ベルがひみつ道具を使うのは多分間違ってる   作:逢奇流

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ダンまちってどこにあるの?

 古本屋で目当ての本を探す。

 本好きの間では堪らない一時として語られる行為だ。

 目当てのタイトルや著者名を見つけ出した時の快感は言葉にできない物であり、その過程で見つける面白そうな本に手を伸ばして、時間を忘れて立ち読みするというのも面白い。

 勿論、限度は必要だが。

 

「ちぇー……どこにもないや」

 

 最も、それを面白いと思える人間は少数派であることは事実だが。

 ページをパラパラめくれば眠気に襲われ、活字を見ただけで鳥肌が立つような人種からすれば苦痛極まりない。

 これがおもちゃ屋だったらちょっとは楽しいのに、と少年は愚痴をこぼす。

 

「あんな長い名前ならすぐ見つかると思ったのに」

 

 眼鏡の奥から眼を細めて、はるか頭上に陳列されているタイトル群を見つめる少年。

 既に何日か通い詰めで来ている少年だが、彼が本に手を取ることは一度もなかった。

 否、正確には小学生程であるはずの彼にしては、少々対象年齢から外れているような幼児向けの絵本などはパラパラと開いていたが。

 

「君も飽きずによく来るねぇ……」

「あ、店長さん。こんにちは~」

 

 キョロキョロと暫く店の中をさまよっていたその少年……のび太は気の抜けるような挨拶を見せの主に行う。

 それに対して、こんにちはと笑顔で返す店長は本についた埃を落とすために店内を回っていたらしい。

 

「まだお目当ての漫画は見つからないかい?」

「うん。続き気になったのにさ」

「なんてタイトルだったかな?」

「え~と、なんか長い‼」

「それじゃあ分からないなぁ……」

 

 見事に知能指数を示す返答に苦笑する店長。

 長いタイトルと言うと……とあれこれ考えてくれているのは彼の人が良いからだろう。

 

「う~ん。小説のタイトルなら結構思い浮かぶんだけど漫画かぁ……漫画は殆ど子供が見るものだから、そんなに長いタイトルを付けているのは珍しいね」

「難しい言葉がいっぱい出てたから小説を漫画にしたのかも」

「小説から……と言うのは珍しいね。その先生がよっぽどその作品のファンだったとか?」

「さあ? それよりしょーかんって言葉が出てきてた。何か知ってる?」

(しょーかん? ……将官? 戦記物かな)

「うーん……」

 

 やはり情報が少なすぎるのか、頭を捻る店長。

 正しく言えば、のび太の説明が足りな過ぎるのだが。

 

「あんなに長いタイトル覚えられるわけないじゃん」

「覚えられないほど……『自分以外の全員が犠牲になった難破で岸辺に投げ出され、アメリカの浜辺、オルーノクという大河の河口近くの無人島で28年もたった一人で暮らし、最後には奇跡的に海賊船に助けられたヨーク出身の船乗りロビンソン・クルーソーの生涯と不思議で驚きに満ちた冒険についての記述』みたいな?」

「長い」

 

 読書好きの間では有名な長文タイトルの本を例に出してみたが、のび太はアホを見るか顔で店長を見ていた。

 

「もっと普通の言葉だよ」

「う~ん分からないなぁ。ごめんね」

「スネ夫か出木杉の家にならあるかなぁ……?」

 

 さよならーと店から飛び出すのび太。

 彼は一か所に長時間いることができない子供なのだ。

 

(あ、さっきの……なんだっけ凄い長い名前の本。あれで読書感想文簡単にできそう)

 

 ちょっと狡いことを考えつつ、のび太は友達の家に向かった。

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇                            

 

「ちくしょ~~っっ‼ スネ夫のヤツゥゥゥゥッッ‼」

「まあまあのび君落ち着いて……」

 

 早速骨川家に向かったのび太だが、先程の古本屋のようなスッカスカな情報で彼を頼ったわけなので、案の定馬鹿にされた。

 あの狐のような顔で散々に弄られた後、何の関係もない人気作の漫画家のサインを見せびらかし始めたのである。

 当然、のび太が我慢できるはずもなく、いつものように飛び出したわけだ。

 そしてそのまま出木杉の家に辿り着き、愚痴に付き合ってもらっていると言うワケであった。

 

