規格外のアイテム──ひみつ道具を今こそ使う時だ。

 

 

 絵本はいりこみぐつ。

 その名の通り、本の中に入ることができるひみつ道具だ。

 

「教育ロボットとして、主人公が間違った道に行かないように矯正してくる!」

「ベルに会うの?僕も会いたい!」

 

 なにやら興奮しているドラえもんを横目に、スペアポケットから同じ道具を取り出すのび太。

 二人はベルがまだオラリオに向かっていない時間軸のページから、漫画の世界に飛び込んだ。

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇  

                          

「お祖父ちゃん……」

 

 祖父が亡くなった。

 モンスターに襲われて、崖に落ちてしまったらしい。

 遺体を探しに行くこともできない危険な場所だ。

 

 ずっと悲しくて眠ることもできないから、夜空を見に来た。

 星の輝きを見ている間は、落ち着けるから。

 

「この先どうしよう……」

 

 僕に両親はいない。

 お祖父ちゃんが死んだ今、僕は天涯孤独の身となった。

 このまま、農民として思い出の残る家に留まるか。

 それとも、昔諦めた夢に突き進むか。

 

『オラリオには何でもある。富も名声も、別嬪(べっぴん)の女神にも会える。』

『英雄にもなれる。覚悟があれば行け。』

 

「僕は……」

 

 まだ、何も決められない。

 大切な家族を失った悲しみから立ち直れない。

 白い髪の少年、ベル・クラネルの頬に何度目とも知れない涙が流れそうになった瞬間。

 

「いたあああああ!!」

 

 夜の静寂を引き裂く声にビクリと体を震わせた。

 すっかり先ほどまでのシリアスな空気は霧散し、ベルは目を瞬かせる。

 そんな彼に更なる衝撃が走る。

 

「あ、青い化け狸!?モンスター!?」

 

 そこにはずんぐりとした体形に真ん丸頭。

 青い体に大きな目を持つ、どう考えても人間じゃない存在がそこにいた。

 

「狸じゃない!僕は猫型ロボットだぞ‼なんて失礼な主人公だ!そんなだから、娼館通いなんてするようになるんだぞ‼」

「しょ、娼館??え?え?」

 

 突然とんでもない中傷をされたベルは顔を赤くしながら混乱し、ドラえもんはそんなベルにますます怒る。

 そしてのび太は「あ、本物のベルだ。サイン貰えないかな~」といつも通り呑気なことを考えていた。

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

「………その後、ドラえもんさんは色々誤解していたことが分かって、二人に僕が二人の世界では物語になっているって教えてもらったんです。」

「へ~随分愉快な経験をしているんだね。」

 

 あの衝撃の出会いから少し経った頃、ベルはオラリオに来ていた。

 祖父のかつての言葉を頼りに冒険者になる。

 それが彼の選択だったのだ。

 

「いい子たちでした。僕がお祖父ちゃんをなくしたことを知ったらドラえもんさんは大泣きしちゃって……のび太君も僕を慰めてくれたんです。」

「なるほどね……ん?」

 

 現在、ベルは自分を迎え入れてくれたヘスティア様の眷属になるために入団の儀式、『恩恵』の刻印を行っていた。

 通常、【経験値(エクセリア)】を蓄積していない【ステイタス】は白紙から始まる。

 だが、稀に最初からスキルや魔法を発現させることがあるのだが……

 

「神様、どうかしましたか?」

「………スキルが発現した。でも、これは?」

 

 な、なにか不味いスキルなのだろうか?

 スキルは基本的に本人にマイナスな効果なものではないが、何事にも例外はある。

 

「ちょっと特殊なスキルみたいだ。長々と考察しているとおじいさんに迷惑がかかるから、もう出ようか。」

 

 そう、ここは【ヘスティア・ファミリア】のホームではなく街の古本屋。

 最初の眷属は雰囲気あるところで迎えたいという神様の意向の下、神様の知り合いのおじいさんのお店を貸してもらっていた。

 善意で貸してもらっているんだから、いつまでもこの場所を占拠するのは非常識だろう。

 

「おじいさん‼ありがとう!」

「おうおう、気を付けて帰るんだよ」

 

 店主のおじいさんにお礼を言うと、僕たちは神様のホームに小走りで向かった。

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇                       

 神様のホームは古ぼけた教会だった。

 神々が降臨する前はこうした教会で神様に祈りをささげていたらしい。

 今は街中にいるから、よほどの田舎じゃない限りもう使われてないけど。

 

「さて、狭くて済まないけどこのベッドに腰かけてくれ」

 

 神様の言葉に従い、僕はベッドに腰かけた。

 その横にぴょんと神様が座る。

 ……ちょっと緊張してきた。

 神様なだけあってヘスティア様はとんでもない美少女だ。

 田舎育ちの心臓に悪いから、あまり無防備にしないでほしい。

 

