ベルがひみつ道具を使うのは多分間違ってる   作:逢奇流

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物語の一ページ目

 強さとは何なのだろうか。

 冒険者ならば一度は考えたことがあるであろう疑問。

 

 求めるほど遠のくもの。

 

 自分自身を超える力。

 

 手に入れることが出来ない余り、憎いとすら感じるもの。

 

 答えは人によって多種多様なのだろう。

 オラリオに来てから、アイズも様々な考えを知った。

 そしてその度に思う。自分は何のために強さを求めたのかと。

 

「あああああああっ‼」

 

 少年は吠える。

 冷ややかに佇む薄暗闇の迷宮に熱を灯さんとばかりに。

 加速し続ける連撃が幾千もの瞬きを煌かせた。

 

「ヴォオオオオオッ‼」

 

 雄牛は猛る。

 混沌とした戦場に己の存在を刻み込むかのように。

 紫電を伴う一閃が岩盤の破片をまき散らした。

 

 互いはその身を血に濡らしながら、それでも戦いを止めなかった。

 痛みに表情を歪めながら、振り絞るように己の全てを眼前の敵にぶつけ尽くす。

 

「……」

 

 その戦いは決して高度なものではなかった。

 彼らの周囲に展開する戦場の中には、彼ら以上の力と技量をもって戦うものは何人もいる。

 だが、この戦いの中心は紛れもなく彼らだった。

 

 熱かった。

 ぶつかり合う鉄と鉄の音は心音のようで。

 命の鼓動はここにあった。

 

 既に何度目とも知れない雷の魔力が二人を包む。

 体を蝕む魔法に苦悶を漏らす少年は、歯を食いしばって目を見開く。

 

「ぐっ……くうううう~~~~~~っ‼」

 

 壊れた背嚢から太鼓型のひみつ道具を取り出す。

 鍔ぜり合うサーベルで左手がふさがっている状況では、使用できないと油断していたミノタウロスの疑問をよそに、ベルは力いっぱい自分の左肩を太鼓で叩く。

 

「ヴォガアアアアアアアアッ!?」

 

 その瞬間、ミノタウロスは爆発的に増大した雷の威力に絶叫する。

 太鼓型のひみつ道具を至近距離で放ったことで、ミノタウロスの想定以上の雷がその身を焼いたのだ。だが、その余波はベルの体にも届く。

 長期的に見れば、この行動でベルの方が受けたダメージの方が多い。

 しかし、ベルが欲したのは想定外のダメージでミノタウロスが怯んだ一瞬。

 その一瞬を埋める魔法がベルにはある。

 

「がっ、ッッ! 【ファイアボルト】オオオオオォォォォォォォ‼」

 

 太鼓型のひみつ道具を投げ捨て、速攻魔法を叩き込む。

 洞窟のダンジョンを炎が照らす中、煙の臭いが広間(フロア)に充満した。

 よろめくミノタウロスにすかさずベルが腰に装備された黒色のナイフを繰り出す。

 

 爆発音と共に圧倒的勢いで一閃。

 ミノタウロスの隻角を砕き。

 中層最強の所以となる武器を奪った。

 

「ヴォッ……オオオオオオッ‼」

 

 これまでベルを翻弄してきた変則的攻撃を封じられたミノタウロスだが、その闘志が衰えることは無く、大剣と戦斧の二刀流でベルを圧殺せんと殺意を滾らせる。

 

(やっぱり、あのミノタウロスは何かが違う)

 

 モンスターが最大の武器を失った場合、大人しくなるわけではないがその殺気は多少なりとも鈍るものだ。本能で動くモンスターには恐怖だってある。

 だがあのミノタウロスにはそれが見られない。

 むしろこれまで以上にその気迫は練り上げられているとすら感じられた。

 

「フウウウウウウゥゥゥゥンッ‼」

 

 ミノタウロスの大剣をベルがサーベルで受け止めるが、ミノタウロスは力任せにベルを防御ごと吹き飛ばした。

 咄嗟に右腕の装備を飛ばし、ミノタウロスに巻き付けるベル。

 先ほどのようにロープを巻き上げて再度接近を試みるが。

 同じ手は通じない。

 ミノタウロスは巻きつけられたロープに戦斧を(かざ)す。

 

