ベルがひみつ道具を使うのは多分間違ってる   作:逢奇流

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ヒトの戦い、カミの戦い

 ダンジョン中層。

 13階層より始まる真の冒険者たちの戦場。

 その特徴はやはりこれまでとは桁違いの質と量だ。

 

 特に、人類の天敵たるモンスターたちが出現するまでの次産間隔(インターバル)の短さが致命的だ。

 モンスター一体一体の強さは確かに強いが、12階層までのモンスターたちと比較すれば順当な能力強化ではある。レベル1であっても、上位陣の実力者ならばやり合えるだろう。

 だが、ダンジョンでの戦いは一体倒したら体力や装備が全回復してくれるわけではない。

 次から次へと強いモンスターが連続して襲い掛かって来るとすれば、次第に押し負けてしまうモノだろう。

 

 レベル1がこの階層に来るという事は、そんな一瞬一瞬が死と隣り合わせな探索を行うことであり、多くの見習い冒険者はここでダンジョンの過酷さを再認識することになる。

 

「……筈なんだがな」

 

 現在、レベルが1であるヴェルフは正にそんなトラウマを叩き込まれる側の冒険者のはずなのだが、その心に恐怖はなかった。

 それは緊張感が無いと言うワケではない。むしろ、これが中層探索二回目だとは思えないほどに辺りに注意を払っている。

 しかし、上層とは比べ物にならないほどの敵対的遭遇(エンカウント)に晒されながらも、その思考は常と変わらなかった。

 

 それがヴェルフの人としての器だとか、冒険者としての才能と言った格好の良い理由であればよかったのだが、ヴェルフはそうではないだろうと自己分析する。

 これはただ、感覚が麻痺してしまっているだけだ。

 

(初日があれだったわけだからな)

 

 アルミラージが声を上げて襲い掛かる。

 その数は10。

 やはり上層とは比べ物にならない数。

 だがあの日の絶望に比べたら霞んでしまう。

 

「リリが牽制します! ベル様は足を止めたアルミラージから片付けてください‼ ヴェルフ様はヘルハウンドへの魔法行使の用意を!」

「うん!」

「おう!」

 

 パーティーに指示を出したリリはボウガンに数束の矢を一気にセットする。

 特注のボウガンはそれを難なく射出し、空中で5条の流星と化す。

 中層域のモンスターが直撃するはずもないような緩やかな速度だが、モンスターたちは自身に向けられた銀の凶器を警戒し、足を止めた。

 すぐさま駆け抜ける白い影。

 

 兎鎧(ぴょん吉)MK-Ⅲと翔兎鎧(ぴょん吉)の無事だった部分を継ぎ接ぎし、回収した臨時装備を身に纏うベルは、圧倒的ステイタスの暴力でアルミラージたちを次々撃破していく。

 

「頼もしいな!」

 

 突貫工事にもほどがある己の作品に内心苦々しく思いながらも、ヴェルフはベルのさらに成長した強さに賞賛の声を上げた。

 あの馬鹿みたいな混戦を経て、また一段先に進んでしまった彼に負けるものかと吊り上げる両目。

 その視線の先には口から炎を迸らせるヘルハウンドだ。

 

「【燃え尽きろ、外法の(わざ)】」

 

 モンスターによる魔法攻撃。

 並のパーティーならば浮足立つところだが、もはや中層とかそういう問題ではない修羅場に放り込まれて尚生還した彼らの前には恐れるものではない。

 ヴェルフは冷静に己の対魔力魔法(アンチ・マジック・ファイア)を発動させる。

 

「【ウィル・オ・ウィスプ】」

 

 緋色の華が暗い迷宮を照らした。

 魔力暴発(イグニス・ファトゥス)によって魔法を発生させていた口ごと脳が吹っ飛んだモンスターたちは、自分が死んだことにすら気が付かなかっただろう。

 

「……やっぱりヴェルフ様の魔法はズルいです。神様たちの言葉を借りるなら反則(ちーと)です」

「お前だって便利な魔法持ちだろうが」

「戦闘では何の役にも立たない魔法が発現した時のリリの絶望分かります?」

「正直スマン」

 

 リリの目からハイライトが消えた。

 ヴェルフはリリの事情を詳しくは知らないが、荷物持ち(サポーター)の不遇ぶりはオラリオでは有名な話なので、何となくは察している。

 かなり闇は深そうだが、ベルはよくこの面倒な少女の心を溶かしたものだ。

 

(後でベルと二人きりになれるようにしてやるか)

 

 それで目の光は復活するだろう。

 なんなら魔法で尻尾を生やしてブンブン振り回しそうだ。

 

