ベルがひみつ道具を使うのは多分間違ってる   作:逢奇流

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神々の宴

 下界に降りた神々は娯楽に飢えている。

 その身一つでファミリアを結成して、神の力(アルカナム)を封じた不自由な生活を楽しめるのは初めだけだ。

 生活が安定しだすと天界で感じていた退屈が神を襲う。

 

 そうやって暇をもて余した神の起こすはた迷惑な騒動は“神話”と呼ばれ、度々下界の住民を振り回してきた。

 幸い、今回の【ガネーシャ・ファミリア】のホームで開催されるパーティーはそんな神々の暇潰しのなかでも比較的穏やかな部類である。

 あくまでも比較的、という但し書きがつくが。

 

 自由奔放な神々は下界の不自由さを楽しみはするが、下界の秩序を尊重している訳ではない。

 自身の【ファミリア】を使い、政治ゲームに興じるためにこの和やかなパーティーの裏にも様々な陰謀が張り巡らされていた。

 主催者であるガネーシャの挨拶など聞きもせず、談笑の体を成した腹の探り合いが行われていた。

 

 しかし、一言に神といってもそのあり方は多種多様。

 そんなドロドロした陰謀劇とは無縁の神も少数派ながら存在していた。

 

 自身の【ファミリア】の貧乏っぷりを他の神々にからかわれ続けるのが嫌になり、壁の染みに徹するタケミカヅチと、周囲の狸どもなど知ったことかとタッパーに料理を詰め続けるヘスティアは正にその少数派な神物(じんぶつ)だ。

 

「いや、何やってるんだお前」

「言ってくれるなタケ‼見栄じゃお腹は膨れないんだ‼」

「それでも最低限の羞恥心は持つべきじゃないか……?」

 

 黒い和服を着るタケミカヅチは他の神々の視線を一切気にせずに、熟練の主婦がごとき鋭い眼光でテーブルの料理を吟味するヘスティアにある意味尊敬の念を覚えた。

 間違ってもああなろうとは思えないが。

 

「君こそこんなパーティーにくれば暇を持て余した(ハイエナ)どもに集られるのは分かり切っていただろうに、なんできたんだい」

「そりゃあ、ただ飯が食えるからだ。」

「なんだ同類じゃないか」

「それでもお前ほどガツガツはいけん。それにタッパーに詰めるのだって誰も見ていないところでやる。」

 

 いや五十歩百歩だろ、という聞き耳を立てていた給仕の突っ込みは届かない。

 それどころか迂闊に近づいた給仕は、体格の問題でテーブルの奥の料理に手が届かないヘスティアの代わりにタッパーに料理を詰めさせられる羽目になった。

 

「愛する眷属(こども)のためならば神の体面なんて惜しくはない!ベル君の負担を減らすこの行為のどこにも恥ずべき点なんてないんだ!」

「むぅ……一理あるか……?」

(ねぇよ)

 

 おバカ(ヘスティア)の寝言を真に受けてしまった天然(タケミカヅチ)はヘスティアからタッパーを借り受けて自らもテーブルの料理を詰め始めた。

 ……比較的安そうな料理を選んでる当たり中途半端に理性によるブレーキがかかっているのかもしれない。

 

「何やってるのよあなたたち……」

 

 そこに深紅のドレスに身を包んだ赤髪の女神が、眼帯に隠されていない左目に多分な呆れを含めながら声をかける。

 

「あっ、ヘファイストス‼」

「久しぶりだな、ヘファイストス」

「ええ、久しぶり。久しぶりに見たあなたたちの姿がコレじゃなければ素直に喜べたんだけどね。今の都市の状況が分かっているのかしら?」

「俺は分かっているからこそ……という一面もあるがな」

 

 タケミカヅチとて本来はこのようなことをするつもりはなかった。

 しかし先日の魔石の大量発生と潜伏していた闇派閥(イヴィルス)の一斉検挙によって明るみになった大規模テロの計画。

 祭り好きな神々の前に突如として投げ出された極上の餌は、このパーティーに多大な影響をもたらしていた。

 ただでさえうんざりする神同士の腹の探り合いの加速である。

 