「しまっ……うわあああああああ!?」

 

 ロープを伝い、流れてくる電撃。

 これまでとは違う一方的な魔法攻撃に、自らの失策を悟ったベルは黒塗りのナイフで右腕の装備を切り離した。

 

「ハァッ、ハァッ……」

 

 電撃の影響か、頭をぶんぶんと振るベルにミノタウロスが突撃する。

 ベルによって破壊された膝のせいで、ミノタウロスの代名詞である突撃(チャージ)攻撃は出来ないようだが、その巨体は加速を付けなくとも十分な脅威。

 

(大剣による圧し潰し……はフェイク。本命は魔剣)

 

 アイズの分析と同じ答えを出したらしいベルは、敢えて大剣に向かった。

 ここまでミノタウロスの攻撃を逸らすことにより攻撃を防いできたが、ミノタウロスから機動力が失われたのなら話は別だ。

 ベルはその加速力で最初の大剣を抜き去り、ミノタウロスの斜め右側の死角に潜り込んだ。

 

(剣だけじゃない。ちゃんとミノタウロスの体の動き全体に気を配れている)

 

 アイズの教えを忠実に守った集中の配分。

 それはミノタウロスから更に武器を奪った。

 大剣を持つ右手の甲に深々と突き刺さるナイフ。

 当然、ミノタウロスの右手から大剣を持つ余力は失われ、ダラダラと流れる血と共に、大剣は音を立てて迷宮の床に転がった。

 

「ッッ‼」

「うっ!? まだ!?」

 

 だが、ミノタウロスは血を流す右腕でベルを殴りつける。

 余りにも早い切り替えに、ベルは反応しきれずに打撃を受けてしまい、ナイフは右手に刺さったままベルの手から離れてしまった。

 

 ひみつ道具以外で唯一通用する武器の紛失。

 ベルはエメラルドグリーンの防具から両刃短剣(バゼラート)を引き抜く。

 

(駄目、それは通じない)

 

 モンスターや狂信者を退けつつ、アイズは追い込まれ始めているベルの状況に表情を曇らせる。

 ベルの持つ両刃短剣(バゼラート)は業物だが、あくまでも上層レベル。

 異常な強さを持つあのミノタウロス相手には不足過ぎる。

 

「ヴォオオオオオッ‼」

 

 ベルがこの戦場に見合わない武器を装備したことを勝機と見たのか、怒涛の攻撃を開始するミノタウロス。

 魔剣である以上、そう何度も雷は起こせないが、腕のいい上級鍛冶師(ハイ・スミス)によって作られたであろう戦斧はベルの命を刈り取るには十分だ。

 アイズも応援に行こうとするが、モンスターや狂信者が蔓延るこの場所にレベル1であろうベルの仲間を放置して向かうわけには行かない。

 この場で彼らを庇える余裕があるのは自分だけなのだ。

 

 ベルは反撃を仕掛けるが、両刃短剣(バゼラート)はミノタウロスに傷一つ付けることは無い。

 ミノタウロスはまるで両刃短剣(バゼラート)の存在を無視するように、その視線はサーベルにのみ向けられている。

 

 やがてベルが装備した新しい防具にも傷がつき始める。

 何度も雷を浴びていることもあり、新品と思しき装備もガタが出始めている。

 左の肩当が弾き飛ばされ、ばっくりと赤い線が刻まれた。

 返り血を浴びるミノタウロスの眼差しに勝利の確信が見えた時、ベルは動いた。

 

「舐めるなっ……!」

 

 サーベルで戦斧を受け流し、両刃短剣(バゼラート)をミノタウロスの鳩尾に叩きつける。

 切っ先はミノタウロスの腹筋に阻まれ、その皮膚すら突破できない。

 ヒューマンの悪あがきを潰そうと、ミノタウロスは血を流す右腕を振り上げるが、ベルは瞳を逸らすことなく咆声した。

 

「【ファイアボルト】‼」

 

 真っ赤に燃える炎雷を纏う右手。

 ウォーシャドウの爪のような装備に魔法を灯し、掌底突きのような形でミノタウロスの腹部……正確にはそこに刺さりかけている両刃短剣(バゼラート)の柄頭を殴りつける。

 

「オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛ォォォッッ!?」

 