「しかしタイトルがやたら長い漫画か……」

「出木杉の家にもない?」

「ちょっと心当たりがないなぁ」

「すっごい綺麗な絵なんだ。僕たちの持ってる漫画とはまるで違う」

「綺麗?」

「こう、手足がすらっとしていて、白黒なのに色があるみたいで?」

「色? カラー付きってことじゃないのかい」

「そうじゃなくてこう……点々とか線でそう見えるって言うか……」

(色に見える白黒の点や線って言うとスクリーントーンのことかな)

 

 そこまで考えて出木杉ははて、と首を傾げた。

 漫画のことについてはそこまで詳しくなかったが、スクリーントーンとは中々高価なものだと聞いた気がするが。

 自分の持っている漫画にも使われてはいるが、のび太の印象に残るほどふんだんに使うものだろうか。

 

「あ、後はコマが大きかったかも」

「コマ……?」

「一ページのコマすごい大きいから迫力あったなぁ。戦ってる時とかはカッコよかった!」

(バトルがあるのかな)

「でも台詞が多くて結構飛ばしちゃった」

(ここまで聞くと凄い変な漫画だな)

 

 有名な漫画家の言葉の受け売りだが、スクリーントーンの多用やセリフなどで解説しすぎることは、漫画を作る上での御法度のはずだ。

 それを破っていて、のび太がここまで面白いという作品なのかと出木杉は興味を覚えた。

 

「のび君。タイトルをあやふやでも良いから思い出せないかい?」

「え?」

「僕はその漫画を多分持ってないけど面白そうだから」

 

 秀才の出木杉と落ちこぼれののび太は接点がない様に思われているが、案外話してみると会話が弾む。

 それを出来杉は自分と彼の価値観が似通っているためと推測している。

 のび太はよく思い付きで突拍子も無いことを口にするが、周りがそれを馬鹿にする中で出来杉はそれがおかしいとは考えたことが無い。

 論理的におかしな点は指摘するが、彼の考えには共感することが多かった。

 なんというか、お互いに浪漫志向なのだ。二人は。

 

 そんなのび太が面白いと評した漫画だ。個人的に読んでみたい。

 聞いた限りでも型破りと言うか、()()()()()()()()()()()()印象がある。

 

「うーん。最初は『だ』から始まったんだけど」

「うんうんそれで?」

「だ、檀上? 団長? うーん……」

「最初の所に拘らずに、思い出せるところを上げていこう」

 

 のび太をせかさずに答えを待つ。

 のび太は出来杉がじっくり待ってくれるらしいと分かったからか、彼にしては珍しく頭を絞り出すように記憶を探した。

 

「『だ……』の後、『に出会いを』って続いて……ゴメン、その後何か漢字があったんだけど分からないや」

「最後は漢字だったの?」

「いやそうじゃなくて『■めるのは』があって、そこから漢字があって『■■ってるだろうか?』で終わったよ」

 

 ふむふむ、と紙にのび太の言った言葉を並べる。

 『だ……に出会いを■めるのは■■っているだろうか』

 

「そうそう、こんな感じ」

「ひょっとしたら作中の台詞か……最終話辺りで回収する伏線かな。どんな内容の話なの?」

「えーと……主人公はベルで、ベルが冒険者になってモンスターと戦う話」

「モンスター? 舞台は現代じゃないのかい?」

「魔法使いがいるし違うと思う。神様も出てきてふぁみりあを作ってた」

(ファミリア……スペイン語で家族……マフィアみたいな組織をそう呼ぶこともあるっけ)

 

 のび太の口から出てきたワードから、漫画の舞台が中世ヨーロッパあたりだと推測する。

 

「神様の名前って出てきてた?」

「えーと。ヘスティアだった。だからベルはヘスティア・ファミリア」

「ヘスティア? また随分と変わった神様を使っているね」

「そうなの?」

 