「そういった騙し合いが好きな連中は好きにすればいいが、俺の性には合わん。下手に近寄って大火傷するくらいなら初めから我関せずを示したほうがいいだろ」

 

 ただのからかいなら流して終わりだが、この手のパワーゲームは【タケミカヅチ・ファミリア】のような弱小派閥には荷が重すぎる。

 巻き込まれる前に距離を取るのも立派な処世術だろう。

 

「?」

「まあ。お前はそういう反応だろうな」

「……この子もそう言ってくれたら安心できるんだけどね」

 

 タケミカヅチと違い、まるでパーティーの裏に気が付いていないヘスティアの反応にタケミカヅチは肩をすくめ、ヘファイストスはため息をついた。

 流石は天界でもマスコットキャラが定着していたヘスティア。

 一目で裏がないことが分かる見事な顔だった。

 

「え?なにか事件でもあったのかい?」

「……例の闇派閥(イヴィルス)による2階層の魔石大量発生は知っているわよね?」

「ナニソレシラナイ」

「あなたちょっとは情報網を持つ努力しなさいよ。今やオラリオのトップニュースじゃない。」

 

 ヘスティアの知らないはそういうことじゃないのだが、普段のヘスティアの世間知らずっぷりをよく知っているヘファイストスはその意味を取り違え、2階層の魔石大量発生から闇派閥(イヴィルス)による大規模テロの計画発覚までの流れを簡潔に教えた。

 フムフムと相づちを打って聞いていたヘスティアは難しそうな顔で唸り、何事か考えた後に口を開いた。

 

「ボクは闇派閥(イヴィルス)だった……?」

「今の話のどこからその結論に至ったのよ。」

 

 ヘスティアの奇行になれているヘファイストスとタケミカヅチは幼女の戯言をスルーして話を進めた。

 

怪物際(モンスターフィリア)はギルドから直々の依頼として企画されている【ガネーシャ・ファミリア】の威信をかけた催しと言ってもいい。今回の闇派閥(イヴィルス)の動きを最も警戒しているのはガネーシャだ。」

「そのガネーシャのホームで行われるパーティーよ?機密情報を見るのは無理でも【ガネーシャ・ファミリア】が今どんな空気なのか確かめるくらいはできる。今回のパーティーが盛況なのはガネーシャの影響力だけじゃなく、今回の事件の規模を見極めたいっていう動機もあるんでしょうね。」

「実際、今年の怪物際(モンスターフィリア)の警護は3倍近くの人員が動員されるらしいぞ」

「あの象神の杖(アンクーシャ)が直接指揮を執るらしいわよ?それだけでもガネーシャが本気だってわかるわよね」

 

 ようやく今の状況が理解できたのか先ほどから挙動不審なヘスティア。

 アワアワと手を振りながら落ち着きなくウロウロしだす。

 あまりにもオーバーな神友(しんゆう)の反応にちょっと和まされる二柱(ふたり)

 腹に一物も二物も抱える神に絡まれた後だと、ヘスティアの裏表のなさが清涼剤だ。

 最も当事者(ヘスティア)としてはそれどころではないが。

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

(それ闇派閥(イヴィルス)じゃないよ!ウチだよ!ベル君だよ‼)

 

 先日ベルが起こしていた珍事件。

 当初は頭を抱えさせたそれも、いつか時間が経てば「あの時あんなヘマしたね~」と笑い話にできると思っていた。

 そしたらなぜか闇派閥(イヴィルス)と絡められて笑い事では済まない事態になっている。

 

(だからこんなに神がいたのか……‼)

 

 正直さっきまでヘスティアは「流石大派閥の主催するパーティー。やることが派手だなー、スゲー」としか思ってなかった。

 だってガネーシャはいつも通り意味不明なポージングしながら「俺がガネーシャだ!」を連呼しているだけだし、そんな大ごとになっているなんて思わないじゃん。

 

 こうなると周りの神々がいつもの1,2割増しで胡散臭く見える。

 ……割合少ないんじゃないかって?神はいつもスゲー胡散臭いぞ。

 

 自分たちをみて「ロリ巨乳きてんじゃーん」「相変わらず貧乏くせーな」「どこかで見たしけた顔だと思ったらタケミカヅチ君じゃないか……フヒヒ」と好き勝手言っているあいつらも何を考えているかわかったもんじゃない。