 無警戒だった両刃短剣(バゼラート)からのダメージに呻くミノタウロス。

 しかしこれでは足りないとばかりにベルはもう一度構え、咆声する。

 

「【ファイアボルト】‼」

 

 再び轟く爆音。もう一度突き穿つ掌底。

 両刃短剣(バゼラート)は鋼鉄の腹筋を突き破り、猛牛の腹部に突き刺さった。

 目を血走らせて息を荒げるミノタウロスに、ベルは更に畳みかけた。

 

「【ファイアボルト】オオオオッ‼」

「ゴガァッッ!?」

 

 止まらない炎雷。渾身の殴打を叩き込み続ける。

 業火のうねりはミノタウロスの皮膚だけでなく、その傷を通って内臓すら燃やしているかもしれない。

 最早、剣身は八割がたミノタウロスの中に減り込み、剣と皮膚の接合部から血液が流れでている。

 

 途轍もないダメージを負ったミノタウロスだが、無茶の代償を支払うベルも呻き声を漏らす。

 

「あ、痛……っ」

 

 右手に付けていたグローブは魔法からベルを守るものだったのだろうが、これほどの連撃を想定して作られたわけではないのだろう。

 右手のグローブはぐちゃぐちゃに罅割れ、破片がベルの手に突き刺さっている。

 もう魔法を手に纏うあの攻撃は出来ない。そう判断したであろうベルは脂汗を流しながらも、荒々しくブーツに魔石を挿入すると、思い切り地を蹴り浮かび上がった。

 

「まだ、まだあああああっ‼」

「ヴォッ!?」

 

 血を流しながらも止まらない少年に凍り付く眼前で、ベルはドロップキックを両刃短剣(バゼラート)の柄頭に叩き込む。

 この戦いで幾度も見せた衝撃波が、これまでにない威力で両足の裏から発せられ、両刃短剣(バゼラート)は完全にミノタウロスの腹の中に入り込んだ。

 

「ヴォ、ヴォオオオオオッ!?」

 

 衝撃波の威力で倒れ込んだミノタウロスは、血を吐いて狂ったように身を捩らせる。

 ミノタウロスの体内に潜り込んだ両刃短剣(バゼラート)が内臓を致命的なまでに傷つけた。

 ゴポリと泡を含んだ血を吐き出すミノタウロスは、しかしその戦意を緩めることは無い。

 

 酷使しすぎ、煙を上げているブーツを抱えて蹲るベル。

 ここにきて反動が来てしまった。

 

「フッ、フッ、……オオオオッ!」

「が……っ」

 

 倒れ込みながらも戦斧を振り回し、滅撃と雷の魔力をばら撒く。

 それを同じく倒れ伏したベルがサーベルで受け止めた。

 そのまま一合、二合……とぶつかり合うお互いの武器。

 もはや己の姿など気にせずに戦い合う両者は、お互いに決着の時が近づいていることを悟っているようだった。

 

(……どうして)

 

 地面に這いつくばり、震える手で懸命に立ち上がりながら、真っ直ぐな視線を向けるベル。

 血まみれになり、泥だらけに汚れ、それでも戦い続ける少年に問いたかった。

 あの日と同じ疑問を。

 

(……どうして君は、そんなに早く、強くなっていけるの?)

 

 分からなかった。

 あの、日常で朗らかに笑うベルと命を懸けた戦いに臨むベル。

 同じ顔をしているはずの二人がアイズの中で全く一致しない。

 

 ミノタウロスも掠れ始めた息遣いと共に立ち上がる。

 体から流れる血。それを塗り替えるように滾る闘志で、ベルを睨みつけた。

 

「ヴォ゛オ゛オ゛オ゛、オ゛ォ゛ォ゛ッ‼」

 

 ミノタウロスが腹に潜り込んだ両刃短剣(バゼラート)を強引に掴み取る。

 ミチミチ、と筋繊維が断絶するかのような音が聞こえるのもお構いなしに、ミノタウロスは埋め込まれたその武器を引きずり出すと咆哮と共に地面に叩きつけ、踏み砕いた。

 

 そして、腹部から滝のように流れ落ちる流血など気にも留めずにベルに向かう。

 ベルもスゥ……、と小さく息を整えると、決意を固めた表情で歩み始める。

 