「キュー‼」

「うおっ!?」

 

 このままでは劣勢と見たのか、アルミラージが手に持つ斧を投擲してきた。

 虚を突かれたヴェルフは咄嗟に大刀を盾代わりに構えるが、斧はヴェルフの目の前で炎雷によって吹き飛ばされた。

 

「【ファイアボルト】!」

 

 電光石火の速攻魔法はアルミラージの斧に命中。

 視界を覆いつぶす炎にアルミラージが戸惑いの声を上げる、その瞬間にアルミラージの首は宙に浮いていた。

 空中でゆったりと回転する視界の中、いつの間にか自身の後ろだったところに立つ白髪の人間(ヒューマン)がアルミラージの見た最期の光景だった。

 

 カチン、とナイフが鞘に仕舞われる。

 2分でモンスターたちを殲滅したベルたちはそのまま当たりの警戒を続け、リリがモンスターたちの魔石を取り終わるまで小休憩とした。

 

「お前、本当にランクアップしてないんだよな……?」

「うん。前の戦いでアビリティは結構上がったんだけど、高位の経験値は溜まり切らなかったみたい」

「レベル1から2になるのは1ザニスで十分という事だったんでしょうが、2から3になるには2ザニス以上は必要という事なのでしょう」

「リリ助は何の話をしてるんだ」

(経験値の単位をザニスさんで換算している……)

 

 やはりレベル2ともなると成長もしにくいモノらしいという事だろうか。

 ベルの成長速度的に誤差な気がしなくもないが。

 

「俺たちとしてはあの事件は悔恨の極みなんだがな……」

 

 ベルたちの護衛で来ていたモダーカはそう肩を落とした。

 どの勢力にとっても交通事故のような事件だったのだから仕方ないことだが、あの後シャクティたち幹部一堂による謝罪は心臓に悪かった。

 あの事件に関与した勢力全部にいつか喧嘩を売る予定であるヴェルフも、【ガネーシャ・ファミリア】には悪いところはないだろうと思っていたので凄い居づらかったらしい。

 

「【ロキ・ファミリア】は謝罪したらとっとと遠征に行きやがるし……」

「仕方ないよ、なんだか急いでいたみたいだし」

「ギルドからせっつかれたらしいですよ。遠征という名目で何かやってるんじゃないかってもっぱらの噂です」

 

 ちなみに【フレイヤ・ファミリア】からは何の音沙汰もない。

 モダーカ曰く、いつもの対応らしいが。

 

「【猛者(おうじゃ)】が団員たちに袋叩きにあっているって言うのがケジメ……なのかもしれん」

「かも、ってことは違うかもしれないってことですか」

「ああ、団長の首を狙う位はあのファミリアじゃ日常茶飯事だ」

 

 もうなんかすごい。

 そんな幼稚な感想が出てきたのも仕方ないだろう。

 

「……しかし、そうか。この時期にオラリオのS等級(ランク)ファミリアが険悪になったのか」

「この時期?」

神会(デナトゥス)だよ。絶対今回荒れるだろ」

 

 3か月に1度の一定周期で行われる神々による集会。

 下界の住民が立ち入ることが許されないその場は、有名無実と言え諮問(しもん)機関の役割でもある。

 オラリオの中でもそれなりの権威を持つ神しか席が与えられない、その会議での発言力は都市での影響力とイコールだ。

 つまり、神会(デナトゥス)でも大きな存在感を放つ3柱が険悪になっているという事で……。

 

「……抗争とかありませんよね?」

「流石にそんな短絡的なことは無いと思いたいが、まあ、ありえなくもないというのが回答だ」

闇派閥(イヴィルス)もまだ健在なのに、とリリたちは思ってしまうのですが」

「秩序側も仲良しこよしじゃないからそこは仕方ないさ」

 

 地上ではおどけた様子の神々も、今回ばかりは神威(アルカナム)をバチバチとぶつけ合う緊迫した場になるだろう。

 

「そんなところに神様は行ったんですね」

「ガネーシャ様やヘファイストス様がフォローしてくれるだろうが、お前結構やらかしてるからなぁ」

「うっ」

 

 ついさっきも街を暴走したばかりだし、とジト目で見てくるモダーカ。

 ベルもオラリオに来てから……というか【四次元衣嚢(フォーム・ディメンション・ポーチ)】を発現してからやらかしまくっている自覚があるベルは冷や汗を流した。

 

「二つ名も覚悟したほうがいいぞ」

 

 冒険者のそれまでの偉業を称える称号である二つ名。

 【ランクアップ】したものにのみ与えられる名誉だが、やってきたことによっては割と酷いものもある。

 【超凡夫(ハイノービス)】とか【泥犬(マドル)】とか……もう悪口だろこれ。

 