 

(不味い、不味いぞ……)

 

 この状況で「あの事件の犯人ボクたちでーす」なんて言ってしまえばこの異様な熱に侵された神どもが何をするかわかったものではない。

 十中八九碌なことにならないだろうが。

 

(あわわわわわわわ)

 

 キョロキョロとあたりを見渡す。

 成金趣味全開の格好で高笑いするディアンケヒト。

 なにやら給仕に怪しい視線を送る変態(アポロン)

 

 いつも通りにしているように見えて、よく見るとあの二人ですら時折探るような言動を見せていると気が付いた。

 もっともその視線がこちらに来ることはない。

 もし、ヘスティアに疑惑の視線が向けられていればヘスティアもすぐにパーティーの裏で進められている探り合いに気が付いただろう。

 しかしヘスティアを知るものは一様に「こいつが闇派閥(イヴィルス)とかナイナイ」と初めから容疑者として見ていなかったのだ。

 出来ればそのまま気づきたくなかったが。

 

(うわ……あのデメテルの貼り付けたような笑顔、あれ真剣(マジ)になってる時のだ)

 

 豊穣の女神の恐ろしさを知っているヘスティアはその表情を向けられている神にご愁傷さまと声をかけたくなる。

 今のデメテルの相手をさせられている可哀そうな神に目を向けると……

 

(ん?ディオニュソス?)

 

 金髪の貴公子然とした青年の姿をした神が目に留まる。

 ヘファイストスやデメテルと同じ同郷の神。

 かつて十二神の座を譲ったその相手が浮かべる笑みをヘスティアは目の当たりにする。

 

(……()()()

 

 他の神のように何を考えているかわからない笑み。

 しかし、ヘスティアは昔からディオニュソスに対してその笑みの裏に潜む何かがあるのではないかという疑惑があった。

 バイト中に聞く【ディオニュソス・ファミリア】の評判はとてもよく、下界に降りて『病気』も治ったのかと安心していたのだが……

 

(あの笑みは不味い。そんな気がする。)

 

 ヘスティアの神の勘が最大限警戒を鳴らす。

 それが何を意味しているのかは分からない。

 考えをまとめる暇もなくフラフラとディオニュソスに近づこうとするヘスティア。

 ヘスティアの口から何か言葉が出てこようとした時。

 

「相変わらず仲がいいわね」

 

 そこに一柱の女神が現れた。

 容姿の優れた傾向にある神たちの中でも群を抜いた美の持ち主。

 黄金律に整えられたプロポーションは、同性のヘスティアやヘファイストスですら魅了されかねない。

 

 美すら魅了する神、フレイヤは長い銀髪を揺らしてヘファイストスとタケミカヅチの会話に入ってきた。

 

「あ、ああ、フレイヤ。久しぶりだね。」

「ええ、久しぶりねヘスティア。……あら?どうかしたのかしら?」

「なんで君がここに……」

「さっきヘファイストスと会ってね、一緒に回ることにしたの」

 

 フレイヤもヘファイストスも大派閥の主神だし、最近下界に降りたばかりのヘスティアにはわからない付き合いもあるのだろうか。

 二柱(ふたり)の立場を考えると面子とかいろいろありそうだが、唯我独尊なフレイヤはもちろん、ヘファイストスもこういう面では軽いところがある。

 

「お邪魔だったかしら。」

「そんなことはないけど……ボク、君のこと苦手なんだ」

「あらあら。貴女のそういうところ、私は好きよ?」

 

 清純な処女神であるヘスティアは美の女神であるフレイヤとは相性が良くない。

 嫌いではないのだが、やたらと周りに色気を振りまくのとちょっと腹黒いところが受け付けないのだ。

 

「まあ、もっと嫌いな奴がいるんだけどね!」

「おーい!ファイたーん、フレイヤー、タケミカヅチー、ドチビィーーー‼」

 

 大きく手を振って新たに現れた朱色の髪の女神。

 狐のような細目が非常に胡散臭い。

 