 ちょっと待ってて……と言うと出木杉は立ち上がり、本棚から一冊の分厚い本を取り出した。

 タイトルは『ギリシャ神話入門』。

 

「ヘスティアはこの神話に登場する女神だよ」

「へー強いの?」

「分からない。ヘスティアは偉大な女神様だけど、地味だから」

「地味?」

「逸話が少ないんだよ。他の神様が騒ぎを起こし過ぎともいえるけど」

 

 そう言って出木杉が指さすイラストを眺めたのび太はん? と疑問符を浮かべた。

 

「こんな見た目じゃないけど」

「漫画のキャラだしね。漫画だとどうなの?」

「えーと、黒いツインテールで、子どもみたいで、胸が大きくて……あと紐」

(紐?)

 

 のび太から聞き出したイメージ図と目の前のイラストを見比べる。

 ……全然違う。

 

(いや、ヘスティアなんてマイナーな女神を出してきたのだから、この見た目にも意味はあるはず……子供みたいでも胸が大きいというのは、神話内での産み直しの逸話でヘスティアが長女から末妹に変わったことの暗示なんじゃ……)

「おーい出木杉?」

(後は露出の多い格好と紐……駄目だ。分からない。露出の多い格好は当時のギリシャの服を作る技術で分かるが、紐ってなんだ? 下着替わりか? でも服の上から回してるんならそれは僕たちに例えると服の上にパンツを付ける変態という事に……)

「おーい」

(いや、そんな意味の分からないデザインではないだろう。ヘスティアで紐が関わる逸話何てあったかな? 有名なのはディオニュソスに十二神の座を譲ったこと……これは多分違う。後はポセイドンとアポロンが求婚騒動を起こした時に、処女神を宣言したこと……関係ないな……)

「……モグモグ」

(待てよ? 確かその時にゼウスから孤児たちの神に任命されていた。そして昔は子供を背中に抱える時におんぶ紐を使っていたはず。ギリシャではどうだったか分からないけど、これは子供たちを世話する神様と言う側面を示す物なのだとすれば……‼)

「……グゥ」

(なんて凝ったデザインなんだ。作者には相当な神話知識があるに違いない)

 

 黒髪ツインテロリ巨乳は未来に生きすぎなデザインだと思うが。

 

 何やら考え込んでしまった出木杉に、のび太が話しかけても返事が無い時間が続く。

 やがておやつを食べきったのび太が夢の世界へ旅立った頃、ようやく出木杉は帰還した。

 

「のび君!」

「ファアアア……後5日……」

「本好きの友人にちょっと聞いてみるよ。こんなに力の入った作品なら、本好きの間で話題になっているかもしれない」

「……ん?」

「今度学校で結果を報告するよ! 楽しみに待っていてくれ」

「???」

 

 寝ている間に何やら興奮した様子で約束を取り付けた出木杉に混乱しつつも、(まぁ、見つかればいいか~)と深く考えないことにしたのび太であった。

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇                            

 

 さて、思いつく限りの当てが潰れたのび太が最後に何処に行きつくか。

 言うまでもないだろう。

 

「ドラえも~ん!」

「はいはい。今度は何があったんだい?」

「あの漫画の続きがどこにもないんだよぉ!」

「あの漫画……『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか』のこと?」

 

 のび太と違い、ドラえもんはキチンとタイトルを覚えていた。

 

「空き地にあったのは途中までだし、誰もあの漫画を知らないんだぁ!」

「ちゃんと自分で探したの?」

「言われた通りやったけど、見つかんないんだよぉ! ねぇ、ひみつ道具でなんとかしてぇ!」

 

 はぁっ、とため息をつきつつ、ドラえもんは四次元ポケットを弄る。

 この世の何処かにある漫画本の情報を見つけるにはこれが一番手っ取り早いだろう。

 

 

 おなじみの掛け声と共に現れたのは本型のひみつ道具。

 百科の名の通り、のび助がたまに勝手に買ってきては置いていく、本類そっくりの分厚い見た目だ。

 

「それってこの前に使った……」

「そう、宇宙のあらゆる事を知ることが出来る巨大なデータベースだよ」

 