「まずは君のステイタスを写したから、読んでみてくれ。」

 

 用紙を確認する。

 

ベル・クラネル

Lv.1

力:I0 耐久:I0 器用:I0 敏捷:I0 魔力:I0

《魔法》【 】

 

 ここまでは普通。

 まだ、何の経験もないからステイタスは初期値のまま。

 魔法がないのは残念だけどこれもいい。

 問題はその下。

 

《スキル》【四次元衣嚢(フォース・ディメンション・ポーチ)

     ・ひみつ道具を具現化できる。

     ・使用可能な道具は一日三つ。

     ・一日ごとに内容は変化する。

     ・現在使用可能なひみつ道具。

      【バイバイン】【ビッグライト】【スカートめくり用マジックハンド】

 

「……うん?」

「ボクも君が初めての眷属だから自信がないけど……ものすごい珍妙なスキルだよね。」

 

 意味不明なスキル説明に目が点になるベル。

 ヘスティアもボクも最初はそんな感じだったと頷く。

 

「えっと、ひみつ道具っていうのはドラえもんさんが持つ未来の道具だった気が……」

 

 あの日、僕を慰めようとドラえもんさんやのび太君は彼らの冒険を話してくれた。

 その中で彼らが使っていたマジックアイテムがそんな名前だったはずだ。

 

「異世界の道具ってことかい?だったらすごいじゃないか!」

 

 僕の言葉に神様が目を輝かせる。

 たしかにすごい。

 二人の話だと、本当に夢のアイテムばかりだから。

 

「ねぇねぇ‼さっそく試してみようよ!」

 

 子供のようにはしゃぐ神様をほほえましく見ながらスキルを試そうとする。

 どれを出そうか?

 流石に今日会ったばかりの神様がいる前でスカートめくり用マジックハンドを選ぶ勇気はない。

 そうなると二択。

 バイバインかビッグライト。

 

(そういえばビッグライトは二人の話によく出てた気がする。)

 

 よし、ビッグライトにしよう。

 そう決めたはいいが、出し方が分からない。

 名前を呼べばいいのだろうか?

 

 

 シン、と静寂が部屋を支配した。

 神様の戸惑った視線が痛い。というか引かれてないか……?

 右手に光が集まって筒状のアイテムが現れるが全く嬉しくない。

 

「………え?どうしたんだい急に……」

「か、勝手に口が」 

 

 万能すぎるスキルだと思ったんだ。

 こんなバカみたいな副作用があるなんて……

 

「へ、へぇ~これがひみつ道具かぁ!すごいな~かっこいいな~」

 

 空気を換えようとしてくれる神様の優しさが痛い。 

 ちょっと布団にくるまっていたくなった僕は、半分意識を飛ばしながら神様に同調した。

 もう、なにも考えたくない。

 

「デスヨネ~ワァイウレシイナー」

「こ、これはどう使うんだろうね!?」

「デスヨネ~」

「な、殴るのかな!?」

「デスヨネ~」

「そ、それともシーツを綺麗にするのかな!?こうやってグリグリと!?」

「デスヨネ~」

「ん?なんかスイッチが……」

「デスヨネ~……あれ?」

「ポチっと」

「……神様ちょっと待って‼それはっ────────────────」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわあああああん‼へブァイズトスヴヴヴヴヴゥゥゥッゥ‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼」

「何‼?何‼?どうしたの!?」

 

 事務仕事を行っていた鍛冶神ヘファイストスの執務室に、突如ツインテールの幼女が泣きながら突入して来た。

 その幼女──ヘスティアとヘファイストスは天界時代からの神友(しんゆう)で、ついこの間まで彼女はヘファイストスのホームに居候をしていた。

 あまりのぐうたらぶりにホームを追い返してからも、ちょくちょく泣きついてきてはいた。しかし、こんなガチ泣きしながら来たのは初めてだ。

 

「ホームがベッドで壊れちゃったあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁぁぁぁぁぁ~~‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼」

「いや、文脈可笑しいわよ?ホームのベッドが壊れちゃったでしょ?いいからまずは落ち着いて、ね?」

 

 確かに寝るのに不便だろうがここまで泣かなくてもいいだろうと、内心あきれながらヘファイストスはヘスティアを慰めることにした。




 ドラベースを読み返していたらふと思いついた話です。
 プロットも碌にないけど見切り発車します。

 それと質問なんですが、投稿時間ってどのくらいの時間帯がいいのでしょうか?
 アンケートを用意したので皆さんの意見を聞かせてください。
 よろしくお願いします。

投稿する時間帯はどのくらいがいいですか?

  • 朝方
  • 昼間
  • 夕方
  • 夜中

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