「なんだロキじゃない」

「何しに来たんだよ」

「かーーっ、理由がなきゃ来ちゃあかんのか?まじKYやん、このドチビ」

「あ゛?」

「おいおい落ち着けヘスティア。ロキも来て早々煽るなよ……」

 

 出身は離れているヘスティアとロキだが、その仲の悪さは神々の間でも有名だった。

 二人の一触即発な空気を察した神たちは、野次馬根性丸出しでトトカルチョを始めるくらいには名物なのだ。

 原因は一目瞭然。ロリ巨乳とロキ無乳である。

 

 傍から見ている分には面白いのかもしれないが巻き込まれるのは迷惑だ。

 タケミカヅチは双方を宥め、ヘファイストスが話題を変えるためにロキに話しかけた。

 

「ドレスなんて珍しいわねロキ。いつもは男物の服なのに」

「フヒヒ、それはなファイたん。どっかの貧乏神がドレスも着れないのに大慌てでパーティーお準備してるって小耳にはさんでな……思いっきり笑ってやろうと思ったんやぁ、なぁ?ドチビィ?」

(うわ、ウッザ‼)

 

 腹立たしいニヤニヤ笑いに女神がしちゃいけない表情になるヘスティア。

 いまにも「そもそもダンジョンに潜るのは間違い……」とか言いそうな顔になる神友(しんゆう)をみて、話題選びを間違えたと悟ったヘファイストスはこのげんかが長くなると確信した。

 

「そのためにわざわざ笑いものになるとは滑稽だ。なんだい?その見ていて悲しくなる絶壁は‼」

「グフッ‼‼」

「おまけに登場の仕方もフレイヤの二番煎じだったじゃないか?」

「ゲハァッ‼‼」

「ひょっとしてパーティーを盛り上げに来たお笑い芸人さんなのかい?ならチップは期待するといいさ‼君の存在自体がギャグだからね!いるだけでネタを振りまいているんだから!」

「うがああああああ‼‼」

 

 半泣きになりながらヘスティアの頬を掴み、引っ張るロキ。

 あちこちに伸ばして蹂躙する。

 

「ふんみゅうううううう‼‼」

 

 抵抗するヘスティアだが、残念ながら一部を除いて幼児体型の体では手も足も出ずに抵抗は空を切った。

 ロキの手が縦横無尽に動き、ヘスティアも手足をバタバタと暴れさせる。

 

 その衝撃で幼児じゃない一部が揺さぶられる。

 揺れて、揺れて、揺れた。

 

「コヒュッ!……ヒュー、ヒュー、き、今日はこの辺にしてやるわ……」

(めっちゃダメージ食らってるな)

(ヘスティアの抵抗全く届いてないのにね……)

(ふふ、可愛い喧嘩ね)

 

 持つ者と持たざる者の格差をまざまざと見せつけられたロキは既に瀕死だ。

 ワナワナと体を震わせてその場を離れる敗北者の姿は、とてもオラリオ有数のファミリアの主神とは思えない。

 

「今度会うときはその貧相なものを視界に入れるんじゃないぞ!」

「うっさいわボケェ……」

 

 覚えておけよー!、と小物臭全開で退散するロキに追い打ちをかけるヘスティア。

 ついに会場から飛び出したロキの目元にはとめどない涙があった。

 

「丸くなったわね、ロキ……」

「あれは丸いって言っていいのか?」

「ただのやられ役にしか見えないんだけど……」

 

 フレイヤの呟きに突っ込むタケミカヅチとヘファイストス。

 フレイヤはその反応をくすりと笑った。

 

「天界では神々に殺し合い仕掛けていたくらい凶暴だったのよ?危なっかしくなくなったわ」

(危なっかしい……か……)

 

 ロキに気を取られていたがふとあたりを見渡すとディオニュソスはもういなかった。

 釈然としないが今は仕方ない。

 また今度話しかけてみよう。

 

「【ファミリア】を結成して丸くなる神は多いわよね。」

「ああ、不変の俺たちと違って眷属たちは些細なことでも成長し、その在り方を変える。そんなあいつらから学ぶことも多い。」

「ボクもわかるかもしれない。ベル君の前だとついつい背伸びしちゃうんだよね。この子に恥じない主神であろうって思ってさ。」

 