「そうですよねぇ……」

「まあ、お前ならすぐにランクアップできるだろうし、その時までにもっといい二つ名を貰えるように……」

「【漆黒の堕天使(ダークエンジェル)】とか、言われてみたかったなぁ」

「「……」」

 

 モダーカとリリの目が生暖かくなる。

 ベル・クラネル。御年14歳。所謂そう言う年齢だった。

 

「いや、ここは防具に倣って兎吉(ぴょんきち)に……」

 

 ヴェルフ・クロッゾ。

 こちらは年齢とかは関係ない。

 元々残念なセンスなのだ。この名前のまま使ってくれているベルに少しは感謝したほうがいい。

 

 微妙にゆるゆるな空気になりつつも、パーティーは危なげなく13階層の二度目の探索を終了するのだった。

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 ふーっ、と胸に溜め込んだ息を吐き出すヘスティア。

 ちょっと最近、色々と疲れちゃうものを観てしまったとは言え、ここからは神々の戦いの場。

 弱った顔を見せて舐められるわけには行かないと己を振るい立たせる。

 

「ちょっと、大丈夫?」

「うん! 問題ないよヘファイストス‼ ベル君たちも今はダンジョンで頑張ってるんだ。主神であるボクも頑張らなきゃ」

 

 薄手の上衣と黒のスラックスのヘファイストスが、ガチガチに緊張しているヘスティアに声をかける。

 摩天楼(バベル)の地上三十階にて開催される神会(デナトゥス)に出席する神々は、多くは煌びやかな衣装に身を包んでいる。

 もしかしたら、自身のファミリアの力を誇示する意味もあるのかもしれない。

 

(だとしたらボクの圧勝だな!)

 

 なにせヘスティアの衣装はベルが頑張って稼いで買ってくれたものだ。

 おまけに髪飾りは彼の自作。負ける要素が無い。

 (おや)馬鹿全開の思考で緊張を振り払ったヘスティアは不敵な笑みを浮かべて見せた。

 

「うむ! その意気や良しっっ‼ そして俺がガネーシャだっっ‼」

「ガネーシャうるさい」

「すまんっっ‼」

 

 相変わらずの格好でポージングを決めるガネーシャ。

 これでもオラリオ有数のファミリアの主だ。

 ヘスティアとヘファイストスの脱力した視線にもはっはっはっと笑っていた彼だったが、ここで表情を改める。

 

「……実際の所、ヘスティアにかかっているプレッシャーはかなりのものだ。都市を混乱に陥れる元凶。お前はその答えを知ったうえで初神会(デナトゥス)に参加しなくてはならない。世界最速のランクアップ者の主神と言う誰であっても注目する肩書と共に」

 

 ヘスティアが見た未来の映像。

 そこでは、本来は順を追って知るべき事柄が全て分かってしまった。

 黒幕(エニュオ)の正体すらも。

 

「大丈夫さ。いや、正直めちゃめちゃ怖いけどっ‼」

 

 相手はオラリオの全ての神々を惑わせた最悪の邪神。

 これまで相手の思惑を尽く潰せたのは、単に運が良かったからだ。

 その豪運がいつまでも続くわけがない。

 ここからが、本当の戦いなのだ。

 

 ヘスティアという何の力もない女神による、狂乱(オルギア)を引き起こす酩酊の悪意との。

 笑ってしまうほどに絶望的な戦い。

 

「それでも頑張るよ。……だってボクはあの子の神様なんだ」

 

 恐ろしい神だ。

 先に答えを知ったからこそ、今までのその神の立ち回りが見え、その周到さに鳥肌が立った。

 未来の情報と言うアドバンテージが無ければ、勝負にすらならなかったであろう相手だが、ヘスティアは逃げない。

 

 だって、ベルは多くの格上との戦いにも挑み続けた。

 そんな物語を傍で見守り続けた自分も、冒険しなければ嘘だ。

 

(……本当に、変わったわね)

 

 あの日、彼のための武器(ヘスティア・ナイフ)を作って欲しいと直談判してきた日と同じように、ヘファイストスは神友(しんゆう)の成長に唇を綻ばせた。

 

「……うん、いい話だ。だがな……」

 

 そこに口を挟むのは1柱の男神。

 ドレスやスーツに身を包む神々の中で、珍しく東方の着物に袖を通すその人物は困惑した様子でガネーシャを見た。

 

「なんで黒幕の正体を俺たちにもばらした? 我関せずって言ったよな、オイ」

「私もタケミカヅチも力になれるとは思えぬが」

 