(……この戦いは、一体、何だったんだろう)

 

 徐々に距離を詰める両者。

 その息苦しい空気はこの広間(フロア)を支配していると、アイズはそう感じた。

 

 最初に来た時、アイズにとってこの場はベルを狙っているという【フレイヤ・ファミリア】との対決の場でしかなかった。

 しかし闇派閥(イヴィルス)の暗躍により、状況は混沌とし、目に見えている者、目に見えない者たちの思惑が複雑に絡み合い、アイズでは到底全体図が理解できない戦場になる。

 そこから更に状況は二転三転し、気が付けばこの戦いの中心は、保護対象だったベルとオッタルの駒でしかなかったはずのミノタウロスになっていた。

 或いは、初めからそこだけが中心だったのかもしれない。

 

(ベル、君が戦うのは何のため?)

 

 数多の英傑を押しのけて舞台の主役となった少年は、誰よりも真っ直ぐな瞳でミノタウロスを見ている。

 彼が何を想い戦っているのか、それはアイズには分からない。

 ただ、彼を見ていると。彼の求める強さが少しだけ分かる気がした。

 

 ベル・クラネルの求め、手に入れた強さは抗うためのものだ。

 誰に命じられたわけでもない、自分自身の願いのために。

 与えられた役割(ロール)を逸脱し、予測不可能は物語を綴っていく。

 

「あああああああっ‼」

 

 少年の雄叫びが迷宮を駆け抜ける。

 ベルのサーベルがミノタウロスの右胸に深い切り傷を与え、ミノタウロスの戦斧がベルの残った肩当を弾き飛ばし、その破片が少年の頬を傷つけた。

 数度の斬り合い、その結果見えたミノタウロスの隙にベルは神の刃を叩き込む。

 鞘の機能によって爆発的威力を伴う斬撃は、ミノタウロスの右腕を切り裂いた。

 

「ゴッ……、ウ゛ォオオオオッ‼」

「なっ!?」

 

 戦斧を捨て、血しぶきを上げて使い物になった右腕を、左腕で引きちぎる。

 辛うじて繋がっていた己の腕を躊躇なく捨てたミノタウロスは、そのまま腕を鈍器のようにベルにぶつけた。

 サーベルでガードするベルだったが、刃に触れた途端に、丸太のような腕はバターのように切り裂かれる。

 

「っ‼ 受けちゃダメ‼」

 

 それが失策であると悟るアイズの言葉は遅かった。

 切り裂かれた拳部分は、その勢いのままベルの頭部目掛けて直進する。

 

「ぐぅッ……ぇ…?」

 

 頭に直撃した振動で揺さぶられる脳。

 思わずサーベルを手放してしまったベルに、ミノタウロスは嵐のような連撃(ラッシュ)を開始する。

 グニャグニャと揺れる右腕を何度も叩きつけ、ベルを地に叩き伏せた。

 地面を揺らすかのような攻撃の度に、ベルの体は痙攣し、その装備は衝撃を受け止めきれずに罅割れ、粉砕されていく。

 

「……っ」

 

 息をのむ。

 頭が真っ白になり、続いて憤怒が燃え滾った。

 アイズの金の瞳に黒い意志が宿り始める。

 こうなれば禁じられていたあのスキルを使ってでも……!

 そんな考えに支配され、鍵となる言葉(スペル)を口にしようとした時。

 ベルの()が見えた。

 

「──────」

 

 そこに諦観はなく。絶望もなく。

 ただ、真っ白な炎があった。

 思わず形を結びかけていた言葉が溶けて消える中、ベルは転がされた先にあったひみつ道具を掴み取り、音を鳴らす。

 

「ガアアァァァッ!?」

 

 太鼓から現れる稲妻。

 先ほどまでミノタウロスに通じなかったそのひみつ道具は、失った右腕から体内を焼き尽くし、猛牛の動きを止める。更に動物の絵が描かれた石たちが纏わりつき、そこから一歩も動かさない。

 石たちは一斉に左腕に攻撃し、ミノタウロスは思わず右腕を手放し、地面に捨てていた戦斧を蹴り上げ、空中で掴み取る。

 その隙にベルは、先程飛んできたミノタウロスの拳からナイフを抜き取り、手放してしまっていたサーベルを拾い直す。

 