 パーティーでは何も化かし合いしかしていないわけではない。

 自分たちの眷属の成長を我がことのように自慢しあうというのも、神々の宴ではありふれた光景だ。

 今までのパーティーだとファミリアを作ってなかったヘスティアは肩身の狭い思いをしていたが、念願のけんぞくを手にいれた今、遠慮なく話に加われる。

 

「……ベル?」

 

 すると意外なことにフレイヤがヘスティアの言葉に反応した。

 

「ああ、フレイヤは知らないわよね。ヘスティアもようやくファミリアを結成できたのよ。白髪で赤い目のヒューマンの男の子だったっけ?」

 

 ヘファイストスがヘスティアの眷属であるベルについて簡単に補足した。

 笑みを浮かべてそれを聞くフレイヤ。

 

「……おい、ヘスティア」

「ん?なんだいタケ?」

「なんかフレイヤの様子が変じゃないか……?」

 

 その様子に違和感を感じたらしいタケミカヅチがヘスティアに耳打ちする。

 そうかなぁ?とヘスティアもフレイヤを観察するが、フレイヤが内心を悟らせない笑顔を張り付けているのは何時ものことなので普段との違いは分からなかった。

 

「……それじゃあ、私はもう行くわ。」

「え?もう帰るの?まぁ!まだ来たばかりじゃない」

「ええ、今日は探し物に来たのだけど、もうそれは見つかったみたい。」

 

 フレイヤはそういうと目を細めてヘスティアを見た。

 話の流れがうまく飲み込めないヘスティアはその銀の視線にたじろいだ。

 

「それに……例の闇派閥(イヴィルス)の計画のせいで最近アレンたちがうるさいからね。早めに帰ってあげないといけないの。」

闇派閥(イヴィルス)とはいえ神殺しはしないでしょうけど、万が一はあるから用心に越したことはないわ。」

「魔石をバラまくなんて意味不明なことをやる連中だからな。油断は禁物だろう。」

(やべえ) 

 

 タケミカヅチがまたあの事件を掘り返そうとしているのを見て慌てるヘスティア。

 別にやましいことはしていないのだがどうしても過剰に反応してしまう。

 ミアハと鈍感の双璧を成すタケミカヅチならともかく、都市有数のファミリアの主神であるヘファイストスとフレイヤは誤魔化せる気がしない。

 

(こ、こうなったら)

 

 ヘファイストスの機嫌のいいタイミングで切り出すつもりだったがやむを得ない。

 ちょっと強引でもヘスティアの精神衛生を守るためにここで勝負を仕掛ける。

 ぶっちゃけこんどこそ見放されそうなくらい図々しい内容だがやるしかない。

 過去にヘファイストスの家に居候した時、あまりにもだらけすぎて追い出された過去がよぎるが時間は巻き戻らないのだ。

 

「ヘ、ヘファイストス‼」

 

 ちょっと声が裏返った。

 覚悟をイマイチ決め切れていないからしたがうまく動いてくれなかったようだ。

 3柱の『なんだコイツ』みたいな視線が刺さる。

 しかしヘスティアはそれに怯まずに本題に入った。

 

「き、今日は君にお願いがあって来たんだ!」

 

 その瞬間、空気が凍ったと後にタケミカヅチは語った。

 そばにいたタケミカヅチはもちろん、周りにいたヘスティアとロキの小競り合いを野次馬していた神たちも、あの根っからの女王様気質のフレイヤすら無言で冷気の発生源(ヘファイストス)から距離を取る。

 

(べ、ベル君……僕に力を貸しておくれ……)

 

 そして予想通り絶対零度の視線に一柱さらされたヘスティアは、涙目になりながら愛しい眷属のために気力を振り絞る。

 一歩間違えば絶縁状が叩きつけられそうだが、やるしかないのだ。

 ヘスティアは意を決してタケミカヅチ直伝の土下座を繰り出すのだった。




 外伝見ると【ヘスティア・ファミリア】の蚊帳の外っぷりがすごい。
 それでいてヘスティアもベルも物語の核心に触れる情報を初めから持っていて、あんまり早い段階でオラトリア側と関わるとあっさり黒幕にたどり着けちゃうんですよね。

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