 過去から未来……宇宙のあらゆる情報が記されたひみつ道具。

 22世紀であっても、星の大きさ程の施設に内蔵されたデータディスクを使用しているという超ド級の反則業である。

 

「それじゃあマイクを用意して……『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか』」

 

 ドラえもんの検索と同時に、画面に映し脱される情報群。

 ネタバレは見ないように飛ばしつつ、その本の基本的な情報を探っていくが……

 

「……ん?」

「どうしたの?」

「この漫画……というか小説。発行された年がおかしい」

 

 ドラえもんの視線を辿るとあれ、とのび太も首を傾げた。

 刊行した日にちの項目に書かれていた年は『2013年1月15日』。

 

「……今って何年だっけ」

「なんで未来から来た僕に聞いてるのさ。1976年だよ」

「そんな……100年も未来じゃないか!」

「37年だよ」

 

 のび太のおバカ発言にはツッコミつつも、これはどうしたことかと困惑する。

 何故未来に生まれる物語がこの時代にあるのか。

 

「これ、オーパーツだね」

「おパンツ?」

場違いな工芸品(オーパーツ)。時代にそぐわない代物のことだよ。ルバアントゥンやアステカの遺跡で発見された水晶髑髏。インドの昔話に登場する飛行機であるヴィマナ……そんな、その時代に絶対あるはずがない工芸品をそう呼ぶんだよ」

 

 のび太たちの時代だと、こうした者は本当に歴史を覆す新発見か、或いは捏造品かの二択だ。

 しかし、ドラえもんがいた22世紀ではもう一つの可能性があるのだ。

 

「たまにあることなんだ。他の時代のモノがひみつ道具の暴走や失敗で過去に飛ばされること」

「じゃあ、あの漫画も?」

「小説のコミカライズが偶々この時代に落ちてきたんだろうね」

 

 そういったものはタイムパトロールにより回収されているが、時代を超えるひみつ道具は簡単に手に入るものだ。

 当然、こうした事故は多く、後手後手になっている。

 

(それで現地の人たちに迷惑が掛かって……最近じゃタイムマシンの使用を制限する、なんて話があるみたいだし)

 

 観光客が過去の人たちへの迷惑行為を行っていることは、22世紀の社会問題だ。

 そろそろ政府も厳しい対応を行うのではないかと、度々ニュースになっていた。

 そうなればのび太の世話をしているドラえもんにとっても他人ごとではない。

 

「未来の漫画ならどこにもないよなぁ……あーあ。続き見読みたかった」

「……読めないけど、見れるよ」

 

 五体投地したのび太はつまらなそうにボヤくが、それにドラえもんは一つの案を出す。

 

「前も入っただろう? あの世界」

「……あ‼ 絵本入りこみぐつ!」

「浦島太郎とかの最後も見れたしね。漫画の続きも見れるんじゃない?」

「じゃあ早く入ろうよ!」

「慌てない慌てない……まずはまた空き地にいって……」

「もう漫画はここにあるよ?」

 

 ほら、とのび太はランドセルの中から見覚えのある本を取り出す。

 

「なんで持ってきてるの?」

「何だか土管の上で広げっぱなしだったんだ。あのままじゃ雨に打たれてボロボロになるよ」

「ふーん」

 

 大方誰かがのび太に読んだが、のび太と違い興味をそそられなかったという事か。

 それにしても迷惑な奴ではあるが。

 

「早く早く‼」

「もう、急かさないでよ……

 

 ついこの間のように、二人分の絵本入りこみぐつを取り出した二人は急いでひみつ道具を取り付ける。

 

「あ、そうだ。出木杉も読みたいって言ってたし、今度誘ってやろう!」

「うんうんいいと思うよ。友達は大切にしないと」

 

 喋りながら漫画の中に飛び込む二人。

 結構物語は変わり果てていたのだが、物語の世界に飛び込むワクワクで頭の中がいっぱいなのび太は、それにこの時点で気付くことは無かった。

 こうして、新しい物語が始まろうとしていた。




 禁じ手その一
 出木杉参戦フラグ。

 始まりました第4巻。
 ……これもうダンまちじゃねぇ!?
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