「ゼェ、ゼェ……ゴホッ……っ!」

「フゥ゛ッ、フゥ゛ッ……フウ゛ウ゛ゥゥゥゥッ」 

 

 肩を揺らし、交差する視線。

 剣戟の音が遠い。

 全てを置き去りに、二人だけの決闘は続いた。

 

「……」

 

 気が付けば、アイズの瞳から黒が消えていた。

 彼女は観客だ。

 人が雄牛を倒すだけの物語。

 或いは人が雄牛に倒されるだけの物語。

 そんな物語を外から見守る観客。

 

 それを不満に思うことは無かった。

 だって、あの二人の間には余人が立ち入れない何かがある。

 強く強く、願った先にこの戦いがあったのならば……

 きっと今だけは、世界は二人のためにある。

 

「「……」」

 

 それも、もう終わり。

 既に終止符(エンドマーク)は見えている。

 

 長かった。

 そう感じるほどに、濃密な時間。

 それを惜しむ心を感じていることに彼女は驚いた。

 

(……)

 

 ふと、少年が訓練の最中に漏らした言葉を思い出した。

 どうして自分にこんなスキルが芽生えたのだろう。

 どうして自分がひみつ道具を使うのだろう。

 本当ならば、そうなるはずではなかったのに。

 

 何をもってベルがそうなるはずではなかったと思ったのかは分からない。

 ただ、彼が言うのならばそうなのだろう。

 

 ベルがひみつ道具を使うのは多分間違っている。

 

 彼が本来持たない力によって物語は大きく歪んだ。

 その果てにどんな結末があるかは分からない。

 ベル・クラネルと言う少年のたどるはずだった道は、彼自身の力で切り開くべきものだったのだから。

 

(それでも)

 

 道を違えても。

 この先に待つ世界がどんなものであったとしても。

 彼は進み続けるだろう、とアイズは思う。

 間違えてしまっていても、それがこの世界のベル・クラネルの冒険だから。

 

(頑張って)

「ああああああああああっ‼」

「ヴォオオオオオオオオッ‼」

 

 そして、最後の激突。

 ベルはサーベルを振りかざし、ミノタウロスはそれに戦斧を合わせる。

 後は雷の魔法を強制的に二人で浴びるだけ。

 

 ダメージが深い両者だが、ミノタウロスの方が怪物のタフネスで僅かに耐えられる。

 その後に他の冒険者に対応できないほどのダメージを負うが、そうだとしても構わないとばかりに猛り声を上げてベルに向かう。

 そんなミノタウロスにベルも張り合うように咆声した。

 

「【ファイアボルト】!」

「……ッ!?」

 

 ナイフを親指に引っ掛けたまま、四本の指を上げた状態で魔法を繰り出す。

 炎雷は雄牛に直撃し、サーベルとぶつかり合う直前だった戦斧を僅かにブレさせる。

 その僅かにサーベルは飛びついた。

 

「いっけえええええええええ!」

 

 体全体でサーベルを加速させ、ベルは吠える。

 その切っ先が向かう先はミノタウロスの戦斧の柄肩。

 キンッ、と寒気がするような涼やかな音。

 一拍遅れてミノタウロスの持つ戦斧が真っ二つに斬られた。

 

「──────」

 

 ベルとミノタウロスのぶつかり合う。

 最後に両者がどう思ったのかは分からない。

 ただ、眩い緋色の華に目がくらんだゆえの錯覚か、アイズにはミノタウロスが笑っているように見えた。

 時折モンスターが見せる、醜悪なそれとは違う、純粋なそれを見て、ベルがどんな表情をしたのかは白髪に隠れてよく分からない。

 ベルは全霊の雄たけびをもってこの戦いを終わらせた。

 

 決着を告げるのは紫紺の一閃。ミノタウロスの首が宙を舞う。

 戦いの決着は静寂を持って迎えられた。

 最早この戦場の趨勢は決したのだ。




 宿敵との戦い。駆け抜けました。
 ベルとミノタウロスが最後にどんな意思を交わしたかは、皆さんの想像にお任せします。

 それはそうと原作の時から思ってましたけど、ベル君の物語の一ページ目長すぎでは?
 一括機能で再確認しました。

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