 タケミカヅチの言葉にミアハも同意する。

 覚えているだろうか、神の宴での彼の言葉を。

 

『騙し合いが好きな連中は好きにすればいいが、俺の性には合わん。下手に近寄って大火傷するくらいなら初めから我関せずを示したほうがいいだろ』

 そう宣言していた筈なのだが、何故巻き込まれているのか。

 この神会(デナトゥス)にもギリギリ末席に指を引っかけているような弱小ファミリアだというのに。

 

「だって信用できる神がこの面子しかいないし……」

 

 黒幕(エニュオ)の正体を持ち込まれた場合、大半の神はどうするか。

 恐らく面白半分に状況をかき乱して遊び始めるだろう。巻き込まれる人間のこと等考えず。

 本当にしょうもない生物だ、とヘスティアは自分も神であることを棚上げして嘆息した。

 

 神格者(じんかくしゃ)は少ない。

 それこそ、ヘスティアが知るそう呼ばれる神は目の前の4柱で全てだ。

 

「それでも俺たち以外にも協力できるファミリアはいくらでもあるだろ?」

「……単純に【ヘスティア・ファミリア】だと君たち以外とは面識がないんだよ」

「それならば【ガネーシャ・ファミリア】が動けばいいのではないか? S等級(ランク)のファミリアの名は伊達ではあるまい」

 

 ミアハの言葉にガネーシャは首を振った。

 そうしたいのはやまやまだが、これまでの闇派閥(イヴィルス)の動きを見るに、【ガネーシャ・ファミリア】から情報が洩れている節がある。

 

怪物祭(モンスターフィリア)まで全く我々が感知できなかった存在だ。どれだけの情報網を持っているか分からん。俺が動けばすぐに奴は自分が察知されたことに気が付く」

「それでも問題なかろう。【ガネーシャ・ファミリア】に謎と言うヴェールを失った奴が勝てるとは思えん」

「無論、戦いになれば俺たちは負けん。しかし、そこに群衆が巻き込まれることになる」

 

 黒幕(エニュオ)の行動を分析すると、浮かび上がってくる二つの人格。

 一つは慎重すぎるまでに策略を重ね、事前準備を怠らない厄介さ。

 そしてもう一つは、そんな何年もかけているであろう事前準備を一時の感情で台無しにする短気。

 

 追い詰められたその神は確実に暴発する。

 それがヘスティアとガネーシャの共通見解だった。

 仮に、ガネーシャが【ロキ・ファミリア】に接触したとしよう。

 黒幕(エニュオ)はそれを確実に察知できる立ち位置にある。そうすれば確実に奴は無差別殺戮と言う手段に切り替えるだろう。

 それを完封することは難しい。

 最後には勝利したとしても、それまでに出る犠牲に見合った勝利にはならないのだ。

 

「その点、ボクはそこまで警戒されないはずだ。だって新興派閥もいいとこだからね」

「このタイミングでヘスティアがお前たちに接触を図ったという事が奴の耳に入ったとしても、神会(デナトゥス)での助力を頼んだとしか考えられぬだろう」

 

 ひみつ道具であるタイムテレビという盤外の駒によって、多くを知ることが出来たヘスティアはそのアドバンテージを活かす必要がある。

 まずは奴に察知されないうちに、対エニュオ包囲網を形成するのだ。

 

「今回は無理だったけど、【ロキ・ファミリア】や【ヘルメス・ファミリア】に助力を要請するアテもある。と言うか、これから訪れる。すっっごい嫌な形でだけど」

 

 この後すぐに、ベルはダンジョン内で遭難し、18階層に落ちることになる。

 そこでエニュオと近しくなってしまった両派閥と接触の機会もあるはずだ。

 

 ヘスティアとしてはベルに無茶はしてほしくないが、チャンスではあるから迂闊に未来は変えられない。

 未来を知ってしまったジレンマだ。

 

「兎に角、みんなはアイツの正体を念頭においてこの神会(デナトゥス)に参加してほしい」

 

 真剣なヘスティアの表情にタケミカヅチとミアハはため息をついた後、頷いた。

 荷が重いとはいえ、彼らも人々を想う神。

 非力な自分にできることがあるならば助力は惜しまない。

 

「じゃあ、行こうか」 

 

 神々の戦いに。

 それぞれの神が用意された席に座る。

 ヘスティアも自分の席向かう最中、ちらりとある神の横顔を見た。

 

 その神の名はディオニュソス。

 天界の頃から長い付き合いがある神で、ヘスティアがその内心をずっと怖れてきた神で、そして……都市崩壊を企てるエニュオの正体。




 神会やるからまだ四巻、つまり原作沿いと言い張れるな。ヨシッ‼
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